挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
10/204

仕事の意義

「あ、あの……リトネ様、何を食べているのですか?」
あまりにも彼らが美味しそうに食べているので、興味を引かれた家臣や騎士、メイドたちが近寄ってくる。
「卵料理ですよ」
卵焼きを食べながら、リトネは自慢そうにいった。
「卵?」
「卵ですって?」
それを聞いた彼らは驚く。
「美味しそう……」
「よければどうぞ」
リトネが差し出した卵焼きやゆで卵を食べて、彼らは感嘆の声を上げる。
「美味しい!」
「ううっ。卵が食べられるなんて、なんて贅沢なんだ。故郷のおっかさんに持って行ってあげたい」
中には泣いている家臣もいた。
「あの……これって、もしかして新しいメニューで、また食べられるとか?」
メイド長のネリーが期待を持って聞いてくる。
「そうですね。まあ毎日どれだけ取れるかはわかりませんが、たぶん食べられると思いますよ」
リトネの言葉を聞いて、家臣たちは喜ぶ。
「明日の卵料理を予約します!」
「ずるいぞ!ワシにゆずってくれ!高くても金は出す!」
たちまち家臣たちの間で争いが起こる。卵料理は完全予約・順番制になってしまうのだった。

ナディは冷凍倉庫管理の仕事を、真面目にこなしていた。
最初はいかにも貴族然とした彼女に隔意を持っていた業者のおっちゃんだったが、ナディがきちんと仕事をしてくれるので、だんだんと雑談を交わすようになってくる。
「へえ……ナディちゃんって、リトネぼっちゃんの婚約者なのかい?」
「……うん。一応」
魚屋のおっちゃんから差し入れられた魚をもきゅもきゅと食べながら、ナディは返す。
「そんな貴族のお姫様なのに、真面目に仕事をしていて偉いねぇ」
「……そうかな?」
褒められてナディはちょっと笑う。彼女自身が庇護欲を誘う美少女なので、それをみたおっちゃんはうれしそうに相好を崩した。
「どうだい。センギョを油でいためたフライは。リトネ坊ちゃんから教わったんだが、つまみ食いにもってこいだろ」
「うん。美味しい」
「よしよし。また持ってきてやるからな」
純粋な好意と若干の下心で、魚屋のおっちゃんはナディを餌付けにかかるのだった。
「いやー。ナディ様のおかげで、肉が長持ちできて助かりますよ。町のみんなも感謝してます」
「どうして長持ちしたら、みんなが喜ぶの?」
肉屋のおっちゃんから差し入れられたミートボールを食べながら、ナディは首をかしげる。
「魔物の肉は、冒険者たちの狩の成果にかかっていますからね。たくさんとれるときもあれば、まったく取れないときもある。獲物が多いと俺たちが安く手に入れられるんですが、少ないとより多くの金を出して買わないといけなくなる。そんなとき、こうやって貯めていた肉を使えば、町の人間にも高く売れるんですよ」
肉屋は噛んで含めるように肉相場というシステムを説明する。ナディはすべてを理解できたわけじゃなかったが、自分の仕事が誰かの役に立っているということはわかった。
「ナディ様。このダークストロベリーの実は、一階の冷凍庫の一番奥でお願いします」
「どうして?今まで果物は二階の冷蔵室だったのに」
黒ずんだイチゴのような実をお裾分けしてもらいながら、ナディは聞く。
「このストロベリーは今が旬なんですが、腐りやすくて他の季節までは持たないんです。ナディ様の魔法で氷漬けにしてもらったら、一年中でも食べられるようになるんじゃないかと思うんです」
果物屋は自分が思いついたことを、おそるおそる提案する。
一年中大好物のストロベリーが食べられると聞いて、ナディの顔が輝いた。
「がんばる!『闇氷』」
ナディは張り切って巨大な氷を作る。大量のストロベリーの実が氷漬けになった。
「いやー本当にありがとうございます」
ナディの手をとって、果物屋は感謝する。
(えへへ……みんなに感謝されるのってうれしい)
今まで頭の中だけの偏見で見下していた商人と実際に仕事をすることで、彼らに対する差別意識がなくなっていく。そして感謝されることで、自分の仕事に誇りを持つことができた
cont_access.php?citi_cont_id=875042061&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ