最新記事

米大統領選

荒れる米大統領選の意外な「本命」はオバマ

2016年4月13日(水)18時30分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

「(トランプ氏ではなく)共和党自体が道を踏み外している」という論法には、自らの業績を正当化する狙いがある。移民改革の行きづまりなど、オバマ大統領の業績には、物足りなさを指摘する声が少なくない。そうした声に対するオバマ大統領の反論は、「正しい政策ですら、議会共和党は聞く耳を持たない」というものだった。オバマ大統領に言わせれば、極端な発言が連発される共和党の予備選挙は、共和党の変質を裏付ける何よりの証拠である。

 オバマ大統領は、民主党の強力な武器になり得る。共和党のトランプ氏、クルーズ氏のみならず、民主党のクリントン氏などと比較しても、オバマ大統領の好感度は高い(図表2)。選挙の看板にはうってつけだ。実際に、民主党の指名候補を争うクリントン氏とサンダース氏は、互いの政策を批判こそすれ、いずれもオバマ大統領の路線を継承・発展させることを謳う。共和党の候補者たちが、こぞって不人気だったジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)から距離を置こうとした2008年の大統領選挙とは、全く構図が違う。民主党でも、2000年の大統領選挙で党の指名候補となったゴア副大統領(当時)は、スキャンダルの多かったビル・クリントン大統領(当時)と同一視されることを嫌っていた。

 オバマ大統領には、予備選挙での対立を癒し、民主党をまとめる役回りも期待されている。民主党では、クリントン氏とサンダース氏の指名候補争いが長引いている。いずれ決着がついても、互いの支持者にわだかまりが残るようでは、共和党と対決する本選挙に悪影響が生じかねない。指名候補争いに目途がつけば、オバマ大統領は党の団結を支持者に呼びかける役回りを演じるはずだ。

(図表2)好感度(世論調査)
yasui-chart02.jpg

オバマ大統領とトランプ氏には共通点も

 興味深いのは、オバマ大統領が批判の矛先を向けるトランプ氏に、大統領自身との共通点が散見されることだ。その典型が、外交政策である。

 オバマ大統領とトランプ氏は、ブッシュ前大統領が民主主義の旗頭を自任して海外での軍事行動に踏み込んでいった点を批判し、「他国の国家建設に国力を使うのではなく、米国自身の再建に尽力すべきだ」とする点で共通する。オバマ大統領は国際政治の安定に力を貸さない「フリー・ライダー」国家への嫌悪感を公言し、トランプ氏は「米国ばかりに負担が大きい同盟関係」を批判する。オバマ大統領は冷静な分析に基づいており、トランプ氏は直感に頼っているように見えるが、オバマ大統領の主張から論理の整然さを取り除き、トランプ氏から乱暴な対応策を切り離すと、意外に似通った問題意識が残る。

ニュース速報

ワールド

バングラ事件で20人殺害、邦人7人安否不明 首相「

ワールド

バングラデシュで襲撃の武装集団鎮圧、外国人ら20人

ワールド

安倍首相「痛恨の極み」、安否不明の7人は厳しい状況

ワールド

安否不明の日本人7人、大変厳しい状況であると認識=

MAGAZINE

特集:BREXITの衝撃

2016-7・ 4号(6/28発売)

世界を揺るがせたイギリス国民投票のEU離脱派勝利。リーマン危機級のパニックが再びグローバル経済を襲うのか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    もし第3次世界大戦が起こったら

  2. 2

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  3. 3

    英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

  4. 4

    財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ

  5. 5

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  6. 6

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  7. 7

    コンビニATM14億円不正引き出し、管理甘い日本が狙われる

    アフリカ諸国、東欧、中東などでは不正分析ソフト…

  8. 8

    ISISが3500人のNY「市民殺害リスト」をアプリで公開

    無差別の市民を選び出し、身近な標的を殺せと支持…

  9. 9

    Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

  10. 10

    搾取されるK‐POPのアイドルたち

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

    <日本でサミットなどの国際会議が開催されるたび…

  3. 3

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

    欧州連合(EU)にさらに権限を委譲すべきだと答え…

  6. 6

    中古ショップで見える「貧困」の真実

    時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「…

  7. 7

    アメリカの「独立記念日」が「花火とBBQだけ」である理由とは?

    7月4日は、アメリカでは独立記念日の祝日です…

  8. 8

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  9. 9

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治…

  10. 10

    日本で盛り上がる「反知性主義」論争への違和感

    日本で「反知性主義」という言葉が流行している…

  1. 1

    メルセデス・ベンツの長距離EV、10月に発表=ダイムラー

    ドイツの自動車大手ダイムラーは、メルセデス・…

  2. 2

    米フロリダ州の乱射で50人死亡、容疑者は警備最大手に勤務

    米フロリダ州オーランドの、同性愛者が集まるナ…

  3. 3

    英国のEU離脱派と残留派、なお拮抗=最新の世論調査

    11日に公表された世論調査によると、英国の欧…

  4. 4

    ECBのマイナス金利、銀行に恩恵=コンスタンシオ副総裁

    欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁…

  5. 5

    米国株式市場は続落、原油安と世界経済懸念が重し

    米国株式市場は2日続落で取引を終えた。原油が…

  6. 6

    英EU離脱は連合王国のリスク、元首相2人が警告

    英元首相のトニー・ブレア氏とジョン・メージャ…

  7. 7

    焦点:タカタ再建、「ラザード」効果で進展か 車各社との調整に期待

    欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償…

  8. 8

    インタビュー:世界的な低金利、エンダウメント型投資に勝機=UBSウェルス

    UBSウェルス・マネジメントのグローバルCI…

  9. 9

    NY市場サマリー(10日)

    <為替> 原油安や銀行株主導で世界的に株安が…

  10. 10

    英国民投票、「EU離脱」選択で何が起こるか

    欧州連合(EU)は6月23日の英国民投票を控…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

STORIES ARCHIVE

  • 2016年7月
  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月