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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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信用と力

そして迎える月末
「……どうしょう?」
「失敗でしたね……」
ナディとドロンはため息をつく。
第一冷凍倉庫、第二冷凍倉庫の帳簿上の売り上げは上がっていたが、実際に回収できた金が半分にも満たなかったのである。
「どうしてこうなったの?」
ナディが思わずドロンを責めてしまう。
「申し訳ありません。独立したのは完全に間違いでした。今まではリトネ様が直接商人から使用料を受け取って私たちに渡してくれたので、こんなことを考えなくてもよかったのですが……」
ドロンも自分の非を認めて、ナディに深く頭を下げた。
「商人のおじさんたちに、私たちは独立したから直接払うように言った途端、支払いを渋りだした。リトネは倉庫使用料をちゃんと払ってくれたんだけど」
今まで信用していた商人たちに裏切られて、ナディは沈んでいた。
「……ゴールド様に相談してみましょう」
二人は肩を落として、執務室のゴールドに話を聞きに言った。
ナディとドロンから、売上金が回収できなくなったと聞いて、ゴールドは渋い顔をする。
「なるほどな……商人たちから倉庫使用料の支払いを待ってほしいといわれたのか」
「お父様、なぜおじさんたちは、お金を払ってくれなくなったの?」
涙を浮かべて聞いてくるナディに、ゴールドはひるむ。
(やれやれ……まだ社会の汚い部分とか、商人の狡猾さを教えるのは早いと思っていたのに。独立すると聞いていたらとめていたのだが……これもリトネ様の作戦なのか。でも、こういうことを私に押し付けてほしくなかったのに……)
ナディが来ると聞いて、あわてて逃げ出したリトネが少し恨めしいが、ゴールドは仕方なく娘になぜ商人が支払いを渋りだしたのかを説明する。
「そのわけはな、要はお前たちは舐められているわけだ」
「舐められているって?」
ナディは首をかしげる。
「そうだ。小娘二人が起こした商売など、海千山千の商人たちにとっては赤子の手をひねるようなものだろう。支払いを遅らせたり、あるいは踏み倒したところで大したことないと思われているのだ」
それを聞いて、ナディとドロンの顔が真っ赤になる。
「……許せない!」
「お嬢様!そんな不埒者を成敗しましょう!」
杖をもって立ち上がる二人を、ゴールドは一喝する。
「愚か者!ただ単に支払いが遅れた程度で相手を害しておったら、治安が保てぬわ!そんなことをすれば、お前たちをワシの手で逮捕せねばならなくなる!」
めったに大声を出さない温厚なゴールドだったが、このときばかりは厳しく叱る。
ナディとドロンもその迫力に押され、二人は座り込んだ。
しばらくして、涙を浮かべたナディは顔を上げる。
「……今までの使用料の支払いは、なんでスムーズに回収できたんだろ」
「それはな。我々領主の持つ『信用と力』があったからだ」
ゴールドの声は厳しかった。
「『信用と力』?」
「そうだ。リトネ様は若いながらも、領主の跡取りとして立派に勤めている『信用』と、同時に商人たちがずるいことをしたら強制的に取り立てられる『武力』を持っていたのだ。その二つを背景に事業をしていたので、商人たちもおとなしく使用料を払っていた」
「……」
「商人にかぎらず、人間として必要なものは、自らルールを守るという「信用」と、相手にルールを守らせる「力」だ。お前たちにはそれがなかった。ちょっと儲かったら、リトネ様のことを蔑ろにした「信用」のなさがしっぺ返しとして返ってきた。相手を従わせる「力」もないのに」
ナディとドロンは呆然としてゴールドの話を聞く。
「わかっただろう。お前たちはリトネ様、つまりシャイロック家という力の庇護の下で商売ができていたにすぎぬ。それを自分の力と勘違いしていたのだ。だから独立したとたん、ただの小娘二人になってしまった。それが原因で、商人たちから舐められるようになったのだ」
ゴールドの言葉が、ナディたちの思い上がっていた心を打ち砕いた。
「リトネ様は、お前たちの見えない所で、いろいろと力を貸してくれていたのだ。決して何もせず金を吸い上げていたわけではない。気を抜くとすぐに支払いを渋ろうとする商人たちににらみを効かせ、使用料の回収という一番大事な仕事を担当しておったのだ」
「……」
しばらく沈黙した後、ナディが立ち上がる。
「リトネに謝ってくる」
「お嬢様。私も!」
二人は執務室を出て、リトネの私室に向かった。

「ごめんなさい!」
「……お嬢様は悪くございません。すべてこのドロンが唆したことでございます!どうか存分にご成敗を!」
自分の前で頭を下げる二人に、リトネはびっくりする。
「二人とも、どうしたの?」
『お父様から聞いた。リトネが影で私たちを助けてくれていたことを」
「あなた様の恩も知らず、自分たちだけで利益を独占しようとして、本当に申し訳ありません」
二人は謝りながら、商人たちから使用料を回収できなくなったことを訴えた。
「なるほど……こんなに早く不良債権が生まれるとはな。予想はしていたけど。でも、彼らだってギリギリで商売しているんだ。時には上手くいかないこともある。支払いの優先順位を下げられたからって、あまり恨まないでほしいな」
「……うん」
「……商売の難しさはよくわかりましたわ」
商売を舐めていた二人は、しゅんとなる。
(よし。「金持ちであり続ける第一段階「ルールと信義を守る」ことを学んだな)
リトネはにやりと笑う。これがないと、一時的に儲かってもブラック企業化してつぶれるだけなのである。
「それじゃ、僕の家臣として二人ともあらためて雇うよ。ああ、ナディ商会自体は第二倉庫のオーナーとして残していい。シャイロック家の庇護のもと、あせらずじっくりと信用と力をつけて、大人なってから独立を考えよう」
「……うん。リトネ、ありがとう」
ナディは深く頭を下げる。数日後、再びナディがシャイロック家の家臣に復帰したとこが商人に通達され、未払い使用料はすべて回収されるのだった。
あまりに評判が悪いので、あわてて次話投稿します。
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