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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第九十四話:戦争(6)



 開戦二日目の朝、死体すら残っていない戦場跡地を蟲に見張らせていたら、不審者が一人引っかかった。蟲達から情報を受け取って、後を追ってみれば…実に、面白い事になったではないか。

 紛れ込んでいるとは思っていたが、不審者がギルドの駒だったとは嬉しい限りだ。

 しかも、『雷』の使い手が居る場所まで案内してくれるとは…もう、ギルドの募金箱に金塊を詰めてもいいと思うほどだ。未だかつてギルドがこれほどまで有用に感じた事は無い。

 『雷』の使い手、ギルドの駒、民間人らしき男女。この中で警戒すべきは、『雷』の使い手だけだろうな。

ジッジ(瀬里奈様、ゴリフリーテ様、ゴリフリーナ様に連絡を致しました。到着まで3分ほどかかる見込みです)

 流石は私の可愛い蟲達だ。やるべき事は、完璧にこなしてくれる。安全に且つ確実に葬る為に、この私が用意できる最大の戦力を持って挑む!!

 1対1など誰が戦うか!!

 格下相手ならば分からないでもないが…相手は、特別な属性の一つ『雷』の使い手。更に言えば、此方より年期のある冒険者だ。老年の冒険者の知識は、侮れない。弱さを補う知恵と経験がある。多少の戦力差ならひっくり返される可能性すらある。

 だから、それが不可能な程の圧倒的な力で押しつぶす!!

「『聖クライム教団』側で参戦しているのは、ギルドからの情報で知っていた。全く、どちらにも情報を売る輩が居るのは困るよな」

 『雷』の使い手との距離は、200mを保つ。まだ、正確な射程の測定は出来ていないが…この距離ならば大丈夫であろうと考えている。しかし、私の蟲を葬った先ほどの魔法は電子レンジと同じくマイクロ波を放出する類いに思えた。

 もっと、物理雷遁みたいな物を想定していたが…厄介だな。

 変身した私には、紫外線や電磁波などを視覚的に捉える事ができるから回避出来る。しかし、私の蟲達でもアレが見えた物は少ないであろう。無論、ゴリフターズも目視での回避は出来ない。まぁ、野生の勘で避けそうだがな。

「ちっ!! これだからギルドは…」

「少なくともあずかり知らぬ事だ。話がそれたな…『蟲』の使い手。動かないで貰おうか。此方には、人質が居るのだよ」

 『雷』の使い手が舌打ちをしてギルドの駒を睨んでいる。

 人質!? まさか、その縄で縛られた男女の事か。確かに、どことなく見覚えがある気がする。私の殺害リスト上位に位置する馬鹿者と非常によく似ている。だが、あいつらはまだ領地近くの集落にいるはず。

 パチン

 指を鳴らすと同時に、影から空を埋め尽くすほどの白いゴキブリが雨のように『雷』の使い手とギルドの駒に襲い掛かる。やはり、未知の能力を調べるには、この方法が一番理想的だ。ゴキブリ達には申し訳ないが、皆のために死んでくれ。

ジョ(我々のような蟲を使役してくださるお父様の為ならば、この命惜しくはありません。必ずやお役に立って見せます)

 さぁ、これが何の蟲なのか見えているであろう『雷』の使い手。逃げても構わないぞ。地の果てまで追いかけて確実に息の根を止めてやるからな。既に、戦争で私の分担は終わった。『雷』の使い手さえいなければ、戦況がひっくり返る事などあり得ない。

 故に、『雷』の使い手を始末する事こそ私が今やるべき仕事なのだ。

「やりずれーな」

 パパパパパーーン

 雨のように全方位から襲い掛かるゴキブリ達が一定範囲に入ると次々と破裂していった。その様子をしっかりと観察する。破裂するまでにかかる時間や破裂するまでに移動した距離など、集められる情報は全て集める。

 流石は、化け物と呼ばれている一人だな。軽く捌いている。だが、これを混ぜるとどうかな。

 影から蟲矢を取り出した。そして、蟲達が持ってきている道具から鉄球を受け取る。同じ生物でもゴキブリ達より遙かに早い蟲矢や非生物である鉄球を混ぜても凌げるかね?

「ヴォルドー侯爵!! 此方には、貴様の実の両親がいるのだぞ!! これ以上、手を出すようならば命の保証はしかねる」

 今まさに、新たな攻撃を放とうとした瞬間、ギルドの駒から面白い発言が聞こえた。私の実の両親だぁ? まさか、そんなどうでも良い人質で私の行動を妨げる事が出来るとでも思っているのだろうか。

「馬鹿か。あの世で後悔しろ!!」

 鉄球を握る手に憎しみを込めて全力投球する。投擲された鉄球は、音速を超えるかの勢いでゴキブリ達の隙間を縫うようにして人質の男の脳天に直撃し、頭部を粉砕した。『雷』の使い手が一瞬反応しそうであったが、狙われているのが自分でない事を察すると素直に攻撃を通した。

「はぁ!? き、貴様!! 実の親だぞ」

「よくぞ探し出したと褒めておこう。だがな、赤子であった私を山中に捨てた親などに掛ける情など存在しない。そのうち、出向いて始末しようと思っていたからな。このレイア…何年経とうがやられた事はやりかえす!! それが、血の繋がっている実の親でもな」

 本物かどうかは、後で死体から採取したDNAを確認すれば良い。おそらく本物であろうが…偽物ならば、戦後に本物を処理しに行こう。そろそろ、過去を清算しないといけないからね。

 紳士は、過去を振り返らない!! ゴリフターズと未来に生きる為に!!

「狂ってやがる」

「人質を使うような連中に、狂ってやがると言われる筋合いはありませんね。まずは、ご自身達の行動を顧みることをおすすめ致しますよ。後、女の方は、確か…アイナと言ったな。産んでくれた事にだけは感謝しよう。あの世で夫婦揃って仲良くするといい」

 『雷』の使い手は、すぐに人質に価値がない事を理解したようだが…ギルドの駒は、女を盾にして身を隠している。どうやら、私が実の親と発言したせいで人質としての価値は必ずあると思い込んだようだ。愚かな…。

 私の母は、瀬里奈さんただ一人。貴様の存在は、不要なのだ。

 ギリギリリ

 これから放つ蟲矢の威力を限界まで高める為に、弦を引っ張る。

「俺の依頼には、こいつらを守る事は入っていない」

「それは、ありがたい。では、この一撃は『雷』の使い手を狙う事は無いと命をかけて宣言しよう」

 ギルドの駒が、『雷』の使い手に文句を言おうとしているが無駄であろう。契約範囲外なのだ…それに、戦場に出てきているのだから、死ぬ覚悟は当然あるだろう。いつも、冒険者を死地に送り込んでいるのだからな。

 ギルドの駒が女の口枷を取った。

「ごめんなさい」

 涙を流して謝っているが、構わず蟲矢を放った。

「その程度の言葉で心が揺れるような鍛え方はしていないのでな」

 そもそも、名前すら付けて貰えなかったのだ。そんな親に何を思うかと言えば、恨みだけだ。

「貴様、それでも人間かぁぁっ!!」

「少なくとも、ギルドの連中よりかは人間だよ」

 ギルドの連中は、人の振り見て我が振り直せという言葉を知らないのだろうか。先ほどから、盛大なブーメランを連発しているあたり…狙っていたとしか思えない。ギルドの連中ほど、非道な連中はこの世にいないだろうと思っている。

 私の過去を清算する一撃。

 この一撃ほど冴えた攻撃は久しぶりだ。放たれた蟲矢は、見事に女の心臓を貫通してギルドの駒に突き刺さった。そして、蟲の卵が孵化して内臓を貪り散らす。成長すると同時に『雷』の使い手へ攻撃対象を移すが、あいにくと読まれていたようだ。

「ひでーな。今の一撃は、俺を狙わないんじゃなかったか?」

「蟲矢についてはな。孵化した蟲については、別問題だ」

 さて、掃除も終わり、私の下準備も整ったので始めるとしよう。

 ゴリフターズ到着までの時間は約2分…それまでに、私は可能な限り相手の手札を晒させる。それを蟲を使い逐次報告する事で到着と同時にスムーズに処理できるようにする事こそ旦那の仕事だ。

「あぁ~、ギルドの駒が居なくなったから聞くんだが…降伏という選択肢はあるか?」

「1対1ならば負けないと自信をもって発言していた気がしたのだが…。まぁ、結論から言うと、『雷』の使い手に限って降伏は認めない。私の殺害依頼を受諾したのだ。今回見逃せば、また狙われる可能性が高いからな」

「そうなるか…」

「分かっていたのに聞く必要は無いだろう。それに私は臆病者でな…私を殺しうる可能性がある存在を野放しにする程、馬鹿ではない。殺せるタイミングがあるなら殺しておく…そう決めているのだよ」

 ゴリフターズのような身内ならば気にしない。エーテリアとジュラルドについても敵対行動を取らない限り、殺す必要は無いと判断している。あの二人とは、それなりに長い付き合いでもあるので、無益な争いはする気は無い。

「そうか、なら仕方が無い…死ね」

 ちゃらい三下イメージが一変した。『雷』の使い手から濃厚な魔力を確認すると同時に上空から謎の落雷が私を直撃した。目の前が真っ白になり血肉が中からズタズタにされていくのが分かった。

「ぐぅっっは!!」

 第3形態でこれ程のダメージだとは、想定以上だ。『モロド樹海』の最強モンスターであるテスタメントの特性は、あらゆる魔法を軽減させる性質を持っている。その特性を有している第3形態ならば、この半分程度のダメージだと想定していた。

 しかも、瀬里奈さんと考えた耐電装備でコレだからね。今の一撃で、こっそりと地面まで這わせていたアース線が何本か焼き切れた。

 蛆蛞蝓ちゃんの能力で既に治癒を始めているが、連続で被弾すると回復量を上回るな。

「ほぅ~、今のを耐え凌ぐか…だが、コレならどうだ!!」

「ちっ!! ステイシス!!」

 直感に物を言わせて右へ飛んだが…羽が焼き切れた。しかも、先ほどと同等の威力の魔法を連続使用できるとは恐れ入る。だが、此方も素直に何度も直撃を食らうほど馬鹿ではない。

 すぐにステイシスを私の直上に呼んで盾になって貰う。私の蟲の中でも最強であるステイシスの劣化複製体だ…防御力も他の蟲達と比較して群を抜いている。だが、この落雷を食らって生き残れるとは思っていない。第3形態の私にダメージを通したのだ…致命傷になることは分かっている。

ムシュシュ(あばばばばばあぁぁぁぁ………)

 何匹ものステイシスが地上に落下していく。その様子を見る度に心が痛む…可愛い蟲達を盾として使う事になるとは。必ず、敵は取ってやる。

「一体、何匹だせるんだよ!! 」

 そんな事を貴様に教える筋合いはないわ!!

 くっそ!! それにしても、『雷』の魔法…グリンドールの『闇』の魔法に酷似した特徴を持っているとは思わなかったぞ。最初の一撃は、魔力の軌跡が目視出来なかったので、グリンドールと同じく即時発動タイプだと思ったが…よく観察すれば違っていた。

 一瞬だが、『雷』の使い手から伸びる魔力が確認できた。これが夜ならば、夜空を電気が駆けるさまが見られたであろう。昼間だからこその弊害…明るくて魔力の軌跡が見えにくいのだ。まぁ、見えたところで早すぎる為、即時発動と言っても大差がない。

「さぁな、100万から先は数えた事がないな」

ジッジ(自然現象を誘発する物でなければ、避雷針等の小細工は効果が無いと思われます。地上部隊から絶縁体装備をお受け取りください)

 地上を見てみると、竹槍やゴム製のマントなどの絶縁体武装を積んだコンテナが開けられていた。ゴムも竹も探し出すのに苦労したが、何処までその苦労が報われるか疑問に思えてきた。あの落雷の威力から察するに絶縁耐力を上回る。要するに、此方が用意した装備は、無いよりマシという程度だ。

「いい加減、このくそ蟲も見飽きたんだよ!!」

 『雷』の使い手周辺に多数の落雷が発生する。周囲を包囲して順次攻めさせていたゴキブリ達が一撃で薙ぎ払われた。10万匹は居たのに、一瞬だとはね…。

 おかげで十分の時間を得られた。ゴリフターズの位置は…なるほど。

「全蟲に連絡だ…プランB」

 これからは、私も動く!!

 直接戦闘を避けて遠距離から嬲り殺しを検討していたが…向こうが一方的に此方を攻撃してくる始末だ。しかも、死んでいく蟲達の数が半端ない。蟲矢も鉄球なども当たる前に打ち落とすか回避されそうで効果は見込めない。

 必殺の手段をこちらも使うしか在るまい。

 蛆蛞蝓ちゃんと長い時間を掛けて作り上げた神経毒。その威力は、青酸カリの8000倍以上。触れただけで常人なら、数分もせずに呼吸困難で死んでしまう。鍛えた高ランク冒険者でも新種である神経毒には、耐えられないであろう。毒耐性では、世界最強と自負している私でも頭痛や目眩や吐き気で半日も寝込んだ。

 これを血中に直接送り込んでくれるわ。

 身体に無数の小さな針を生やす。あまりに細いので触れても痛みすら感じられない無痛注射だ。これで相手と取っ組み合えば、私の完全勝利である。気づかれずに毒殺出来る!!

 本当は、コレを気化させて毒ガスとして散布させたかったのだが大量に生成するのが難しくてね。まだ、私の体内でしか生成出来ていない希少な神経毒だ。

 では、第二ラウンドを始めよう。

「なぁ、『雷』の使い手…貴様は、自分の魔法の特性を理解しているか?」

「当然だろう」

 そうか…ならば、その身を以て知るがいい。己の魔法の穴をな!!

 内臓や羽の治癒も終わった。これで準備万端だ。

 無数のゴキブリ達を特攻させる事で見つけたマイクロ波の穴。前世の家庭にあった電子レンジとは異なり、人がマイクロ波の方向を任意で決めているのだ。当然、意識せねば効果は薄れる。

「白い悪魔の異名をもつゴキブリ達だけでは物足りないと思い…『蟲』の魔法らしく、物量戦で相手をさせて貰おう。『雷』の魔法がいかに強力無比であろうとも、どこまで持つかな」

 ワラワラ

 『雷』の使い手は、自身の魔法を応用する事でレーダーらしき機能を実現している。当然、それがどのように見えているかまでは分からないが…この蟲達の中から私個人を見極めるのは難しいであろう。

 今や、レーダーには一面に広がる蟲達を映し出しているに違いない。

「面白いじゃねーか。やってみな」

 蟲達の後方から、脳にブレイン・ウォーカーを宿らされて生きる屍とされた左翼にいた全裸の正規兵と冒険者が到着した。融合臓器の研究材料とする予定だったが、予想より『雷』の使い手が手強いので、使える物は利用することにする。

 脳内に寄生している蟲が操っているが、十全な性能を発揮するには宿主の協力が必要になる。だからこそ、私は声を掛けてやる。

「『雷』の使い手に一撃でも与えた者は、解放してやる。無論、魔法の使用も解禁してやる。己の意思で特攻するか、蟲に操られて特攻するか…どちらが勝算が高いかは理解できるな?」

 脳内に寄生させているブレイン・ウォーカーが宿主に肉体の権限を一時戻す。当然、裏切って此方の軍勢を攻撃するような思考を見せれば即座に権限を奪わせる。

「や、約束は守って貰えるんだろうな…」

「無論だ。ちょうどいい、そのコンテナにある竹槍を使って良いぞ」

 自由とは、己の手で勝ち取る物だ。
過去を清算して、未来に生きるためレイアは今日も頑張ります~。


ゴリフターズ母親のお名前が決まりました><
そのなも、ゴ●●●●●様。
皆様からの素晴らしいアイディアのおかげです。
後は、父親のお名前とファミリーネームを決めるだけ!!

「ゴリフの結婚前夜」の執筆状況は、3割ほどです。
他の外伝と同じく2部構成になる予定です。


PS:
最近になり、MH4Gを始めたのですが…ラージャってゴリ…ぐふぅ。
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+注意+
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