リオデジャネイロ・オリンピックの開幕を70日後に控え、水泳の朴泰桓(パク・テファン)選手の出場をめぐり韓国国内で激しい議論が巻き起こっている。朴泰桓は2014年9月に行われたドーピング検査で陽性反応が出たことから、国際水泳連盟(FINA)から18カ月の選手資格停止処分を受け、今年3月に処分が終了した。しかし大韓体育会(KOC)は規定で「ドーピングを理由に競技団体から懲戒処分を受けた場合、処分終了から3年間は韓国代表になることができない」と定めているため、これを理由に朴泰桓はこのままではオリンピックに出場することができない。ところが朴泰桓は先月、国内で行われた大会で4種目で優勝し、しかも世界的に見ても好タイムだったことから、朴泰桓のオリンピック出場を求める世論が一気に高まった。国会議員の中からも朴泰桓の出場を求める声が出始めているほどだ。
朴泰桓のオリンピック出場を主張する側は、国際水泳連盟の処分にさらに追加で制裁を加える大韓体育会の規定を「二重処罰」と主張している。これまで水泳強国とは決して言えなかった韓国で、朴泰桓は初めて金メダルを獲得した選手だ。この多大な功績を考慮し、朴泰桓にもう一度チャンスを与えるよう求めるいわば同情論もある。これらの主張には確かにある程度の説得力はあるだろう。
しかし問題となっている大韓体育会の規定は、八百長など「スポーツ界の4大悪」根絶を目的にもうけられたものだ。しかも規定が定められた時期は、朴泰桓のドーピングが摘発されるわずか2カ月前の2014年7月で、ドーピング根絶に向けたスポーツ関係者の強い意志を示すものだった。そのため特定の個人のためにルールを簡単に覆していては、当然その公平性が問題となり、ドーピング根絶の意志も疑われてしまうだろう。
さらにより根本的な問題は朴泰桓自身の行動と態度だ。朴泰桓はドーピング検査で摘発された直後、全ての責任を医師に転嫁した。ところがどうしても責任を逃れられなくなると、摘発から6カ月後になって初めて謝罪した。また朴泰桓が知らないうちに医師が本当に勝手に薬物を投与したかについては、今なお明らかになっていない。問題のいきさつについて明確に説明もせず、謝罪も6カ月後にやむなくやっているようでは、朴泰桓は本当に反省しているのか疑われるのも当然のことだ。朴泰桓は今もなお自ら被害者であるように振る舞っており、ドーピングに対する自らの責任をはっきりと認めていない。
国民は誰もが気持ちの面では朴泰桓が再びオリンピックで活躍することを期待している。しかしスターを失いたくない国民感情ばかりに配慮し、ルールを無視して朴泰桓のオリンピック出場を簡単に認めてしまえば、われわれはスター選手の過ちや不正行為に対する歯止めを失ってしまうだろう。スポーツのスター選手であれば、何をしても1回土下座すれば全て許されるような国であってはならないのだ。