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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第九十話:戦争(2)

◆一つ目:マーガレット嬢


 ガイウス皇帝陛下の最後の晴れ舞台を飾る為、前代未聞の取り組みに力を入れる。

 私の屋敷にある中庭に並ぶ百戦錬磨の精鋭モンスター達を眺める。この場に集められた者達は、全員ランクCからランクBと極めて高い水準である。しかも、対人戦闘の経験があるモンスターが多く、非常に心強い。間違いなく、戦場での活躍が期待できる。

ギッギ『よくこれだけ集まったわね。やっぱり、ゴリフリーテさんとゴリフリーナさんのカリスマは大きいわね』

 ゴブリン、オーク、ウルフ、キメラ、グリフォン、ドラゴンなどのメジャー種族を集める為に『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』の各地を回った。交渉に臨んだ時は、どの種族も門前払いや難色を示したのでゴリフターズの盛大な花火を決めると案外素直に交渉の場についた。

 ゴリフターズによる鞭と対価という飴は効果抜群だ。

 本当は他のマイナー種族が住む場所も回って沢山集めたかったのだけど、時間的な問題と維持コストの問題で諦めた。モンスターは、種族にもよるが人間と比較して何倍も食べる場合が多い。当然、集めた側としては食料等の物資手配を怠るわけにはいかない。

 この度、集まったモンスターの総数は約5000。簡単な内訳はこんな感じだ。ドラゴン300頭、グリフォン450頭、キメラ750匹、ウルフ1000匹、オーク500体、ゴブリン2000体。これほどまでの高ランクモンスターの大軍は、早々お目に掛かる事はできない。間違いなく歴史に名を残せるだろう。

 ちなみにモンスター達が対価として私達に望んだ物は、大体が食料である。幸い、『聖クライム教団』への食料輸出を止めれば賄える量だったので良かった。

 ドラゴンは、食料ではなく住まう霊峰を期限付きで禁猟区にして欲しいと要望を受けた。ドラゴンのモンスター素材は高値で取引されるので、高ランク冒険者には人気なのだ。だがら、命の危険があっても挑む者達が多い。幸い『ウルオール』在住のドラゴンだったので、『ウルオール』国王に土下座とお金…更に、ゴリフターズの助力があって二年という期限付きの禁猟区認定を得えられた。

 一番面倒な要求がオークとゴブリンだ。人の牝を寄越せと言われた…それも百人単位でな。流石に、舐めているのかと圧力を掛けてやったよ。奴隷禁止の世の中だ、そんな数の生贄を用意できるはずがない。女が欲しければ戦場を駆け巡って自力で確保しろという落としどころで決着がついた。

 まぁ、戦場に出てくる者は大半が男だ…頑張って女を探せ。補給拠点などの大拠点には、出張娼婦がいるだろうから死ぬ気で頑張ればかなりの数が確保できるだろう。

「本当に素晴らしい成果だよ。後は…鍛錬不足で種族間の協力が望めないから、最低限自種族だけは統率取るように言い聞かせておいてね。特に、民間人への手出しは厳禁だ…守らなければ、種族ごと滅ぼすと念入りにね」

 特に不安なのは、ゴブリンとオークだ。あいつら、一部は知能が高いが…平均的にはかなり低い。目先の利益を優先して行動する可能性が濃厚だ。

 だが、軍隊として行動する以上、規則は厳格に守らせる。敵味方の識別の為に家紋入りのローブを渡すのだ。それに泥を塗るような行動は、死を意味すると再度教えておく必要がある。

 他にも問題はあった…身なりについてだ。仮にも、『神聖エルモア帝国』として参戦するのだ。外見はモンスターである為修正不可能だが、最低限の身だしなみは整える必要がある。温泉を開放して身体を綺麗にさせ、汚い歯が目立たないように歯ブラシも強要した。

 特に、オークの腰巻なんて産業廃棄物にも勝る汚さを誇っていたので、蟲達を総動員して新品の下着一式とズボンと上着まで揃えた。無論、オークだけを特別扱いせずに希望するモンスター達には、全員衣服を配布した。

モッキュウ(お集まりの皆様~、お食事が後一時間程でご用意できますので…お風呂に入って綺麗にしてきてくださいね。新品のタオルもご用意しておりますので、一列に並んで受け取ってください)

ピッピ(はーい、ではウルフの方は私に付いてきてくださいね)

ピーー(オークの方は、こちらですよ~)

 モンスターとて性別が雄ならば、美しい牝に弱いのは事実。私の蟲達の魅力に連れられて素直に従っている。特に、傾国のモンスターである幻想蝶ちゃんの働きは素晴らしい。モンスター達を素直に従えている。

「明日は、全軍で移動ですね。間違いなく度肝を抜けるでしょう」

「そうだろう。これもゴリフリーテとゴリフリーナ、瀬里奈さんの協力があってこそできた芸当だ。この私をコケにしただけでなく、悪人扱いした教祖に目にもの見せてくれるわ」

「そうですわね旦那様」

「さて、今日は夫婦水入らず…一緒に寝るか。二人まとめて相手にしてやろう」

 頬を染めるゴリフターズをみて私も笑顔になる。好きな女に幸せを与える。それが男の役目というやつさ。




 大国同士の戦争…小国同士の小競り合いと異なり、一度に生まれる利益は莫大だ。特に、商人達のやる気は、凄まじい。なんせ、両国に武器、食料、医療品などを売っているのだからね。

まぁ、流石に『神聖エルモア帝国』に席を置く商人達は自国優先だがね。

「で、なぜマーガレット嬢がここにいるのかね? ギルドの受付嬢として、戦力という名の兵隊を戦場に送り込むのが仕事では無かったのかね?」

 まもなく戦火が切られようとしているこの場所にギルド受付嬢のマーガレット嬢が何故かいる。

「邪険に扱わないでくださいレイア様。折角、レイア様がご注文なさいました食料などの物資を持ってきたじゃありませんか。寧ろ、無償で実家の手伝いに駆り出されているこの私の境遇を可哀想だと思ってください」

「実家の手伝いは無償かもしれないが、私の戦力調査という名目であろう。ギルドとしても双方に情報を売りさばいてお金を稼いでいるようだしね。私の陣営調査にはギルドが、相当な金額の報酬をかけているらしいね」

 この度の物資調達をフローラ嬢のところに依頼した。

 本来なら自前で用意したかったのだが…生憎と瀬里奈ハイヴの物資は、モンスター達への報酬や先月出荷したばかりという事もあり在庫的な余裕がなかったのだ。だから、割高でも外部注文するしかなかった。それならば、縁があるところに注文するのが優しさというものだ。

 それに便乗して、戦力調査にマーガレット嬢が出向いてくるとは考えていなかったがな。

「よくご存知ですね………で、質問させていただいても宜しいですか?」

 よくご存知も何も、マーガレット嬢が来る前に5人の腐れ外道がモンスター達の餌になったからね。餌にする前に、知っている事を洗いざらい吐かせたよ。

「構わん。発言を許可しようギルドのスパイ君」

「私の目が確かなら…レイア様の私兵って人じゃない気がするのですが。なんというか、ギルドに持ち込まれる素材の元となっているモンスターがチラホラ見えます。なんですか、アレ?」

 アレ扱いとはひどいね。この私の兵をアレ扱いとは。というか、見たままだと思うのだがね。認知症なのか、それとも視力が悪いのかな。

「見ての通りモンスターだが?」

「あ、あのですねレイア様。モンスターが人に従うなんて事あるはずが………」

ギッギ(何故か、呼ばれた気がしたので)

 一郎が顔を出した。モンスターが人に従うわけ無い…そんな事はない。事実、目の前に良い事例があるじゃないか。一郎の頭をナデナデしてあげてから、クッキーを与えて影に戻した。

「マーガレット嬢、何事も先入観に囚われ過ぎなのだよ。モンスターとて話し合えば分かり合えるさ。ちなみに、ちゃんと雇用契約を結んでいるぞ」

「雇用契約? だったら、ちゃんとギルドを仲介してくださいよ!! 最近、とある書籍のせいでギルドの評判が右肩下がりで依頼が激減しているんですから」

「営業努力不足だな…まぁ、既に死ぬまで暮らすのに困らない金をもつマーガレット嬢には些細な問題であろう」

 既に億単位の資産を持つマーガレット嬢。更に言えば、実家も大繁盛しており本当に死ぬまでお金に困らないはず。だから、ギルドなんてクソみたいな場所にこだわる必要もあるまい。

 それに、もうすぐ『受付嬢Mの秘密』の第二巻が発売するのだから営業努力をしないと大変な事になるぞ。ギルドに楯突いた者達をバラして豚のエサにしている事やギルド倉庫の遺書を任意整理している事やモンスターの繁殖力を利用したパワーレベリング工場の事が載っているのだ。心優しい私は、グラシア殿の元に瀬里奈さんのサイン入りの第一巻と第二巻を届ける予定だ。パワーレベリング工場に大穴が空く日も近いだろう。

「お金なんて幾らあっても困らないから、いいんですよ。ギルドの仕事なんて、今じゃ半分趣味みたいなものです。で、レイア様…一体、どんな魔法を使ってモンスターを使役しているんですか?」

「それをギルドに教えるとでも? どうしても知りたいなら、冥土の土産に教えても負いが…その度胸はお有りかね?マーガレット嬢」

 どうしても知りたいというのならば、教えてあげてもいい。但し、確実に命と言う対価を払ってもらうがね。

「やめておきます。死にたくありませんので…では、これで失礼致しますねレイア様」

 蟲達がマーガレット嬢の道を塞ぐ。

「残念だね、マーガレット嬢。どうしても直ぐに帰りたいと言うならば首だけお届けする事になるが。開戦前にヴォルドー軍の情報が流れてしまっては、折角用意したサプライズイベントが無駄になってしまう」

 どうでもいいギルドの犬ならば首を刎ねた上で『ネームレス』ギルド本部の入口に飾るのだが…フローラ嬢の義妹であった事に感謝するんだな。生きるチャンスをくれてやる。

「そ、そうですか。なら、開戦まで大人しくしておきます…身の安全は、保証していただけますよね?」

「大人しくしている限りはね。だけど、この私から逃げ切る自信があるなら隙を見てギルドに報告しても構わんぞ。但し、捕まえた場合には死ぬより辛い思いをさせる事を誓おう。まぁ、何もしないというのも暇であろうから絹毛虫ちゃんを1匹貸してやろう。この子が居れば、他のモンスター達も手を出してこないだろうから見学してまわるといい」

 絹毛虫ちゃんをマーガレット嬢に貸し与える。

「旦那様、そろそろ開戦前の号令のお時間です…総司令部へ」

「ゴリフリーナ付いてこい。ゴリフリーテは、ここを任せる」

「お任せ下さい。ゴリフリーナ…旦那様を頼みましたよ」

 モンスター達の纏め総司令は、擬態を施した瀬里奈さん…その姿は、究極進化をしたマーガレット嬢(笑)の姿をしている。まぁ、世間一般的には知られていない姿なのだけどね。なんせ、『受付嬢Mの秘密』では、蟷螂マーガレット嬢になっているから。



 高額の特別手当を手に入れる為にレイア様のところまで来たけど…予想の斜め上をいっているわ。一応、自由に見学をしていいとは言われたけど、何やら嫌な視線を感じるわ。

「頼りにしているからね!! 絹毛虫ちゃん」

モモキュ

………
……


 やはり、何を言っているか分からないわ。

 見わたす限り、高ランクモンスター。み、見間違いでなければ賞金が掛かっているモンスターもいるわ。あの片眼が潰れているエイシェントウルフは、『神聖エルモア帝国』伯爵家の次女を食い殺して8000万セルの賞金が掛けられているモンスターじゃない!! あのオークもそこにいるドラゴンも!! 他にも手配書で見た事ある曰くつきのモンスターが沢山いるわ。

 軽く数えただけでも4,000以上の高ランクモンスターがいるわね。

 それに加えて、ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様までご参戦する雰囲気…本気で殺し合う気かしら。ギルドの情報では、『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』の合同軍に対抗する為に『聖クライム教団』は近隣諸国に対して出兵の要請をしているようですしね。他にも、金に物を言わせてかなりの数の冒険者も導入しているとか。

 間違いなく、歴史に残る被害になるわね。

「帰ったら、戦争に参加している冒険者リストと倉庫を借りている者のリストを照らし合わせて遺書を破棄しないとね」

モッキュ

 いやいや、それより今の現状よ!!

 レイア様って『蟲』の魔法と言われているけど…実は、『蟲』だけでなくモンスターなら全て洗脳できる可能性があるわよね。今まで、見せていた能力は一部という事も考えられるわ。

 これギルドに報告書を纏めてあげれば、お金になりそうね。

モッキューーー

 絹毛虫ちゃんが手から離れていった。

 ………えっ!? ちょ、ちょっと待って!! お願いだから待って!! こんなところで貴方に見捨てられたら死んじゃう!! 絹毛虫ちゃんが私から離れた瞬間、周りの視線が一気に嫌な感じになった。

 乙女のピンチだわ!!

20m程進んだ所で絹毛虫ちゃんが止まった。そして、一匹のモンスターに抱き抱えられた。

ギッギ

モキュモ

 下半身が蜘蛛で上半身が人間!? 見た事がないモンスター…下半身が蟲である事からレイア様のオリジナルかしら。相変わらず、変な方向に頭がぶっ飛んでいるわね。

 …あれ? オリハルコン製の防具を付けているが、何故か良く見た事がある体付きと顔。いやいや、私ソックリとか冗談よね。そんなはずないわよね。

「ここにおられましたか、旦那様がお帰りになり次第出立いたしますので各位にご連絡を願います。ギルドの受付嬢でマーガレットといったな。絹毛虫ちゃんを受け取って天幕まで移動しておけ」

ギギ

 え!? どういう事!? あのゴリフリーナ様がモンスター相手にお願い? しかも、上半身が私とそっくりなのに何のツッコミもないの!? ちょっと、レイア様!! 説明してくださいよ。

 こんな稀有なモンスターが戦場で暴れたら、私の知名度が鰻上りになるじゃありませんか!! 最近は、『受付嬢Mの秘密』の本を持ってサインくださいって言ってくる馬鹿が増えたんですよ。もっと、良い方向で宣伝してくださいよ。
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