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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第七十一話:不穏分子(2)

◆一つ目:瀬里奈


 ふぅ~、今日も朝からよく働いたわ。

 日が昇ると同時に起床し、朝の鍛錬を開始する。あらゆる状況を想定した鍛錬。いつ何時、冒険者に襲われるか分からない以上これだけは欠かせない。仮想敵は、レイアちゃん、ゴリフリーテさん、ゴリフリーナさん、ミルアちゃん、イヤレスちゃんだ。

『やっぱり、あの三人は別格よね。レイアちゃんは、攻撃力こそ低いけどその他が優れているし…ゴリフリーテさんとゴリフリーナさんは、そもそも近づけない。自分より強い人と戦うなんてナンセンスよね。やっぱり、逃げの一手に限るわ』

 万が一、この場所を私より強い冒険者が襲撃して来た時に備えて100を超える逃走ルートを用意している。当然、追われても逃げ切れるように考えつく限りの仕掛けをしている。レイアちゃんと本気で追い駆けっこをして8割強の確率で逃げ切っている。レイアちゃん相手でその確率ならば、上々だろう。

 他にも、集団戦闘を想定した訓練も子供達と一緒に行っている。特に、大型のモンスターを想定した物で意外と役に立っているのだ。なんせ、稀にやってくる大型種を討伐しているくらいだからだ。その為、子供達には背負えるように改造を加えたボウガンなどを装備させている。他にも投石器やバジリスタ、要塞兵器も完備。

ギィ『今日は何を作ろうかしら…ライ○セイバーは作ったから。やはり、ロマン兵器の武器武装かしら。でも、金属を瞬間的に流体化させて鎧を形状させた後に固形化なんて出来るのかな』

 いいえ、諦めたらそこで終わりよ!! 何事も挑戦あるのみ。

 瀬里奈ハイヴの一室にある鍛冶場に火が灯る。ここには、レイアちゃんが持ってきてくれた多種多様な金属や装備の実物。更には、蟲系モンスターの素材が積まれている。本職の者が見たら宝の山に見えるだろう。

 他にも、鍛冶場の秘伝と言われる製法などを纏めた書物なども各種揃えており、資料に困る事はない。本来、門外不出となるような資料だが…世の中、それを金で売り買いする輩は存在するのだ。そういう連中から金で買い取ったのだ。

 ………
 ……
 …

 史上初の試みであるので、前提となる技術や資料などが一切ない。一朝一夕でなるような物ではない。その為、鍛冶場に篭って丸一日が経過したが成果は無しだ。なにか、ヒントとなる事はないだろうか…。お手伝いの子達が、暇を持て余して走り回っている。

 コレだ!!

 そうよ!! そもそも、考え方から間違っていたのよ。そもそも、金属を使って再現しようとした事自体が間違いなのよ。一応、物理法則というものが存在するこの世では武器武装など実現不可能…だと思う。

 それに、身近にあるではないか…ミスリルやオリハルコンに匹敵する強度を持っているだけでなく、形もある程度思いのままに出来る変化させられる子達が!!

 早速、レイアちゃんにお手紙を書いて開発のお手伝いをしてもらわなければ。だけど、その前に早く原稿を仕上げないと新刊を落としてしまう。

 さて…どうしたものかな。

 子供達にも手伝ってもらっているが、美的センスの関係で子供達の中でもこの作業が手伝える子は極めて一部。写本ならば、字形をコピーするだけなので楽なのだが創作となれば話は別だ。

ピッピ(瀬里奈様、本日分の農作物の出荷が終わりました。あと、春も近いので虫達の繁殖の時期です。もう少し、虫達用の作物準備を増やした方がよろしいかと思われます』

 ピコーーン

 居た!! 居たわ!!

 ここに世界屈指の女子力を誇り、知能指数も並みの人間以上の子が!!

ギィィ『幻想蝶ちゃん、いつもありがとうね。農作業の指示から、作物につく虫の誘導まで本当に助かっているわ。あ、採れたてのはちみつがあるからみんなを呼んでいらっしゃい』

ピー(…はっ!? 瀬里奈様、物で釣ろうとしてはいけませんよ。何度もおっしゃいますが、瀬里奈様の原画のお手伝いはできません!!)

 鋭い。まるで、私の心を見透かしたかのようだ。だが、今回はいつものようにはいかない。

ギィィ『実は、これこそが幻想蝶ちゃんが目指すモンスターと人が手を取り合う為の足がかりなのよ!! この瀬里奈を信じなさい!! レイアちゃんも賛同してくれたわ』

 但し、夢の中で。

ピ(お父様も!? す、少しだけならお話を聞いてあげます)

ギッギ『いい子ね。じゃあ、みんなも呼んでいらっしゃい長くなるから』

 ふっ腐っ腐

 上手くいったわ。やはり、レイアちゃんの名前の効果は絶大ね。

 新刊は、モンスターを擬人化したウ=ス異本を作成する事に今決めた!!

 人のモンスターに対する考えを少しでも変えて貰うと言う事を前面に押し出して説得する。渋るだろうが…この瀬里奈に死角はない!!

 男性向けの本には、幻想蝶ちゃんを擬人化させてレイアちゃん似の男性でも出演させればいいのだ。きっと、嬉し恥ずかしと力を貸してくれる気がする。レイアちゃんの蟲達全員に言えるけど、本当にお父様っ子だからね。純粋ゆえに扱いやすい。

 男性向けの本を初めて売り出す事に若干の抵抗はあるが…背に腹は代えられない。

 腐女子とは…趣味の為ならば、悪魔にでも魂を売る。




 淑女チームVS紳士チームの卓球は、見事…淑女チームの勝利で終わった。ガイウス皇帝陛下の魔法を駆使した見えない球や屈折を利用した分裂する球、私の魔法を駆使した跳ねない球…粘着性の高い粘液を球に付着させる事で敵コートと一体化させるなど手を使った。

 だが、こちらが魔法を使うので当然向こうも魔法を使ってきた。

 『聖』の魔法で強化された球は、ラケットに丸い穴を開けるのだ。よって、打ち返す事が物理的に不可能なんだよ!! 卑怯でしょう。

 敗北の罰ゲームで、広いお風呂をガイウス皇帝陛下と二人で掃除している。世界広しといえども、皇帝陛下とお風呂掃除をしたのは私が世界初であろう。

 ゴシゴシ

「興味本位で伺いますが、ガイウス皇帝陛下は何故皇帝になられたのですか?正直に申し上げますと、権力などにはあまり固執しないタイプに思えます。寧ろ、好き放題に遊べる冒険者という道に居た方がお似合いであったかと」

 モップがけに勤しむガイウス皇帝陛下に声をかけた。

 現皇帝陛下に皇帝似合いませんと明言出来る人は、少ないだろう。幼少期からの付き合いがあるからこそ言えるのだ。

「簡潔に言うと、神器プロメテウスのせいじゃ。儂の王位継承権は、第4位と微妙だった。だからこそ、冒険者として過ごそうと決めておったのだが…ある日、この神器を宝箱から引き当ててしまってから人生の歯車が狂った」

 確かに、神器なんて物を引き当てたら人生が狂うね。おまけに、ガイウス皇帝陛下は神器の担い手として選ばれたのだ…両方ビンゴになるとは、本当に天文学的各率だ。

「そういう事でしたら大体予想がつきますね。神器の性能は恐るべきものです…ガイウス皇帝陛下を取り込めないならば排除するという方法にでも話は流れたのでしょう。私が仮に王族ならば、神器を持つガイウス陛下を野放しにはしませんからね」

「レイアの言う通りだが…事実は、もっと酷いものじゃった。ギルドの後ろ盾を得て徒党を組んで来る者や他国の助勢を得て来る者、狙いは神器だったり利権関係だったり様々だったがな」

 軽口で言っているが、当時の本人は死に物狂いだったのだろうね。世界中が敵に回っているようなものだ。本当によく生き残ったと思える。神器を使い黙らせた貴族達も大勢いただろう。

「なるほど…ところで、ガイウス皇帝陛下。本気で退位を考えておられるのですか? ガウス皇帝陛下の身体年齢は30代前半です。少なくとも、後20年くらいは皇帝をやっていられると思います。私的に言わせてもらえば、母の事もありますのでガイウス皇帝陛下には末永く皇帝の地位にいて欲しいです」

 皇帝が代替わりをした場合に、直轄領としてある場所の見直しが行われるだろう。次代の皇帝争いで陣営側に加わった者達への恩賞などの関係で切り分けされる事があるのだ。そうなれば、瀬里奈ハイヴという『神聖エルモア帝国』で皇帝陛下と私しか知らないトップシークレットが知られてしまう可能性がある。

「確かに、知られては不味いの。瀬里奈殿の存在は、モンスターと人との間の壁を崩す可能性がある。人からしてみれば、脅威以外の何者でもない」

 当然だ。人以上に知識を持つモンスターが組織的な行動を取るだけではなく武装しているのだ。人より強いだけならまだしも、人以上の知恵も持つようになれば、即刻排除を考えるのは当然の帰結。

「だけど、ガイウス皇帝陛下は母に対してとても紳士的に接してくれますよね。何故ですか? ガイウス皇帝陛下とて、知恵を持つモンスターは脅威と考えるのでは?」

「愚問じゃな…この儂を見縊ってもらっては困る。一目見た時から瀬里奈殿はいい女だと本能で分かったわ!! いい女が脅威などであるはずがない」

………
……


「すげぇぇぇぇぇ」

ギィーー(すげぇぇぇぇーー)

モキュー(きゃー、陛下素敵!!)

モナァー(流石です陛下!!)

 ガイウス皇帝陛下の曇りない眼を蟲達が賞賛している。

 流石ガイウス皇帝陛下、このレイアに出来ない事を平然とやってのけるとは。人生経験の差なのだろうか…私は一生かけてもその域に達する自信がない。本当にこのお方についてきて良かった。



 お風呂掃除を終えて、ゴリフターズが用意してくれたお茶菓子を食べる。どのような職人でも真似できない技を持つ二人の料理は絶品だ。売り出せば、行列ができる店として紹介される事は疑いようがない。

 そんなお菓子を食べつつ真面目な話をする事にした。

 折角、『ウルオール』の王族であるゴリフターズもいるのだ。忌憚ない意見が聞けるだろう。

「ゴリフリーナ、ゴリフリーテ。『神聖エルモア帝国』で次代の皇帝争いが勃発すると分かった場合に『ウルオール』としては、どのような行動にでる? 万が一、私達が結婚してない事を前提で答えて欲しい」

 今現在は、友好国として扱われている。だが、私達が結婚する前は敵国扱いだったのだ。自画自賛ではないが、近年で一番国家に貢献している一人だと思う。

「王位継承権第四位以下と組んでガイウス皇帝陛下の暗殺ですね」

「そうですね。それが一番効果的ですね」

 ゴリフリーナとゴリフリーテの意見を聞き疑問に思った。

 第四位以下という事は、俗にいう有象無象の類。そんな者が国のトップに立てば弱体化は必須。更に、協力した事に対する見返りは多く手に入るという事か。だが、それだけではない気もする。

「だろうな。ギルドも恐らくそこらへんを狙ってくるだろうな。特にギルドの場合は、レイアの暴走も考慮しているだろう」

「ガイウス皇帝陛下。いくら私でも暴走なんて………するかもしれない」

 ガイウス皇帝陛下が暗殺されたなんて聞いたら、首謀者の抹殺に人生を懸ける。王位継承権が高い順に疑いを掛けて物理的に話し合いをしていくだろう。当然、その過程で王族やその護衛…下手すれば軍や冒険者達とも殺し合う事になる。

なるほど…そういう事ね。

ガイウス皇帝陛下という存在だけでなく、私に国力を削がせるという事か。そして、最後には私自身を皇族殺しの罪で始末すると。

「という訳じゃ。次代の皇帝争いに対して必ず行動を起こしてくるギルド及び諸外国。更に言えば、他国の協力を得る為に不利益になる密約を結ぶ者達の排除を考えておる。後継者云々も当然将来的に考えておるが、まだまだ先の話じゃ。その前に皇帝として一度国の中から膿を排除したい。敵を騙すには味方からと言うじゃろう」

 今まさに行われようとしているガイウス皇帝陛下の後継者争い。今こそ、この私がガイウス皇帝陛下の手となり足となり働く時が来たのだ。

「レイア・アーネスト・ヴォルドー。ガイウス皇帝陛下に忠誠を誓った身です。いかような任務も完璧にこなしてみせましょう」

「それを聞いて安心したわい。『神聖エルモア帝国』の皇帝として命ずる。我が国の膿を排除せよ。降りかかる火の粉は払い除けて構わぬ」

 皇帝陛下の勅命である。

 必要に応じて諜報、暗殺、拷問など様々な事をこなす必要が発生するだろうが、実に『蟲』の魔法向きである。裏方こそ本領を発揮出来るのだ。
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