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貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います 作者:大沢 雅紀
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はじめての失敗

「……つまんないの」
粗末な椅子に座って、もってきた本をよんで時間をつぶす。
午前の10時くらいになると、多くの業者がやってきた。
「お嬢ちゃんは受付のメイドの子かい?」
筋肉ムキムキのおっちゃんたちに、いきなり話し掛けられる。こんなフランクに扱われたことはなかったので、思わずナディはカチンときた。
「無礼者!私はナディ。シャイロック家の血を引く貴族で……」
「なんでもいいから手続きしてくれ。魚が腐っちまう!」
おっちゃんたちは地面にドンと魚の入った箱を置く。生臭い匂いがナディの鼻をついた。
「うっ……かってに入れればいい」
「そうはいかねえよ。食材ごとにちゃんと置く場所は決められているんだ。さっさとどこに入れたらいいか案内してくれ」
おっちゃんに責められ、ナディはしぶしぶ倉庫の案内をするのだった。
「……はぁ……臭かった。こんなお仕事嫌」
魚屋が帰ったあと、ナディはぶつぶつ不満を言いながら、椅子に座って本を読む。
しかし、10分もしないうちに別の商人が来た。
「ちわっす!八百屋のケンちゃんでーす。いや、これは可愛いお嬢ちゃんだ。どうだい?仕事が終わったら俺と遊びにいかないか?」
こんどはチャラチャラしたタイプの若い男が、野菜を持ってきた。
嫌いなタイプなので、ナディは無視する。
「どうしたい!おれっちのハンサムさに見とれて声もでねえのかい!とりあえず、案内を……」
「うるさい!勝手に入れて!」
ナディは癇癪を起こして、氷を浮かべて威嚇する。若い男はあわてて倉庫に野菜を運びいれて、逃げ出していった。
「まったく……やっぱり商人にはろくな人がいない!最低!」
お姫様育ちのナディは気位が高いので、軽く見られてプンスカと怒る。気を取りなおして本を読もうとすると、また邪魔された。
「こんにちわ。肉屋なんですが……えっと……」
「勝手に入れて」
本から顔も上げずに返事をする。こんな感じですべて対応してしまった。
昼近くになって、リトネがやってくる。
「勤務時間が終わったよ。どうだった?」
「……最低。つまんない仕事。別なことがしたい」
ナディはリトネに訴える。
「別なことをするのは、仕事がきちんとできてからだよ。どれどれ……」
リトネは倉庫に入り、食材の置いてある位置を確認する。魚だけは正しかったが、野菜が一階の冷凍庫に置かれて凍りかけていたり、肉が二階に置かれていたりした」
「ぜんぜんダメだね。どうしてこうなったんだ!簡単な仕事だろ!」
リトネはいちいち指摘して叱る。ナディは不満そうに頬を膨らませた。
「どうせ本ばかりよんでいて、ちゃんと案内しなかったんだろ。やりなおし!野菜を二階に上げて、肉を一階に下ろして!」
大量に積まれた箱を指差す。
「……何で私が!」
「当然だろ。仕事のミスは自分でカバーするんだ。この食材は城で使う分だけじゃない。彼らから町で売る食材を委託されて預かっている分もあるんだ。下手な管理していたらクレームが来てしまう。僕も手伝うから」
「いやっ!」
ナディは首を振って拒否する。
「嫌じゃない。やるんだ」
「嫌ったら嫌!絶対にそんな事をしないから!」
ナディは走って逃げ出す。
(ふっふっふ……想定どおりだな。ナディの我侭を直すいいチャンスだ。お嬢さん、逃げても問題は解決しないぞ)
その後姿を、リトネはニヤッと笑って見送っていた。
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