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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第七十二話:不穏分子(3)

◆一つ目:マーガレット嬢


 ガイウス皇帝陛下を帝都までお送りして、今後の計画を立てた。

 国内の後ろ盾が得られていない王位継承権4位以下の者を中心に身辺調査を行うとしよう。そういう連中は、外部に支援を求めるしか手がない。もちろん、対価として皇帝になった暁に多大な恩賞を与える事を余儀なくされる。

 幸い、四大国の一つである『ウルオール』は今回の一件はノータッチだ。ゴリフターズのご両親にお手紙を送らせていただき、此度の後継者争いに手出しはしないでいただきたいと心を込めてお願いした。当然、ゴリフターズも同様の手紙を書いてくれたので聞き入れてもらえるだろう。対価として、私の個人的な資産であるオリハルコンやミスリルなどの金になる品々を贈呈させてもらった。『ウルオール』内の煩い連中を黙らすのには、金も入用になるだろうしね。ゴリフターズの祖国である『ウルオール』とて一枚岩でないので、勝手に動く者もいるだろうがその程度の雑魚など何とでも処理出来るから問題ない。要は、国家として静観を貫く方針を貫いてもらえばいいのだ。その為の金だ。

 次に『聖クライム教団』だが、『闇』のグリンドールさえ出てこなければ何も望まない。宗教絡みでもないので出張ってくる事はないだろうが一応警戒だけはしておく。皇族は、全員無宗教と聞いているので心配はしていないが、今回の後継者争いを機に後ろ盾を得る為だけに入団しない事を願う。『聖クライム教団』を後ろ盾に得られれば心強いが…骨の髄までしゃぶられる事になるのは火を見るより明らかだ。そんな馬鹿がいたら、即刻潰す。

 そして、最後の脳筋国家『ヘイルダム』。全く接点がないから、よくわからないのが本音だ。その名の通り頭の中まで筋肉でできている事を信じて何もして来ないことを切に願う。個人的には一番注意を払うべき国だ。『神聖エルモア帝国』と『ヘイルダム』の国境近くに瀬里奈ハイヴが存在するのだ。万が一、この国家の支援者が皇帝になった場合には瀬里奈ハイヴが他国の領地になる可能性もある。他にも、軍を率いてきた場合に瀬里奈ハイヴ付近を野営地にされたりしたら目も当てられない。

 最後に、世界の諸悪の根源『ギルド』だ。分かりきっている事だが、当然手出しはしてくるだろう。一定水準以上の人材を湯水のように用意出来るギルドの後ろ盾は大国を後ろ盾に付けるに等しいと言える。無論、ギルドという性質を考えれば受けた依頼に対して最適な人材を派遣するだけなので職務を全うしているだけと言われればそれまでだ。

 だがね…ギルド以外にも言える事だが、後継者争いへの過剰なまでの介入は、内政干渉というのだよ。一応、奴隷禁止と同じく内政干渉は禁止されている。

「まずは、エーテリアとジュラルドの動向でも調べるかな。あの二人の事だから権力争いなどの遺恨を残す事に参加するとは思えないが…国内で、私を殺しうる数少ない存在。警戒しておくに越した事はない」

 私が中立を保つ以上、次の有力な戦力は間違いなくあの二人である。二人が参加すれば、『神聖エルモア帝国』が誇る騎士団ですら紙屑のように蹴散らせるからね。

 怖いね。

「旦那様…私達もご同行いたしましょうか?」

「旦那様の事ですから、いかなる状況でも打破できると信じておりますが…予想の斜め上を行く事があるかもしれません」

 確かに二人の言う通りだ…だが、隠密行動をするには正直いって二人は目立ちすぎる。体格に恵まれすぎており、物陰に隠れるのも大変。蟲を使ったステルスでも流石に違和感が残るレベルだ。

「ありがとう。心配して貰えて嬉しいよ。でも、こう見えて逃げ足には自信があるし、二人ほどではないが腕にも自信はある。旦那である私を信じて家を守ってもらえないか」

 一緒に行動した際に私が見事に罠に嵌まり、汚名を着る事になったらゴリフターズの顔にまで泥を塗る結果になりかねない。その為、行動するのは私一人でいいのだ。最悪、私が汚名を着る事になってしまえばゴリフターズとて無傷とは言えまいが、被害を最小限にできるだろう。

 ………いや、ちょっと待てよ。

 私が敵の場合、レイアという人物の行動をどのように読む。

………
……


 ピコーーン



 情報を集めるには、理想的な場所がある。

 それは、この世界において情報が集まる場所の一つ…ギルドである。ギルドには、総本山や各拠点にあるギルド本部から毎日情報が送られてくる。当然、使える情報などは一部であるが、その一部が重要な手がかりになる可能性がある。

 ギルドも当然、第三者に情報を見せるような事はしてくれない。だが、見せてくれないならば勝手に覗けばいいのだ。実にありがたいことに、この世界では電子媒体や電子ロックなどは存在しないので資料が保管されている部屋にさえ入れれば、紙媒体なので閲覧可能なのだ。

「ふぅ~、私という存在がいるのに地下からの侵入を警戒しないとはね」

 正面から潜入する手もあったのだが、不測の事態が発生した場合に見つかる恐れがあったので地下から穴を掘って入ってきた。侵入した部屋は、ギルドの依頼書の控えや運営に関する資料などが集められている資料室。

 人の気配はしない。すぐに、蟲達を解放して資料を漁り始める。後継者とて馬鹿ではないはず…偽名での依頼、第三者を通じての依頼などが考えられる。他にも、ギルドの手駒をそのまま依頼書なしで斡旋しているケースなども有り得る。だが、必ず手がかりはあるはずだ。

 後継者についてガイウス皇帝陛下が漏らし始めた時期を考えればここ最近の依頼が怪しいのは明白だ。それを中心に漁ればいい。

「これは…受付嬢の給料明細か。ふーーん、結構稼いでいるな」

 大企業の部課長レベルだ。年齢的に考えれば、破格の給料。だが、今はそんな資料を漁っているわけではない。次にギルドの依頼書控えが纏められたファイルを開いた。

………
……


 ここ最近、迷宮に関わらない依頼で冒険者を集めている者…それが狙い目である。『ネームレス』以外のギルド本部でも冒険者は集められるが、質と量を考えれば『ネームレス』が理想の場所だ。なんせ、迷宮という稼ぎ場があるからね。

「ふぅ~ん、特に怪しいのはこの3人か…」

 エーテリアとジュラルドを指名している帝都を中心に活動している大商人、ランクCを中心に20名以上を集めている冒険者。他国の跡目を継げなかった貴族を中心に集めている冒険者。

 帝都を根城にしている大商人は、後回しでも構わないだろう。国内の者を頼る分には、気をかけるまでもない。一番気にすべきは、三番目の貴族の冒険者を中心に人を集めている者である。そいつらの親は、間違いなく他国の貴族…子供から親へとツテを辿る気なのだろう。

ギィギ(お父様、これ!?)

 子供達が持ってきた資料を見てみると…瀬里奈ハイヴ付近の情報が纏められていた。ガイウス皇帝陛下が直轄領に指定した際の書類のコピーまで貼られている。幸い、瀬里奈の存在までは記載されていないが、調査を継続する旨が記述されている。皇帝陛下の直轄領で私の家に家紋まで入れた旗が立っているのに不法侵入すると堂々と書かれているのだ。

 その計画の承認欄にキース・グェンダルのサインが書かれていた。

「私の大事な場所に土足で踏み入ろうとは。いいだろう…そこまで、死にたいのならば此方も全力で潰す」

 ドンドン

「あれ? 誰か資料室にいるんですか?」

 ちっ!!

 まだ、すべての資料の確認はできていない。資料を元あった場所に戻させて、蟲達を隠れさせた。後継者の件は当然だが、瀬里奈さんの存在がギルドの知られかけているという事実が気がかりである。やはり、あの時に殺しておくべきだった。

 扉を開けて中に一人入ってきた。

「資料室は、ギルド長の許可がないと立ち入り禁止ですよ」

 この声…エルメス嬢か!!

 陛下の犬とはいえ、見られてはダメだな。侵入してきた穴を塞ぎ終えていない…あまり好きでないが、擬態化するか。



「知っているわ。ちょっと調べ物をしていただけよ」

「マーガレット先輩でしたか…あれ? お一人ですか?」

「そうよ」

 悪いねマーガレット嬢。しばらく、君の容姿を拝借するよ。身体的特徴から服装まで完璧にトレースしてみた。しかし、身長だけは調整が難しく誤魔化すには限界がある。

「あれ? マーガレット先輩、本日は用事でお休みと伺っていたのですが」

「えぇ、調べ物も終わったから今日はもう帰るわ。貴方も仕事を頑張りなさい」

 資料室の入口に居たエルメス嬢を引っ張り、部屋の外へと移動した。

 出る際に、あとは任せたと中に残った蟲達に伝えた。頭のいい子達だから、何も心配する事はない。今頃は、必要な資料を記憶して順次脱出をしているところだろう。

「えぇ…あっ!? マーガレット先輩も香水変えました? なんだか、良い匂いがします」

「こらこら、犬みたいに人の匂いを嗅がないの。早く仕事に戻りなさい」

 とりあえず、軽くデコピンを食らわせて黙らせた。

「………変です!! マーガレット先輩の女子力が昨日より格段に上がっている気がします」

 やめろ!! 女子力とかないからな。早く、仕事に戻れよ。こちらは、忙しいんだよ!!

「いいから、黙って仕事に戻れ」

 怒気を込めて優しくお願いをしてみた。

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 脱兎の如くエルメス嬢が立ち去っていった。

 あとは、裏口から外に出て人気のない場所で擬態を解くだけだ。すれ違う人達に軽く会釈して裏口へと移動した。移動の際に、休みだったのではと聞かれる事があったので少し調べものがあってと伝えると直ぐに引き下がった。

 いや~、本当に運がいいわ。マーガレット嬢がまさか休んでいるとはね。これも日頃の行いのお陰である。鉢合わせする可能性が無いというのは気が楽だ。

………
……


ギルドの裏口から外に出て人通りの少ない場所に行くと後ろからつけてくる者がいた。尾行にしてはお粗末過ぎる。歩き方からして素人か。

「マーガレット!! どこに行くの!?」

 名前を呼ばれて振り向いてみれば…そこには、懐かしい顔があった。寿退社してから、直接会う事はしなかった。私という存在が、彼女に迷惑を掛ける恐れがあったからだ。

「フ、フローラさん」

 フローラ嬢…私が、幼少期に大変お世話になった受付嬢だ。今では、結婚して1児の母になっている。ただでさえ聖女のフローラ嬢に母性まで加われば鬼に金棒である。全く、恐ろしい人だ。30歳近いというのに、その美貌は変わらぬままだ。これが人妻の色気か…ガイウス皇帝陛下にはご紹介できないな。

「フローラさんって…貴方大丈夫? いつもは、義姉さんというのに」

「ちょっと、驚いただけ。義姉さんは、何の用?」

「何の用も…今日は、お見合いをするって伝えていたでしょう。今から、寮まで迎えにいくつもりだったけど裏道に入るのが見えたから追ってきたのよ」

 お、お見合いだと!!

 ギルドの死神マーガレット嬢にお見合いだなんて、相手が可哀想だと思わないのか。結婚して三日もしないうちに不慮の事故で未亡人になるぞ。一体、誰かそんな悪魔的な計画を………犯人は知っているけどさ。

「そ、そうなの…じゃあ、寮で落ち合いましょう」

「何を言っているのよ。さぁ、馬車も待たせているんだから直ぐに行くわよ。大丈夫よ。あなたは化粧なんてしないでも十分綺麗だから」

 フローラ嬢に手を引っ張られて、そのまま馬車に押し込まれた。強引に振り解く事なんて訳ないが…マーガレット嬢に変装していた事がバレるのが問題だ。国家の膿を排除する為にギルドに潜入していましたと教えるのはいいが…マーガレット嬢に擬態化した事は知られたくない!! それでは、私が女性に擬態化して変態行為を楽しむ変態紳士だと思われかねない。

ギィ(おぃ、お父様が擬態化した状態で連れて行かれたよ)

ジー(どうしようか。とりあえず、お父様の倉庫に戻って集めた資料を精査しておこう)

ギィギ(お父様が強引に離脱しないという事は…なにか理由があるはず。はっ!? これはもしかして私たちの技量が試されているのでは)

ジッジ(なるほど、我々がどれだけお役に立てるかアピールする時ですな。直ぐに資料を纏めましょう。怪しい者は、残った者達で手分けして裏を取る!!)

 可愛い子供達の成長に感激を覚える。大事な判断は、倉庫にいる幻想蝶ちゃんと絹毛虫ちゃんの意見を聞くんだぞ。あの子達、本気で知能指数高いから最適解を出してくれるだろう。



「一体どういうことよ!!」

 待ち合わせ時間を30分過ぎても義姉さんが迎えに来ない。今日は、お見合いをするという事でギルドの仕事も休んだというのに。化粧だって入念にしたのよ。

 義姉さんの話では、ギルドのお偉い方から是非ご紹介して欲しいという話で回ってきたお見合いと聞いている。私の美貌がギルドお偉い方に耳にまで届くようになったとはありがたいことだ。

 これで人生勝ち組間違いなし!!

 この際、容姿や年齢などの要素は目を瞑る。どうしても受け入れられない場合には、不慮の事故が起きるだけだから。受付嬢として培った知識があれば、劇薬の類の扱いもお手の物である。

「それにしても来ないわね…こちらから出向こうかしら」

 出向こうと思った時、見覚えのある蟲がこちらに歩いてきた。そして、私の前で止まった。

 ギィギ

 何かを喋っているようだ。こちらに、口に咥えている手紙を見せている事から受け取れという事なのだろう。

『本日のお見合いは中止になりました』

………
……


「えっ!?」

 問い詰めようにも、通訳ができるレイア様もいない。更に言えば、手紙を持ってきた蟲も既にいなくなっていた。

 どうなっているのよ!!


頭の中で話がまとまらず…ようやく落ち着いた(´・ω・`)
いろいろな方向性の話を考えましたが、この路線で行くことにしたお。
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