78/137
第七十八話:慈善活動(2)
◇
ビチャ
迷宮へと向かおうとギルド本部を出た瞬間、あろう事か孤児達に泥を投げつけられた。当然、避ける事など容易かったが…子供達にも言い分があるだろうと思い甘んじて受けた。己の命を懸けても言いたい事があるのだろう。それを聞いてあげるのも貴族の務めだ。
その様子を見ていた受付嬢達の顔は、面白い顔芸だった。
「で、子供達よ。人様にいきなり泥を投げつけるのはどうかと思うぞ。一応、言い分だけは聞いておこう」
「何も悪い事なんてしてないのに、なんで中から追い出すんだよ!! 聞いてたんだぞ!! お前がお姉ちゃん達に追い出せって言っているのを!!」
何を言い出すかと思えば、そんな当たり前の事を。聞こえるように言ったのだから当然だろう。それで聞こえないというのならば、耳が悪いとしか言えない。
しかし、教育が行き届いていない子供達だな。私が運営していた第一孤児院の連中なんて、同じ歳でも遥かに出来た子供だったぞ。
私が運営する孤児院は、恐怖で従順にしている事は否定しない…領民からの税収や私財で養っているのだ。将来的に、与えた物以上の対価を将来的に返してもらわないといけないから、それ相応の教育を行っている。読み書き、四則演算、家事全般、農業に関する知識などを教えているのだ。理解するまで何度でも繰り返す。
しかし、ギルド運営の孤児院はそういった事がない。ただ、育てて出荷するだけの機関だ。優秀な者がいれば、就職先としてギルドが斡旋される事もあるだろうが…基本的に一定年齢で放逐される。
「も、申し訳ありません冒険者様!! この子には、私がキツく言っておきますので…どうか、子供がやった事だと思って、お許しを」
引率者の女性職員が頭を下げてきたが…何を勘違いしているのだろうか。
子供がやったことだから許せと!! アホとして思えない意見だ。考えて欲しい。心も体も未成熟の子供が、『神聖エルモア帝国』の大貴族であり、圧倒的な善政を行い国家に多大な貢献をしているこの私に対して泥を投げつけてきたのだ。
もし、大人になって身も心も成熟したらどんな犯罪を起こすか想像もつかない!! 下手したらガイウス皇帝陛下を殺す駒にもなるかもしれない。
そんな危険人物をなぜ許せと言うのか、ギルド運営の孤児院はどうなっているのだ。
はっ!!
そういう事か。この引率者の本当の目的は、募金活動などではなく不要な者を合法的に破棄すべく『ネームレス』に来たのか。きっと、私のような紳士ならば心の内を読んでうまい具合に処理してくれると…そんな淡い期待を抱いているに違いない!!
そうでもなければ、こんな人様にご迷惑をかける子供を『ネームレス』まで連れてくるはずもない。孤児院への援助金が減ったこの期に孤児達の選別に入ったのだろう。補助金が減ったなら子供も減らそうという方法に出たのだろう。
なんという計画性…この私ですら危うく見抜けないところだった。
「本当は、こんなサービスはしないのだが…私の機嫌がいい事に感謝しろ」
暗殺用に開発した蚊…モンスターの血や肉は人体に非常に有害だ。ならば、その有害な血を人間の血管に直接混入させたらどうなるだろうか。数時間とせず冒険者ですら苦しみもがいて死ぬのだ。子供ならば、効果抜群であろう。
一匹の蚊が私に泥を投げつけた子供達の足を刺した。
「ありがとうございます。せめて、クリーニング代を…」
社交辞令の演技までこなすのか…ギルド孤児院の引率者はできる奴だな。
だが、私の冒険用の衣服が幾らするか分かって言っているのだろうか…モンスター素材というか、私が作った絹毛虫ちゃんなどの世界に生息していない蟲達の希少な素材を使い丁寧に編み上げた一品なのだ。そんなお洋服をクリーニングしてくれるお店などない!!うちでは高価な物は取り扱えませんとお断りしか受けた事ないぞ。だから、いつも私が手洗いしている。
「そうだな。私も大人だから迷惑料については目をつぶろう。汚れが染み込んでしまっているのでクリーニングでも落ちないね。この服…大変貴重な素材を使っているから、1億セルで手を打とう」
「い、1億!! たかが衣服でそんな…」
紳士淑女達の衣服のお値段としてはこのくらい当然である。命を守る最終防衛ラインでもあるのだ。その程度のお金をかけないでどうする。
「はぁ~、最初から払う気がないならクリニーング代とか言わないでいただきたいね。適正価格なのだがね…疑うと言うならば、受付嬢にでも聞いてみるといい」
まぁ、もう払わないでもいいけどね。死んで詫びてもらう事になったからさ。いくら私でも死人にムチを打つ真似はしない。しっかりと、詫びを受け取った。
バタン
子供が青ざめた顔をして吐血して倒れた。
「す、すみません。子供が…」
「泥の事なら気にするな、終わった事だ。では、仕事があるのでこれで失礼させてもらおう」
子供が首元を掻き毟っているのを心配そうに見守る引率者。主演女優賞を取れるくらいの演技である。内心、これで一人分の食い扶持が減ったわ。次は、誰を処理しようかしらと思っているだろう。
怖いね。
私程ではないが、ギルド本部にも紳士や紳士の可能性を秘めた冒険者が居るから引率者の心を読んで残りの子供達の処分についても、さり気なく手助けをしてくれるだろう。私が全て処理してあげてもいいけど、他の者達の出番を取るのはよろしくないからね。
潜在的な危険人物の排除と資金難のギルド孤児院の双方を無償で助けるあたり、紳士にしかなせない偉業であろう。
◇
「しかし、酷い場所だ」
普段は、トランスポートを使うので『モロド樹海』低層入口になんて久しぶりに来たが…酷い場所だな。
『モロド樹海』1層への入口には、10代前半の子供達や30過ぎの油ぎった中年達が屯っていた。
前者は、荷物持ちや野営の警備などをして生活をするサポーター達。雇い主に気に入られれば、安定した収入を得られるだけでなく迷宮で生き残る術を学べる。その為、雇う側からすれば選びたい放題だ。いざという時の餌替わりや夜のサポーターにするなど様々な用途で雇われる。
後者は、成り上がれなかった冒険者の残りカスだ。私的に言わせてもらえば、全く才能が無かった訳ではないと考えている。中年になるまで低層とは言え冒険者として生き残ったのだ。だが、現状で満足して未来を考えていない者達。才能ある若者を成長する前に潰す事や人の儲けをかすめとる事に生きがいを感じている連中だ。
第三勢力として、娼婦やタカリの者達も見かけるが非常に少数だ。娼婦の場合、稼ぎがよい中層や下層をメインとする冒険者に雇われたいと考えるだろう。しかし、教養や容姿に優れていないと一流の冒険者には相手にされない。要するに、低層入口は一流の冒険者に相手にされてないような微妙なラインナップの見世物市になっている。
私がここに通っていた時代と何も変わっていない。
フードを深く被り、顔が見えないようにした。
「お兄さん、もしかして一人? いくら大人でも一人じゃ危ないよ。今なら私達が一緒に………」
格好を見る限り、タカリの類であろう。迷宮だというのに、装備は男受けしそうな露出度の高い服のみ。顔や手などの生身が見える箇所には、傷らしい物は見当たらない。
これだけの数の中から、私に声を掛けてきた直感だけは褒めておこう。低層入口にいる有象無象の中で一番稼げるのは私であるのは間違いない。だが、話しかける時は相手の中身まで見るべきだよ。
「他を当たれ売女共」
口が悪いと思われるが、仕方がないのだ。
洒落にならないくらいに臭いのだ。見た目こそ取り繕っているが、中身がボロボロなのがよくわかる。歯並び悪い、虫歯、歯の隙間に食べ残しが詰まっている。髪質も既に死んでいる。更には、きつい香水でごまかしているが、体臭が相当きつい。思うに、風呂に入るのは週に一回程度だろうね。
しかも、きつい香水で騙しているがザリガニの腐ったような臭いが衣服にしみついている。洗剤などの高級品を使って服を洗っていないのだろう。
そんな女達に擦り寄られたのだ。自分まで臭くなるのではないのかと思い口が悪くなるのは当然だ。この臭いに堪えられるのは、身だしなみに気を使っていない同レベルの異臭を放つ冒険者だけであろう。底辺達には底辺がお似合いだ。
売女達を振り払い、迷宮へと足を進めた。偉そうにとか感じが悪いとか悪口が聞こえるが、完全に無視。
◇
迷宮1層に降り立つのは久しぶりの事だ。懐かしい気分に浸る中、蟲達を解放した。
ゴミという名の品格のない冒険者達を掃除して欲しいなんて…全く、ギルドも思い切った事をやるものだね。私のお眼鏡に適う冒険者など少ないというのに。流石に、ローウェル君達ほどの品格は求めていない。そんな事をしたら『ネームレス』にいる冒険者の8割を殺さないといけないからね。だから、採点は大甘だ。
だが、私にとっても渡りに船の依頼だった。低ランクではあるが、冒険者相手に良い経験を蟲達に積ませる事が出来るだろう。当然、やるからには一流らしく、証拠一つ残すべからず。
誰も気づかないうちに、採点を行いそれに則り執行する。
「証拠さえ残らなければなんでもありだ。人目を避けて、確実に!! やり方は皆に任せよう。何か質問は?」
今回、影の中から出てきた蟲達は、低層のモンスターを殺すには余りある力を持っている。キルレシオ換算すれば1デス100キルはあるだろう。慎重にやれば、それ以上出せそうだがね。なんせ、擬態化能力に特に優れた蟲を選抜したからね。実に暗殺向けだ。
数千に及ぶ蟲達が広い迷宮に飛び立ちたいと私の話が終わるのを待っている。あれだね…学校の校長先生の気持ちが若干わかったよ。そんなに、長い話をするつもりはないんだからさ、一分くらい話してもいいでしょう。
ギッギ(モンスターの対処は、どうしますか?)
「好きなだけ、食べてよろしい」
ジー(不合格の冒険者は?)
「骨一つ残さず、食べてよろしい。無論、誰にも知られずにね。第三者に目撃された場合には、第三者を確保。私が蟲を使って記憶を消そう」
ギィィ(見つけた食料は!?)
「全て食べてよろしい」
食べ盛りの蟲達は、私のオーダーに大喜びだ。
いつもと命令している内容は一緒なのだけどね。どうせ、止めても勢い余って食べてしまう。それなら、蟲達も心置きなく食べられるように最初から命令を食べてよしにすれば良いだけだ。
ギッギ(ソース分隊は、南の方に行ってきます)
ジッ(マヨネーズ分隊は、北の方を)
そして、私が唯一持ってきた荷物から蟲達が各々の好みに合った調味料をもって飛び去っていった。他にも、味噌分隊や塩分隊などが設立された。また、瀬里奈さんに送ってもらわないとな。すぐに、品切れしてしまう。
それにしても美味しそうな分隊名だ。可愛い蟲達にぴったりである。
「では、私も動くかな」
吉報が届くまで近くを散策する。未来の後輩達の働きでも見て回るとしよう。
◇
低層というだけあって、結構な数のパーティーがいた。本来なら、広い『モロド樹海』でパーティー同士が獲物を取り合うような事はないのだが、この日ばかりは珍しくパーティー同士で争いが発生している。
どうやら、蟲達が頑張っているおかげで獲物が不足しているようだ。この階層で狩りをする冒険者では私の蟲を感知する事は出来ないようで、モンスターが激減した理由がわからないようだ。僅かな時間で骨すら残らず平らげてしまう。残るのは、せいぜい香辛料の残り香くらいだ。
そんな争いを文字通り高台の上から見物している。
ギ(お父様、きのこが焼けました。味付けはお塩ですよね!!)
ギィイ(いやいや、ここはマヨネーズでしょう)
ジーー(ソースと言いたいですが…ここは、仲良く全部のせにしましょう!!)
蟲達が仲良く持ってきた調味料をきのこに全乗せしてくれる。できれば、部分ごとで綺麗に味付けを分けてくれれば良かったのだが…本当に全部乗せてきた。お父様は、子供達の成長に涙を隠せない。多少、塩分過多ではあるが問題ない!! 可愛い蟲達が私のために用意してくれたのだ。それを食べないなどあり得るはずがないだろう。
焼きキノコ調味料全部乗せを受け取り一口食べてみる。大丈夫だ…全然許容範囲の味だ。メシマズテロになるかと思ったが、食えるレベル。
「ありがとう、皆。だけど…調味料は、全乗せではなくて次からは選びましょうね」
折角、料理の腕前を鍛え上げた蟲もいるのだからアドバイスを貰うなりして欲しかった。嬉しい事には違いないね。
ムシャムシャ
眼下でモンスターを探している冒険者が苛立っているのがよくわかる。迷宮低層のモンスター素材なんてゴミ値にしかならない。経費を考慮すると相当の数を熟さないと黒字にはならない。
焦る気持ちも当然だ。
まだ、サポーターに当り散らす事はしていないが時間の問題であろう。モラルの低い連中が多いのだ、きっと夜には何かしら問題を起こすと見える。
◇
夜も更けり、就寝の時間になった。
夕食も食べ終わり、シャワーも浴びて、身も心もすっきりした。後は、布団の中で朝を迎えるだけだ。新品同様のこの毛布は最高だ。そして、抱き枕の絹毛虫ちゃん。底辺冒険者達は、この寒空の下でモンスターを警戒しつつ野宿とはご苦労な事だ。
不幸中の幸いは、暑い時期でないという事だね。暑い時期は、食料は腐りやすいし、水はダメになるし、汗臭いし、本当に最悪だよ。
お父様である私がベッドの中でお休みしているのに、蟲達だけに働かせるのは若干気が引ける。だが、お仕事なので一部の蟲達には、昼間に引き続き偵察に行かせている。
夜の態度も当然採点してあげないと不公平だよね。昼間の採点結果と夜の採点結果を元に執行する。昼は冒険者としての実力を。夜は人としての人格を。実によく考えた採点だと思う。
それにしても、低ランクのゴミ掃除ね…私の時代には無かった事だ。
真面目な冒険者がバカを見ない世界にしようとギルドが本気で重い腰を上げたのだろうか。…いや、そんなわけないよね。もし、その通りならば、ギルドという存在をまず解散させるのが一番の近道。
もしかしたら、低ランクのゴミ掃除を行った後は高ランクの掃除も始まるのかな。ギルドが一番喜ぶのは、高ランク冒険者が死ぬ事だ。特に、財産を倉庫に預けたまま死ぬ事がよしとされている。低ランクと違い高ランクは大変だよ…まぁ、私は大丈夫だろうけどね。
だが、現状をみて一つ言えることは。今の若い子達は羨ましいね。ギルドが高ランク冒険者を使って、育つ環境を整えてくれるのだからさ。私なんて何度、嫉妬や妬みから命を狙われたか分からないよ。しかも、ギルドの手先ばかりだったからね。襲ってくる連中がね。
「低ランク達の環境を整えるのもいいけど…稼ぎ頭の高ランク冒険者の扱いを改善して欲しいよね。奴隷じゃないんだから、安い報酬でこき使い過ぎでしょう」
今回の依頼だってどれだけのゴミを掃除するか、完全に依頼を受けた側の心意気次第。1人でもいいし、1万人だっていいのだ。他の高ランク冒険者に迷惑にならないように恥じない成果を求められている。
それで、3000万セルというのは安かった気がする。
…………
……
…
人様が気持ちよく寝ているとこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。近づく者は有無言わさず殺すようにとも指示を出していないので、私の判断を待っているのだろう。
本当に、呼んでもない厄介事を持ってこないで頂きたいよね。
直ぐに蟲が事の詳細を報告に来てくれた。こちら逃げてきているのは女性一人。それを追いかけるかのように男性冒険者が数名という事だ。小窓を開けて外を見てみると真っ直ぐにこちらに向かっている。
夜だというのに少し明かりを使いすぎたか。おまけに、小窓を開けたせいで間違いなくこちらの位置を特定しただろうし、困った事だ。まぁ、良いか。
ベッドに戻り毛布をかけ直す。
「施錠もしたし、中までは入ってこられまい」
一郎が一匹、一郎が二匹、一郎が三匹、一郎が………
ダンダンダン
「開けてください!! お願いします。助けてください助けてください」
ダンダン
う、煩い!! 寝る時は誰にも邪魔されず静かに寝るのが大好きなこの私に喧嘩を売っているとしか思えない。諦めてどこかに行かずに扉を叩きまくる根性だけは褒めてやろう。
仕方がない。この私が世間の常識というものを説いてやろう。
扉の小窓を開けると、肌着が乱れて体中に擦り傷を負った女がいた。恐らく、冒険者達に逃げる際に負ったものだろう。なーに、迷宮ではそういう事も含めてよくある事だ。
「うるさいぞ!! 今、何時だと思っている!?」
既に深夜だ。そんな時間に他人の家の扉を叩いて住人を無理やり起こすだけでなく、刃物を持った底辺冒険者まで引き連れてくるとは、頭がおかしいとしか言えない。
「そんな事より、追われているんです!! 助けてください」
「悪いが、このログハウスは一人用だ。他をあたってくれ」
私の睡眠をそんな事と勝手に決めるとは何様であろうか。私より偉いのだろうか。もはや、同情の余地すらない。それに、女にも告げたとおりこのログハウスは一人用だ。
そんなやりとりをしていると、見える場所まで女の追っ手が迫ってきた。一体、私が何をしたというのだ。ただ、眠りたいだけなのに。
仕方がない…安眠の為だ。寝巻きの上からローブを纏った。一応人前にでるのだから最低限の身だしなみは必要であろう。扉を開けてやると女は安堵の表情をした。そして、首根っこを掴みあげる。
追っ手の冒険者達が各々の得物を構えてこちらの出方を窺っている。まぁ、当然だよね。慣れ親しんでいる迷宮低層に見慣れないログハウスが建っているのだ。警戒しない冒険者はいないだろう。
「お前達が雇ったサポーターか?」
「そ、そうです。だから、こちらに引き渡していただけませんか。そいつには高いカネ払っているもんで」
女は気がつかなかったようだが冒険者の方は、私の事を知っているようだな。口調が急に大人しくなった。様子を見る限り5人中3人が私の事を知っているようだ。ホームグランドである『モロド樹海』だと、やはり知名度はそれなりにあるようで嬉しい限りだ。
「何が高いカネだよ!? 二束三文じゃないか。街にいる娼婦だってもっと貰っているわよ」
なるほど、これは女が悪いな。
この女…金は欲しいが体を売るのは嫌だというタイプか。夜のサポーターで雇われたが…土壇場でいちゃもんを言う輩っているのだよ。貰った給料分は働かないとダメだよね。
街にいる娼婦もピンキリだが…この場合は、お店で働いている娼婦の事を示しているのだろう。だとしたら、頭がどうかしているレベルだ。店で働く娼婦は、教養も行き届いている。話術などのコミュニケーションスキルが鍛えられておりお客様を楽しませる事に特化した者達だ。
だが、キサマは違う。だからこそ二束三文の値段なのだ。
「なるほど、よーくわかった。受け取れ」
「えっ!! ちょっと…」
女を追っ手の冒険者に投げ捨てる。
追っ手の冒険者も素直に返してくれるとは思っていなかったようで唖然としている。そんなに驚く事なのであろうか。どちらの非があるかは明白である。まさか、この私が女の言う事を鵜呑みにして一方的に男性が悪いと思うような人物に思われていたとしたら残念だ。
これでも、人を見る目はあると自負している。
「あ、あぁすまね…俺らは、これで」
リーダー格らしき男が仲間を急かす。しかし、大事な事を忘れているでしょう。
「おぃおぃ、まさかそのまま帰るつもりなのか? こんな夜更けに迷惑を掛けたんだぞ。出すべき物があるんじゃないのかね?」
全く、人様にご迷惑をかけたというのにたった一言の謝罪だけで終わらそうというのだ。何を考えているのだろうか。それに、貰う物を貰っておかないと他の冒険者に示しが付かない。
リーダー格の男がすぐさま懐から財布を取り出して私の方に投げてきた。
「これしか持っていない。これで見逃してくれ」
………
……
…
何を勘違いしているんだ。それに、こんな端金なんていらないぞ。
「馬鹿かね君は。なぜ、君がお金を払うのだね? 払うべきは、その女だろう? 女がここに来なければ私に迷惑を掛ける事はなかった。ならば、迷惑料を払うべきは、その女だ」
当然の事を言っただけなのに、冒険者一同が顔を見合わせている。そんなに変な事をいっただろうか。今回の出来事の責任は、すべて女にある。まぁ、代わりに払ってくれるならそれに越した事はないが払いきれないだろう。
深夜割増30%を付けて、キリよく1000万セル程頂ければこの怒りを鎮めよう。一流の紳士たる者、人を許せる心は大事だ。
「1000万セル…それだけ即金で貰えれば、今回の一件を水に流そう」
「は、払えるわけないでしょう!! そんな大金があったら苦労しないわよ」
そうか、ならば仕方がない。
「そうか、なら決まりだ」
貧乏臭いと思っていたが、やはりこうなったか。金で助かる命であったというのに残念だ。
投げ渡す時に仕込んでおいて正解だったわ。
パチン
「ごおおおおぇぇぇぇ!! ぎゃあ゛ああぁぁぁぁぁぁぁ」
女の体内から無数の蟲達が顔を出す。その様子を見た冒険者一同が女から距離を取る。内臓を食い破り出てきた蟲達は生まれたばかりで、栄養と求めて母体となった女の血肉を貪る。悲鳴がしなくなる代わりに、蟲達の食い荒らす音が鳴り響く。
瞬く間に、何もなくなった。
「おいで可愛い子達」
ピーピ(お父様、お父様、おとうしゃま)
ギーギ(お邪魔しまーーーす)
蟲達が一斉に影の中に飛び込んでいった。
「「「「「お、俺達はこれで失礼します!!」」」」」
「そんなに急がなくても…」
悪い事なんて何一つしていないのに全力で逃げる必要はないだろう。迷惑を掛けられた者同士、親睦を深めようと蟲出しコーヒー入れてやろうと思ったのにね。
まぁ、いっか。
しかし、底辺冒険者達も大変だよね。私のように理解ある者だったから良かったけど、理解の無い冒険者だった場合には女の言うことを鵜呑みにして殺し合いに発展しかねない。これは、本格的に掃除を行う必要がありそうだ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。