週刊少年サンデーで好評連載中の漫画「マギ」についての記事です。
いや、ブレイクはしているとは思うんですよ。
アニメ化もしたし、「シンドバットの冒険」というスピンオフ漫画もあるので。
「ドラゴンボール」とか「ワンピース」とか「スラムダンク」とか「HUNTER×HUNTER」とか「進撃の巨人」は、考察したり、熱く語る人って多いんですよね。
ただ、「マギが大好き」で「マギ」について熱く語る、
という人に今まで会ったことも見たこともないんですよ。
人気は人気なんでしょうけれど、熱狂的ファンという人を見たことがないです。
主も「マギ」は好きですけれど、
「スラムダンク」や「HUNTER×HUMTER」みたいに、
内容について熱く語ったり、セリフまで覚えて再現したり、とかはないんですよね。
「マギ」に今いち、熱狂できない理由を考えていきたいと思います。
ターゲットがあやふや
一番はこれだと思います。
少年誌に連載しているので、
基本的には小中学生男子がメインターゲットだと思うのですが、
その割には話が若干、分かりにくいです。
キャラクターも男性受けするよりは、女性受けしそうなキャラのほうが多いです。
男キャラが余り汗臭くもなく、泥臭くもない。
「マギ」のキャラって、戦闘中も汗をかかないし、筋肉や血管が浮き出たりもしないです。
この辺りの描写が象徴的だと思います。
物語の骨子としては、
「HUMTER×HUMTER」や「ワンピース」と同じように王道の少年漫画です。
ただ、男子が特に思入れが強そうな、戦闘描写が全然違います。
努力したり、自分の力で強くなったという過程が、視覚として確認しにくいです。
現実感がないというか、重みがないというか、
生まれつき能力のある人の曲芸を見ている。
「マギ」の戦闘描写って、そんな感じです。
なので、成長したいざかりの小中高生男子にとっては、
いまいち感情移入しずらい漫画なんじゃないかと思います。
(物語自体が面白いとは思っても。)
(血はけっこう流れているのに)血の匂いを感じさせないので、
戦闘描写一点だけを見れば、女性向けのスイーツ描写です。
「ベルセルク」ばりに生々しくやってくれとは言いませんが、
もうちょっと人体の生理現象面に重きをおくと、
戦闘シーンが全然違ったものに見えるのではないかなと思います。
キャラクターも、いかにも女性が好きそうなキャラクター多いんですよね。
ジャーファルとか紅覇とか。
「一見、冷静で論理的に見えるんだけれど、最も強い行動原理が他者への感情のキャラクター」
って言うんですかね。
「誰かのためには、死をも厭わない」という行動原理しか持たないキャラクター。
こういうキャラクターって、男性作家の作品にはほとんど出てこないです。
男性作家が描くキャラクターは、
「理想」とか「大義」とか「信念」とか「生き方」とか、
そういうものに従って生きている人が多いです。
男性作家が描くキャラクターの場合は、「誰かのため」という理由でも、
「その誰かに対する感情のために行動する」のではなく、
「その誰かのために行動することが、自分の生き方である」場合が多いです。
「ワンピース」のルフィを見ると、分かりやすいですね。
ルフィがそこいら中で人を助けるのは、「その人をどう思っているか」という以上に、
「困っている人を助けることが、自分の生き方だから」なんだと思います。
さらに面白いのは、女性が描くキャラクターでも
こういう「理想」とか「信念」とかに従って生きるキャラクターは出てくるのですが、
女性が描くキャラの場合は、
「その信念なり、理想をきちんと言語化できる」キャラが多いような気がします。
男性が描くキャラクターというのは、
自分でもその「信念」なり「大義」なり「生き方」がよく分かっていなくて、
「自分でも何故かは分からないけれど、そうしなければならない気がする」
という形で、行動によってその自分の中にあるものを示すキャラが多いです。
一言でいえば、女性が考えた男キャラというのは分かりやすく、
男性が考えた男キャラは(よくよく考えると)分かりにくいです。
「ワンピース」のルフィも、単純そうに見えますが、
よくよく考えると、ただの通りすがりなのに
なぜ、そんな何もかもに首を突っ込んで、誰も彼も助ける??と思います。
そういう観点で見ると、「マギ」というのは、
まさに女性が考えたキャラクターっぽいな、という印象です。
男子が今いち、感情移入や自己投影しずらいんじゃないかと思います。
全てが平均を超えているのだが、突き抜けたものがない
「マギ」は人物の書き分けがイマイチなことを除けば、
絵も上手いし、キャラクターも魅力的だし、
物語も面白いし、世界観もよくできています。
特に主は、「マギ」の世界観が好きです。
複雑な話なのに、ほとんど破綻なくできているし、
神話や哲学も取り入れていて細かいところまでよく考えられており、
読んでいて楽しいです。
ただそれでも、「マギ」の印象は
「どこかで読んだことがある気がする、うまくできた話」
以上のものではありません。
「うまくできていない話」が大半なので、それだけでも「マギ」は、素晴らしい漫画だと思います。
でも、漫画や小説の中でもほんの一握りの、
「他とは一線を画す神漫画」群と並べてしまうと、
正直、「よくできた漫画」以上の評価ができません。
話や世界観であれば「ワンピース」よりも、ずっと深くて面白いし、
絵は「進撃の巨人」よりもずっと上手いです。
女性キャラクターの魅力なら、「ドラゴンボール」よりも上だし、
話の分かりやすさでいえば「HUMTER×HUMTER」より上です。
逆に言えば「進撃の巨人」は、最初のころの絵なんてひどいものでしたし、
キャラクターも全員がものすごく魅力的だとは思えないし、
何より演出が下手だと思います。
それでも、初めて読んだとき、「すごい漫画だ。」そう思いました。
最初の数巻なんて、何度読んだか分かりません。
「マギ」は物語も複雑で、けっこうえげつない描写や残酷なシーンもあるのですが、
それでも「HUMTER×HUMTER」の予想の斜め上どころか、
どこにとんでいくか分からない展開の連続、
エピソードの収束の仕方には、面白さでは遠く及びません。
全てが平均点を超えている、これはすごいことだと思います。
それでも、人を熱狂させるには、全てにおいて平均以上であることよりも、
欠点があっても、何かひとつ突き抜けたものがなければならないかもしれないしれません。
書いていて思ったのですが、恋愛と婚活の違いに似ています。
それでも「マギ」が好き
「何で、マギには熱狂的なファンがいないのだろう」
という疑問に自分なりに答えましたが、
主はそれでも「マギ」が大好きです。
「マギ」の男性キャラについていろいろ描きましたが、
個人的には、「マギ」は他の少年漫画に比べて、女性キャラがいいと思います。
ほとんどどのキャラも好きですが、特にモルジアナと紅玉、玉艶が好きです。
特に玉艶が大好きです。
男が本気でぶん殴りたくなるような、
極悪さと物理的強さと美しさと気持ち悪さを兼ね備えた、
稀有なキャラクターだと思っています。
実の息子である白龍に、屈辱を与えるためにチューしたりね。
女性の怖くて生々しいところが凝縮したようなキャラクターです。
全国の少年たちに、
「自分のお母さんがこんなんだったらどうしよう」
という恐怖を与えたと思います。
こういうキャラを少年誌で描いたという一点だけでも、
「マギ」って評価されるべきだと思うんですよね。
「マギ」もいよいよ最終章に入ったようなので、今後も楽しく読み続けたいと思います。