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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六十八話:ギルド(5)

◆一つ目:タルト
 迷宮で鍛えられた鋼の心を持ったタルトには、もはや妹の叫びなど届かないのだろうか。第二波の手紙で、蛆蛞蝓ちゃんを使って猫耳童女のDNA元から指を複製した。血文字で『助けて』と書いて手紙と一緒の指を箱詰めして送ってみた。

 ちなみに一つ目の手紙は、絹毛虫ちゃんが書いたのだ。こんな楽しそうなイベントに参加しない手はないそうだ。二通目は、猫耳童女が自ら書いた…血は、蛆蛞蝓ちゃんが用意した物だ。

 流石に、タルトの若干顔が青くなり辺りの気配を探ったようだが無駄である。タルトの感知にかかるような不手際はしない。気配、匂い、音の全てに至るまで遮断している。猫耳童女は、気配の隠し方がまるでなっていないので、仕方がなく絹毛虫ちゃんを全身に纏わり付かせて気配を絶たせている。何匹もの絹毛虫ちゃんをコート代わりにして身を包んでいる。

「ふっふっふ、今回は流石に効いたようですね。それにしても作り物の指や血でここまで効果があるなんて…姉はダメですね。頭の中が腐りすぎて亜人としての嗅覚まで衰えたんですかね」

「お主も悪じゃの~」

「いえ、レイアおじさん程じゃありませんよ。割とマジで」

 さり気なく貶された気がする。

 だが、猫耳童女よ。ひとつ訂正しておく。タルトの亜人としての嗅覚が衰えているのではない。寧ろ、高ランク冒険者になったおかげで、より精度が増したはずだ。故に、あれが本物である事に戸惑いを隠せていないのだ。

 服だけだとこちらが本気だと思っていなかったようだが…今回は本当に効果抜群だ。

「どうやら、あたりを警戒しつつ外に出るようです。恐らく、私を探しに外へでたのでしょう。はっ!! 従業員に箱の出処を聞かれるかもしれない。口止めは!?」

 どうだろうか。今までの経由を考えて、食事を終えたから外でデートと洒落込む予定ではないだろうか。

「問題ない。支配人含めて従業員には、タルト宛に送りつけた箱は外部から持ってこられた物だと話すように言いくるめている」

「本当ですか? ここのお店って大貴族や王族の方も使われるような場所ですよ。そんなお店の従業員をレイアおじさんが言いくるめられるんですか? いくら包んだんです?」

 その大貴族で且つ王族を嫁に取った私がここにいるのだが…面白いから黙っておこう。それに、いくら包んだとか失礼だ。金でなんとかなるようなお店ではない。そんな汚い精神を持った従業員は雇われていない。

「私レベルになると顔パスなんだよ。いろいろな意味でな」

「うーーん、確かにレイアおじさんは外面いいですが中身は私と同類ですよね。同じ匂いがします。まぁ、口止めされているならいいです。ふむふむ…」

 おーい、タルト君。覚えていろよ!! 妹の教育がなっていないのは姉という見本が無いせいだからな!! この恨み何倍にもして返してやるからな。依頼主を殺さないという私の冒険者精神をありがたいと思え。普通のやつなら、今の一言で脳みそをぶちまけていたぞ。

 どうやら、タルトとお見合い相手は王都で流行っている劇を見に行くらしい。

「あぁ、王都で流行りの恋愛劇ね。タイトルは知らないが妻達が見たがっていたな」

「えっ!? レイアおじさん結婚しているんですか?」

 なんだ、その今日一番驚いたような顔は。アルビノ、イケメン、高ランク冒険者、大貴族、特別な属性、ガイウス皇帝陛下の忠臣、金持ちとこれでもかと盛られた設定のこの私が女性にモテない訳無いだろう。今まで求婚を受けた回数は、なんと0回だ!!

 よって、ゴリフターズと結婚しなければ恐らく生涯独身であった可能性は否定できないがね。よくよく思えば、危なかったな。

モキュ(失礼な娘ですね。このまま、潰しちゃいますよ)

 やめてあげなさい。そんな事をしたら絹毛虫ちゃんの綺麗な毛が汚れてしまう。影に入れば綺麗に落とせるだろうが…わざわざ、汚れる必要もない。

「ノリがいいから独身者だと思っていたのに裏切られた。こんな事なら募集要項に独身者と書いておくべきだった」

「裏切るも何も私は20歳でね。だから結婚していたとしても不思議ではない。で、二人がお店を出て行ったぞ」

「行き先はわかっているんです。先回りして、邪魔をします。男女二人で暗い劇場なんて、間違いが起きたらどうするんです!?」

 起きるわけねーだろう。規模自体は大きくない劇場だが国営の劇場だぞ!! そんな場所で事をしでかしたら、出入り禁止どころか禁固確定だぞ。というか、後日ゴリフターズと見に来る予定をしている劇場でそんな事をしたら蟲の胃袋に送り込んでやるわ。

「国営劇場でそれはないね。まぁ、邪魔をしたいなら売れ残っているチケットの偶数席だけ全部買い占めよう」

「………性格悪!!」

 鏡を見ていえ、鏡を!!

 バレずに効果的に邪魔をしたいのだろう。ならば、この方法が一番だろう。金の心配ならするな、お金とは愉悦の為に使うのだよ。それに、買い占めた席にはちゃんと蟲達を着かせる。芸術面についての知識を取得するには、実物を見るのが一番だろう。劇場の者が許してくれるかが問題だ…まぁ、言いくるめられるだろう。



 二個目の箱が届けられて急に目が覚めてきた。浮かれている場合じゃないと。

 一体、どこの誰が。

 冒険者として精神的成長したタルトは至って冷静であった。婦女暴行事件など、良くない事だが、よくある事である。犯人の検挙率が極めて悪く、運が悪かったと諦める事が多い世の中だ。故に、シェリーには悪いけど運が悪かったとしか思っていなかった。

 だが、どうやら目的は暴行ではないようだ。

 可愛さ余って憎さ100倍の妹…だが、血のつながった妹だ。心配する気持ちはある。

 お店の人に箱が誰から持ってきたか確認してみたがフードを被った男がお店に持ってきたという事しかわからないと言われた。あまりにタイミングがよかったので、身元が怪しい者がこのお店に客もしくは従業員で居ないか確認してみたが、全員素性がはっきりとした人達だと回答が返ってきた。

 シェリーを攫った犯人に仲間が居るか確認したかったのだが、残念だ。それにしても誰かに恨みを買ったかな。いいや、そんなはずはない。そもそも、『ウルオール』に帰ってきた事すら久しぶりなのだ。恨み以前に私を知っている人が片手で足りるレベルだ。

 ならば、ゴリヴィエ様関係だろうか…『ネームレス』では寄ってくるタカリ共をゴリヴィエ様が文字通りズタボロにした事は数しれない。その報復がゴリヴィエ様ご本人ではなくこちらに来た可能性は否定できない。なんせ、ゴリヴィエ様は、あぁ見えて公爵家ご令嬢様なのだ。手を出せば、一族郎党を皆殺しなんて事もありえる。

 くっそ!! 間違いなくゴリヴィエ様関係じゃないか。

 シェリー…必ず助けるからね。生きてさえいれば、何とかする。レイア様に土下座してお金積んで、体を治してもらうからね。後、記憶も消してもらうから安心してなさい。

 だから、死なないでね。

「ご気分が優れませんかタルトさん? 少し、休まれますか?」

「いいえ、大丈夫です。ちょっと、気にかかる事がありまして」

 桜花亭では、こちらの位置が特定されていた事から移動する事で犯人がついてくるかと思ったけど甘かった。索敵には、少し自信があったのだけど尾行してくるような怪しい気配は感じられない。

遠くから監視している…いや、それは無いだろう。なるべく高所から見えない場所且つ人が多い場所を選んでいるのだ。完璧に尾行するとなると後ろを付ける以外に選択肢はないはず。

………
……


「えっ!? チケットが売り切れ?」

「いえ、売り切れと申しますか…次回公開分のチケット自体は余っているのですが、少し前に偶数席だけ買い占められたお客様が居られまして。お二人で座れる場所はありません。その次から翌日にかけての公開分は全席買い占めになられましたので…」

 偶数席だけ買い占めだと!!

 それに、次回以外の公開分はすべて買い占め!? それほど大きくない国営劇場とは言え、一流の劇団が行うのだ…チケット代は馬鹿にならない。買い占めるという事は、劇団員はたった数人の為に劇を行わないといけないのだ。ほぼ誰もいない観客席をみて何を思うのか理解しているのだろうか。

 だが、問題はそこではない。

 偶然にしては出来すぎている。桜花亭で次の行き先に指定した場所がここなのだ。ここならば、私たちより後に劇場に入ってきた者を尋問すれば犯人が割れる可能性は高いと思ったのだが使えなくなった。

「どんな人がチケットを買い占めたんですか?」

「二人組の人で…仲の良さそうな老夫婦でした」

 老夫婦?

 てっきり、桜花亭で贈り物という箱を持ってきた者かと思ったが、人相どころか年齢層がまるで違う。少なくとも複数犯いるという事なのか、それとも本当に偶然か。



「悩んでいる。悩んでいる。それにしても、スゴイですね。変装まで出来るんですか…流石は高ランク冒険者です」

「高ランク冒険者になれば、この程度当然だ。覚えておけ、一流の冒険者とは何をやっても一流なのだよ」

「ほほぅ、料理の腕前も?」

「当然だ。桜花亭の料理なら幾分かレベルは落ちるがほぼトレースできるぞ」

「独創性がなくありませんか?」

「劣化コピー同士を組み合わせてオリジナルと評していいなら独創性はあると思うが」

 で、一体この猫耳童女はどれだけ姉の邪魔をすれば気が済むのだろうか。

 依頼達成条件が明確でなかったが、個人的に言えば既にお見合いは破談になっていると見て間違いない。

だが、それよりも気になる事が一つだけある。

ギィー(お父様、やはり我々以外にも二人を付けている者がおります。前方100m先にある白い屋根の建物の非常階段にいる女性です)

 桜花亭を出てから我々以外にタルト達をつけている者がいるのに気がついたのだ。最初は偶然かと思ったが、挙動などを考えるにそれはないと思い蟲を使って監視をしてみればビンゴった。

「あ、姉達がまた移動しました。今度は、何処に…レイアおじさん聞いてます?」

「問題ない。方角的に、公園だろう。で、話は変わるがタルト達を付けている者が我々以外にも居るのだが心当たりはあるかね?」

「うーーーん、ありませんね。姉の方じゃなくて、お見合い相手の方じゃないんですか?」

………
……


 それだ!!

 知り合いだからタルトの方だと決めつけていたが、よくよく思えば相手は『ウルオール』近衛騎士団のエリートだ。どこかで誰かに恨まれたりしても不思議ではない。

だが、随分と練度の高い追跡者だ。あれ程の者を使って二人を追跡するのは、随分と勿体無い。

「臭いな」

 このお見合い自体が、何かとてつもない臭い。私の知らぬ何かが動いている気がする。

「えっ!? 臭くないですよ。いい匂いじゃないですか」

 自らの体臭を嗅ぐ猫耳童女。良い匂いがするのは当然だ、全身を絹毛虫ちゃんで覆っているのだ。というか、いつまでコート代わりにしている。

「吐かせるか」

「何の事です?」

「少し野暮用だ。タルト達は、尾行は一人でもいけるな?」

「え、無理ですよ。屋根を伝っての移動や三階建ての建物に軽くジャンプして登る芸当ができる高ランク冒険者と一緒にしないでください。私は一般人なんですよ」

 亜人なら身体能力は良いだろうと先入観はあったが…まぁ、確かに一般人だな。あまり大きな蟲を出すと騒ぎになる可能性がある。仕方がないから、タルト監視用の空を飛べる蟲と移動用に蜘蛛を貸してやろう。これで、スパイダー○ンごっこも楽勝だ。

「一時的に貸してやろう。使い方は、体で覚えろ」

「凄いレイアおじさん!! 高ランク冒険者の魔法って本当にすごいですね。何でもアリじゃないですか」

 高ランクになればこの程度当たり前だ…多分。



 子供の適応する能力は素晴らしいものだ…蜘蛛を手に付けて糸を吐かせることで立体機動をしている。だが、忘れないでいただこう…すごく注目を浴びている事に。

 このままでは、タルトに捕捉されてしまう可能性もあるが、自業自得なので放置しておこう。それよりも、問題は目の前のコレだ。

「存外、逃げ足はだけ早いな」

 途中までは良かったのだが、10m程手前で気づかれてしまい。現在、街中で追いかけっこをしている。地の利は、向こうにある。だが、そのような不利を覆してこその高ランク冒険者だ。

「チッ!! 」

 逃走者から魔法の気配を感じる。それも『火』の広範囲魔法だ。こんな人ゴミで撃つ気とは肝が据わっている。直撃すれば、爆風や砂埃で対象を見失う。だが、回避すれば甚大な被害は避けられない。

 まぁ、避けるけどね!!

 なぜ、体を張って魔法を受けなければいけないのだ。そもそも、こんな街中で魔法を使う方が悪いのだ。ジュラルドのような超精密コントロールでもできない限り、魔法の使用は可能な限り避けるべきだ。

 飛来してきた大人くらいもある火の玉…地面や壁などの目標物にぶつかると細かに散って爆発するタイプの『火』の魔法だ。

 逃亡者の口元がニヤリとなったのが見えた。

 あえて目視可能な『火』の魔法を撃ったのは、この私が体を張って市民を守ると思ったのだろう。当然、体で受ければ周りの被害を0に抑えられる。だが、誤算もいいところだ。

 体を前のめりにさせて地面すれすれで魔法を回避した。同時に、地面を蹴る足に力を入れる。

「赤の他人が、何千何万人死のうが知った事ではない」

「クズがぁっーーー!!」

 追いつくと同時に鳩尾に拳を打ち込んだ。肋骨を砕き、内臓のいくつかをぶち壊したのが分かった。

 こんな大衆の前で人様をクズ呼ばわりとは酷い限りだ。人が多い街中で、広範囲魔法を使う者のほうかクズに決まっているだろう。ほら見てみろ…お前が放った魔法のせいで何人が死んだと思う。

 今もわたしの後方で、焦げる匂いと泣き叫ぶ人の声が絶えない。

「さて…この大惨事では警邏も直ぐに来るだろう。犯人は引き渡すとして、その前に聞けるだけの情報は吸い頂くとしよう」

 人目につく場所で、蟲を耳に入れるのは流石にどちらが犯人か疑われてしまう可能性があるので、逃亡者を片手に持って屋上へと移動した。

「や、止めてくれ。なんでも話すから…」

「不要だ。話す内容が真実か判断できない。さて、所属から目的まで洗いざらい教えてもらおうか」

………
……




「ヴォルドー侯爵様、この度は犯人逮捕にご協力していただき誠にありがとうございます。逮捕ばかりか、負傷者の手当まで施していただき感謝の言葉がつきません」

「通りすがっただけだ。気にするほどでもない。こちらの方で簡単に犯人の尋問を行っておいたので後ほど報告書を送らせてもらおう」

 犯人は、ギルド総本山に所属のエリート様…殺し屋的な意味でな。幹部直属の部下で主な任務は、潜入捜査。そして、現在の任務はミハエル・ロトス・クレッセントの状況確認…要するにタルトと正式に結婚するかの確認である。なぜ、そのような事をしていたかまでは知らされていない。

 まぁ、それでも十分すぎる程の情報を得られたので良しとしよう。本来、捕まるはずでは無い者だったのだろう。偶然に偶然が重ならなければ私と出会う事すらなかったのだからね。

 警邏の者に一礼してからその場を離れた。

 目指すはタルトがいる場所。猫耳童女に貸している蟲の気配から察するにそこまで離れてはいない。というか、猫耳童女の位置が激しく移動している。

 さては、見つかったな。

 一応は依頼主だ。少し手助けをしてやろう。

………
……


 タルト君も成長したではないか、高い身体能力を持つ亜人に加え、身体強化の魔法を駆使して逃げる妹を鬼の形相で追いかけている。立体機動する猫耳童女を徐々に追い詰めていく。一昔前なら追いつけなかっただろう。

「待ちなさい!! というか、待てぇぇぇぇ!!」

「待てと言われて待つバカはいません!! 助け…あっ」

 猫耳童女と目があった。

 天の助けが来たと言わんばかりに、こちらに向かって全速力で向かってくる。当然、それを追うタルトも私の存在に気がついた。まぁ、身につけている絹毛虫や蜘蛛、更に空を警戒している蟲を見れば誰が加担していたか、既にバレていると思うがね。

「見つかってしまったか…、まぁその移動方法は目立つからね。人前で使いすぎだ」

「レイアおじさん!! お助けぇぇぇぇ~」

 飛来してくる猫耳童女をキャッチした。

 蟲達を影の中へと収納する。これ以上、貸しておく必要はなさそうだからね。そして、余計な事を口走らないように猫耳童女の口を塞いだ。

「はぁはぁ…れ、レイア様!! イタズラにしても酷すぎます」

「バカを言うなタルト君。イタズラでここまでやるものか…依頼だったのだよ。君の妹からの」

 冒険者の私がイタズラでこんな大掛かりの事をやるはず………あるかもしれない。だが、それはタルト君にやるほど暇ではない。そこまで親しい仲ではないのだから。

「依頼!? でも、シェリーはレイア様を雇えるほどのお金なんて」

「タルト君のお見合いを破談させるという依頼内容を2万セルで引き受けた。まぁ、ここにタルト君がいるという事はお見合い相手とは縁がなかったという事かな?」

 依頼内容と金額を聞いて、タルト君が「目眩が」といって崩れた。

「そうですよ!! その通りですよ!! 折角、超エリート様からのお誘いだったのに、シェリーが遠くで飛んでいるが見えたので放置して追いかけてきちゃいましたよ。どうしてくれるんですか…二度とないチャンスだったかもしれないのに」

「縁があれば、出会いはあるさ。だが、まだ破談になってなかったのか…ならば、正式に断っておいたほうがいいぞ。先ほど、街中で広範囲魔法を使って住民を虐殺した者が居たので、捕まえて尋問を行ってきた」

「それとお見合いと何が関係あるんですか…」

「その犯人の目的が、タルト君達のお見合いが成功確認をする事だと言ったらどうだね」

「監視付き…もしかして、ゴリヴィエ様関係の厄介事ですか?」

 まぁ、タルトの家的に考えて『ウルオール』公爵家のご息女であるゴリヴィエが関係していると思うのは無理もない。私もその線はあると考えている。

「ゴリヴィエが関係しているかは知らない。だが、犯人はギルド幹部の手駒だ。少なくとも、お見合い相手はギルドから何らかの命令で動いていたのだろう。任務を全うするか監視していた…そう考えれば、納得がいく」

「ギルドめぇぇぇ!! 乙女の純情を弄ぶとは、鬼か悪魔か。そもそもシェリーの依頼を受けること然り、お見合い然り…いいかげんにしてよ。もう泣きたいよ」

 流石に地面にひれ伏せて涙を流し始めた。

まぁ、無理もない。お見合いという適齢期の女性にとっては一大イベントが、実はギルドが用意したものです。しかも、大量虐殺者との繋がりがある。更に、結婚は建前で本当の目的は不明…本当に酷い。最初から女性として見られていなかったわけだ。

お見合いの為に用意したと思われる衣服も汚れて、タルトに追い打ちを掛ける。

だから、紳士である私はタルト君が幸せになるように努力してあげよう。まぁ、だいぶ楽しませてもらったしね。

「安心しろタルト君。三次元は裏切るが二次元は裏切らない…タルト君には、S氏のサイン入りウ=ス異本をプレゼントしてやろう。なんでも来月あたりに新刊を出すと言っていたから、お願いをすればまた貰えるだろう」

「三冊…読書用と観賞用と布教用」

 犬でもないのに尻尾をフリフリさせている。

 猫が喜びの感情を表すのは尻尾を振る事だっけ…よく覚えていないが、現在進行形で目の前で喜んでいる猫がいるから間違いないだろう。

「手配しておこう。で、お見合いは破談と言う事でいいのかな?」

「すぐに、断ってきます。やはり、ギルドと繋がりがある黒い人はダメですよね!! それに、まだ若いし、出会いはきっとありますよね」

 涙を流してひれ伏していたが、すぐに飛び上がり走っていった。余程、ウ=ス異本が欲しかったのだろう。冒険者として成長したタルトならば、教えてもいいかも知れない…ギルドが赤子をすり替えている事を。

いや、ゴリヴィエに伝えて必要だと思ったら伝えるように言っておくか。瀬里奈さんの所で増刷した出産に関する書物を渡す予定もあったしちょうど良いだろう。

 ちなみに、出会いがあると期待するのはやめたほうがいい…どこぞの受付嬢みたいになるぞ。出会いはやってくるのではない、自ら手に入れに行くのだ。



 それから、猫耳童女を連れてギルド本部まで戻った。

「なんか、色々な意味で疲れました。ウ=ス異本一つで自らお見合いを破談させに行くなんて…あんなのが姉である事が恥ずかしい」

 それは、間違いなくタルト君も思っていると思うよ。こんな妹が…ってね。

「まぁ、どちらにせよ。お見合いは破断させたので依頼達成という事で間違いないかね」

「そうですね。レイアおじさんのおかげで、目的は達成できました。ありがとうございました」

 依頼主の実の姉のお見合いを破断させてお礼を言われるのは、初めての経験だ。きっと、このあと家族と合流した際にタルト君からこっぴどく怒られるであろうが…頑張れ。

「良い時間潰しをさせてもらった。では、報酬を貰って妻達が待つ場所へ帰るとしよう」

 ギルドの受付で報酬を受け取り、帰路についた。妻達が待つ王宮に着くまでの間に色々と考えてみた。

 自惚れかもしれないが、ギルドの目的が私に関する情報集めだと仮定した場合。ある程度納得がいく。

 今回タルトが狙われたのは、狙えそうなのがソレしかいなかったからだろう。私の周りで独身且つ恋人がいない人物は、少ない…元より親しい者が少ないので絶対数も少ないのだが、それは置いておこう。なんせ、私の知り合いの紳士達は、独身者であっても確固たる信念を持つ者ばかりだ…ギルドが要らぬ横槍を入れてきても動じる事などない。

恐らく、タルトを狙ったのは、ギルドの駒にして利用したいからだと考えている。タルトの立ち位置は微妙だ…ゴリヴィエや私という大貴族と関わりがあるだけでなく、本人も成り立てとは言え高ランク冒険者。

そんな微妙な立ち位置だから、ちょっとした会話からギルドに知られたくない情報を手にする事もあるだろう。タルトがギルドの犬と結婚していれば日常会話の中でそういった情報がギルドに漏れる可能性がある。

瀬里奈さんの存在、『モロド樹海』最下層などと挙げればキリがない。特に、将来的にゴリフターズが妊娠した際にその情報が外部に漏れるのは宜しくない。絶対にギルドがあの手この手でちょっかいを出してくるだろうしね。

………
……


いや、それが狙いか。

ゴリフターズが妊娠したという情報を手に入れたい為だけに、色々と布石を打っているのだろう。そして、ギルド幹部としては私達の子供を手に入れて駒にしたいと考えている。鍛えれば間違いなく、最強に近い冒険者になれるだろうし…血肉を搾り取っても、駒として使っても美味しいと無駄のない存在になる。

私が仮にギルド幹部なら、タルトという駒を使わない手はない。

二人の妊娠が発覚したら本当に信頼できる者に伝えて雲隠れしよう。後で、瀬里奈さんが増刷した出産に関する本を配った者達にギルドの犬があの手この手で紛れ込んでいる可能性がある事も伝えておくとしよう。

 裏では、家を訪れたキース・グェンダルが関与しているとみて間違いない。実に楽しみだ…こちらが出し抜かれるか、それともギルドを攻める口実が手に入るか待ち遠しい。早く、ギルド幹部の椅子をフローラ嬢のようなぐぅ聖だけで固めてあげたいわ。

ギルドの思惑が分かったという事でギルドのお話はとりあえず完了です。
結末をどうしようか迷いましたが…まぁタルトですし。
腐ってますね(´・ω・`)

実は、既に次話も書き終えていて後は見直しするだけという状態なんです。
閑話的なお話で…引き取った孤児達に関する者です。
レイア様の圧倒的な紳士力が際立つお話です。

PS:
「味噌カツ」「味噌煮込みうどん」「あんかけスパ」と名物食べてきたお。
そろそろ、珍名物と名高い『甘口メロンスパ』『甘口小倉抹茶スパ』とかキワモノを…死んだらごめん。
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