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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第百十二話:鎮魂歌(2)

投稿まで期間が空いてしまい申し訳ありません。


 青い空、心地よい風。こんな素晴らしい天気の日が外道達を葬るための記念すべき初日なのは、勿体ないくらいだ。そんな、素晴らしい天気だというのにギルド総本山のある要塞都市『アームズフェント』に住む人々の目には、疲れの色が写っている。

 だが、住人達には申し訳ないが・・・敵国の者達だ。たとえ、非戦闘員である一般市民でもこの私は同情などしない。そんな些細な事より、要塞都市『アームズフェント』が無駄に広い方が問題だ。

 要塞都市『アームズフェント』はギルドのお膝元と言われており、4大国の首都に匹敵する規模を誇っている。更に、お金が余っているのだろうか・・・建造物の作り込みや道の整備なども行き届いている。間違いなく南方諸国連盟で随一の都市であろう。

 本来なら、初めて来た大都市では色々迷うのだが、この都市に限って言えばある程度の地理は把握している。ギルドの不正を纏めた『受付嬢Mの秘密』を執筆する際のネタ集めに何度も蟲達を派遣している。

 良くも悪くも、要塞都市『アームズフェント』は何でもあるのだ。冒険者育成機関や迷宮は当然として、各国の大使館や大商人の営業事務所など様々だ。なんでもあるとはいっても、流石に戦時中であるため『神聖エルモア帝国』や『ウルオール』の関係者達がどれだけこの都市に残っているか定かではない。ここに居ては何をされるか分からないからね。

「ゴリフターズも連れてきて一緒に観光しても良かったな・・・・・それは、次の機会でもいいだろう」

 ゴリフターズと合流した日だけ『ウルオール』の王家天幕で休憩を取らせて貰ってから、ギルド総本山がある要塞都市『アームズフェント』まで私一人で移動した。ゴリフターズも連れてくる事を考えたのだが、まだ戦争は終わっていないので私以外は居残りだ。

 我々ヴォルドー家は、此度の戦争には同盟国である『ウルオール』の為に『神聖エルモア帝国』を代表して参加しているのだ。少数精鋭であるが故の弊害・・・ゴリフターズを連れ出しては、お仕事が疎かになる可能性がある。あの二人が戦場で暴れることで、『ウルオール』の被害が激減する。それで救われる者も多いであろう。

 何より戦場には、瀬里奈さんを含めた家族全員が居る。家族全員の実力から察するに、余程の事態が起きない限り怪我を負うことは無いであろう。しかし、何事にも想定外はあり得る。だから、あの二人には私一人より大勢の方を優先して欲しかったのだ。

 別れ際のゴリフターズの顔は不安そうだったが安心して欲しいと伝えて置いた。事実、この私を単独で害する事が可能な存在は、今のギルドに居ないであろう。一定以上の力量を誇る冒険者を揃えられれば私を排除する事も不可能では無いであろうが・・・そんな連中と真面目にやりあうほど私は愚かでは無い。

 各個撃破か、毒責めか、金と権力、考えられる全ての方法を使い障害を排除する。大貴族であるが故に『神聖エルモア帝国』におけるある程度の裁量権限は持っている。無論、公的死亡の私にはそれを振るう事はできないが現当主である瀬里奈さんが使用すれば良いだけのことだ。よって、爵位であろうともある程度融通することが可能なのだ。

 ぐぅぅぅぅ

 おっと、紳士としたことが腹の虫が鳴いてしまったか。恥ずかしい限りだ。

 要塞都市『アームズフェント』に潜入してから尾行してくる者は誰も居ない。アルビノという目立つ容姿である為、一定時間ごとに通行人から容姿を拝借しているので私を発見する事は困難を極めるがな。

 それに、要塞都市の警備体制から考えるにこの私がここに潜入してくる事すら想定していないのだろう。ランクAのクロッセル・エグザエルを殺し屋として派遣したのだ。常識的に考えれば、この私の首と瀬里奈さんの身柄を待つだけのギルドがわざわざ私専用の警備要員を配備することもないか。

 情報収拾を始める前に、少し腹を満たしておくか。良いところに果実を売っている露店がある。どれもこれも、萎びていて品質に難があるな。だが、驚くべきはそこだけでは無かった。

「たかが、リンゴ一つで5000セルだと!! すこし、ぼったくり過ぎるんじゃ無いか」

「あんた、旅行者かい? ここは、これが相場だよ」

 周りの商品…主に、食料品を見てみると桁が可笑しい値段が付けられていた。数も少ないく品質も悪い食料品にその値段は無いだろうと思ってしまう程だ。本来なら屑野菜として捨ててしまう様な物まで売り物としている。

「確か、ギルドが敵国である『神聖エルモア帝国』から食料を輸入して配給制となっていると聞いている。だから、ある程度の値上がりは理解できるが・・・この値段は、少しやり過ぎじゃ無いか?」

「配給だけじゃ、足りないんだよ。ギルドが配給する量じゃ、一日の食事量の半分にも満たない。だから、食料品の値段もうなぎ登りというわけさ。こっちも、生活がかかっている以上、この価格より安くはできないね。嫌なら余所に行ってくれ…どこも同じ値段だがな」

 ヴォルドー領からの輸出量から考えるに、確かに南方諸国連盟全ての民を養うには不足している。だが、こちらはギルドが望む量を用意して輸出しているのだ。それで、国内が回っていないのはギルドの問題だ。こちらは、金さえ積んで貰えれば幾らでも輸出する用意がある。

 おかげで『神聖エルモア帝国』や『ウルオール』の多くの貴族や商人達から後ろ指を指されている。期間限定だとは言え、南方諸国連盟に対して大々的に輸出を行っているのはヴォルドー家だけだからね。それなりの金額を双方の国内に還元しているつもりなのだが、懐が暖まるのは農家であって・・・貴族の連中の懐は肥えていないから不満タラタラなのだ。

 まぁ、戦争相手の敵国に食料を売るとは何事だと至極まっとうなご意見をいう貴族もちらほらいるので本当に耳が痛い。

「そうか、良いことを聞けた。リンゴを5つ貰おう」

 情報料ということで売り上げに貢献してやろう。こんな犬の餌みたいなリンゴを食べる気にはならないので、物陰から此方を伺っている孤児のガキにでも恵んでやろう。雰囲気から察するに、ひったくりの常習犯と見て間違いない。

 本当ならこんな施しはしないのだが、今は気分が良い。特別サービスだ。袋の中に蝗を沢山詰めておこう。袋を開けると同時に口の中に飛び込んで、胃の中で死んで直接栄養を取らせてあげる。多少なりとも私のせいで食料に困っているのだろうから、少しは紳士的にサービスをしてあげなければいけないからね。

「まいど。冒険者だったら、ギルドの依頼で戦争に行けば優先的に配給が貰える。それで家族が養えるさ」

 リンゴと大量の蝗がはいった紙袋を持って、町中を移動した。そして、人混みに紛れたタイミングでこの私から紙袋を奪っていくガキ共を優しく見守ってあげた。これで三日は飢えないであろう。胃の中で生きながらえて、少しずつ死んで養分となるように指示して置いた。

 まさに、紳士の所行である。ちなみに、死ぬと同時に腹の中にいる蝗から感謝の言葉が発せられるが、まぁ問題なかろう。腹の蟲がなるという諺もあるくらいだ。

 しかし、食料を餌にして戦争に行く生け贄を集めていたとはね。食料という人には不可欠な物と家族を餌にするえげつないやり口・・・流石、ギルドだわ。



 ギルド総本山に乗り込む前に警備体制などの情報を入手しておかなければならない。肝心なギルド幹部達の正確な所在は、実は謎のままなのだ。唯一分かっていることは、この要塞都市『アームズフェント』にギルド幹部の誰かが居ると言う事だけ。

 蟲達を総動員して、虱潰しで探せば比較的に早く見つかるだろう。だが、それでは気がつかれてギルド幹部に逃げられる可能性もある。今現在、『ウルオール』の諜報員が各地でギルド幹部が賞金首になったことをふれて回っているが流石にギルドのお膝元である『アームズフェント』にその情報が届くのは遅い。ギルド幹部を囲う檻は、まだ完成はしていないのだ。

 この私が非紳士ならば、特性の猛毒を使い『アームズフェント』のギルド幹部ごと全住民を始末できる。そうすれば、後は死体確認を蟲達をつかって行うだけの単純作業になる。

 ギルド幹部は、この私が手段を選ばない外道で無い事に感謝しないといけないよね。たとえ公的に死亡したとは言え、人の道を外れないのだから。まぁ、住民諸共排除してしまうと戦後に事が露見した場合に各方面からの突き上げが痛い。

 都市ですれ違った者の適当な顔に変装を行い『アームズフェント』ギルド支部へと正面から入った。ギルド総本山は主に各地にあるギルド本部などを管理する場所であるため、この都市では別にギルド支部がある。『ネームレス』ギルド本部同様に冒険者の斡旋など様々な事を行っているのだ。

 まぁ、どこも同じような物だ。

 壁にある依頼書を軽く眺めたが・・・殆ど、戦争への傭兵募集だ。中には、迷宮関連の依頼もあるが、比率は非常に少ない。

「しかし、どいつもこいつも雑魚ばかりだな」

 仮にも冒険者なのだから、一般人よりかは強いであろう。だが、低レベルの比率が非常に高い。多少、高ランク冒険者が混ざっているが・・・練度は悪い。低ランクに毛の生えたような者達ばかりだ。

 考えられる可能性は、ギルド幹部連中が率先して高ランク冒険者を雇い入れた。もしくは、戦場へ出向いている。ほとぼりが冷めるまで雲隠れ。

 私的な意見で言わせて貰えば、雲隠れした者達こそが優秀であろうな。この時期に戦争に行く冒険者は死にに行くようなものだ。ランクAのゴリフターズがいる場所だぞ・・・常識的に考えて、金を貰っても行きたくない。ギルド幹部の護衛も同じだ。


 なぜか、高圧的な態度をする二人が私の前に立ちはだかった。初めて来たギルド支部で何も問題を起こしていないのに全く理解できない。ただ、独り言をつぶやいただけだというのに。

 正直言って、これから資料室やギルド長の部屋に行って色々と漁る予定だったのにこれでは悪目立ちもいいところだ。

「この俺をみても雑魚だといえるのか」

 元はミスリル製なのであろう血や土で汚れた斧を構えて盗賊上がりのごろつきのような者が威圧してきた。

「雑魚以前だ。武器の手入れすら出来ない者は、お話にならない。命を預ける商売道具の手入れもまともに出来ないのか。だから、レベルが低いと言われるんだよ」

 なるべく穏便に問題点を指摘してあげた。さりげなく雑魚といった事も無かった事にしたので大丈夫であろう。しかも、武器の手入れをしっかりすれば強く見られるぞとも暗に伝えている・・・これぞ、卓越した話術だ。

 なにやらプルプル震えている。

 余程、感銘を受けたのであろう。この私からのありがたい言葉を心に刻み今後のご活躍に期待する。では、時間が勿体ないので奥へと移動しよう。既に、この支部にいるギルド職員の体型から顔まで全て把握した。これで怪しまれること無く支部の内部を闊歩できる。

「ど、どうやら死にたいようだな!!」

「いや、普通に考えて死にたい人なんて余り居ないでしょう。後、『水』の魔法で身体能力を強化するのは構いませんが、発動から強化するまでの時間が掛かりすぎです。後、効力も脆弱ですね・・・」

 ほら、それにギルド内部って一応血生臭いことは禁止されているはず。そろそろ、誰かが止めにはいる。ほら、何をしているこちらを見ているギルド職員。私が知るギルド受付嬢のマーガレット嬢ならば、即座に気配を察して取りなしてくれるぞ。仮にもギルドお膝元にある支部だ・・・優秀な者達が・・・者達が・・・。

 あれ、なにやら周りの雰囲気がおかしい。何も見ていない風に顔を合わせない。

「あーぁ、ゼルを怒らせちゃって・・・あんた死んだよ」

 この男はゼルというのか・・・まぁ、どうでもよいけどな。あと女!! お前の恋人だろう。早く止めないと大変なことになっちゃうぞ!!

「いいや、ギルド内部じゃ血生臭いことは御法度だろう。これだけの目撃者が居る中で殺傷沙汰じゃ、そっちの方があぶないでしょ」

「なんだ、てめーはよそ者かぁ!! いいか、この俺はな!! ゼルシア・グラン・アースレイだ!!」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 本来なら誰それと言うところだが、実に運が良い。私は名前に覚えがある。

「アースレイということは・・・ギルド幹部の一人トーマス・フレンス・アースレイの息子か!?」

 流石に、ギルド幹部の親族連中の顔までは知らなかったが・・・家族構成については把握している。ということは、そっちの女もギルド幹部の娘だな。ガイウス皇帝陛下の神器プロメテウスでギルド幹部の家族の女については、友好関係から性癖にいたるまで全て情報を把握している。そして、ゼルシアを恋人にする幹部の娘がいた。

 なるほどね。だから、誰もが見て無ぬふりをするのか。触らぬ神に祟りなしといったかんじかね。

「はい、せいかーい!! 」

「それは素晴らしい!! いやいや、君たちのご両親には大変お世話になっていてね・・・是非ご挨拶に伺うために、支部に足を運んだんだよ。いやーー、実に運が良い」

 思わず、ゼルシアという男の方をポンポンたたいてしまった。

 この私の予想が想定外だったのか、二人とも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「親父達の知り合いか?・・・合ったことないぞ」

「私も知らないわよ」

 いや、当然だろう。私も会ったこと無いのだからさ。むしろ、会ったことあると言われた方が恐ろしい。世界にはそっくりさんが三人はいるという前世の言葉があるが・・・変装している現時点でそんな希有な確立に出会うとも思えない。

 だが、何を勘違いしてか先ほどまでの雰囲気が霧散していくのが分かった。ギルド幹部である両親の知り合いという事は、下手に手を出せばまずいとでも思ったのであろう。

「ここで出会えたのも何かの縁だ。昼食にどこでも好きなお店でご馳走しよう」

 最後の晩餐だ。好きな物を食べると良い。食後には、楽しい尋問タイムだ。そして、最後は蟲達のランチになる。後の憂いを残さないためにもしっかり根絶やしにする。

 なるべく笑顔で雰囲気良く、二人を誘った。

「言っておくが俺たちの行きつけは高いぜ」

「構わないさ。君たちご両親のお陰で懐が暖かくてね。この機を逃せばご馳走する機会もないだろうから、遠慮などいらない」

 二人を連れて、早々に立ち去るとしよう。この場で集める情報より有意義な物が得られそうだ。やはり、こうした運があるのは日頃の行いだろう。
世界のためにもギルド幹部の血筋は根絶やしじゃ^^
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