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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第九十九話:憎しみの連鎖(1)

◆一つ目:マーガレット嬢
◆二つ目:キース・グェンダル※ギルド幹部


 『神聖エルモア帝国』と『聖クライム教団』の戦争が終わって二日目の朝、ギルドに一報が届いた。

 『レイア・アーネスト・ヴォルドー死亡』…何度見ても、同じ文言が書いてあった。裏返しても、逆さまに読んでも同じであった。

 えーと、なになに…。

 報告書を確認していると血相を抱えてエルメスが此方に走ってきた。

「た、大変です!! マーガレット先輩!! レイア様がお亡くなりに!!」

「えぇ、今その報告書を読んでいるわ。行方不明だったクロッセル・エグザエル様が一枚絡んでいるとか話ね。ギルドは無関係を主張しろだと周知徹底の指令まで回っているわよ」

 確かに、公的な行方不明扱いになっているランクAであるクロッセル・エグザエル様が独断で事に及んだのならばギルドは無関係であるが…そんな事がありえるのだろうか。タイミングから考えて無関係で通じるとも思えない。状況証拠しかない現状では、ギルドに強く文句は言えないだろう。

 二枚目の書類には、レイア様の葬式の連絡が入っていた。『神聖エルモア帝国』のガイウス皇帝陛下と『ウルオール』のミカエル国王が参列されると書かれている。まさに、国を挙げての葬式だ。

 だが、参列者は少ないでしょうね。レイア様は、貴族達からは嫌われておりましたから…。恐らく、参加されるのは本当にレイア様と親しかった極一部の方だけでしょう。

「3日後に、帝都で葬式が行われるそうです。ギルド長が『ネームレス』ギルド本部から代表で誰か人を出すとの事ですが………」

「なに? 私は嫌よ。どうせ、ギルドが絡んで死んだんでしょう。それなのに、ギルドからお香典を持って行くなんて自殺行為もいいところよ」

 というか、ギルド職員だという事実だけでもよろしくない。レイア様を愛されていたゴリフリーテ様やゴリフリーナ様が暴走しないとも限らない。お二人が揃えば、『ネームレス』どころか国家すら解体出来る程の化け物だ。愛しの夫であるレイア様を失って、どのような状況にあるか分からないお二人のいる場所なんて第一級危険地帯である。仕事で行けと言われたら辞めてもいいと思う。

 そろそろ、ギルドも潮時かしらね。幸いな事に再就職の宛はある。実家の商売が大盛況で人手不足だと実家で呟かれていたのを聞いた。今ならば、良いポジションで仕事が出来るだろう。書類精査などはギルドで学んだノウハウもあるし、色々とツテもあるので多大に貢献できる自信はある。

 はぁ~、レイア様が戻られたら渡そうと思っていた見積もり回答が無駄になっちゃったわね。流石の私もゴリフリーテ様やゴリフリーナ様に『レイア様から頂いた見積もり回答思ってきました。レイア様、死んじゃったのでお二人のどちらかの承認印をいただけますか』とか口が裂けても言えない。

 物理的に実家が消滅するわ。

「流石は、マーガレット先輩!! 真っ先に、ご自身の職場を疑われるなんて。実はですね…ギルドが諸悪の根源ですよ。戦争に紛れて、『雷』の使い手にレイア様殺害を500億セルで依頼。同時に、レイア様の新居にはギルド幹部2名が実働部隊100人以上を連れて攻め入ったそうです。それを先読みしての事か、レイア様が独自にエーテリア様とジュラルド様に新居防衛を依頼しており、処理したそうです。そして、トドメにランクAのクロッセル・エグザエル様」

 エルメスは、よくそんな事まで知っているわね。

 それにしても、笑えない冗談みたいな情報だわ。普通そこまでする?一体、ギルドはレイア様に何の恨みがあるんでしょうね。

「で、エルメス…貴方は、何者かしら? 流石に、私が知らないような情報まで知っているとなると『神聖エルモア帝国』のスパイか何かかしらね」

「ご明察です。『神聖エルモア帝国』ガイウス皇帝陛下直属の者です。私の任は、本日で解かれました。マーガレット先輩には、色々とお世話になりましたのでお別れのご挨拶とご忠告をと思いまして」

 レイア様から蟲を預けられた時期から疑ってはいたけど、本当にスパイだったとはね。まぁ、ギルドも各国に色々と潜り込ませているという話も囁かれているから、どの国家もやる事は同じという事か。

「あら、そうなの。次の職場は、何処?」

「あまり驚かれないのですね。職業上、流石に詳細は言えませんが…ガイウス皇帝陛下のお側です。後、命が惜しければ早めにギルドを辞めてください。レイア様は、お亡くなりになりましたが、レイア様が大切にしておりましたモンスターの一部は健在です。主を失った蟲達が何をするか想像すらつきません」

 それは、生き残っているモンスターがレイア様の敵討ちをすると言う事かしらね。となれば、当然標的となるのはギルドか…。私が知る限り一番危険なのは、あの子。

「蛆蛞蝓ちゃんと呼ばれていた蟲も健在かしら?」

「健在です」

 レイア様の蟲の中でも治療のスペシャリスト。再生医療から伝染病の治療及び開発まで何でもこなせる素晴らしい蟲。だけど、それは味方である故の事だ。そんな蟲が敵意をもって、暴れれば被害は国が傾くだろう。

「ありがとう。明日にでも辞めて実家に帰るわ。エルメスも元気でね」

「勿論です。では、またお会いしましょう」

 エルメスが外に止めてある馬車に乗って、『ネームレス』を去って行った。

 さて、荷物を纏めて退職届を提出しよう。命あっての物種ですからね。それと、義姉さんと一緒なら葬式に参列しても大丈夫よね。




「生きていても迷惑、死んでも迷惑な存在はいる者だな」

 たった一人の人間を殺すのに、ギルドの総力を投じた。人・物・金を湯水の湯ように消費してやっと始末がついた。だが、『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』の連名でレイア・アーネスト・ヴォルドーの殺害に関する謝罪と賠償を要求する文章が届いている。

「全くだな。このようなくだらない抗議文など突き返せ。公的に何年も前から行方不明のランクAが突然現れて『蟲』の使い手を殺害した事などギルドに無関係だ。あまり五月蠅いなら、戦争すら視野にいれると付け加えろ」

「最後の一文は不味いのでは?」

「問題ない。何の為に『蟲』の使い手を『神聖エルモア帝国』の次期皇帝が公的発表されてから処理させたと思っている。『蟲』の使い手と親しいガイウスも間もなくその任を終える。権力を失う者に付き従うような貴族など希有だ」

 更に言えば、『蟲』の使い手は貴族の間でも嫌われていた。そんな者の為に誰が動くと言うのだ。付け加えれば、次期皇帝の任命式の案内状は、既に各国に回っている。今更取り消しなど出来ない。無理矢理、任命式を引き延ばしにしても国内が乱れるだけだ。

 おまけに、『蟲』の使い手は、次期皇帝であるガイゼルの為に何ら貢献すらしていない。そんな者のために次代の皇帝が動けば、今までガイゼルに従い貢献してきた者達は不平不満を抱くであろう。それは、ガイゼルも望んではいない展開だ。

 尤も、『ウルオール』との同盟関係維持のために動く事も考えられなくも無いが…当面は、戦争で低下した国力を回復させるために内政に力を入れるであろう。

 時間が経てば、『蟲』の使い手のことなど世間から忘れ去られる。そうなれば、誰も兵を挙げる事などしなくなるであろう。

「なるほど。相変わらずやり口が汚いなキース」

「褒め言葉として受け取って置こう。残る不安要素の『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』の同盟だが…それも時間の問題だな」

 この場にいる全員が察した。

 『神聖エルモア帝国』の皇帝が変われば、『ウルオール』との同盟が崩れるのも時間の問題であろう。ヴォルドー家の当主が死んだのだから次期当主は『聖』の双子のどちらかになる。王位継承権を破棄したとは言え、『ウルオール』の元王族で『聖』の魔法の使い手がガイゼルに跪き忠誠を誓うのは世間体が悪すぎるのだ。

 『ウルオール』のヴァーミリオン王家としては、許容できないであろう。いいや、絶対にさせるものか。金を使って『ウルオール』の民を誘導してやる。民意には逆らえまい。。

 これも『蟲』の使い手が死んでくれたおかげだ。なんせ、『蟲』の使い手が中心的な存在となって両国の同盟関係が維持されていたようなものだ。

「完璧だな。生きていても迷惑、死んでも迷惑な奴がいると先ほど言ったが…『蟲』の使い手は死んだ方が利益になる人間であったな」

「利益?馬鹿を言うな。アレ一人のおかげでどれだけ我々が損害を被ったと思っている。同盟が破棄された程度では、足りんぞ。それに、『筋肉教団』とかばかげた組織がまだ残っている」

 ギルドとは、どの国にも属さず中立な立場で各国に貢献するという非営利組織だ…表向きの名目はな。その為、各国の大都市には我々の末端組織にあたるギルドが建設されている。

 設立当初は、非営利組織と言う事で金にならない商売だと思われていたようだが、名目とは打って変わり利益率の高い商売だと知れ渡った。金になるならばと言う事で、どの国家でも同じような組織を作ろうとしたがいずれも失敗に終わっている。ギルドが全力で潰していったからな。

 だが、今回の戦争で一つの非営利組織が誕生したのだ。その名も『筋肉教団』!!

 頭が可笑しいのかと思ったら、本当に頭の可笑しい連中が後援者に名を連ねていた。『闇』『聖』『蟲』の特別な属性の使い手と『神聖エルモア帝国』のガイウスと『ウルオール』のヴァーミリオン王家と公爵家。更に『聖クライム教団』の元教祖。下手に手を出せば、地図を塗り替えられる程の連中ばかりだ。

 しかも、調べてみればこれも『蟲』の使い手が中心となって色々と後援者を紹介したという情報が手に入った。

「我々も『筋肉教団』については報告書を確認している。だが、団員は500人程度との事だ。ランクC以上の冒険者が多く所属しているらしいが脅威でもあるまい。寧ろ、後援者の事を考えれば手出しをせずに放置しておく方が得策だ。活動内容は、専ら冒険者の教育らしいからな」

「なるほど。そういう考えもあるが…今までとは異なり大国主導で作られた非営利組織だ。だが!! 芽が大きくなる前に摘むべきだと考える。それに、今ならば『聖』の双子の目は我々ギルドに向いている。『筋肉教団』の事など頭の片隅で埃を被っているだろう。潰すなら今が絶好のタイミングだと考えている」

「では、どうするというのだキース」

「知れた事を…クロッセル・エグザエルを使う。今の規模なら組織ごと解体するのに半日と掛かるまい」

 ギルドの実働部隊は、ヴォルドー領に攻め入って壊滅したからな。今にギルドと言えども誰にも知れずに動かせる戦力は多くはない。

 不安要素は、『筋肉教団』の教祖に名を連ねているのは『ウルオール』の公爵家長女である事だ。『聖』とは、血縁関係があり、『蟲』とも交流があったようだがなんとかなるだろう。

 『ウルオール』国内の反同盟勢力が『蟲』の使い手を殺害依頼をクロッセル・エグザエルに出した事にする。それに対して、『神聖エルモア帝国』の一部の貴族がその報復でクロッセル・エグザエルを使い報復した事にしよう。

 多少無理があろうとも、必要に応じて証拠もねつ造する。更に必要ならば、新しくギルド側に引き入れた子飼いの貴族を犯人に仕立て上げて首を差し出してやれば良い。後は、脚本家に内容を作らせて周知させればいいのだ。

 まぁ、一部の者達は真相を知っているだろうが…世の中、世間に公表されて周知された方が真実なのだよ。各国にギルドがあるというのは、便利な事だ。情報伝達の速度は、大国を凌駕する。

「実働部隊が壊滅している以上そうなるか…。次の議題で話す予定だったが、クロッセル・エグザエルがギルド内部で匿われていたとは知らなかったぞ。我々に対して説明をして貰おうか、キース」

「なーに、敵を騙すには味方からというではないか。それに、情報とは知る者が多ければ多いほど漏洩の可能性がある。特に、ギルドに対して不信感しか持っていない『蟲』の使い手が生存していた以上、慎重を期す必要があった」

 『蟲』の使い手…本当に厄介な相手だった。火力的に考えれば、他の特別な属性に比べて数段劣る。更に言えば、『蟲』の使い手より火力的に優れた冒険者は幾人か心当たりもある。

 だが、『蟲』の魔法の恐ろしい所は火力では無い。『蟲』の汎用性は、他の属性に追随を許さない。新種の蟲系モンスターを生み出せる能力。更には、生み出した蟲系モンスターに能力を付与できる能力。そして、蟲系モンスターの能力を己に付与する事が可能な能力。これがどれだけ恐ろしい事か、想像する事は容易い。

 何より問題なのは、『蟲』の魔法を使う者の人格が破綻していると言うことだ。魔法とは便利な側面、使う者に依存する兵器だ。強大な力を性格破綻者に持たせておくのは危険極まりない。だからこそ、ギルドが正しく管理して使わねばならない。

「その点については同意するな。この間の一件は、危うく内部崩壊する所だった」

 その通りだ。息子が『蟲』の魔法に洗脳されて、ギルド内部の情報を漏洩させていたのだ。気がつけたのは本当に偶然であった。魔法が使えない事を除けば、どこからどう見ても息子であったからな。それ故に、気がつけたのは行幸とも言える。

 親子の情も在ったが…解剖させて正解だった。脳内から一匹の蟲を取り出す事に成功したのだ。尤も、我々が脳内に寄生していた蟲を捕まえると同時に死んだがな。

「あれでも、相当鍛えていたのだが…やはり、一部の冒険者には遠く及ばぬか」

 ランクA並びに一部のランクBは、人の枠を超えた兵器と言っても過言では無い。個人だから数で攻め落とせるかと思われるが…その領域を逸脱した。何千、何万いても一人で殲滅出来る。そんな馬鹿げた連中が世の中には、一定数存在する。

 そんな危険な存在を世に野放しにするなど在ってはならんのだよ。管理して、ギルドのために役に立って貰わねばならない。それが力を持つ者の責務というものだ。それが出来ぬと言うなば、始末するだけだ。

「そうだな。さて、次の議題に移ろう。此度の戦争で消費した財の補充だが予定していた通り我々の宝物庫から回収する事で意義は無いな」

「当然だ。そこから、ヴォルドー領から要求されている賠償金も払う事にしよう」

 武闘派幹部が強襲に失敗したせいでそれに伴う賠償金の請求が届いている。地上および地下の修理費及び蟲的被害の賠償金だ。その総額5000億セルと小国なら国庫を逆さまにしても出てこない額をふっかけてきた。

 流石に、知らぬ存ぜぬで通したかったが、ギルド幹部の首を持ってこられたからな。『蟲』の使い手殺害に関しての賠償は突っぱねられたが…この件については、証拠が残ってしまっている。だから、払いたくは無いが払うしか無い。

 だが、莫大な金を消費しようとも、冒険者が沢山死ねばそれだけ我々の懐は肥えるのだ。冒険者が借用しているギルド倉庫にある物資をギルドが押収して処分すれば5000億セルも賄える。なんせ、この間の戦争で随分と高ランク冒険者を殺しまくってくれたからな。

 当然、一時金でしかないが…冒険者など湯水のように沸いてくる。今回のように大規模に間引くと育つのにしばらく掛かるがな。
もっと、ギルドのあれこれを執筆したかったのですが、軽めにしておきました。
こういう事を書き出すと筆が乗って幾らでも書けてしまうorz

ついに99話!! という事は次で100話!!
100話を記念して…レイアの葬式をやろうと思います。
喪主SERINA!!
ついに、瀬里奈さんが表舞台にw

葬式される人「お母さん、流石にそれは若作りってレベルを超えている気が…というか、その外見も前世で身に覚えがあるんですが…」
瀬里奈『綺麗で若いお母さんという設定だから問題ないわ。それに、レイアちゃんのお母さんなんだからこのくらいじゃないとね』
一郎『完全にお父様より年齢が若いよね!! ガイウス皇帝陛下がノリノリで手を貸すから』
皇帝陛下「瀬里奈殿の美しさを表現しただけの事だ。それに、良い機会であろう。ヴァーミリオン王家も来るのだから顔合わせには絶好の場だ」
葬式される人「葬式が両家の両親の顔合わせの場って…色々と間違っている気がする」

レイア父代理=ガイウス皇帝陛下
レイア母=瀬里奈さん

…あれ完璧な布陣だ。

PS:
小説には、美少女系ヒロインが必須でしょうと以前に知り合いにアドバイスされたことがあります。だから考えてみました…。

美少女系ヒロイン…系って事は、ゴリフターズ、蛆蛞蝓ちゃん、幻想蝶ちゃん、絹毛虫ちゃんもコレに該当する!! よって問題ない事を再認識した。
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