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第九十三話:戦争(5)
◆一つ目:ゴリフリーナ
◆二つ目:ゴリフリーナ
◆三つ目:アーブル※『雷』の使い手
ぐぉーーー!!
読者の方へ、いつもありがとうございます。
読者の方が増えて非常に嬉しいと同時に期待に対するプレッシャーが重い><
◆
昼間の戦闘で『聖クライム教団』の出鼻をへし折る事ができたでしょう。
ヴォルドー軍のモンスター大隊の損害は、総数の一割に当たる500程度。旦那様の蟲達の損害は、詳しくは知りませんが…1000を上回る被害が出たと伺っている。低ランクの蟲達にやはり被害が集中したようで、旦那様が悲しんでおられた。
敵兵もだいぶ選別されてきて実力者が残ってきた事が原因でしょう。モンスター大隊の中で屈指の実力を持つ種族のドラゴンが5体も潰されましたからね。一瞬、『雷』の使い手を疑いましたが、殺傷方法を確認したところ『風』の魔法とバリスタ攻撃が死因だった。攻城などの要塞攻めがないのにバリスタのような物まで持ちだしてくるとは…当たれば、流石の私達でも痛いので気をつける必要がある。
「ゴリフリーナ。そろそろ、時間だ。準備は万全だな?」
「勿論です。旦那様!!」
旦那様が用意したステイシスに乗る。
そして、『聖クライム教団』左翼を殲滅すべく夜襲へ出発した。美味しい食事とお風呂だけでなく、2時間の仮眠まで行い万全の状態だ。無論、他のモンスター達も我々と同様に十分な休息を与えられた。
更に、我々が休憩している間に必要な準備は全て蟲達が行ってくれている。必要物資の補充や整備、モンスター達への作戦の説明など手際が良い。おかげで、本当に思いのまま力を発揮出来る。やる事と言えば、決められた時間に決められた場所で敵と戦うだけだ。お膳立ては全て整っている。
これがどれほど素晴らしい事か理解してくれる者は少ないだろう。
過去に何度か他国との戦争で最前線に立った事があるが…どうにも動きが制限されすぎていて力を発揮出来ていなかった。王族として、弱者を守るのは当然だと遠回しに主張してきた者達がいたせいでな!! 有能な敵より無能な味方の方が恐ろしいと身をもって実感できた。
「こんなにも力が振るえる戦争は、初めてですねゴリフリーテ」
「えぇ。旦那様が私達の全てをご理解していただけているからこそ出来る事です」
「本来であれば、妻である二人を戦場になど連れてきたくはないのだが…不甲斐ない旦那を許してくれ。代わりに、最高の戦場を用意すると確約しよう」
旦那様の素晴らしさが身にしみる。今更言うまでもないが、今まで会った事があるどんな男性よりも素晴らしい魅力を持っている。
旦那様は、多方面で素晴らしい実力を発揮されるが、中でも一番驚かされるのがその発想力だ。これは、旦那様だけでなく、お義母様にも言える事だが、発想が違いすぎるのだ。生まれ育った環境が違うからとも考えられるが、そういう次元を通り越している。
これでも、様々な学問を修めているつもりだが…旦那様の知識は、その遙か上をいっている。そのような知識を何処で学んだのか、何処で知ったのかは旦那様からの口から出た事はない。だから、私達からは一切聞かない事にしている。
旦那様ならば、いつかお話していただけると信じているからだ。
………
……
…
真下に篝火が見える。
「全軍に通達だ…降下ポイントに着いた。各自任意のタイミングで降下しろ。ゴブリン共、オークだけに報償を与えた事に文句があるようだが、あいつらは働いているからな。この意味が分かっているな」
働かないモンスターなど、ヴォルドー軍には不要だ。お義母様と一緒に行動をしていたゴブリン達の逃げ腰については、報告を受けている。旦那様の温情で昼間の一件は許したが、今晩の夜襲でも無様なさまを晒すなら、切り捨てると内部で決まっている。
旦那様だけでなく、私達も睨みを効かせる。旦那様のお言葉と圧力…それが分からぬ馬鹿でもあるまい。程度に差はあれど、知性を持つモンスターが集められているはずなのだから。
「ゴブリン共、早く飛べ」
夜襲にあたり、空が飛べるモンスターに乗って全軍が移動している。ウルフ、オーク、ゴブリンなどの本来地上に居るはずのモンスターが空から降ってくるなど予想できようか。昼間でコレをやると夜襲する際に警戒されるからといって敢えて実行はしなかった作戦だ。
人型のモンスターには、パラシュートという物が全員に配られておりそれを使っての降下作戦。いきなり実践投入される物でモンスター達も戸惑いを隠せないが…後退の二文字はヴォルドー軍には存在しない。
「どうやら、立場を理解していないようだな。ステイシス…」
旦那様がステイシスに指示を出した。ステイシスが背中に乗るゴブリンを振り落とし、空中で捕食する。その様子を見たゴブリン達は、次々と降下していった。最初から、素直に降下していれば良いものを…。
「ゴリフリーナ、先に行くわ」
「焦るなゴリフリーテ。こういう時は、夫婦揃って行くものだぞ」
「えぇ、旦那様。では、3…2…1…0」
私が0を数えた瞬間、旦那様とゴリフリーテと一緒に地上めがけて降下した。私達は、パラシュートなど余計な物を背負っていない。この程度の高さ、なんら障害になり得ない。
私達が降下作戦で夜襲をかけてくるなど想像も出来ていないだろう。
『聖クライム教団』の左翼は、負傷した兵の手当や補充物資の手配、支援の要請などで手一杯のはず。敗走するにしても、10万もいた軍隊を1日で半壊させたとあっては、責任を取らされて命はないだろう。それならば、数日粘ったけど無理でしたといって撤退したいと左翼の責任者達は考えるはず。
早急に撤退していれば、多少は被害を減らす事はできたであろう。
◆
この私に任された制圧拠点にいる残存兵力は、蟲達の調査で約1万5千前後と分かっている。無論、その中には負傷者も居るだろうが…これから降下してくるモンスター達だけでは若干不安が残る人数だ。
降下の衝撃で50人ほど始末しましたが…盛り沢山ですね。
周囲にある旗を見て理解した…ここは、『聖クライム教団』の正規軍と冒険者達が集まっている場所だ。だからこそ、ここを私にお任せされたのでしょう。対大型モンスターを想定した装備も豊富に用意されている。旦那様の蟲達を想定した物でしょう。
ご期待に応えてこそ妻の役目!!
「て、敵襲!! 動ける者は、すぐに各個の判断で行動しろ。相手は、一人だ…今のうちに始末しろ」
警戒態勢が敷かれていただけあって、初動はなかなか速い。腐っても正規軍という事かしらね。だけど、旦那様と私達との愛の前には無力!!
お義母様特製の可変式大鎌を持つ右手に力が入る。『聖』の魔法を乗せて左から右へと軽く振るう。その瞬間、大鎌がなぞった線上50mにあるあらゆる物質が切断された。
ズルリ
「なるほど、旦那様が言う効率的な力の使い方ですか」
魔法とは、イメージする力で威力が左右する。今まで曖昧なイメージで『聖』の魔法を使っておりました。旦那様曰く、『聖』の魔法とは分子間の結合を切断する能力と原子変換を行う能力と伺った。正直に言えば、全く聞き覚えもない単語だ…だが、説明を受けて理解した。
『聖』の魔法を理解する事でより強力且つ魔力消費を抑えた力の行使を可能にした。最小限の魔力で最大の成果を出す…流石は、旦那様。
「貰ったあぁぁぁぁぁ」
背後から奇襲を掛けてくるのに、掛け声をするなど理解できない。何の為の不意打ちなのだろうか。間違いなく必殺のタイミングで、相手が不可避ならば分かるが…そこまで甘く見られるとは心外だ。
飛びかかってくる兵士の装備を確認した。オリハルコン製の胸当てですか…ちょうど良いですね。
「一つ講義をしてあげましょう」
鎧につけられているギミックの一つを発動させる。右手の装甲がめくり上がり、中から第2の赤黒い装甲が現れた。これこそ、お義母様が作り上げた対オリハルコン破壊兵器!!
極めて強度の高いオリハルコンの加工には、モンスターの体内で生成される魔結晶という物が利用されている。勿論、加工する時に利用する物でこれ自体で利用してもオリハルコンに大きな影響を及ぼす事はできない。だが、『聖』の魔法の特性である分子間の結合を切断する能力を用いて魔結晶をオリハルコンに叩きつける事で意図もたやすく破壊する事が可能になる。
欠点と言えば、オリハルコンにしか有効なやり方ではないと言う事くらいだ。尤も、他の金属ならば旦那様によって効率的な使い方を出来るようになった『聖』の魔法で粉砕してみせる。すなわち…今や、私達に破壊できない金属は存在しない!!
右手で持っていた大鎌を離して、背を低くする事で攻撃を避ける。そして、振り向きと同時に渾身の右ストレートを心臓へお見舞いする。
「ほわたぁ!!」
オリハルコン製の胸当てを貫き、心臓をえぐり取る。
ツンツン
足下で旦那様の蟲が何かを掲げている。
『ゴリフリーナ様親衛隊!! 給料は、『聖』の魔法で浄化された食料を!!』と可愛らしい字で書かれた横断幕を持った蟲達が此方を見ている。旦那様が「私より、ゴリフリーテやゴリフリーナに付いて行きたいと希望する蟲が多いんだよ」と涙を流していた事を思い出した。
なるほど、こういう事ですね。
「ごばぁ…『蟲』の使い手以外にもこれほどの者が居たとは」
心臓を抉ったのにまだ話せるとは…高ランクになるとしぶといですね。だけど、これ以上無駄な時間をかけるわけにはいかない。残存兵力は、山ほどいるのですから。
「はぁぁぁぁぁ!! 」
パーン
『聖』の魔法を内部から浸透させる事で綺麗に浄化を行った。これで、蟲達は美味しく食べる事ができるでしょう。出来たての餌を蟲達にあげると、瞬く間に平らげていく。
「旦那様の為!! 可愛い蟲達の為!! 皆殺しです」
ガチャンガチャン
大鎌のギミックを発動させて、二本の剣に変わる。一本の武器が二本に変わる…分裂機構まで備え付けられていると聞き及んでおりましたが、この発想はありませんでした。流石は、お義母様です。
イメージするは、全てを切り伏せる最強の剣。
イメージするは、あらゆる物から身を守る最強の鎧。
旦那様は、仰っていた。『火』『水』『土』『風』の魔法も目には見えない小さな粒子の集まりだ。『聖』の魔法で分子間の結合を切断する事で無力化する事は可能であると。
旦那様が出来るというのだから、出来るのが世の理!!
「ランクAにカテゴライズされる実力をその身で味わいなさい」
実力があったと思われる冒険者を軽く始末したせいで、敵兵達が距離を取り始めた。遠距離戦闘での削りに入るつもりだろうが…無駄である。いかなる魔法、いかなる攻撃を以てしてもこの私を止める術は存在しない。
今までとは異なり、密度の高い『聖』の魔法で全身を包みこんだ。これに触れた瞬間、あらゆる物の分子間の結合を解除する。
「あの家紋に、あの体格。それに、あの輝きは…『聖』の魔法!!」
「ようやく、私を知っている人物に出会えましたね。ですが、コレでお別れです。旦那様に刃向かう愚か者に死を…」
剣を振る事で薄く細く圧縮された『聖』の魔法を放出する。その光波に当たるとズルリと真っ二つに切断される敵兵達。己の身に何が起こったかすら理解出来ていないであろう。
「一体、なにがぁ…ごふぅ」
ズドンズドンズドン
上空からモンスター達が降下してきた。さて、第二ラウンドの開始と行きましょう。
◆
『聖クライム教団』と『神聖エルモア帝国』の開戦二日目の朝…ギルドが用意した胡散臭い連絡要員から報告を受ける。その者からの報告を耳にして、依頼を破棄して逃亡しようかとも考えた。いくら、ギルド幹部から直接依頼を受けたからといって、出来る事と出来ない事がある。
ギルドからの依頼は、『聖クライム教団』側に参戦し、レイア・アーネスト・ヴォルドーを始末するという内容だ。なんでも、これ以上野放しにしているとギルドに想像を絶する被害を与えるだろうとの事で重い腰を上げたようだ。他にも領地に溜め込んでいると思われる資産や貶めるための物証を狙って、領地の方にもギルドの実働部隊が攻め入っているそうだ。
ギルドに大打撃を与えるような人物が、空き巣を警戒しないはずがない。故に、ランクAが此方に出てくる事はないと予想していた。
ギルドの思惑としては、どちらとも本命で片方が成功すれば良いと思っているのだろう。こちらに戦力が揃っているという事は領地を攻めている方は楽をしているな。
「聞いているのか?」
「あぁ、聞いている。一晩で10万の兵士が消失したのだろう。それにしても、『聖』の使い手までいるとなれば流石に無理があるぞ。ギルドには、事前に伝えているはずだ…一対一での戦闘が絶対条件だと。ランクA二人が居る状況では、勝機すら見えん」
極めて一部の例外は除くが、一対一ならば負けない自信がある。『雷』の使い手として恥じない実力を有していると自負している。当然、『蟲』の使い手も手練れであろうが…こちらの魔法は実戦向き…しかも対人には非常に効果がある。
おかげで、ギルドから暗殺依頼などを多数請け負った。小国相手に単独で潜入して暗殺する事など日常茶飯事だった頃もある。以前は、ギルドの依頼で小国を一人で滅ぼした経験もある。
「分かっている。我々も、ランクAを二人相手にしつつレイア・アーネスト・ヴォルドーを始末できるとも思っていない。だから、人質を用意した。これを使えば、奴とて動けないはずだ。これを有効活用して、始末しろ」
連絡要員が連れてきた二人の男女。縄で縛られているが…一体誰なのだろうか。年齢は30後半くらいか。『蟲』の使い手にとって人質の価値がある人物という事なのか。
「誰だ、こいつらは?」
「レイア・アーネスト・ヴォルドーの両親だ。最近になって、居所を掴む事ができた。まぁ、生みの親というだけだがな」
「生みの親? それは、レイア・アーネスト・ヴォルドーが捨て子という意味か?」
「そうだ。そいつらの証言を聞く限り生後数ヶ月で捨てたそうだ」
いやいやいや、そうだとすると生みの親など何の意味があろうか。赤子の頃に捨てられたのであろう。親の顔など覚えているはずも無い。それなのに、お前の両親は此方が預かったって…無理がある。
少なくとも、俺なら「馬鹿か、お前」といって完全無視だ。
「糞の役にも立たん。ギルドは馬鹿か…もっと利用価値のある奴を連れてこい」
「他と言われれば…退職したギルド受付嬢と親しかった。それに目をつけたギルド幹部が利用しようと考えたのだが、失敗に終わった。殺害されて生きる屍としてギルドから大量の機密情報が漏れたよ」
既に、やっていたのかよ。
「はぁ~、仕方ねーな。前金含めてタンマリ貰っているしな。やれるとこまで、やってやるよ」
ギルド幹部から積まれた金額は、前金200億と後金300億の計500億だ。過去最高の賞金額と言っても過言じゃない。
「期待している。成功した暁には、追加報酬でギルド幹部の椅子を用意するとの事だ」
小国の国王にも匹敵する権力があるとされるギルド幹部の椅子まで用意するとは、 どんな事をすればそこまでギルドから嫌われる事ができるのやら。
ピリ
「長話は、ここまでだ…此方の位置がバレたぞ」
定期的に周囲に放出していた『雷』の魔法に敵が掛かった。『雷』の魔法を薄く広く展開する事で近くに居る生命の反応を捉える事ができる。
こちらに急接近してくる白い蟲達を確認した。迫ってくる蟲に手を向けて、『雷』の魔法を放つ。
ボコボコボコ
蟲達の身体が膨れあがり、破裂した。その瞬間、上空から殺気を感じて見上げてみれば羽が生えた人型をした蟲がいた。その姿、初めて見るが知っている。ギルドから事前に渡された資料にあったからだ。
「レイア・アーネスト・ヴォルドー」
「お初にお目に掛かる。『雷』の使い手であるアーブル・シトレイユ・ベルウッド」
これは、想像以上かも知れない。感じる威圧感、魔力…どれも一級品だ。若くして、ランクAに片足を突っ込んでいると言われるだけの事はありそうだ。だが、こちらは、年期が違うのだよ。
やはり、『蟲』と『雷』が殺し合うのが良いよね!!
(嘘)予告
アーブル「動けば、親の命はないぞ」
レイア「何だと!! そんなばかな!?」
瀬里奈さんの存在が露見していただけでなく、私に悟られずに瀬里奈さんを確保するなど恐ろしい手腕だ。確かに、先ほどから瀬里奈さんとの通信が途絶している。
※瀬里奈さん、花を摘みに言っているので通信不通…。
というか、横にいる二人の男女。私の将来殺すリストの上位にいる人物にクリソツだな…世界には似ている人間が三人はいるというが、その口なのだろう。
PS:
ゴリフ外伝…執筆開始しようと思います。
ネタは『ゴリフの結婚前夜!!』というお話にする予定です。
ゴリフターズやゴリフターズの両親の話とかそういうのを予定しております。
※実は、ゴリフターズのフルネームやゴリフターズの両親…名前をまだ考えてないのよね!!
王族らしい立派なゴリネームにしなければ><
アイディアくれても良いんですぜ。

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