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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第百四話:憎しみの連鎖(6)

◆一つ目:秘匿施設の生き残り


 気分が悪い。だが、それが生きている事を教えてくれた。

モナー

 生き物の鳴き声なのか、聞き慣れない音声が耳に入ってきた。

 ………

 聴覚が戻っている!? ギルドの実験で失ったはずの音が聞こえる。それだけじゃない、手足の感覚もはっきりとしている。指も一本ずつ動かせる。

「意識が覚醒したか、気分は悪いだろうが数時間もすれば回復するだろう」

 回復…誰かが助けてくれたのだろうか。だけど、ここはギルドの施設のはず…そんな場所に助けが来るなどあり得るのだろうか。いいや、現実だ。

「ありがとうございます」

 まだ目を開ける事はできないが、誰とも知れない人にお礼が言いたかった。危険を冒してまで助けてくれた人に。

「気にするな。困っている人を助けるのは当然だ。で、ここに来る事になった経緯は?」

 その心強い発言に安心感を覚えた。安心感を与える人とは、このような人なのだろうと改めて実感させられた。

「ギルドの依頼で迷宮に赴いた際に…いきなり拉致されて…!? あ、姉も一緒にここに捕まっているのですが、知りませんか?」

 唯一血の繋がりのある姉。孤児院から出てから姉と二人で冒険者家業に足を踏み込んで一緒に頑張ってきた。姉は、魔法もほどほどに使えるだけで無く器量も良かったので人気者だった。そんな姉には幸せになって欲しいといつも思っていた。

 だけど、ここに連れてこられたから状況は一変した。女性であったこともあり姉は酷い扱いを受けていたのは知っている。更に言えば、俺を守る為に職員達に色々と…。だが、姉の思いは叶わず裏では俺に酷い実験ばかり行ってきた。姉を守りたければ分かっているなと言われては従うしか無かった。

 我慢するしか無かった。

 姉の行いが無駄に終わっている事実が露見するのが怖かったのだ。ただですらギリギリの生活。ここに連れ込まれてきた何人もの子供達が死んでいく様を見せられてきた。

「姉の名は?」

「ミーシャ・クロイル」

 モッモナ

 無事であって欲しい。俺の事より姉を…。

「四日前に廃棄処分と書かれている。蟲達の餌にしたしい…しばらく待っていろ。今、確認してきてやる」

 男性が離れていく足音が聞こえた。

 は、廃棄処分? 何を言っているんだろう。物じゃあるまい。だって、姉はこの間までちゃんと生きていた。今だって、耳を澄ませば姉の声が…。

 モキュ

 誰かが毛布を掛けてくれたのだろうか。とても良い匂いがする。心が安らぐ。

「姉さん…」

………
……


 それから、しばらくして目を開けられるようになった。

 俺を助けてくれた人物は、二人…両名とも知っていた。冒険者家業をしていて知らない者はいない程の有名人だ。事情は知らないが、こんな辺境まで人助けをするような奇特な人物で無い事も分かっている。

 だけど、これはチャンスだ!!

「お、お願いします!! お金は、一生掛かっても払います。どうか!! 姉の…ここで死んでいった者達の仇を討ってください」

 生き残った者達の全員の悲願。ギルドという強大な組織に対抗するには、力が足りない。俺を含めた全員が床に頭を擦りつけて懇願した。

「どうしますかね『闇』の使い手」

「そんなもの決まっている。グラシア殿の望みを叶える事こそ、儂の仕事」

 グラシア殿…確か、『聖クライム教団』の教祖の名前が同じだった気がする。いいや、恐らく間違いないだろう。と言うことは、その教祖様が我々を救ってくださったのだろうか。

「グラシア殿の望みで救った者達の願いを無碍にするわけにもいかないか。だが、貴様等はそれで良いのか? 兄弟を、姉妹をギルドの手によって殺されたのであろう。ここの施設で行われてた事や職員達がどのような行為をしていたかも知っている。恨みを晴らしたくは無いのか…貴様等自身の手で」

 分かっている。それが出来れば一番理想的なのだと。だけど!! 俺達は貴方達のような力がない。ギルドの幹部は、一人一人が高ランク冒険者と同じ実力があると言われている。当然、護衛も沢山居るのはわかりきっている。

 勝てない…俺達のような者達が何人集まろうと勝てない。

「晴らしたい。姉さんを汚しただけで無く、あんな身体にまでされて憎くないはずがありません!! ですが!! 俺達には力が無い。だから、貴方達にお願いする以外に方法がありません」

「力が欲しいのか。今なら、出血大サービスだ…望めばギルドに一矢報いるだけの力をくれてやるぞ。無論、それ相応の対価が必要になる。、余命が一週間…更に、人である事を捨てる覚悟があればだがな。晴らしたいであろうその恨み。今ならば、ギルド幹部の家族が居る所在地を教えてやろう」

 力が欲しい…命を捨てでも!!

「お願いです!! 俺に力をください。例えこの身がどのようになれギルドに一矢報いる事ができるなら本望です」

「その願い叶えよう」

 レイア様の後ろから大きな身体をした蟲が出てきて俺を飲み込んだ。他の者達も同じく力が欲しいと言った者から飲み込まれていった。

 家族を失うその痛み…知るといい。



 ギルドが新設した秘匿施設のおかげでロスタイムが出てしまった。『闇』の使い手が稼いでくれた時間的猶予が帳消しにされる結果になってしまった。

 助けた子供達は、蛆蛞蝓ちゃんの治療により一命を取り留めただけでなく、素晴らしい力を授けた。残念ながら、技術的な制約から私の理想通りとは行かないが…それでも、一介の冒険者が一気に高ランク冒険者の仲間入りを果たせるのだ。命を投げ捨てるだけの価値はあるだろう。

 グラシア殿の望みを叶え、助けた子供達の望みも叶え、私の望みも叶う…なんて素晴らしい事をしているのだろうか。自画自賛で申し訳ないが、これ以上素晴らしいアイディアが出せる者がいたら紹介して欲しい位だ。

 ステイシスと融合した子供達は、文字通り人を捨てた。ステイシス達も幼気な子供達の願いを叶えてあげたいと率先してその身を差しだしてきたのだ。お父様は、そんな自己犠牲の精神まで身についている蟲達が大好きだ!!

 見た目は、究極進化マーガレット嬢みたいな形になったが上出来であろう。最後は自爆して綺麗に散ってくれる。証拠すら残らない完璧な計画。

 幻想蝶ちゃんが望んだ人とモンスターが手を取り合う世界へ、また一歩近づいた。お父様は、可愛い子供達の為に頑張っているよ。

 これで一安心だと思ったら、更なる問題が発生してしまったのだ。実は、ギルドは凄く優秀で私の動きを未来まで予測して行動していたのではと焦りを感じてしまうかと思うほどに…。

 午前中に襲撃した災害時の非常食が保管されている場所だが…予想通り、食料の備蓄は存在しなかった。書類上は、確かにギルド傘下の農場から食料を定期的に買い換えている事になっているはずなのだがね。と言う事は、その資金は何処へ流れているかという疑問が生じる。だが、直ぐに理解出来た。

 その資金が何に変わっていたかというとだ…ギルド幹部並びにギルド高官専用サロンの運営費だ。世界各国の名酒や美術品などを揃えており、本当に呆れたね。いざという時のためのお金だというのにこのような使い方をしているとは酷すぎる。何気食料には、瀬里奈ハイヴ産の食料まであったのが驚きだ。南方諸国連盟に対しては出荷は控えていたのだが、何処かの商人が他国から買い付けていたのだろう。

 当然、サロンには性的なサービスを行わせる為の人材まで用意されていた。その中には素性が不味い者がとても多い。各国から拉致されてきた跡目を継げない貴族の者達も沢山いた。特に多かったのは、『ウルオール』出身の亜人だ。

 捕まった者達に聞いた話では、迷宮で拉致されたとの事だ。そういう事ならば恐らく死亡扱いにされて亡き者にされている。そこら辺の女性より血統書付きの女性がいいという考えなのだろう。

 本当にいい加減にして欲しい!! いいや、いい加減にしろ!! バレなければ犯罪じゃないというのは否定はしないが、やり過ぎだろう。

 一体何人の面倒を見ればいいのだ!! 間もなく100人に達するだろう。この調子でいけば、瀬里奈ハイヴに帰る頃には500人近くに上りそうだ。

 問題に次ぐ問題で『闇』の使い手が「『蟲』の使い手…こうも情報が異なるとはどういうことだ」と睨まれてしまった。だが、此方も言い分がある。ここギルド専用のサロンだが…その建造から運営に至るまではギルド主体では無く南方諸国がやっていたのだ。

 だから、ギルドの情報には残っていなかった。まぁ、運営費こそ国家が担っているが、警備から人攫いまではギルドがやっていたようだがな。ここの警備に関して言えば、先日襲撃した病院の比じゃなかった。何重にも堅牢な扉があったり、ゴリヴィエ以上の実力をもつ警備が何人もいた。第1形態に変身して事なきに終えたが、素の状態では少し不味かったかも知れない。

 そのおかげで思わぬ臨時収入が手に入った。金になる物は、蟲達に運び出させて、瀬里奈ハイヴへ運搬中だ。ここの従業員達は、全員蟲達のデザートになって貰っている。おかげで、蟲達のおなかを満たす結果になった。

 本当にギルドは、悪い意味で私の予想の斜め上をいく。

「ヴォルドー侯爵様…私達は、これからどうなるのでしょうか」

 世間から隔離された場所に閉じ込められた居た者達は、世情に疎い。その為、私が公的死亡している事実を知る者は居なかった。だが、私がゴリフリーテとゴリフリーナを娶っている事実を知る者はいた。よって、私に助けを求めてくるのだ。

 当然、助ける。

「私達が来たからには、安心すると良い。『ウルオール』まで必ず送り届けよう。他の者達も責任をもって住んでいた場所まで送り届ける。だから、一時的に私の領地に移って貰おう。もし、行く当てが無いなら領地に住むことも許可しよう。田舎ではあるが、住みやすい場所だ」

「感謝いたいます。このご恩は、必ずお返しいたします」

「当然の事をしたまでだ。君達が気にする必要は無い」

 恩は売れる時に売っておく。それが偶然の産物であったとしても問題は無い。ここの者達が元の場所に戻ればギルドの立場は更に悪化する事間違いないだろう。さぁ、ギルド諸君どのように対抗するか見せて貰おうか。

ムシュシュ(むむ、何か硬い物が…なんだ、鉄か。カルシウム!!)

 ボリボリボリ

 ステイシスが横で職員達を物理的に処分している。丸呑みがお好みのようでボリボリ食べているが、ベルトやボタンまで食べきるあたり凄まじい。だが…鉄分とカルシウムは別物なのだがな。

「どうした? この者達の末路が心配なのか? 今まで、こいつ等のせいで酷い事をされていたのであろう。もし、自らの手で殺したいというのであれば殺しても構わんぞ」

 どうせ、私の蟲達に食われる身なのだ。その前に、拉致監禁されていた者達に憂さ晴らしをさせても構わないだろう。ストレスをためるのは良くない。

「その者達の顔など見たくもありません」

 そんな握り拳から血を流しながら言われてもね…悔しいのだろう。だから、せめて長く苦しんで殺すように指示を出しておこう。泣き叫ぶ声でも聞けば心が落ち着くだろう。

………
……


 そして、しばらくして『闇』の使い手が倉庫に開けた大穴から戻ってきた。

「瀬里奈ハイヴまでの道と繋げてきたぞ。これで、ここから送り出せる」

 『闇』の使い手には、この倉庫から瀬里奈ハイヴに繋がる地下通路まで道を繋げて貰ったのだ。前方に魔法を展開してステイシスに乗って進むだけで通路が完成してしまうお手軽工事。本当に素晴らしいお仕事の速さだ。

 此方の準備も整った。既に、送り出す者達全員に対して説明は終えている。ついでに、身元や正体も洗い終えている。密かにギルドの手の者が3名も紛れていたか。女達が手を結んで逃亡を企てた際に直ぐに計画が露見するようにという事なのだろう。汚いことをするわ。

「お手数を掛けました。では、諸君…向こうに着けばゴリフリーテやゴリフリーナが対応してくれる。指示には、従ってくれよ」

「はい。何から何までありがとうございますヴォルドー侯爵様」

 この倉庫に用意されていたキャリッジだけでは全員乗せられないので、地上を這う事が得意な大型の蟲達に半数以上が乗る事になった。流石に、抵抗があるようだったが…『黙って乗れ』と睨みをきかせたら大人しくなった。

 人間素直が一番だぞ。



 実に美しい麦畑だ。それが、これから謎の蝗害い襲われる事になる。

ジジ(辺り一面にご飯がいっぱい!!)

ジィィー(今日は、おなかいっぱい食べて良いのお父様)

 そんな幼気な瞳で「おなかいっぱい食べて良いの」とか辞めて!! お父様の心を抉らないで!!

 聞く人が聞けば、まるで虐待して食事を与えていないようにも思ってしまうかも知れない。だが、事実は存在しない。ほぼ、毎日腹一杯に魔力という食事を食べさせている。100万を超える蟲達の腹を満足いくまで満たす魔力がどれほどの規模だと思っているんだ。毎日大変なんだからね。だから、誤解の無いように発言してよね。

「あぁ、いいともお食べなさい。存分に食いなさい」

ギギ(では、一郎も皆が心配なので一緒に…じゅるり)

 蝗達と一緒に這い出してくる一郎。

モナナ(はいはい、一郎様はダイエットしないといけませんよ。ささ、戻りましょうね。お父様も甘やかしたら駄目ですよ。食べ過ぎは健康に毒なんですからね)

 這い上がろうとする一郎を影から触手で絡め取る蛆蛞蝓ちゃん。なんだか、このやりとりよく見るな。一郎は、先ほどの倉庫で果実を沢山食べていたのを見ていたぞ。そんな食いしん坊だと、太っちゃうぞ。

ギギィ(この一郎…同じ手は何度も食らわん!! )

 一郎が華麗なステップで蛆蛞蝓ちゃんの触手を避けてステイシスに乗っかった。そして、発進といってステイシス共々空へと旅立っていった。

ムシュシュ(僕達が護衛に付くのでご安心を!! ジュルリ)

 ワラワラとステイシス達が這い上がってきてその数は100を超えた。護衛というより一緒にお食事タイムを楽しみたいのだろうね。構わないが…気をつけるんだぞ。この規模で展開すると守り切れんからな。

「頼んだぞ」

 さぁ、ギルドの屑共!! これからが本当の地獄の始まりだ!! ジワジワと嬲り殺してくれる!!
そろそろ、他の人達のお話を少しやろうかな><

それにしても話が進まないのが申し訳ない…さっくり進めたかったのだけど難しい。
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