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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六十七話:ギルド(4)

◆一つ目:ミハエル・ロトス・クレッセント
◆二つ目:タルト


 ギルド上層部は一体何を考えているのだろうか。だが、それに疑問を抱いたとしてもやる事は変わらない。ギルド幹部直々の依頼だ。これを断るという事は、我がクレッセント家が無くなるまで時間はかからないだろう。

 祖父の代より、ギルドの犬として必死に働き『ウルオール』の近衛騎士団に入隊できるまでに地位も権力も実力も得られた。その恩義を今返すべきだ。

「初めましてタルトさん。私は、『ウルオール』近衛騎士団所属のミハエル・ロトス・クレッセントです。本日は、お越しいただき本当にありがとうございます。それにしても、お噂通りお美しい」

 ギルド幹部からの要請は、このタルトと言う女性と結婚し子供を作れとの事だ。この依頼を聞いた瞬間、耳を疑った。なぜ、と聞き返したかったが無意味だ。疑いを持つ事は許されない。

「このような素敵なお店を私の為にご予約していただけるなんて嬉しい限りです。本日は、よろしくお願いいたします」

 ギルド幹部から貰った情報では、『神聖エルモア帝国』でサポーターとして働いていたが近年冒険者に転向してランクBにまで上り詰めたとある。その背景には、『ウルオール』公爵家のゴリヴィエ様と『神聖エルモア帝国』侯爵家のヴォルドー様が大きく関与しているとあった。

ギルド幹部の目的は、どちらかの家との繋がりを強化する事なのだろうね。タルトという女性は、『ウルオール』公爵家に代々ご奉公している家なので狙いはこっちであろう。

「ここの料理は、非常に美味しいと評判ですので楽しみにしていてください。食事が出てくるまで、時間がありますので少し自己紹介をさせていただきますね。私は…」

 ギルド幹部のコネで予約したこのお店だ。これで、今回の縁談が失敗したとなれば恐ろしい事になりそうで内心ビクビクしている。

だが、勝算は高いと踏んでいる。

結婚適齢期の女性は種族にかかわらず、婚約者を求めるだろう。将来が不安だから、安定した職に就いており安定した収入を持つ男性は人気が高い。それに、女性冒険者という職業はハッキリいって男性にモテない事が多い。単純に強すぎるからだ。男性というものは守られるより守りたいと思う方が多い。故に、男性より強い女性など求められない事が多いのだ。まぁ、冒険者同士で結婚する場合にはそれに限らないがタルトという女性は男性冒険者の影もない。

要は、相手がいないという事だ。



 桜花亭の個室に案内される際に、支配人から奇異な目で見られたので事情を説明しておいた。決して、浮気などではない!! 冒険者としての依頼で、この猫耳童女が依頼主である事。そして、姉を想う気持ちを遂げさせる為だと言う事をね。

 お店に無理をいってタルト達のお見合い場所の横の部屋を取る事ができた。本来、この部屋を利用する客には、私からサプライズでスイートルームへと案内するように金を積んでおいた。

「キモイです…姉の事ながらキモ過ぎます。あ、これ美味しいです!!」

目の前には、魚介をメインとしたランチが並べられている。どれも、『ウルオール』で獲れた新鮮な物でこのムニエルなど絶品だ。

「当然だ。よく味わって食べるがいい」

 食事を摂るかキモイと発言するかどちらかにして欲しいものだ。今現在、隣の部屋の音声を増幅させるべく蟲を出している。壁に張り付き、隣の部屋の音波を拾い上げているのだ。その様子をみた猫耳童女の一言は『珍しい魔法ですね。何系ですか?』だった。だから、本を見て勉強してねと返しておいた。

『趣味は、読書を少々。後、料理も人並みには作れます』

「ダウト!! 完全に嘘です。姉は、人並みに料理なんて作れません。どうせ、炒め物や野菜を切っただけの物をサラダなんて言うんですよ。料理といえば、料理ですが…それを人並みと言ってはダメですよね」

「あぁ、その通りだ。料理とは、今この場に並べられたレベルの物を料理と呼ぶものだ。後、読書が趣味…笑える。ウ=ス異本を500万セルで買ったと知り合いエルフから聞いたぞ。確かに読書と言えなくもないが、どうだと思うかね?」

「ご、500万セル!? なんですかその金額は。下手したら家が買えますよ!! 姉が腐っていると聞きましたが、頭の中身まで腐っているんですか!? そんな物に500万セルも出せるなら可愛い妹に何かプレゼントの一つや二つくらい買ってあげようとは思わないんですかね」

 可愛い妹という部分は、微妙な所だが…ウ=ス異本に大金を出すくらいなら実家に仕送りとかしてあげたほうが有意義だろうにね。この私は、稼ぎの大半を実家に送っているというのに。私が紳士の鏡ならば、タルトは腐女子の鑑と言えるね。全くもって、見習いたくはない鑑だ。

「思わないんでしょう。だから、妹を犠牲にして『神聖エルモア帝国』まで逃げてきたんですよ。『ウルオ-ル』にも迷宮は存在するのに」

ムシャムシャムシャ

 美味しいのは分かるけど、テーブルマナーがなっていない。公爵家にご奉公する家としてはどうかと思うが、大丈夫なのか。というか、さり気なく追加注文しているあたり遠慮がない猫耳童女だ。

「もしゃもしゃ…ゴクン。ふぅ、それにしても酷い姉です。高ランク冒険者だけでも贅沢だというのに、何ですか!? 相手の人は、超エリートじゃありませんか」

 資料上は、エリートだよね。しかし、何事も疑ってかかるのが私の信条だ。なぜ、このタイミングでタルトにお見合いの話が来たのかが疑問だ。そもそも、他国在住のタルトを名指しでお見合いのお話などおかしい限りである。結婚適齢期の亜人女性など『ウルオール』で探せば、掃いて捨てるほど居る。高ランク且つ公爵家ツテがあるとなれば相当絞られるが、いない訳であるまい。

 偶然か必然か。

 仮に、タルトのお見合い相手が黒…要するにギルドの犬とした場合のケースを考えてみよう。目的は、『ウルオール』公爵家内情を知りたいというのが濃厚だな。タルト実家は、代々公爵家に勤めている事から本来知ってはいけないような事も把握している可能性がある。

 次は、現在相手は居ないが将来生まれるゴリヴィエの子供を狙うという線かな。ゴリヴィエは、王家の血筋だから生まれてくる子供の才能は保証されているようなものだ。事実、本人もメキメキ筋…実力を付けてきている。

 後は、タルト自身をギルドの犬にする目的やタルトを通じて他の家…例えば、私の家の内情を探る事も考えられる。意識せずとも、家族との会話で他人の家の内情をぶちまける事もある。そうなれば、苦労せずとも情報が取得できる。しかも、タルト自身はスパイとして活動をしている意識が全くない為、脳みそを穿り返しても何も尻尾が出てこない。

「エリートである男が、タルト君にお見合いを申し込む目的はなんだと思うかね?直感任せに正直に言って構わないよ」

「ゴリヴィエ様と仲が良いのでそこから内情を知りたいとかだと思いますよ。特殊な性的嗜好を持った腐女子と結婚したいと思うキチガイなんて居るはずありません。後、あの相手の男性…胡散臭いです。作り笑顔で無理してお見合いをしている感じですね」

 壁にのぞき穴を開けて様子を見ているだけだというのに、なにこの猫耳童女…鋭すぎるだろう。それに、実の姉の事を変態みたいにいうとは、どういう教育を施されているのだろうか。

「なるほど、では邪魔をせずに姉が胡散臭い男と結婚するのを見守るかね?」

「それも楽しそうですよね。姉が不幸になる様を間近で高みの見物が出来るのは、なかなか美味しいご飯が食べられそうです。しかし!! どのような形であれ姉が妹より先に女の幸せを手に入れるのは許せません!! 食事も堪能したので、そろそろぶち壊しに行きましょう」

 なかなか、光るものを持っていそうな猫耳童女だ。もし、冒険者になったならば期待できそうな逸材である。

「そうだな。猫を被っているような声を聞くだけで飯が不味くなるから止めに入るか」

「おぉ!! 動きますか…で、どのようにします?」

 せめてそこは考えて欲しいものだがね。まぁ、楽しく遊ぼう。




 きた!! ついに、私にも運が回ってきた!!

 実家に戻ってみれば、お見合いのお話が舞い込んでくるとは驚きの限りだった。しかも、お相手は『ウルオール』の近衛騎士団の超エリート様!! 家柄よし、顔よし、性格不明…だが問題はない。

好きになるように努力すればいい。お見合いから始まる恋もあるのだ。

 ゴリヴィエ様の肉体言語の実験材料になるのが嫌で逃げ出してから本日まで、本当に辛い毎日だった。『ウルオール』国内にいたら、見つかると思い溜めたお小遣いで馬車に乗り『神聖エルモア帝国』の『ネームレス』に行った時が今でも思い出せる。

 採取系の依頼に始まり討伐系の依頼も受けるようになったが、才能が無く…サポーターとして頑張っていた。運良く、固定パーティーにサポーターとして拾われて生活こそ安定してきたが貴族のご令嬢の一件で私以外の皆とは死別してしまった。まぁ、結果的にその事で高ランク冒険者と関わりを持てるようになり、着々と栄光の道を進み始めた。

 だが、そんな栄光の道は長くは続かなかった。

 ゴ、ゴリヴィエ様に捕捉されていたのだ。逃げ出した事を責められるかと思いきやそのような事は全くなかった。嬉しいような悲しいような気持ちになった。それから、レイア様の手による規格外のパワーレベリングにより、気が付けばランクB認定までされていた。

 その日からゴリヴィエ様の片腕として冒険者兼サポーターとして毎日を過ごしていた。しかし!! 女に生まれた以上、家庭を持ちたいという気持ちはあった。最近は、お金に余裕も出来てきたので人並み以上に身だしなみにも気を遣った。だが、どんなに頑張っても出会いはない。

 ゴリヴィエ様が傍らにいるので誰も話を掛けてこない。それどころか、私の顔を見ただけで逃げ出す者まで現れた。だが、本日ゴリヴィエ様は実家のご用事で帰省中…きっと今頃は変わり果てたゴリヴィエ様を見て一家狂乱中だろう。入れ替わるようなタイミングで家族揃ってこちらに来られたのは僥倖だ。大狂乱に巻き込まれる者がいないのだから。

「近衛騎士団といえば、ゴリヴィエ様が副団長を務められていたのですよね。副団長を辞職された後に冒険者としてご一緒しておりましたので色々と知っております。………大変でしたね」

「えぇ、新人入隊者は全員ゴリヴィエ様との肉弾戦をやらされておりましたので。あのご容姿です…誰もが涙を流す程喜ぶのですが、終わった頃には痛みで涙を流しておりました」

 あぁ…この人、今のゴリヴィエ様を知らない。

 確かに、筋肉オバケになる前のゴリヴィエ様と組んず解れずの肉体言語で話し合えるならお金を払ってでも挑む者が沢山いただろう。だが、今はお金を払っても遠慮したい程だ。

 双方に同じ知り合いが居るというのは話が弾む。

 部屋の扉がノックされる。こちらが『どうぞ』と声をかけると荷物を持って個室に入ってきた。

「失礼いたします。お客様宛にお荷物が届いております」

「えぇ、ありがとう」

 お店の従業員が、20cm四方の箱を私に渡してきた。確かに、宛名にはタルト様へと書かれている。随分と達筆な字だ…女性の筆跡かな。お見合い相手からのプレゼントかと思って顔を見てみたが、違うらしい。重さや箱のサイズから察するに衣服か何かだろうか。

「どうぞ、開けてください。何かは分かりませんが、確認する必要はあるでしょう」

「すみません。では、失礼します」

 人がお見合いをしているタイミングでなんて邪魔を……はっ!? もしかして、ゴリヴォエ様が私のお見合いに気がついて邪魔をしにきたかもしれない。今回のお見合いの件は、ゴリヴィエ様には内密にしていた。教えると裏切り者と涙を流してOHANASIされると思ったからだ。

 中身を開けてみると、一枚の手紙と洋服が入っていた。

『拝啓

 穏やかな日々が続く季節の中、ご家族の皆様にはますますご清祥のことと存じます。

 この度は、『ウルオール』近衛騎士団ミハエル・ロトス・クレッセント様とのお見合いをすると伺い、失礼を承知でお手紙を出させていただきました。タルト様の妹でおられますシェリー・ルーベン様をこちらにてお預かりさせて頂いております。

 さて、本題ですが大切な妹を無事に返して欲しければ速やかにお見合いを中断した後にミハエル・ロトス・クレッセント様に本日のお見合いはご縁がなかったと伝えるといい。そうすれば、無傷で妹を開放すると約束しましょう。

 モ…もし、誰かにこの事を伝えた時には、どうなるか分かっておりますよね。こちらが本気だと伝える為にシェリー・ルーベン様が着用していた衣服を一緒に送ります。

                                     敬具』

 ………えっ!?

 あの子は今、お母さん達と一緒に王都を観光をしているはずじゃ。

 すぐに、箱の中に入っていた衣服を確認したら今日シェリーが着ていた服が入っていた。まだ、温かい…この近くに居る? だけど、どうやって見つける。

………
……


 よくよく考えれば、こういう場合、既に妹は亡くなっている。もしくは、S氏の作品のようにウ=ス異本みたいな展開が妹に身に降りかかり既に廃人になっているだろう。ならば、エロ…じゃなかったテロリストには屈しずこのままお見合いを続けるべきだ。

 それが妹の思いに応える方法だ。



 横の部屋でタルト達の様子を窺っている。反応が楽しみである。

『箱の中身は何だったんですか?』

『いえ、知り合いからの贈り物でした。なんでここがわかったんでしょうね』

 それから平然とお見合いを続けるタルト…なんという鋼の心だ。目的の為ならば妹をも切り捨てる。実に冒険者らしくなったじゃないか。知り合いの成長を喜ばずにはいられない。

「ば、ばかな!! 可愛い妹が人質に取られているというのに…鬼か悪魔か」

 それを言うなら、姉のお見合いを本気で邪魔をしている猫耳童女は神か何かなのだろうか。それにしても、面白い。というか、この猫耳童女は姉にどれだけ嫌われているのだろうか。

 やっべ、ワクワクしてきたぞ。

「折角、シェリーさんのアイディアで服まで詰めたのに効果がないとは…一体、どんな姉妹関係だよ」

 猫耳童女には、絹芋虫ちゃん達が取り急ぎ作った服を用意した。男性と二人しかいない個室でいきなり脱ぎ始めた時は身の危険を感じたよ。行動力があるのも考えようであると思ってしまった。

「レイアおじさん、他にはどんな事が出来るんですか?」

「そうだな…肉体の再生なども出来るから、いっそうシェリーさんの生首でも作って送りつけようか。見た目だけなら、そんなに時間も掛からず作れると思うが」

「生首ですか…スマートじゃありませんね。指にしましょう!! 指に」

モキュー(姉とは別の意味で腐っていますね)

 絹毛虫ちゃんに料理を食べさせながら、次々とえぐいアイディアを出してくる。将来が楽しみな猫耳童女だ。
シェリーさん…未来の大冒険者か受付嬢の才能があると思うのよね。
マーガレット嬢に弟子入りでもさせたい。


PS:
だんだんと、ギルドというタイトルにそぐわなくなってきた気もするが問題ない(´・ω・`)
こういうのはノリと勢いが大事だと作者は思っております。

一月から作者…一ヶ月ほどお仕事で中部地方にいかねばならなく、執筆が停滞するかもしれません。お仕事が一段落して直ぐに書き始められるようにアイディアだけは考えておく予定です。

さて、餃子や鰻、味仙の台湾ラーメンでも食べてきます。
味噌カツも美味しいよね。

明日から仕事…隕石でも降ってこないかな。
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