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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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自転車

リトネの「ヒロインたちに仕事をしてもらって金持ちになってもらう作戦」は、リトルレットに対しても行われていた。
ナディたちのいる倉庫から離れたところにある別な倉庫では、難しい顔をしたリトルレットがうんうんと唸っていた。
「どうしたの?」
様子を見に来たリトネが聞くと、眉間に皺をよせたリトルレッドが話す。
「……どうしても納得できないんだ。何が足りないんだろう」
悩む彼女の前には、数台の自転車があった。
見た目は完璧に組み立てられているように見える。
「足りないって?」
「まあみてよ。君が召喚してくれた自転車をみて、再現してみたんだけど……」
リトルレットは自転車にまたがり、ペダルを踏み、発進する。
そして、すぐにこけた。
「みてのとおり、乗ろうとするとすぐにこけるんだ。何かの部品が足りないから走れないんだと思う。ボク、自分の才能に自信がなくなってきちやって……何笑っているの?」
真剣に悩んでいるリトルレットがおかしくて、リトネはつい笑ってしまう。
「ごめんごめん。実は、自転車って乗りこなすのに練習が必要なんだ」
そういって一台の自転車に乗って、スイスイと乗りこなす。あまりに簡単に乗っているみたいで、リトルレットは思わず尊敬してしまった。
「リトネ君、すごいよ!」
「いや、ぜんぜんすごくないから。練習すれば誰でもできるよ」
そういわれて、リトルレットの好奇心が燃え上がる。
「ボクに乗り方を教えて!」
「いいけど、僕の修業は厳しいよ」
それから数日、自転車を乗るための指導を繰り返す。何度も転んで擦り傷を作りながら、ようやくリトルレットは自転車に乗ることができた。
「すごいすごい!気持ちいい!」
城内を自転車で走り回るリトルレッドに、騎士たちが驚く。
「リトルレットのお嬢ちゃん、なんて速さで走り回るんだ……」
「俺たちもほしい!」
そう思ったのは騎士たちだけではない。
「なんか楽しそう!」
「あんな早く走れるようになりたい」
リトルレットのあまりに楽しそうに城内をサイクリングする姿をみて、メイドたちが欲しがり出す。
「お坊ちゃま、ぜひ俺たちにも教えてください!」
「私たちも乗ってみたいんです!」
騎士やメイドたちに頼まれて、リトネはたじたじとなる。
「わかったよ。彼女に頼んでみる」
リトネはリトルレットの研究倉庫に向かうのだった。

「城内の騎士やメイドたちが自転車に乗りたがっているんだけど、作ってもらえないかな?」
「いいよ。もう大体の構造はわかったし」
リトルレットはそういうと「組立クリエイト」といいながら、バラバラになった自転車のガラクタに向けて杖をふる。
すると、魔法がかけられた部品が独りでに組みあがり、自転車の形になった。
「すごいな……あれ?でも何か足りないような……」
違和感を感じて自転車をよく見ると、チェーンがない。
゜これは、もともとその部品が足りないんだ。だから、ほかの自転車の部品を『錬金』で調整して流用する」
そういいながら、ほかの自転車を分解した部品の中にあった、一回り大きいチェーンに向かって杖をふる。するとチェーンが浮き上がり、ぴったりのサイズに縮んで自転車に組み込まれた。
「すごいな……」
「ゴーレムを作る技術の応用だよ。もっとも、構造を理解できてないとワンオフで部品をつくるなんてできないけどね」
そういいながらリトルレットは誇らしげな顔をする。
「この調子で頼むよ」
「任せて!」
リトルレットは数日でまた数台の自転車を組み立てる。
そのとき、リトネからある注文が入った。
「ねえ、オプションでこれをつけて欲しいんだ。『召喚』」
リトネが念じると、L字型の棒がついた小さなタイヤのようなものが出現する。
「これは、何?」
「いちいち彼らに教えるのが面倒くさいから、誰でも自転車にすぐ乗れるようにつけるオプション。『補助輪』って言うんだ」
リトネの薦めにしたがって、自転車の後輪につけてみる。
その状態で乗ってみたら、スピードは若干劣るものの抜群の安定度になった。
「安定して走るのに足りなかった部品って、これか!でも、なんで普通の自転車にはついていないの?」
「格好悪いから、普通はつけないんだ」
リトネは補助輪がついてない理由を説明する。すると、リトルレットは怒り出した。
「そんなの理由になってないよ!ついてなかったらちょっと引っかかっただけでこけちゃうじゃん」
「……ごもっとも」
リトルレットの合理的な考えを聞いて、リトネは苦笑しながらうなずく。たしかに自転車に補助輪がついていたら転倒しにくくなり、防げる事故も多いはずである。
「それじゃ、家臣たちには補助輪つきの自転車に乗ってもらおう」
リトネも手伝い、すべての自転車に補助輪をつける。
次の日、中庭に家臣たちの歓声が響き渡った。
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