時代の正体〈346〉政治家のレイシズム(上) 規範なき荒涼照らす

【記者の視点】報道部デスク・石橋学

 人種・民族差別問題に取り組む市民団体「反レイシズム情報センター」(ARIC)は政治家のヘイトスピーチをデータベース化し、インターネット上で公開した。路上のヘイトデモの背後にある公人による差別扇動に目を凝らし、警鐘を鳴らすものだ。歴代首相から現職閣僚、地方議員ら約90人、620件を超える発言は規範なき政治の荒涼を照らし、許容し続ける社会のありようを問い掛ける。

 ARIC代表で在日コリアン3世の梁(リャン)英聖(ヨンソン)さん(33)は、その文章を正視できなかったという。「史上最悪のヘイトスピーチ。ここまでひどいものが出てくるようになったかと言葉を失った」

 筆者は福岡県行橋市の小坪慎也市議(37)。熊本地震2日後の4月16日、産経デジタルが運営するオピニオンサイト「iRONNA」に掲載された寄稿文はこう書きだす。

 〈まず結論から述べるが、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが飛び交うことに対しては仕方がないという立場である〉

 震災直後から「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」といったデマがツイッター上で拡散されていた。小坪氏は「デマの容認・助長は行っていない。発災直後という不安な状況下では、デマが蔓延(まんえん)しやすい状況であると触れている。その上でデマは許せないと主張したコラムだ」と説明する。批判されたことに対して福岡県弁護士会に人権救済の申し立てを行い、地元の司法記者クラブで会見も行ったという。

 梁さんの受け止めは違う。「小坪氏は『仕方がない』と擁護している。政治家はこうしたデマをただちに否定、批判しなければならないのに、だ。しないことが容認のメッセージとなり、レイシズム(人種・民族差別)をあおることになるからだ」。データベースに迷わず登録した。

 より根深い問題は文章から読み取れるメッセージにある、と梁さんは考える。「井戸に毒-」はただのデマではないからだ。

 1923年の関東大震災直後、自警団を組織して朝鮮人や中国人の虐殺に走った人々が信じたのが、「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れた」「暴動を起こしている」というデマだった。非常時に生き延びるため必要な井戸というインフラを朝鮮人が破壊したというメッセージが人々を凶行へと駆り立てた。「それは生き延びるには朝鮮人を殺さねばならないというメッセージにつながっている。同じ人間を生きるべき人間と死ぬべき人間に峻別(しゅんべつ)するという、レイシズムの本質がここにある」

 6700文字を超える小坪氏の文章には、自身が震災対応に奔走していることに触れ、〈その時に『朝鮮人が井戸に毒を!』というデマ。ふざけるなと言いたい。こっちは仕事をしているんだ〉と記した一節もあるが、レイシズムを正面から否定し、拡散を防ごうとする姿勢は伝わってこない。

 そして、その筆はデマに込められたメッセージをなぞるように文字化していく。

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