12/204
仕事の価値
執務室でナディの話を聞いたリトネは、難しい顔で考え込む。
「残念だけど、これ以上は増やせないかも。ほら、倉庫のスペースはいっぱいだよ」
ナディに倉庫の利用状況に関する資料をみせる。たしかに現在利用している業者だけでスペースはいっぱいだった。
「そう」
別に残念がる様子もみせずに、ナディは納得する。
しかし、リトネは腹の中でこう考えていた。
(うまくいっているな。商人と仲良くなってきたからこんなことを聞きにきたんだろう。これからが楽しみだ)
ナディが執務室を退出した後、リトネはひそかに家臣に命令する。
「ナディが使っている倉庫の隣に、新しい倉庫を作ってください。作りは冷凍倉庫と同じで」
「はい」
リトネが仕掛けた「ヒロインたちにも経済のことを知ってもらって、金持ちになってもらう作戦」は深く静かに進行していた。
翌月、給料日に、ナディはリトネに、冷凍倉庫の収支を教えられた。
「一ヶ月ご苦労さん。民間業者からの倉庫使用料の合計が出たよ。君の価値はこれだけあるということだ」
売り上げは300アルほどになっていた。
「……こんなに?」
目の前に積み上げられた300枚の金貨をみて、ナディの喉がゴクっと鳴る。
いくら貴族のお嬢様でもまだ12歳である。大量の金貨を見たことはなかった。
「はい。これが君の取り分」
リトネは20枚の金貨を渡す。先月と同じ金額で、彼女にとっては充分に大金だったが、残りの金貨の山がまぶしくて、あまりに少なすぎるような気がしていた。
「……残りは?」
「全部この事業を始めたシャイロック家のもの」
リトネは無情にも金貨を袋にいれて取り上げる
「そんなのずるい!私は20アルしかもらっていないのに!」
案の定、ナディは膨れっ面をして不満を漏らした。
「でも、アイデアをだしてビジネスモデルを作ったのはシャイロック家で、君に倉庫管理の仕事を与えなかったら、その20アルも手に入らなかったよね。商人はそうやって事業で儲けているんだ」
「…うーーーーーーっ」
ナディは悔しそうに、リトネを見つめていた。
ここで終わったら商人はずるいという考えのままなので、リトネはもう一工夫をする。
「……ところで、新しく隣の倉庫を作ったんだけど、誰か借りてくれる人はいないかなぁ。10アルで貸してあげるんだけどなぁ」
何かを期待するように、チラチラとナディを見つめる。
そのとき、ナデイははっと気がついた。
(そういえば、もっと置きたいのにスペースがないっておじさんが言っていた。隣の倉庫も借りてもっと増やせば……)
そう思いつくと、ナディはあせってリトネに申し込む。
「私が隣の倉庫を借りる!」
「へえ……それで、どうするの?」
「私の知り合いで、もっと冷凍する食品をもって来たいという人がいる。その人の物を預かる」
ナディの顔にはもっと稼げることへの期待が表れていた。
リトネはしてやったりといった顔になる。
「それじゃ、来月から隣の倉庫も頼むよ。でも、冷凍屋を続けるなら元の倉庫の管理もちゃんとしてくれよ。君は僕に雇われているんだから」
「……わかった」
しぶしぶとナディは頷くのだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。