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第七十九話:慈善活動(3)
◆一つ目:絹毛虫
◇
昨日、寝入ってから重大な失敗に気がついてしまった。昼と夜の採点結果を元に処理を執行するのは構わない。だが、その結果パーティーメンバーに欠員が出てしまいパーティーが全滅の危機に陥っては二流の仕事になってしまうと。
早急に、戦闘員が減ったパーティーには蟲達を使って、陰ながらサポートするように手配した。許容量を越える敵が来る場合には、パーティーに接敵する前にモンスターを排除する。戦闘中に死ぬ危険が発生しそうな場合には、モンスター自体を実力排除して構わないという指示を出した。サポーターが処理対象のパーティーには、さり気なくきのこや山菜などの食料を集めて通り道に置くように手はずも整えた。道端に食料が落ちているという怪しさ抜群だが…まぁ、仕方があるまい。
これで、完璧の布陣である。
………
……
…
それから、1階層から順々に掃除をしていき、8層に到達時点で出したゴミの数は70人を超えた。この数ならば、マーガレット嬢の期待にも応えられるだろう。採点を少し厳しくすれば軽く100人を超えるのだが…あまり削りすぎるとギルドの収益に問題が生じるだろうと考えて配慮してあげた。
微妙な力加減が実に難しい。
本当に、こんな曖昧な依頼を受けてしまった私が情けない。だが、紳士として恥じない成果を出さないといけない。私の成果が高ランク冒険者全体の評価に響く可能性もあるから、細心の注意が必要だ。
「ふむ、昨日のゴミは6名か…。当然というべきか下に潜るほど、ゴミの数は少ないな。で、蛆蛞蝓ちゃん、検死の結果は?」
しかし、ゴミ達は本当のゴミみたいな連中ばかりだ。働いているフリをしている者、素材をくすねている者、サポーターとしての仕事である周囲警戒を怠りパーティーを窮地に貶めた者、夜間の警戒の任務を蔑ろにして男女で合体する者達など、困った連中が多い事だ。
今現在は、蟲達が偶然発見した死体を調べている。本来なら気にする事でもないのだが、マーガレット嬢からの依頼がダブルブッキングしているのではないかと思い念には念を入れて調べている。
モモナー(そうですよね。あ、お父様。検死解剖が完了致しました。死亡時刻は、三日前。死因は、急所を一突きです。凶器は、レイピアのような鋭利な物だと想定されます。他の死体については、既に原型すら残っていないので何とも…)
「十分な成果だ。死亡して三日も経過しているのだ。多少なりとも原型が残っていた事自体が奇跡に近い。しかし、三日か…」
私が依頼を受注したタイミングから考えてもダブルブッキングの線は薄いな。よくよく考えれば私に依頼を斡旋したのはマーガレット嬢だ。人格面はともかく、仕事の上ではギルドの中でも相当のやり手であるから、ダブルブッキングするようなヘマはしないだろう。
となれば、善意でゴミ掃除をしている者がいるか。もしくは、低ランク冒険者狩りを楽しんでいる者がいるかのどちらかだろう。前者であれば嬉しいのだが、そんな奇特な人物は少ないだろうね。後者の場合は、間違いなく装備狙い。低ランク冒険者とはいえ、装備にお金をかけている者は多い。その為、依頼報酬やモンスター素材を売却するより利益が出るだろう。
そういう事だから、後者だろうね。
おまけに死体の年齢は30歳を超えている。そのような熟練の低ランク冒険者が、こんな無様な死に様を晒すはずがないからね。この手の輩は、慣れた狩場でも常に死なない事を最優先に考えて行動している。
だが、それでも死んでいるという事は圧倒的な実力差があったと考えるのが妥当であろう。おまけに、金になりそうな遺留品が残っていない。
「まぁ、無理に探し出す必要もあるまい。問題がある冒険者なら、こちらの採点に引っかかるはずだからね」
ありえないと思うが、第三の可能性もある。死体となった冒険者に不慮の事故が起こったとかね。例えば、高ランク冒険者に喧嘩を売ったとか。
ギィ(お父様!! 宝箱発見しました)
大急ぎで走ってきたと思えば、素晴らしい吉報を持ってきてくれた。低層とはいえ、宝箱はロマンが詰まっていて、何度開けても楽しい!! 下層の宝箱と比べれば中身は、ショボイのは仕方がないが、それでも金銀財宝は望める。中身次第だが、安い報酬の足しにはなるだろう。
「偉いぞ!! よしよしよし」
抱き抱えて、頭を撫でてあげると実に嬉しそうな顔をする。本当に可愛い子供達だ。
ギッギ(もっと撫でて!! もっともっと!!)
他の蟲達の視線が痛い。これは、全員を撫で回してあげなければいけないね。本日の午後の業務は決まった。
「みんなも後で撫でてあげるからね。まずは、宝箱を開けに行こうか」
◇
宝箱という物は、良い物だ。冒険者のロマンの塊である。罠かもしれないが開けるという選択肢以外選ぶ事はできない。開けなければ、冒険者として終わっている。そう思わせる程の魅力が詰まっている。
尤も、私は人が少ない下層で活動している事と蟲達を使った人海戦術で毎月何回も開けているんだけどね!!
「だが、罠だと面倒だよね。いつも通り頼むよ」
影から蟲達が何匹這い上がってきた。
宝箱は、意地悪い事に生きた者しか開ける事が出来ないのだ。昔は、それが分からなくて棒や紐などを使って安全に開けようと様々な方法を試みた事があった。だが、どれも失敗した。
だが、ある時気がついてしまったのだ。
蟲達を使って開けさせればいいのだ。同じ生物であるなら、別に人に拘る必要はない。事実、このやり方は成功したのだ。だが、腑に落ちない点が一つだけあった。なぜ、モンスター達が迷宮にある宝箱を開けないのかという点だ。
宝箱には、金銀財宝以外にも食料も入っている事がある。事実、ゴリフターズと迷宮に来た時はバナナなんて珍品が出てきたくらいだ。バナナの種は、瀬里奈ハイヴに送って蟲達によって大切に育てられている。きっと、数年もしないうちに出荷できるレベルになるだろう。
だから、蟲達になぜ宝箱を開けないのかを聞いてみた。そうしたら、宝箱という存在をそもそも認識できないようで、『蟲』の魔法で私の配下に加わる事で初めて宝箱という存在を認識出来たらしいのだ。これは、驚愕すべき事実であった。
そのうち、瀬里奈さんが宝箱を認識できるか本気で確かめてみたい。新しい発見がありそうだ。
ジッジ(お父様の為、今日も宝箱を解除!! 解除!! 食べ物がいいな…)
ギッ(金銀財宝の方が良いですよ。後で、ご馳走を買ってもらえますので。では、オープン!!)
蟲達が宝箱を開けると、中からはルビーが出てきた。低層にしては、かなりアタリの部類に入る。これは、『ネームレス』に戻ってから換金するとしよう。
「期待に応えてあげましょう。『ネームレス』に帰ったらご馳走だね」
だが、その前にゴミ掃除の必要がありそうだ。
先ほどから、木々の影から様子を見ている者達がいる。何もしてこないので無視していたが…間違いなく、宝箱が開けられるのを待っていたのだろう。罠の可能性も考慮すれば第三者に開けさせて中身を強奪するのは、宝箱から安全に物を取り出す方法の一つである。
第三者を待つような地道なやり口を採るのは相当粘り強い精神力の持ち主と言える。その努力を別の方向に向ければ成長できるだろうに。
「はいはーい。そこの人、痛い目を見たくなかったら手に持っているルビーを大人しくこちらに渡してもらおうか」
「ついでに、装備品も全てこちらに渡してもらいましょう。死ぬよりマシでしょう」
知り合いではないはずなのだが、知っているような気がする。何処にでも居そうな平凡な顔つきをした男女二人組が、私に武器を向けて武装解除並びにルビーを寄越せと言ってきた。喉元まできているのだが…やはり思い出せない。
「こんな安物の為に、そんな行為を?」
宝石の一種であるルビーとはいえ、命と天秤にかける物かと言われればそうでもない。宝石鑑定の知識はないが、今までの経験から恐らく200万セル程度だろう。
「宝石の目利きもできねーのか。まぁ、仕方ねーよな。こんな底辺のたまり場で一人コソコソ働いている奴じゃな。そのルビー、150万セルはかたいな」
「いやー、助かったわ。罠だと面倒だったから、適当なパーティー捕まえて開けさせようと思っていたらノコノコと一人で来てくれるんだから、手間が省けたわ。で、フードの人…宝箱に触れずに開ける方法を教えてくれたら、下着の一枚くらいは残してあげるわよ」
蟲達が開けたのを認識できていないのか。
装備品や筋肉のつき方、雰囲気から察するにランクCもしくはランクBだろうに、練度が足りてないね。経験も不足していると見える。こんな事をせず真面目に命を天秤にかけて冒険に勤しめば、もっと稼げただろうに…惜しいね。
「なるほど、理解した。では、死ぬ前に一つ教えてもらえないか。三日程前にそのレイピアで冒険者を殺した記憶は?」
「えぇ、ありますわよ。モンスターを狩るより割のいい稼ぎになるからね。迷宮での揉め事は自己責任。あの冒険者達は、装備の無償提供を拒みましたからね。仕方なかったんです。で、貴方はどうしますか? 運がよければ、装備なしでも生きて出られますわよ」
迷宮での揉め事は自己責任…その通りだ。ならば、お前達に対してこれから行われる行為も自己責任で間違いないかな。
ギギ(お父様を相手に恐喝行為…減点一億点!! 執行対象です)
「ならば、私は幸運の持ち主だろうね。生きて出られるのだから」
フードを取ったが、相手の反応は変わらない。このレベルの冒険者相手に顔が売れていないとも考えにくいから、余所者か…。何か問題を起こして元の場所に居られなくなって冒険者の出入りの多い『ネームレス』に足を伸ばした口かな。
「随分な自信だな。これでも、俺達は『ミスタリア』じゃ名前が売れた冒険者なんだぜ」
「まぁ、ちょっと問題起こして追われる身になっちゃったけどね」
『ミスタリア』って確か地理的には、『神聖エルモア帝国』の横にある弱小国だな。毎年、事あるごとに援助を懇願してくる乞食みたいな国家だった記憶がある。『神聖エルモア帝国』の血税が他国に使われるのが納得いかないので、時期を見て潰したいと思っている国の一つだ。
…あれ? 今、追われる身とか言っていたよな。
「追われる身という事は、賞金首か?」
「あぁ、その通りだ。賞金額4000万のセグリス、相方は賞金額2500万のメリアだ」
くっそ!! マーガレット嬢!! やりやがったな!!
二人が凄いだろうとドヤ顔をしているのを華麗にスルーして、依頼書を確認してみると備考欄の枠口に小さな文字で『本依頼で賞金首を殺害した場合でも、賞金は発生しません』とご丁寧に書かれている。ギルドは、こいつらの賞金額をそのまま懐に収めて、その一部を報酬として払う気でいるのがやっと分かった。しかも、この似顔絵…こいつらにも似ているじゃねーか。
ゴミ掃除に合わせて賞金首まで掃除させようって腹か…完全に私のミスだ。
依頼書をよく確認しなかった不手際…故に文句は言えない。ゴミ掃除が依頼なのだ…そのゴミが偶然賞金首であっただけなのだ。当然、ギルドとしては備考にもしっかり書いておりますので、ゴミ掃除の報酬は払います。賞金首の賞金は残念でしたねと言うつもりであろう。
高価なお土産をマーガレット嬢にあげて、斡旋された依頼がこれとはね。てっきり、楽で利回りの良い依頼だと思ったがババを掴ませてくるとは恐ろしい手腕だ。そのうち、本当に後ろから刺されるぞ。
「はぁ~、やる気が抜けてきたな。で、二人組じゃないんだろう…さっさと、三人目もこちらに呼んできたら。それとも、油断させた隙を見て茂みの中から攻撃するのかな。まぁ、こんな話をしている時点で程度が知れるけどね」
私を殺すなら知覚範囲外から一方的なアウトレンジ攻撃をするか、桁違いな火力を持ってくるかしないと無理だというのに。こちらとしては、下らない話をしてくれたおかげでこちらは準備万全。既に、この階に放った蟲達の7割以上がこの場に集結している。しかし、相手はその事に全く気づけない。
おまけに言えば、三人目はたった今この世からいなくなった。声すら上げさせず迅速に処理が完了した。
「これでもそんな強気で言われるかしら!!」
レイピアの刺突で私の眼球を潰す気だろう。身体強化に加えて、レイピアの先端を『火』の魔法で焼いている。なかなか、えぐい魔法の使い方をする。
蟲達が止めに入りそうだったが…私も働かなくては蟲達に示しが付かないだろうと少し頑張るとする。
レイピアを人差し指と中指で挟む事で威力を完全に殺してみせた。
「「えっ!?」」
「この程度か。お金を稼ぐのも良いが、もっと良い武器を買ったほうがいいぞ。鉄に少量のミスリルを混ぜた安物だと、こうなる」
はっ!!
レイピアを見事にへし折ってやった。まぁ、喋っている間に指向性音波を用いてピンポイントで金属を振動させて武器自体の耐久度をズタボロにしていたんだけどね。変身しない状態では、安物でも力でへし折るのは骨がいるからね。ちょっとした小ワザを用いた。
「奪った物だからね!! 安物で当然よ!! でも、これなら」
女は、へし折れたレイピアから手を離して、背中に隠し持っていたピッケルに持ち替えた。それを見て、なかなか良い武器があるじゃないかと思わず感心してしまったよ。ピッケルはいいよね。あの形状…好きだよ。ロッククライミングで役に立つからね。
ミスリル製か…壊すのは少し惜しいので貰っておこう。
「良い武器だ。貰っておこう」
「出来るものな…」
女が攻撃の体勢に入るより早く手首を掴んだ。
「握力を測った事はないが…この姿でも本気を出せば鉄すら捻りきれる。どの程度鍛えられているか測定してやろう」
「はやく、こいつを始末してぇぇぇ!!」
逃げ出そうとして、ビクともしない事で状況が理解できたようだ。自分達より強い者に喧嘩を売っているという事にね。だが、もう遅い。私に掴まれる前なら仲間の援護が間に合ったかもしれないが、今更動かれてもこちらが手首を捻り切る方が早い!!
ブヂリ
「い゛やあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁー」
武器を持った手首ごと、捻り切って蹴飛ばし仲間の方へと飛ばしてあげた。
「お仲間だろう。受け取るといい。後、これもおまけだ」
仲間を助けに入ろうとした男に対して、女を蹴り飛ばした後に女が持っていたピッケルを追随するように投げつけた。女を盾にしてピッケルから身を守るか、女を庇ってピッケルにその身で受けるか。好きな方を選ばせてやろう。
美しき仲間との友情を見せてくれ。
「このくそったれがぁぁぁぁ!!」
男は、仲間を当然のように盾にして私が投げたピッケルを防いだ。盾にされた仲間は、見事に脳天にピッケルが突き刺さり即死。仲間を盾にしてまで生き残ろうとするその意地汚さ…更に減点だな。
しかも、助けられる状況だったのに己の命惜しさで仲間を盾にして殺したのに責任を私に転嫁するのは止めて欲しいね。私は、女に生き残るチャンスをくれてやったのにね。それを、その手で殺しておいてなんて言い草だ。
その理不尽さ、万死に値する!!
「ふむ、そろそろ皆揃ったね」
「こっちを見やがれ、見下してんじゃねーぞ!!」
男は、小型の丸いシールドと短剣を持った変わったスタイルをしていた。どうやら、暗殺とかそっち系が得意の者なのだろう。
「見下している? おかしな事を言うね…キサマ等、ゴミなど最初から眼中にないわ」
蟲達が一斉に擬態を解いた。
空には無数の純白の虫達が、地上にも溢れかえっており雪景色のように美しい。
「こ、この蟲達は!!」
「ご挨拶が遅れましたね。レイア・アーネスト・ヴォルドー、ランクB冒険者だ。得意の魔法は『蟲』。この度は、ギルドからゴミ掃除を請け負ってきた。では、お仲間の場所へご招待してあげましょう」
ギィ(お父様…お腹減った。もう食べていい?)
ジー(同じく)
ギェギ(ちょっとだけ、さきっちょだけだから、味見してもいいよね。お父様)
大分、待たせてしまったね。では、ランチタイムにしましょうか。
「ま、待ってく」
「お手々を合わせて!!」
ギィー(いただきます~!!)
ジー(いただきます~!!)
ギェ(いただきます~!!)
蟲達が襲い掛かってくるのを見て、瞬時に仲間を餌にして逃げ出すとっさの判断。優秀だな。だが、どこに逃げるというのだね。既にこの場は蟲達によって完全に包囲されているのだ。貴様には、突破口を開く程の力もないはずだ。
ほほぅ。
私から遠ざかるのではなく、あえて近づいてきたか。頭の出来はマシな方だね。数の暴力といっても過言でない蟲達を相手にするより、司令官である私を狙ってこの難局を突破する気でいるのだろう。
「あぁ、言い忘れたが…そこらへんに」
罠が大好きな蜘蛛の子がワイヤートラップを仕掛けているよと教えてあげようと思ったら遅かった。見事に、三等分されてしまった。
相変わらず、えぐい切れ味だな。このトラップには昔、私も引っかかったからね。酷い事に仕掛けられていた場所が、48層の入口だったのだ。ルンルン気分で腕を振りながら移動していなかったら全身が細切れにされていただろう。あの時は、右腕がサイコロステーキにされて、本気で焦ったわ。
ギギ(やはり、男性は肉質が硬いですね。女性の方が美味しいかな)
ジー(いえいえ、肉質が良いんですよ。お肉を食べているって気がするじゃありませんか。女性の肉は、油っぽいからね。あ、お醤油とっていただけますか)
ギィ(お醤油ね、どうぞ)
みんなのランチタイムが終わったら、こいつらが溜め込んだ装備を回収して次の層へと移動するかな。マーガレット嬢も私からの報告を待っているだろうし、早く依頼を達成したいね。
◇
低層(1~10層)でのゴミ掃除を終えて、『ネームレス』ギルド本部にまで報告に来てみれば、孤児院の者達が立っていた。何日もそんな所に立っている暇があるなら、まじめに働けばよいと心底思った。
いや、少し雰囲気が違うな。
『ネームレス』ギルド本部の入口の傍で横一列に並んで情報提供を求めている。なんでも、募金活動に来た子供達が謎の死を遂げたらしい。ある者は、喉元を自らかきむしって死亡、ある者は溺死、ある者はバラバラにと死に様は様々だが…一点だけ共通点があるらしい。冒険者に対して、不快な思いをさせてしまったらしいのだ。
まぁ、それを聞けば納得の結果である。孤児達の死に様と起こった現場が『ネームレス』ギルド本部の目の前、更に手を下した瞬間を見た者が誰もいないのだ。一流の冒険者の仕業であろう。
直感だが…溺死はジュラルド。バラバラにしたのは、エーテリアだろうね。ジュラルド、誰にもバレる事なく肺の中を水で満たす事も可能。エーテリアの剣技ならば、鋭さが異常だから切られても数分は生きている事だってある。
まぁ、あの二人の事だからギルド孤児院の真の目的を読み取り私と同じくゴミ掃除をしてあげたのだろう。全く、紳士淑女は嫌な役回りをやる事が多くて困るわ。
孤児達が、死んだ友達だと思われる似顔絵を手に持って情報提供を呼びかけている。さらに言えば、さり気なく募金箱を子供達が持っており、同情を餌にして冒険者から金を巻き上げている。
死んでも更に飯の種にされるとは…ギルドとは本当に恐ろしい。どれだけ、金を集めたいんだ。あまりの醜悪な様子を見るに耐えなくなり、ギルド本部の中へと入った。
「吐き気を催す邪悪とはこの事だな…で、マーガレット嬢。私に何か言いたい事はあるかね?」
受付まで来てマーガレット嬢の言い分を聞く事にした。答えは分かりきっているが、一応確認はしておきたい。
「ありますよ。レイア様が『モロド樹海』低層に向かった日から、なぜか!! 行方不明者が続出したのですが…心当たりはありませんかね?」
「ここで話してしまっても構わんのかね? ギルドの汚れ仕事が大っぴらに公開される事になるぞ」
ギルドからの依頼で、迷宮低層のゴミという名の冒険者を殺して回ったと知れればギルドの評判は落ちるだろう。その行為が、将来的に冒険者及びギルドの安定に繋がる事を理解出来る者達ばかりではないのだ。目先の利益しか考えていない者達にとっては、ギルドが高ランク冒険者を雇って低ランク冒険者を殺して回っていると捉えかねない。
「どういう事でしょう?」
「いいだろう。ギルドの依頼で今日までに低層で殺した冒険者の数は88名だ!! その中には、賞金首も含まれていたが、依頼書の備考欄に賞金首の報酬は支払いませんと書かれていた。これは、流石に酷いでしょう。依頼の報酬が3000万セルに対して賞金首の総額は1億近い…マネパジもいい加減にして欲しいね」
その声に反応して、周りから視線が集まる。当然だ。この場には低層をメインで活動しているパーティーのメンツも沢山いる。その中には、私がメンバーをぶち殺した連中も含まれており注目を集めるのは当然の結果だ。
今までは、煙のように居なくなった行方不明事件だったのだが…それがギルド主体による行為だと判明すれば非難の目が向くのは当然の帰結。
「えっ…ちょ、ちょーとお待ちください。レイア様、私達ギルドが依頼をしたのは似顔絵の者の排除だったと存じておりますが」
「あぁ、あの誰にでも似ているような似顔絵ね。だから、その似顔絵に似た者達を採点してゴミだった場合に限り掃除しておいたぞ。採点基準は大甘設定。私の標準基準で採点していたら軽く100名を超していたぞ。だが、安心しろ…メンバーに欠員がでたパーティーは陰ながら蟲達が支えていたから、お守りをしたパーティーは全員無事だ」
あまりの素晴らしい対応にマーガレット嬢を含む、受付嬢達の開いた口が塞がらない。それもそのはず、ただゴミ掃除するだけでなくパーティーのお守りまで引き受けていたのだ。ここまで出来る者は滅多にいないであろう。
マーガレット嬢が頭を抱えてブツブツ何かを言っている。「この話を聞いた者は…」「背に腹は代えられないわ」とか言っている。まぁ、どうでもいいのだが早く依頼の報酬をいただきたい。
「エルメス嬢…マーガレット嬢が対応してくれないから、この依頼書の報酬をすぐに用意してくれ。どうした、そんな顔をして。そういえば、エリスを可愛がってくれているようだね。私としても大事にしてもらっているようで嬉しい限りだ」
マーガレット嬢が使い物にならなかったので、近くにいたエルメス嬢に代わりを頼んだ。
「いいえ、私もエリスちゃんにお世話になりっぱなしで…どんどん私自身が堕落していくのが手に取るように分かります。依頼の報酬は、すぐにご準備致します」
マーガレット嬢の後輩であるエルメス嬢は、既に悟りを開いたかのように開き直った顔をして対応をしてくれた。ただ、昼食後のせいなのだろうが…奥歯の歯と歯の隙間に蝗の佃煮の足が挟まっているのが見えてしまった。人前で恥をかかせるのは、宜しくないのでこっそりと手紙を渡す事にしよう。
「依頼報酬は確かに受け取った。で、何やら不穏な視線を感じるのだが…報酬次第では引き受けない事もないが?」
「た、多分大丈夫だと思います。マーガレット先輩が処・・・対応してくれると思いますので」
それならば、大丈夫だろうが・・・保険はかけておこう。エルメス嬢に何かあったらエリスちゃんが悲しむからね。数匹の蟲を護衛として残しておく。
「では、次はもっと割の良い依頼を期待しているよ。それと、これを後で読んでもらえるとありがたい」
報酬額を手に取って、エルメス嬢に手渡ししてギルド本部を後にした。手紙を受け取ったエルメス嬢は、目が点になっていたが…気のせいだろう。
翌日、『ネームレス』郊外で謎の変死体が大量に製造されているのが見つかった。身元は不明だが、その日を境に低ランク冒険者の数が激減していた。風の噂では、ギルドが高ランク冒険者を使って低ランク冒険者を皆殺しにしたとの事だ。
限りある人命を弄ぶギルド。いくら大組織だとは言え、少々やり過ぎではないかと思わずにはいられない。
◆
モキュキュキュー(お父様~Zzz、お父様~Zzz)
モキュ(くっくっく、ようやく寝つきましたか)
同じ絹毛虫として、お父様の独り占めは許しません!! よって、寝入った隙をついてポジションを強引に交代するしかありませんね!! 起こさないように、慎重に影の中に押し戻してスーーと位置を入れ替える。
これぞ、変わり身のジツ!!
モッキュ(ふぅ、誰にも気付かれずにやるのは大変だけど、その成果は十分ですわ。お父様…いい匂い)
全身にお父様の匂いを付けるべく、巻きつく。
キャー!! お父様いけません!! そんなところ触ってはダメです。
ゴフ
モキュ(興奮しすぎて鼻血が…)
「静かに寝ましょうね。よしよし」
お父様の手が頭に…幸せ。もう、死んでも構わ…いやいや、もっと堪能してから。急に眠気が。
………
……
…
翌朝、目覚めてみればお父様の横ではなく影の中にいた。影からこっそり頭を出してみてみれば、他の子が横で寝ていた。
モッキュ(なんてこった、計られた!!)
モッキュ(なんてこった、計られた!!)
モッキュ(なんてこった、計られた!!)
モッキュ(なんてこった、計られた!!)
横を見てみれば、全く同じ発言をしている仲間がいた。
第3回なろうコン一次選考を通過できました。
これも読者の方からやる気(感想)をいただけたからです。
ありがとうございます。
さて、次話の内容を考えないとね。

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