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お金は大事だよ
「でもまあ、確かにリトルレットがいうように金にこだわりすぎると人間性が失われるという面もある。ようするにバランスなんだ。これは特に領主という人の上に立つ人間は肝に銘じておかないといけないと思う」
リトネは自分の考えを述べる。
「たとえば、僕は250万麦の領主だ。その気になったら合法的に民から重税を絞り上げて、自分ひとりだけとほうもない金持ちになることもできる。だけど、そんなことをしたら多くの人間が迷惑するたろ」
その言葉に、三人は頷く。
「そうならないためには、金に流されない自制心も必要なんだ。要はバランス感覚だよ。金を馬鹿にしてはいけない。同時に金をあがめてもいけない。金の大切さを理解しつつ、金の奴隷にならないように自制心をもたないといけない」
「その言葉は立派だけど、あなたは実際に何かしているの?」
ナディが馬鹿にしたように聞いてくる。
「僕の場合、健全な領地経営をするために、まず自分の使っていい金を決めて、それ以上は領地の金だと分けて考えている。こうすることで、領主の権力に制限をかけている。ちなみに僕の給料は、領主代行で月50アルだよ」
「50アル?そんなので大丈夫なの?」
リトルレットは具体的に聞いて驚く。250万麦の大家のトップの使える金としては少なすぎた。というより、中堅の家臣程度の給料しかもらってない。
「余る位さ。ほとんど城から出ないし」
「私のお給料は15アルと食堂でのアルバイト代10アルの合計25アルですけど、余っちゃいますね。家に仕送りしています」
リンは無邪気にそういった。
「君たちに言ったことを覚えているかい?俺の妄想かもしれないけど、君たちが勇者の王妃になる未来では、極端に金貸しや金持ちを嫌って、彼らの事情を考えもせずに自分勝手に彼らを迫害した。俺は君たちにそんなビッチになってほしくない」
リトネの言葉に嫌そうになりながらも、二人は頷く。
「だから、君たち二人に合った仕事を与えて給料を払うから、その範囲で生活してみてほしい。そうすることを通じてお金の大切さを学んでほしい」
「……わかった」
「まあ自立していたボクにとっては今更だけど、お子様の遊びに付き合ってあげる」
二人はいやいやながら、リトネの言うことに頷いた。
「そして最終的には、自分の力で金持ちになってほしいんだ。そうしたら、金持ちの気持ちがわかるようになるから」
「……え?」
「自分の力で金持ちに?」
そんなことをいうリトネに、意味がわからないという顔をするナディとリトルレット。
「すぐわかるさ。俺の与える仕事をまじめにやっていれば」
リトネはいたずらっぽく笑うのだった。
「私の仕事って、これ?」
城の裏口付近に作られている倉庫の建物の前で、メイド服を着たナディは憮然としている。
ナディに与えられた仕事は、城に蓄えられた食材の管理だった。
「うん。食材を長持ちさせて経費節減するために作った「冷凍倉庫」。『闇氷』で城の食材を冷凍保存してほしい。魔法で氷を作ってくれ」
リトネは改造された倉庫の構造を説明する。倉庫は二階建てになっており、一階の床下にはアルミ板で受け皿が作られ、水がいっぱいに張られていた。
リトネは運ばれてくる食材の置くべきスペースを、ナディに丁寧に説明する。
「それじゃ、頼んだよ」
「……わかった。「闇氷」」
ナディは杖を振って、床下の水のプールに魔法をかける。
あっという間にすべての水を凍らせることができた。
「……寒い!」
床から冷気が立ちのぼってきて、ナディは身震いする。
「ご苦労さん。じゃ、倉庫の前で待っていて。納入業者が来たらどこに置くか指示して、倉庫に搬入させて」
それだけ言うと、リトネはさっさと執務室に戻る。あとにはぽつんとナディが一人で残された。

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