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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第八十四話:教団(5)

第三回なろうコンテスト二次選考を通過できました!!
最終は、全くの未知の領域なので発表当日を期待しつつ、頑張っていきます。


 『聖クライム教団』の清掃員ですら手の届かない場所を衣服で掃除した我々は、お世辞にも綺麗とは言えない。むしろ、汚い。そんな状態で、お部屋にお邪魔するのは大変失礼だ。だから、お部屋に入る前に衣服を破棄して代わりを借りた。何でも、グリンドールが皆殺しにしたギルドと繋がりのあったお偉いさんの服らしい。上等な物らしく、なかなか良い着心地だ。

「随分と寛いでいるようだな。『蟲』の使い手」

「当然だ。既に、『闇』の使い手の射程圏内。もはや、逃げる術など無いのだ。焦るどころか逆に落ち着くわ」

 『聖クライム教団』の王宮最上階にある一室…ここは、教祖の私室らしい。今は、代替りをしたので絶賛引っ越しの準備をしているそうで箱詰めにされた荷物が目立つ。引越しのお手伝いにグリンドールが来ているそうだ。

 全く、世界最強の冒険者が引越しのお手伝いね。まぁ、私もガイウス皇帝陛下が引っ越すと聞けば馳せ参じてお手伝いに向かうけどね。そして、グリンドールが慣れた手際でお茶を煎れてくれた。

「喜べ、この儂が煎れたお茶を飲めた者は、世界で10人もいないぞ」

 その数少ない人数にゴリヴィエとタルトも混ざる事になるとは…ゴリフターズにも飲ませてあげたいな。そうだ!! ゴリフターズと皇帝陛下へのお土産用にグリンドールが煎れたお茶を水筒に詰めて持ち帰ろう。

「ありがたく頂くとしよう。それで、この私が呼び出された用件は…グラシア殿の足についてかな?」

「いただきます」

「ご馳走になります」

 車椅子で生活を送っているグラシア殿。現代医学では、治癒不可能であろう。治せるならば、グリンドールが放置しているはずがない。だが…この私ならば治せる!! 仮に治らなくても、蟲を使った義足という形で日常生活に支障がないようにする事だって可能である。

 それとも大穴で、国家が転覆しかねない教祖を始末して欲しいという事なのかな。流石にそれはないか…グリンドールがその気になれば文字通り朝飯前で終わる事だ。その程度の事を私にやらせても何の得にもならん。

 というか、あの教祖は何だったのだ。明らかに教育不備だ。『神聖エルモア帝国』や『ウルオール』と異なり世襲制で無い事から何らかの基準で選出されたのだろう。誰が選んだのだと問い詰めたい…任命責任が発生するぞ。

「グラシア殿の足か…生まれつきだからな。治癒薬などの医療方法では治らぬ。もし、治したいとお言葉が一言でもあれば、この儂が『蟲』の使い手に土下座も厭わぬ」

「見てみたい気もするが、やめておこう。しかし、一つ訂正しておこう。この私、レイア・アーネスト・ヴォルドー…グラシア程の女性の為ならば、報酬などいらぬ。美しい女性を幸せにするのは紳士の役目であろう?」

 世の中、淑女が不足しているからね。

「その通りだな。『蟲』の使い手」

 その目は、何かねゴリヴィエとタルト君。まるで、幽霊でも見たかのような顔は。

 私は、これでも二人には優しくしているはずだが。ゴリヴィエは、その肉体と筋肉教団への足がかりを私のおかげで手に入れたでしょう。タルトに至っては、今、生きている事に幸せを感じて欲しいね。今まで何度死にそうな場面を助けた事か。

「では、本題は?」

「先日は、国内の不穏分子排除に随分と協力してもらったからな。そのおかげで、グラシア殿が退位する事が出来たのだ。その礼にコレをやろうと思ってな」

 グリンドールが布団叩きと一緒に並べられていた杖っぽい物を持ってきた。見るからに歴史がありそうな代物だ。ガイウス皇帝陛下のお側でアレをよく見ていた私には分かる。

 グリンドールが無造作に持ってきた漆黒の杖が何なのかが!!

「そ、それって『聖クライム教団』の大事な至宝だろう!!」

「あぁ、世間ではそう言われているのか。だが、少し違う。これは、儂の家の家宝だ。祖母の代から教祖任命の儀で使われるようになったが、儂の家から一時的に貸出していただけの事」

 まじかよ、知らなかった。まぁ、グリンドールの祖母の代だと軽く見ても100年以上前だ。情報化されていないこの世界にとって、『聖クライム教団』に都合が良い形で話が伝わっていたとしても不思議ではない。

 確かに、『神聖エルモア帝国』でも神器プロメテウスは、世間一般的には『神聖エルモア帝国』の至宝とされているが…事実は、ガイウス皇帝陛下の私物だからね。ガイウス皇帝陛下が退任されても、神器を持ち続けるだろう。手放すという選択肢は生涯しないだろう。断言できる。

 希少な神器の扱いについてもどことなく似ている。ガイウス皇帝陛下は、鍋敷きや枕に代用していたからね。こっちは、布団叩きか。神器が泣いているぞ!! というか、神器テミスって厳重に保管されているという話だっただろう。なんだよ、そのザルな扱い!!

「本音を言うとですね…すごく欲しい!! 神器とかロマン兵器を欲しがらないわけがない!! だが、なんでそんな世界的に見ても希少な物を私に渡そうとしているのか、疑問が尽きない」

「話せば長いが…一言で言うと。グラシア殿と儂が長い旅にでるからだ!! 我が主であるグラシア殿は、昔仰られたのだ。『いつか、世界を見てみたいわ。わたくしを連れて行っていただけますか』と!! だが、それから間もなくしてグラシア殿は教祖に選ばれた」

 一瞬、その話と神器がどう繋がるのかと思ったが…なんとなく見えてきた。

「なるほど。『聖クライム教団』が『闇』の魔法の使い手を国家に留める為に、グラシア殿を教祖に仕立て上げたのか」

 グリンドールを縛る事は不可能だ。国家という鎖に縛るという観点で考えれば、目の付け所は良い。だが、下手すれば国家解体されていたぞ。グリンドールの祖母が国のトップをやっていたからといって孫が権力を望むとは限らない。

 むしろ、強者ほど権力に拘らない者が多いのだ…いつでも手に入るからという理由でね。

「よく大人しく従ったね。その気になれば、国ごと更地に出来たでしょうに」

「無論、即座に更地に変えてやろうとしたが…グラシア殿に止められた」

 それは、実に気になる御話だ。

 借りてきたゴリラと猫のように大人しくなっているゴリヴィエとタルト…その顔は、既に真っ青だ。この会話、世間一般には知らない方がよい内容が含まれている。神器の譲渡やグリンドールの足かせとなるグラシア殿の情報なんて漏らせば消される事は間違いない。特に前半の話を漏らしたら、私が消しに行く。

 念の為、後で二人の記憶を弄っておくか。最初から記憶になければ漏れる心配もない。

「責任感が強いグラシア殿は、『聖クライム教団』の思惑が分かったが乗ったのだ。おまけにグラシア殿は、昔から人望があったからな…当時の権力者達は、グラシア殿を傀儡にでもしようと思ったのだろう」

「馬鹿な権力者達だね。グラシア殿が教祖になれば、『闇』の使い手が無条件で服従するとでも思ったのかな」

 大切な人を傀儡にしようと企む連中など、即座に殺すわ。もしかして、権力者達はグリンドールに対してグラシア殿の命が惜しければ、『聖クライム教団』に大人しく従え的な事を言っていたのだろうか。それだとしたら、頭に蛆が湧いていたんじゃないかと思うね。

「全くだな。グラシア殿が教祖になられると決意したその日に、邪な考えをしていた連中を全て消し去ってやったわ」

「そんな事も昔にありましたわね。お止めしたのに、どうしても譲れないと仰られて…話せばきっと分かり合えると思いましたのに。あぁ、そういえばあの時、グリンドールのお手伝いをしてくれたガイウス皇帝陛下にもご挨拶に行かないといけないわね。旅路に寄りましょうね」

………
……


「えっ!? ガイウス皇帝陛下って…あの『神聖エルモア帝国』のガイウス皇帝陛下!?」

「えぇ、『よい女の為ならば、このガイウス地の果てでも参じましょう』といって、早馬で駆けつけてくれたのよ」

「もしかして、旧知の仲なの!?」

 今まで全く聞いた事がない話だ。なにそれ!? 他国のトップを口説くなんて流石ガイウス皇帝陛下だ。しかも、グリンドールの前でとか誰にでも出来ないよう事を平然とやってのけるとは。

「違うわ!! あの男は、神器プロメテウスを使って各国のいい女に出会う旅をしておった最中じゃ。本人は、武者修行と言っておったがな。その日まで会った事も無かったわ。馴れ馴れしく我が主に接しおって」

「でも、おかげで助かったって言っていたじゃありませんか。大丈夫ですよグリンドール。私は貴方だけのものですから」

 ジャリジャリ

 お茶が甘いぞ!! まるでガムシロップを原液で飲んでいるかのように甘い!! こんな二人と一緒にいた絹毛虫ちゃんは糖尿病で死んじゃうんじゃないかと不安だ。

モキュ(じゃりじゃり…キャベツが甘いわ!! だれか塩を持ってきて)

ピッピー(はちみつが胸焼けする程甘いわ)

「その場面が手に取るように分かる。流石はガイウス皇帝陛下と言いたいけど…一歩間違ったら、『闇』の使い手に殺されていたよね」

「奴の持つ神器プロメテウスのおかげで一時的とは言え綺麗に掃除できたからな。役に立っていなかったら殺しておったわ」

 若い頃の陛下か…会ってみたいような。会ってみたくないような。

「今と変わらず型破りなガイウス皇帝陛下だ。しかし、グラシア殿は、相当長い期間教祖をされていたのか。今になってよく退位出来ましたね。人望のあるグラシア殿をみすみす手放すような事は、『聖クライム教団』としても望まないはず。むしろ、死ぬまで退位させる気が無いと感じ取れたけど」

「なーに、グラシア殿の退位に異を唱えていた愚か者達はギルドの犬だったからな。実に気分良く消してやったわ。残った連中は、喜んでグラシア殿の退任に賛同してくれたよ。その際に『蟲』の使い手からの情報は、非常に役に立った」

 グラシア程のカリスマを備えた人物を手放すのは国家にとって損失である事は間違いない。だが、グラシア殿は世間的には御高齢である。あまり無理をさせて、体調を崩されたら大変だ。それに、充分勤め上げたといってもおかしくない年月を教祖として働いていたのだ。

 まぁ…私見では後50年くらい生きていそうだがね。

 しかし、ギルドの犬どもが退位に反対したのは、グリンドールを『聖クライム教団』に留めておきたい思惑があったのか。それとも、グラシア殿に死ぬまで教祖に殉じろと言いたかったのだろうか。

 どちらにせよ、終わった事だがな。

「国内の害虫駆除をした事で退位できるという事ですか。新任教祖で安心できるかは別として」

「アレを選出したのは、グラシア殿派やギルドの犬でもない中立派が選出した者だ。国家を任せられるように教育するのは奴らの役割であろう。まぁ、ギルドの犬どもが用意していた駒の方が幾分か優秀であったが…所詮は犬」

 あぁ、その駒も纏めて消したのね。

「どこの国でも暗躍しているねギルドは。あまり他国の内部事情をきいても仕方ないので…長話も終わりにしよう。話の流れから私が呼ばれた理由も目的も大体わかった。ありがたく神器テミスを頂戴するとしてこちらも要望に応えよう。神器程に匹敵するとは言いにくいが私の自慢の蟲達を連れて行くがいい」

 紳士淑女二人旅とは言え、グラシア殿は足が不自由である。

 男であるグリンドールでは、どうしても介護しきれない事が出るだろう。その為に、私の蟲に目をつけたのであろう。絶対服従で下手な人間より役に立つ。話相手としては若干力不足であろうが、筆談で頑張っていただきたいね。

「そうじゃの~、まず儂が直接話すから外に呼んでもらおう」

 旅の生活を考えると…生活全般をサポートできる蟲と移動用の蟲が必要になるであろう。後、医療用のサポートも必要になるね。しかし、医療面となると蛆蛞蝓ちゃん以外に選択肢が思いつかない。

 うーーーん、どうしようかな。

 蛆蛞蝓ちゃんが影からひょっこり顔を出した。

モナー(お父様。私の分体をお渡しするのはどうでしょうか。ご懸念されている病気の開発などに特異な能力を持たせないようにすればよろしいかと)

「いいや、構わないさ。フルスペックの分体をプレゼントしよう。サイズは、グラシア殿の肩に乗る程度のサイズで頼むよ。容量は、二人分を賄えれば十分だ」

 最強ではなく、最凶の蟲である蛆蛞蝓ちゃん。怪我や病気の治療、遺伝子解析などは当然として…ウイルスの開発まで可能な蟲の中でも随一の頭脳を誇る子だ。この私にすら効果のある毒の製造まで可能である存在。ギルドが一番欲している子だと思うのであまり外に出したくないというのが本音である。だが、この二人に預けるのならば安心であろう。万が一、第三者の手に落ちる場合には、悪いが…跡形も残らぬように死んでくれ。

 蛆蛞蝓ちゃんの分体であるミニ蛆蛞蝓ちゃんがいれば、二人の健康管理などもやってくれるだろうし安心して旅をするがいい。毒の散布とかも出来るから、予めグラシア殿に抗体を作っておけば護衛としても十分効果を発揮できるであろう。その気になれば、猛毒で高ランクモンスターもイチコロよ!!

モキュ(((((呼ばれてきてみれば…あら、素敵な人達が)))))

ムシュ(うぐぅ、狭い…あ、ペロリ)

「きゃ……」

ピピ(お父様。ステイシスを出す時はもっと広い場所で)

 お菓子やお茶を床にこぼさないように瞬時に手に持ったが、椅子や机が押し出されてグラシア殿のお部屋を散らかしてしまった。グリンドールは、グラシア殿に被害が及ばないように目の前に移動しており、足でステイシスを押し戻している。そんなに睨まんといてグリンドール。ほら、横にいるグラシア殿は「あらま」と笑っていられるぞ。

「レイア殿…今、そこに居たタルトを知りません?」

ムシュ(この肉質…成長していますね。ふっふっふ、もっと美味しくなるように手を加えましょう)

「ステイシスの口から手が見ているから、味見されているんだろう。ステイシス…レディーの前でそんな食べ方じゃダメだぞ。ホラ、吐き出しなさい。ペッ」

ムッシュッシュ(お父様の血液を輸血して。むむ、コレからだったのに…仕方ありませんのでペッします)

 タルトがステイシスの口から解放された。ベトンベトンの状態で…。

 全く、私が一部の蟲達に持たせているドーピング薬を遊びで使おうとするとは、今日のごはんは抜きかな。

 ギルドが考案したドーピング方法は、モンスターにも有効なのだ。モンスターに血液型という概念はないので同種系統のモンスター同士なら人間と同じ方法でドーピングが可能である事までは実験で分かっている。

 そんな中で、嬉しい事に私の血液だけは全蟲系モンスターに輸血可能であり、ドーピング強化の成果が出たのだ。当然、蟲以外のモンスターには効果は確認できなかった。これも『蟲』の魔法のおかげであろう。

 ちなみに、私の血液はタルトに輸血可能な型である。この私の血でドーピングを行えば、タルトもゴリヴィエと同様に覚醒への糸口を見つけられるかも知れない。きっと、立派に成長するだろう…筋肉がな!!

「ゴッホゴッホ。し、死ぬかと思ったぁぁぁぁぁ!!」

「グラシア様、グリンドール様。タルトにお風呂を貸して頂けませんか? 流石にこれでは…」

「えぇ、すぐに用意するわ。ちょっと、待っていてね」

 ゴリヴィエのお願いで車椅子に座るグラシア殿がお風呂の準備をしようとしている。

 車椅子に座る淑女になんて負担になる作業をさせるのだ。だが、客人としてこの場に招かれている私達が出しゃばるのもアレだよね。だから、私の蟲達の出番である。

「グラシア殿…ここは、私の蟲達にお任せ下さい。家事万能の子をご紹介いたします」

ギッギィィ(…ぐぉぉぉぉ!! おーばーあちゃーーん)

ギィーー(あら、おじさま~)

「あら、可愛い」

 見ただけでNTRされたぞ。どうなっているんだよこの二人の魅力は。チャームの魔法でもあるのか。

「ふむ、役に立ちそうだな。儂等と一緒にくるかね」

ギッギィーー((勿論!! お父様、今まで育てていただきありがとうございました。…おじいちゃん、おばあちゃん~。早速お風呂の準備してきますね))

………
……


「くっそ!! 大事にしろよ!!」

 家事全般を請け負う担当者がもう決まってしまったか。では、次は絹毛虫ちゃん達だな。一匹では、毛布の代わりにもならないから…後5匹くらいかな。

「無論だ。さて、絹毛虫達は…そうだな。今、グラシア殿と戯れている子達を頂こう」

「初見で二人の魅力に耐えた子達だ。簡単に堕ちると思わないでいただこう」

 グラシア殿に巻き付いたり膝の上に乗ったりとすき放題に戯れている子達…不安だ。グリンドールに強がってみたけど不安である。

「見ているがいい『蟲』の使い手…これが年季の違いだ」

 グリンドールが絹毛虫ちゃん達を持ち上げる。そして、まっすぐと見つめる。

「儂と一緒に来てくれないか」

モキュ(はい!!)

「あら、情熱的な言葉ね。じゃあ、わたくしも試してみようかしら…こんな、お婆ちゃんとの旅だけど一緒に来てくれないかしら」

モキュ(はい!!)

 悪夢を見ているようだ。この『蟲』の魔法で産みだして私が育て上げた蟲達がこんなにも簡単にNTRされるなんて。いいや、逆に考えるんだ。この二人が旅に出てしまえば、もうNTRされる事はないんだ。

「レイア様の蟲がこんなにも簡単に…大国の元トップと最強の冒険者は違いますな」

「なるほど。私もステイシスにあのように迫れば、食われずに済むかも…」

 タルトが絶賛死亡フラグを建築している。

 タルトの横でゴリヴィエが何を考えたのか、名案が浮かんだような嬉しそうな顔を浮かべた。

「グラシア様、グリンドール様!! 実は、お二人にお力をお借りしたい事が」

 あっ…何をやろうとしているか理解した。止めに入ろうかと思ったが、既に書類を取り出して二人にみせている。

「あら、これは…『筋肉教団』設立の為の後援者になって欲しいと言うことかしら?」

「『筋肉教団』ね~。儂から言わせてもらえば、そんな怪しい教団に名義を貸すのはちょっとな」

 グリンドールの意見は、ごもっともである。私も名を残したくない程だ。未来永劫残ったら泣けるわ。

「迷える筋肉の申し子達を救う為、どうかお力を貸していただきたい。既に、ゴリフリーテ様とゴリフリーナ様はご署名頂ける予定になっております!! 」

 ゴリヴィエが土下座して床に頭を擦りつける。当然、タルトもゴリヴィエに頭を押さえつけられて土下座スタイルだ。

「『蟲』の使い手、あまり他国の事情に首は突っ込む気はないのだが…『ウルオール』は大丈夫かのう」

「だ、大丈夫だ。『ウルオール』の次期トップは、私の義弟達だ。ゴリヴィエのような聡明(笑)な頭脳は持っていない」

「読む限り活動内容は、冒険者の支援みたいですね。わたくしのような何の力もないお婆ちゃんの署名が、未来の冒険者達のお役に立てるのならば署名致しましょう」

 グラシア殿の聖女っぷりに脱帽です。

『筋肉教団』という名前に囚われて活動内容を軽く扱っていたが、そこに重みを置いてご確認されていたとは。私とグリンドールですら、『筋肉教団』というネーミングに囚われたというのに。

「グラシア殿がご署名されるのでしたら、儂も署名しよう」

 現教祖の署名より、明らかに価値があるグラシア殿のサイン。おまけのように署名しているグリンドールのサインとか、笑えない。もう、誰も『筋肉教団』設立に意を唱えられん。

 一枚の紙に二人の署名がされた。ゴリヴィエの顔が喜びのポージングを暑苦しく決めている。タルトは、ゴリヴィエの熱い抱擁でグロッキーだ…ステイシスの胃液と唾液で二人ともベドベドだよ!!

 蟲がお風呂を沸かしたからさっさと入ってこい!!

「絹毛虫ちゃん、幻想蝶ちゃん…そして、ミニ蛆蛞蝓ちゃん、ステイシスを渡そう。音楽部隊は、前に贈った●イトセイバーの柄に入っている鈴蟲達がいるからこれ以上は不要であろう。ついでに、私がここまで乗ってきた水陸両用のキャリッジも持っていくといい。二人旅には便利のはずだ」

「ありがたく頂こう。これで、グラシア殿と快適な旅が出来そうだ」

「世界最強の冒険者から頼られるのは、なかなか良い気分だった。なに、こちらも貰う物を貰ったので気にする必要はない。後、グラシア殿の足を治療したくなったり、なにか私に用事がある場合は領地を訪れるといい。なんの裏もない唯の紳士淑女ならば歓迎しよう」

 この二人ならば、瀬里奈さんでも普通に受け入れてくれそうだからね。瀬里奈さんにとっても人間の理解者が増えるのは嬉しい事だ。その理解者を選定するのが大変だけどね…絶対に情報が漏れない人を選ばねばなるまい。

「レイア・アーネスト・ヴォルドー殿。お呼び出しをしたのに色々とご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。そして、ありがとうございます。こんな可愛い子達を私達に分けていただいて、大事に致しますね」

「こちらこそ、貴方のような女性に会えてとても有意義な時間を過ごせました。それだけでも来た価値があったと言うものです。自慢の子達ですが…蟲故に自由奔放なので色々と教えてやってください」

 良い女性とお話しするというのは、実に有意義だ。

「儂からも一言…世話になったな。『蟲』の使い手、レイア・アーネスト・ヴォルドー」

「こちらも今も昔も色々と世話になった。『闇』の使い手、グリンドール・エルファシル」

ミニー(素直じゃないお二人ですね。では、お父様。お二人の下へ行ってまいります。また、会えますよね?)

 ミニ蛆蛞蝓ちゃん…ミニーという鳴き声が可愛いな。

「当然じゃないか!! どうか、大事にしてやってください。私の自慢の蟲達です…さぁお行き」

 最後に、しっかりと抱きしめて送り出す。風邪には気をつけるんだよ。いつでも帰っておいでねと…。

「えぇ、勿論ですとも。さぁ、おいで」

 ミニ蛆蛞蝓ちゃん達が貰われていく。あぁ…泣きそうだ。



 感動の別れを終えて立ち去ろうとしたのだが…どこぞのゴリフと猫が風呂なんて入るせいで完全にタイミングを逃してしまったよ。おかげで、何とも言えない空気が流れたよ!! 本当に気まずいよ。

 そして、再度の別れを告げて…今現在、屋上からステイシスに乗って『神聖エルモア帝国』に向けて空を移動中だ。予想通り、我々を国外に出さない為に教団員が頑張って地上を捜索している。

「レイア様は、『神聖エルモア帝国』に戻られたらどうなさるんですか?」

「どうするもこうするも…戦争の準備一択だろう。グリンドールという最強の駒を失った『聖クライム教団』など恐れるに足らず。で、ゴリヴィエはどうするんだ?もはや、現教祖の署名など不要であろう?」

 まぁ、エーテリアやジュラルド並の使い手は、『聖クライム教団』にも居るだろうが…脅威度が下がったのは明白。こちらには、ゴリフターズもいるのだ。まぁ、余程の事態にでもならない限り二人に参戦を依頼する事はないがね。

「不要とまでは言いませんが…もはや、無くても教団設立を可能にする準備は全て整いました。すべては、レイア様の御助力あって漕ぎ着けた次第です。故に、このゴリヴィエ…レイア様への御助力は惜しみません!!」

 それは、心強いね。

「では、早速二人の力を借りよう。本来なら、『神聖エルモア帝国』に巣を作ったテロリスト共の不始末をグリンドールに押し付ける予定だったのだが…色々と予定が狂った。全員、皆殺しにしてこい」

「も、もしかして来る途中にいたあの集団をですか!?」

 その通りだタルト。貴様と戯れていた子供達含めて皆殺しだ。テロリスト共に慈悲などない。無許可で『神聖エルモア帝国』に住み着き、納税の義務すら怠っている存在に何の価値があろうか…何もないのだ。むしろ害悪でしかない。

「その通りだタルト君。対集団戦闘の良い経験になるであろう。拒否権があると思うなよ。自分の命と天秤に掛けて他人の命の方が大事だというなら、何もしないでも構わない」

 その場合には、タルトが乗っているステイシスの餌になるだけだ。

「承知いたしましたレイア様。しかし、数が多い故に打ち漏らす可能性が…」

「多少のフォローはしてやろう。但し、テロリストのリーダーだけは必ず首をあげてこい。居場所については、この蟲が導いてくれる」

 相手が私をどの程度信じて待っているかは定かではないが…約束の印として渡した小瓶は持っているはずだろう。小瓶に詰められている蟲の卵からフェロモンが出ている。それを追尾する事で延々と追いかける事が可能だ。まぁ、途中で捨てられればそれまでだがね。

「このゴリヴィエとタルトにお任せ下さい!! テロリストなど卑劣な存在全て根絶やしにしてご覧に差し上げましょう」

「…おっし!! 我が身可愛い!! 知らない他人の命より自分の命の方が大事なのは当然です!! 女子供までというのは、若干抵抗が残りますが…仕方ありません。ゴリヴィエ様と一緒に殲滅してまいります!!」

 そうだ。それでいいのだ。では、素直に従った二人には私から餞別をくれてやろう。

「二人とも左腕の服を捲り上げろ。ギルドでもやっているドーピングだ…効果時間は約1時間だ。その間に必ず殲滅してこい」

 ゴリヴィエにはゴリフリーテの血液を、タルトには私の血液を輸血した。さて、効果の程を見せてもらおうか。

「これが、ギルド幹部が行っているというドーピングですか…凄まじい効力ですな。力が溢れてくるようです」

「レ、レイア様!! これ大丈夫ですか!? 試しに本気で鉄製の柄を握ったら若干変形しましたよ!! 何を入れたんですか!?」

「高ランク冒険者の血液だ。安心しろ…型はあっているから死ぬ事はない。さぁ、その力を以って、悪を討ち滅ぼしてこい」

 ゴリヴィエとタルトが地上に降り立ち、テロリスト共の巣へと足を運んでいった。本当は、色よい返事…グリンドールによる一撃で苦しまずに殺してやる予定が若干異なったが結果は同じ事だ。

 さて、ゴリヴィエがテロリストのリーダーの首を持ってきたらそれを『聖クライム教団』に送りつけて難癖つけてやろう。
瀬里奈外伝…執筆開始しよう(´・ω・`)
それが終わったら、戦争だぁぁぁぁΣ(゜д゜lll)と思っているがどうしようかな。
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