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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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経営ノウハウを学んで独立

後に残ったリトネとゴールドは、楽しそうに顔を見合わせる。
「どうやら、ちゃんと人を雇うということを理解してくれたみたいですね」
「リトネ様には感謝の言葉もございません。本来なら親である私が教育すべきところを、このようなお手間をかけさせてしまって」
ゴールドが頭を下げてくる。
「気にしないでください。ナディに正しい経済感覚を身に着けてもらうことが、私の目的にも合致していますので」
(健全な金持ちになる第五段階「人を雇う」ことを学んでくれたな。人を雇えば仕事が楽になり利益も上がるが、同時に相手にも責任も持つことになる。ここまで理解できればりっぱな経営者だ。ナディ矯正プログラムはこれで終了だな)
心の中でそう思うリトネだったが、ドロンがナディに雇われたことにより、思いもしない結末になるのだった。

ナディは、ドロンに給料として金貨20枚を払う。
「お嬢様!私は奴隷になるところを助けられた身です。給料などは必要ありません」
あわてて辞退するドロンだったが、ナディは無理やり手渡す。
「気にしないで。それにドロンお姉さまが手伝ってくれたから、たくさんの荷物を預かることができて、売り上げがあがったし仕事も楽になった」
にっこりと笑うナディに、ドロンは感激して抱きつく。
「……ああ、お嬢様はりっぱな貴族です。一生忠誠を誓わせていただきます」
ナディをやらせで騙していた罪悪感もあって、心の底からナディの力になろうと思うドロンだった。
さっそく仕事をしていて気がついたことを言う。
「ナディ様は、リトネ様に雇われて第一冷凍庫の管理をしているんですよね。その給料はおいくらですか?」
「……金貨20枚」
正直に自分の給料を告げる。
「……たったそれだけですか?ちなみに第一倉庫の使用料の金額を知っていますか?」
「知っている。金貨300枚」
ナディは執務室で見た金貨の袋を思い出して、つまらなさそうに言う。
「……それって、リトネ様は何もせずにナディ様の何倍も儲けているってことですよね」
「うん。それが商人のやり方なんだって。なんか、いいようにリトネに使われている気がする」
ナディがぶつぶつと不満をもらす。
「お嬢様、いい手がありますよ。くくく……」
ドロンは悪そうな顔になって、ナディの耳に何事かをささやくのだった。
次の日
「えっ?退職するって?」
リトネがびっくりした顔をする。目の前には、勝ち誇った顔をしたナディと、その後に控えるドロンがいた。
「うん。シャイロック家に雇われている家臣という身分を、退職する」
「そんな!いきなり言われても……それで、やめてどうするの?」
「ドロンお姉さまと二人で、新しい商会を作る」
ナディは誇らしげに、「ナディ商会」という看板を見せた。
「で、でも、だったら元々君が管理していた倉庫は?城の食材は?」
思いもしなかった展開に焦りまくるリトネを見て、ドロンが進み出る。
「第一冷凍倉庫を10アルで貸していただければ、我がナディ商会が引き続き管理いたしますわ。もちろん冷凍管理料としてそれなりの金額を支払っていただきますけど」
その隣で、ナディは腕を組んで笑っていた。
(おいおい……たくましすぎるだろう。まさかここまでするとは思わなかった。隠しておきたかったのに。健全な金持ちになる最終段階『経営ノウハウを学んで独立』に気づいてしまったのか)
予想外の結末に、リトネはがっくりくる。自分で考えて商人に営業した冷凍倉庫という商売を、根こそぎナディに奪われてしまったからである。
「退職を認めてくれれば、かわいそうだから婚約者のほうは辞めないでいてあげる」
「……仕方ない。それでお願いします」
それを聞いて、ナディとドロンがハイタッチする。
「やった!ついにリトネに一矢報いた!」
「お嬢様、おめでとうございます!」
喜ぶ二人を見て、リトネは苦笑する。
(まあ、これでナディは経済というものを完全に理解できただろう。万一勇者の元にいっても、金持ちになった自分の首を絞めるようなことはしないか)
未来の変革に成功したと確信したリトネは、ひそかに喜ぶ。彼の思惑は当たり、『ナディ商会』はこれから大企業へと成長していくのであった。
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