FOCUS

株式会社Birthday Eve 代表取締役社長 水谷 隆氏
アーティストとユーザーを「リアル」に繋ぐ
株式会社Birthday Eve 代表取締役社長 水谷 隆氏インタビュー

CD不況と言われ、アーティストの自立やファンとの関わり方など、未だ模索を続けている音楽業界の中で、所属アーティストが路上パフォーマンスを展開、そしてCDを手売りし、着実にファンを獲得している株式会社Birthday Eveのアーティストたち。「武道館サポーターズ」と称し、日本武道館単独公演を実現する為に、1年間で15,000人のサポーターを集めるという企画を実施し、達成者が出たという。その達成者 宮崎奈穂子の武道館公演が11月2日に控える中、水谷氏に「路上」というBirthday Eveの方法論と現状、そして今後の展望まで話を伺った。

矢印(赤) 株式会社Birthday Eve:http://sc1.be-inc.jp/next/

[2012年7月27日 / 世田谷区代田 エフ・ビー・コミュニケーションズ(株)にて]
PROFILE
水谷 隆(みずたに・たかし)
株式会社Birthday Eve 代表取締役社長


ビーインググループにて、TUBEなど数多くのアーティストを育てる。独立後、SPEEDや一青窈の育成にも関わる。
NHK大河ドラマ『琉球の風』のメディアミックスプロデューサーや黒柳徹子のステージングプロデューサーを務める。
現在は株式会社Birthday Eve以外にも数社をコンサルティング中。

●Birthday Eveは所属アーティスト全員が路上ライブを主な音楽活動としているそうですね。どういった経緯で今のスタイルに至ったんでしょうか?

水谷:僕自身、音楽業界に入って40年近くになりますが、ビーイングを始め、音楽業界にとてもお世話になっているという気持ちがありまして、僭越ですが、今、音楽業界の元気がなくなっていっているので、何か新しいことをしないとまずいんじゃないかと思って、Birthday Eveを立ち上げました。

僕から見ますと大手のプロダクションさんや大手のレコード会社さんは、もともと才能のある人や綺麗な人を見つけて、それをそのままマーケットに出す花屋さんのように見えていたんですね。でも、僕はビーイングの長戸さんと仕事している頃からそういったことに全く興味がなくて、そもそもアーティストを目指して来る子たちというのは、花が咲くのか咲かないのかわからない状態で来るわけですよね。単純に憧れで来たり、もしくは一部に才能があっても、バランスがよくなかったり。それを僕はお百姓さんみたいに種を蒔いて育てて、もしかしたら花じゃなくて野菜でも、ちゃんと商品になるんじゃないかという考え方をずっと持っていました。つまり育てる方が好きで、出発点はそこなんですね。そして、ユーザーさんを見えるところに置いて、アーティストの教育と、ユーザーが何をリアルに求めているか。そこを繋ぐ会社にしようと考えました。

●「ユーザーさんを見えるところに置く」ということは、最初から路上での演奏を意識されていたんですか?

水谷:そうです。そもそも路上というのはノウハウがありそうでないんですね。それをマニュアル化して、ノウハウを蓄積し、売り上げがきちんと立つようにしていくことは必ずできるはずだと思っていました。現在、Birthday Eveでは路上をやる子たちに、まず看板の書き方から、駅の選び方、時間帯、そういうことを全部マニュアル化して教えています。

●コンビニの出店とか居酒屋さんの出店とか駅前の立地や交通量など考えてやりますが、同じような感じですね。

水谷:そうですね。例えば、インディーズで路上を始めるとしますよね。そこで、そこそこ売れると続くんですが、売れないとすぐに違う場所へ移動しちゃいます。そうすると、その日は買う気がなくても、もうちょっと聴いてみたら買うかな、くらいのお客さんの機会損失をするわけです。ですから、屋台と同じように「毎日そこに出ている」ということがすごく大切です。いつも同じ時間にそこに来ている、いつもそこでやっているという安心感がないと、CDは買ってくれません。

最初、お客さんは「何をやっているんだ? 歌を歌っているんだな」「ああ、CD売りたいんだ」というところから始まりますが、そこですぐ声をかけるようなお客さんばかりじゃないですから、「ああ、やっているな」というのがまず一日目。それが三日も続いていると「頑張っているな」というファクターに変わってくるわけです。それで一週間ぐらいたって「ちょっと声をかけてみようか」と。で、声をかけてみると今度その頑張りがより見えてきますから、「そんなに頑張っているんだったら、応援してあげるよ」と応援のファクターに変わるんですね。そこでCDを手に取っていただいて、家に持って帰って聴いたときに「結構しっかりできているな」と思って頂ければ、今度はお客さんがお客さんを呼んできてくれるんですね。

●そういったノウハウには水谷さんご自身のご経験が反映されているんでしょうか?

水谷:そうですね。少し話が飛んでしまいますが、僕は名古屋出身でフォークソングをやっていまして、南区の図書館を第3日曜日に借りて、「サンデーフォークフェスティバル」というイベントをやっていたんですね。そのときも自ら手売りでやっていたんですが、それが段々、組織化されていったんですね。

●名古屋といえばサンデーフォークが有名ですが、関係があるんですか?

水谷:はい。僕は今のサンデーフォークの母体となるサンデーフォークフェスティバルの初代の社長をやらせていただいたんですよ。

●えっ、サンデーフォークの初代社長って水谷さんなんですか?

水谷:僕の時代はまだサンデーフォークフェスティバルと言う団体でしたが、そうです。井上隆司君はもう亡くなってしまいましたが、彼の前です。その頃、僕は絵描きの弟子もやっていたんですが、賞をもらって、何を勘違いしたか東京に出てきちゃったんですよ。それで個展をやったら借金だらけになりまして、しかも自分の絵がマニアックだったので、結局、絵描きとしては大成しなかったんですよ。それで「とにかく仕事しなくては」と舞台美術の仕事を手伝ったり、舞台監督をやっているうちに考えたことが、絵もそうですが、まず「マーケットが何を求めているか」を考えることから始めることが大切だということで、その考えがBirthday Eveにも生きています。

●路上でサポーターを年間15,000人達成したら武道館でやるという目標を設定されたそうですね。そして達成者が現れたと。

水谷:そうです。サポーターが15,000人を達成したら武道館やるよ、と。それで宮崎奈穂子が15,000人達成しました。

●すごいですね…そのサポーターというのはどういった仕組みなんですか?

水谷:「制作費に全部使います」というお約束で、年会費を3,000円頂いているんですよ。そして、会費をもらっている以上は何か返さなきゃいけないってことで、今まで作っている楽曲を商品としてプレゼントしているんです。そんな仕組みでサポーター15,000人を達成したのが宮崎奈穂子です。

●15,000人ということは単純に売り上げとすれば4,500万…?

水谷:そうです。それに比例してCDの手売り分もあります、僕たちは必ず3ヶ月で何枚売るという目標値を設定するんです。例えば、伊吹唯という子は3ヶ月で7,000枚が目標値だったんですが、ちゃんと達成するんですよ、路上の手売りで。

●3ヶ月で7,000枚ですか!?

水谷:はい。一番売る子たちが3人いて、その下の子たちが3人、さらにその下に被災地から出てきた女の子たちがいたりと、今Birthday Eveには10人アーティストがいます。


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