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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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「ねえ、お兄ちゃん、私もなんかやってみたい」
最近、リトネがナディとリトルレットに構いっ放しだったため、寂しくなったリンがリトネにそう頼む。
「えっ?リンはメイドの仕事を頑張っているし、小さいころから平民の生活をしていて現実を知っているんだから、特に何もしなくてもいいと思うけど……」
そういうリトネに、リンは首を振ってイヤイヤとする。
「だってナディ様やリトルレット様ばかり、なんだか楽しそうなんだもん」
「そうだな……リンに出来そうなことで、金持ちになれそうなもの」
リトネが考えていると、リンの頭の上のミルキーがきゅいきゅいと鳴いた。
「ミルキーも何かしたいのかい?」
「きゅい!」
首を振って同意する。
「うーん。リンは動物好きだから、アレを任せてみようか。どうせ失敗してもたいしたことにはならないし」
そう思ったリトネは、ある動物の畜産を任せることにしてみた。
空いている倉庫の中で、小さめで風通しと日当たりがよいところに立っているものを選んで実験場にする。
「異世界の廃棄される予定の「ニワトリ」こい」
リトネがそう念じた途端、「コケコッコー」という泣き声が裏庭に響き渡った。
「ねえお兄ちゃん。この鳥さんって、「ビッグクックルー」の赤ちゃん?」
うるさく鳴いているニワトリを捕まえて、リンは尋ねる。たしかに人を襲う凶暴な鳥の魔物に外見はよく似ていた。
「違うよ。それで立派な大人なんだ」
「へえ~。おっきいと怖いけど、ちっちゃいと可愛いね」
「きゅいきゅい!」
リンとミルキーは、その辺をうろうろ走り回っているニワトリを無邪気に追いかけて遊ぶ。
「ミルキーは見張り番をして。鳥を狙うドロボウや動物が出たら、鳴いて教えてくれ」
「きゅいきゅい!」
ミルキーは誇らしそうに鳴く。
「リンにはこのニワトリの世話を任せるよ。一日一回水を替えて、餌は台所で出る野菜クズを細かく切ったものや残った麦でいい。一生懸命飼っていると、いいことがあるから」
「いいことって?」
「内緒」
リトネは口の前で指を立てて笑う。
「わかったよ。私頑張るから!」
リンは拳を振り上げて、気合を入れるのだった。

数日後
「お兄ちゃん。鳥さんが卵を産んだよ!」
リンがにこにこしながら籠いっぱいの卵を持ってくる。
廃棄予定の鶏だったとはいえ、出産能力が落ちているだけで卵を産まないわけではない。
こうしてペースは遅いが、ちゃんと卵を産んでくれるのである。
「よかったな」
「うん!」
リンはよほどうれしいのか、ピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。
鶏種が養畜されてないこの世界では、卵など魔物の巣から危険を冒してとってくる贅沢品である。
リンにとってはこんなに簡単に卵が取れるなんて信じられなかった。
「よし。コックに頼んで料理してみよう」
卵を厨房に持っていって、調理を頼む。コックは小さな卵に最初戸惑ったものの、リトネが渡した異世界の料理本を参考にして卵料理を作ってくれた。
「さあ、どうぞ」
ゆで卵に目玉焼き、卵焼きにオムレツと美味しそうな料理が並ぶ。
「いっただきます!」
リンは待ちきれないという風に、運ばれてきた片端からすごい勢いで食べていた。
「うん。美味い」
塩をつけたゆで卵をほおばりながら、リトネは満足の吐息をもらす。小さいころから小作人の子供として貧乏をしていた彼にとって、実に12年ぶりの卵だった。
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