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人を雇うと言うこと
奴隷になるところを助け出されたドロンは、ナディの仕事を手伝うことになった。
「『闇氷』」
毎朝、ナディが第一冷凍倉庫を凍らせている間に、ドロンが第二冷凍倉庫の氷を作る。
彼女も氷系の闇魔法の使い手で、ナディよりは時間がかかるものの大きな倉庫を冷やすぐらいの氷なら作り出すことができた。
そのまま第二冷凍倉庫の受付を担当する。
「おや?新しい人かい?」
「ええ。ナディ様にお仕えするメイドのドロンと申します。よろしくお願いします」
世情に詳しい彼女はすぐに業者にも受け入れられ、ナディの仕事の負担は大幅に減る上に、隣の倉庫の売り上げも順調に伸びていた。
しかし、いいことばかりではない。ドロンはまったくお金を持っていなかったので、彼女の生活費はすべてナディの負担になる。
「お嬢様、申し訳ありません。奴隷から救っていただいただけではなく、生活費まで」
「……しょうがない。月末まで我慢」
先月は大金が入ったことに浮かれて、本を買ったりして散財していたので、ナディの手持ちは10アルほどしか残っていない。
ドロンの服などはシャイロック家のメイドから借りたりしてしのいだが、毎日の食費は結構な負担になってしまった。
自然に節約を覚えるようになる。
(我慢、我慢。『キミとの恋』の本がほしいけど、月末まで我慢)
城内での本屋で売っている異世界コミックの翻訳本の続きが気になるが、ここは我慢であった。
そして迎える待望の月末-
執務室で、リトネから給料の20アルと、業者からの第二倉庫の使用料を受け取る。ドロンが手伝ってくれたのでより多くの業者と取引ができ、売り上げが先月の200アルから300アルに伸びていた。
「はい。倉庫の賃料10アルと、借りていたお金200アル、そして金利の2アルを払う」
きっちりと借金を清算し、108アルを手に入れるナディだった。
(これで我慢していた本も買える)
ウキウキしているナディに、ゴールドが声をかける。
「それだけじゃないだろ。まだ支払うお金があるぞ」
「……なんで?」
ゴールドの言葉にきょとんとなる。
「ドロンへの給料だ。この一ヶ月、彼女はお前の仕事を手伝ってくれたんだろ」
ゴールドに言われてナディははっとなる。
そのことについてまったく頭になかったのである。
「……支払わないといけないの?」
「当然だ。人は食べないと生きていけないんだぞ。それに、彼女が手伝ってくれたから、仕事がだいぶ楽になって、売り上げが100アルも伸びたんじゃないか?」
そういわれてナディは考え込む。確かにドロンが加わることで負担が半分になり、休みをとることもできるようになっていた。
それだけではなく、一人では絶対にできない仕事量もこなすことができ、売り上げの増額につながっている。
「これが人を雇うということだ。雇い主になるということは、相手の人生に責任をもつということなんだ。奴隷として買ったのなら飢えさせない事、家臣として雇ったのなら、相手に人間らしい生活を保障する義務が上の人間にあるのだ」
ゴールドの言葉にナディは納得する。
「ドロン姉さまは私の家臣。ちゃんと給料を払う」
そういって、ナディは執務室を出て行った。

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