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よーく考えよう
シャイロック家
新たな住人となったナディとリトルレットに対して、リトネが申し渡す。
「さて……君たちの身分だけど、俺の婚約者……はとりあえず保留しておいて、協力はしてくれるんだよね」
リトネの言葉に、二人は頷く。
「なら、とりあえずシャイロック家の従業員として働いてもらうことにするよ」
何でもないように言うリトネに、二人は戸惑う。
「……従業員って?」
「どういうこと?」
首をかしげる二人に、メイド服を渡す。
「まあぶっちゃけていえば、リンと同じように俺の家臣になって。それ制服」
しれっとそういうリトネに、二人は膨れる。
「……ふざけないで!」
「別にふざけてない。これには大事な意味があるんだ」
リトネの顔は真剣だった。三人には、勇者をたぶらかすビッチになってほしくない。なるべく味方でいてほしいが、最悪の場合、将来勇者の下にいっても、必要以上に現実を無視して金貸しや金持ちを嫌ってほしくないのである。
そのため、ヒロイン三人には、基本的な経済の仕組みを教えこむつもりだった。
「君たちに聞きたい。世の中の風潮として、とくに貴族階級は商人たちを金にこだわる卑しい者たちだとみくだしているけど、どうしてだと思う?」
リトネからの問いかけに、ナディが答える。
「そんなの決まっている。だってモノも生み出さず、右から左に流して儲けているだけだから」
勝ち誇ったようにいうナディだったが、リトネは首を振った。
「だったら、僕たち貴族はどうなんだい?何もモノを生み出していないよ」
「うっ、それは……」
ナディは何か言い返したいけど、言葉が見つからない。
「リンはどう思う?」
「よくわかんないです」
子供らしく無邪気に笑ってそう答える。
「リトルレットはどう思う?」
「どうって……そんなの考えたこともなかったけど、金にこだわったら人としての優しさがなくなってしまうからじゃ?実際、金持ちって自分さえよければいいと思っている人ばかりだもん」
さすがに冒険者をしているだけあって、ナディよりは現実に近いことを理解している彼女だった。
しかし、これもリトネは首をふる。
「世の中の金持ちは、そんな人ばかりじゃないよ。中には自分で汗水たらして稼いだ金を、貧しい人に寄付して助けている人もいる。むしろ、金を溜め込んで使わない人のほうが珍しいよ。無私の寄付をしない人でも、多くの人を雇って生活の面倒をみている金持ちも多い」
「そういえば、そうだね」
リトルレットも認める。
「正解は……貴族の負けおしみだ。才能がある商人に、正しいやり方で負けて、悔しいから身分を下のものと見下して負け惜しみする。そのために金の価値を不当に貶めているんだ」
実に辛らつな貴族批判をするリトネだった。
「金とは努力の結晶だ。金は感謝の証だ。金は社会の血液だ。金は自由の源だ。金は誇りを保障するものだ。金は幸せな生活のためには絶対必要だ。衣食足りて礼を知るという言葉があるように、まともな人間になるためには生活できる程度の金は不可欠だ」
現実をみない父親のせいで貧乏して、散々苦しめられたリトネの言葉には、実感がこもっていた。
「そうかもしれないね」
その意見には、 リトルレットも頷く。
「ボクは家から離れて自立していたからね、リトネ君の言うこともある程度はわかるよ。駆け出しのころは本当に大変だった。お金がなくて馬小屋で寝たこともあったなあ」
「私も麦が不作のときは本当にお腹すきました。お兄ちゃんが釣ってくれた魚を二人で分け合ったりして……今の生活はおなかいっぱいパンが食べられて、本当に幸せです」
「……そうなの?」
二人に言われて、ナディも自分の価値観がぐらつきはじめた。

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