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第六十六話:ギルド(3)
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
ギルドのお話はもうちょっと続きますヽ(*´∀`)ノ
ちょっと、異色に思える話ですが繋がってギルドのお話ですよ。
『ウルオール』の王都、ゴリフターズの実家と言える王宮がある場所である。私も何度か足を踏み入れた事がある。ちなみに、顔パスである。そんなザルな警備でいいのかと思う程だ。
良くも悪くもゴリフリーナとゴリフリーテを娶った人物として『ウルオール』では有名人だ。その為、王都を出歩く場合にはフードを被るのが必須だ。
「家族水入らずの時間も大切だからね」
本日は、ゴリフターズの里帰りに付いてきている。旦那として愛する妻達のご両親には最大限配慮すべきだと思っている。年に何度かは顔見せに行かせる必要があると考えている。ランクAの二人とは言え、親から見たら子供には変わりないのだ。嫁にいった娘が心配になるのは親として当然の事だ。
これは、紳士として当然の配慮である。
『ネームレス』と違って、『ウルオール』の王都で蟲達を無闇に影から出すのは面倒事になりそうなので一人で寂しい時間を過ごしている。当初は、義弟達に王都を案内させようかと思ったが…洒落にならない大騒ぎになりそうなので止めた。
よって、私の行き場は『ウルオール』王都にあるギルド本部になったのだ。『ネームレス』同様にギルド本部の中には軽食ができる場所があるので、そこでお茶を飲んでいる。流石は王都にあるギルド本部だ…迷宮付近にある『ネームレス』とは異なり、多少上品な雰囲気がある。
上品さがある代わりに冒険者の質は宜しくないようだ。生死の境を経験した者が少なそうに見える。王都にあるギルドでメインの依頼は大体が輸送の護衛と周辺のモンスター討伐だ。近隣に迷宮が無いので当然とも言える。そもそも、迷宮の傍に首都を建造する方がおかしいので当然といえば当然だ。
しかし、亜人の国と名高い『ウルオール』だけあって受付嬢まで亜人である。趣のある趣味の者がこの場にいたら狂喜乱舞しそうだと思わずにはいられない。
頭から生えた耳とか触ってみて~!! というか、あれが耳なのかも疑問だ。顔の横についている耳はあるのだろうか、それとも耳が四個あるのだろうか。謎すぎる。うちのゴリフターズは亜人だが、種族はゴリ…エルフだからね。人間と大差がない。
「あのねお嬢ちゃん…依頼を出すのもいいけど、流石にこの値段じゃ誰も引き受けてくれないわよ」
「これが精一杯なんです。お願いします!! そうしないと、お姉ちゃんが…」
どこのギルドでも同じような事があるのか。金はないが、依頼は受けて欲しい。全く、冒険者を何だと思っているんでしょうね。子供だからといって、許される範囲を超えている。親の顔が見てみたいものだ。
冒険者が金に釣り合わない依頼を受ける場合は、今後の事を見越しての先行投資か感化されてか金に困っているか暇つぶしの時くらいだ。
「そこまで言うなら一応依頼は出すけど…本当にいいの?」
「はい!! お姉ちゃんに先に結婚されたくないので、お見合いを潰してください」
ブッ!!
思わず飲んでいた紅茶を噴いてしまった。気管にまでお茶が入り、予想外に苦しんでしまった。思春期真っ盛りに思える猫耳亜人の少女が姉のお見合を潰してくれなど余程の事かと思えばとてつもなく個人的な理由だった。
この私の予想の斜め上を行くとは…こいつ出来る!!
私と同じように思わぬ発言に驚きを隠せない冒険者もいたようだ。王都にいる冒険者の予想すら裏切る内容だったらしい。それにしても、依頼内容が気になる。ここまで内容が気になる依頼は久しぶりだ。
………
……
…
依頼が張り出されたので、大衆に紛れて内容を確認してみた。
依頼内容は、姉のお見合いの妨害。手段選ばずお見合を不成立にさせれば良いとの事だ。但し、血生臭い事は厳禁。報酬は、2万セルと…安宿の一泊二食付き程度かな。子供が出せる報酬額などこの程度のものだろう。お小遣いやバイト代が主な収入源だろうしね。
しかし、私利私欲の為に姉のお見合いを妨害したいなど………楽しそうじゃないか!!
金の為に受けるのではない、純粋な好奇心から受ける依頼である。冒険者である以上、こういう依頼も冒険だよね!! ついでに、良い暇つぶしになるだろう。
依頼書を手に取り受付に行って受諾申請を行った。
「あの失礼ですが、このご依頼…ランクB以上と指定があります。大変申し訳ありませんが、あなたはここを拠点にしている冒険者の方ではありませんよね? 申し訳ありませんが、フードをとっていただけませんか。後、お名前を教えてください」
冒険者のランク管理は全てギルドが行っている。だいぶ昔にギルドカードという存在があったようだ。だが、偽造カードが非常に多く出回り社会問題になったので廃止になった。その為、非効率ではあるがギルド総本山から毎月送られてくる新規冒険者の情報と死亡者情報を各ギルド本部側で精査して纏めておかないといけないのだ。手間も時間も相当かかるのだが、新たな雇用が生まれるというメリットもあった。
名前が売れている冒険者は、ギルド職員の教育で最低限覚えさせられるそうだ。
それにしても2万の依頼でランクB以上を指定とは酷いな。私がいなければ間違いなく、放置されていた依頼だぞ。
「『神聖エルモア帝国』所属で『ネームレス』を拠点にしているレイア・アーネスト・ヴォルドー。この依頼を受けたい」
「えっ!? レイア様ですか!? いえ、失礼致しました。依頼受諾の件、サインをお願い致します」
人様の顔を見て受付嬢が驚愕と言わんばかりの顔をしている。折角の綺麗な顔が台無しになっている。だが、すぐに取り繕うあたり受付嬢としての教育は中々のものだ。
「あの…興味本位でお伺いするのですが、なぜこの依頼を? 正直に申し上げて、売れ残るものだと思っておりました」
「好奇心からだ…それに、姉を思う妹の願いを叶えてやるのも冒険者の務めというものだよ。人助けだよ」
その思いが嫉妬や怨念であったとしてもだ。冒険者なのだから、好奇心と行動力は大事だと思うのよ。こういう楽しそうな依頼は受けても損はないはず。人間観察という意味では実に勉強になる。
「お見合いを妨害したら姉の方が不幸になるのでは?」
「問題ない。お見合いが成功した場合には、妹のほうが不幸になるのだ。どのみち不幸になる者がでるなら、妹の行動力を評価して手を貸すのは紳士として当然であろう」
紳士として幼い女性の手助けをするのは当然だ。金にならん依頼を受けるのは、非常に嫌だが…良い暇つぶしになる。更にお見合いは、これから行われるというのでナイスタイミングだ。
「そういうものですか…」
「その通りだ。報酬を用意して待っているがいい。すぐに破談にしてくる」
このレイアにかかれば、お見合いの一つや二つすぐに破談にしてくれるわ。
◇
依頼を受けると、近くで待っていましたと言わんばかりに猫耳少女がこちらにやってきた。活発そうな雰囲気、健康そうな肉付きに加え少し派手な動きをすると下着が見えてしまいそうな健康そうな服装。ショートカットがよく似合う猫耳少女であった。
だが、どことなく誰かに似ている気がする。
「おじさんが依頼を受けてくれた人?」
お、おじさん!?
誰の事を言っているのかと一瞬考えてしまった。20歳の私がおじさんだと!? 確かに、10代前半の少女から見れば20代なんておっさんかもしれないが、流石に心にズドンとくるものがあった。ここ最近受けたダメージの中では、トップ3に入る程だ。
だが、怒ってはいけない。
依頼主を殴り飛ばすなど、冒険者として宜しくない事だ。
「あぁ、そうだ。で、君の名前は?」
「シェリー・ルーベン12歳!! 今日は、家族揃ってお姉ちゃんのお見合いに付き添いできたところをこっそりと抜けてきました。まさか、本当にランクBの人が受けてくれるなんてちょっと予想外でした」
分かっているなら低ランクの募集にしておけよ。まぁ、楽しそうだったからいいけどね。
「幸い時間を持て余していてね。本日中にケリが付く依頼なら願ったり叶ったりだ。それに、姉の不幸を望む妹というのはなかなか見ていて楽しいものがある。採算を度外視しても悪くない依頼だと思っている」
「おじさん、意外と良い性格していますね。ですが、安心しました。お姉ちゃんはランクB冒険者なので万が一を考えて同じランクの人に付いていて欲しかったんです…逃げ切る意味でも」
この私に囮になれとどうどうと申すか。隠し事をされるよりマシだがさ。
悪い笑顔をする少女をみて将来が不安になってしまう。
「危ない時は餌となって依頼主を逃がせと…良いだろう、承諾した。で、興味本位で聞くのだが、なぜ姉のお見合いを妨害したいのだ。よければ聞かせて欲しい」
「そうですよね。依頼を受けてもらう以上、お話しする必要があります。実は、私の実家は代々『ウルオール』公爵家へご奉公をしております。当然、私の姉も将来は公爵家に勤めるはずだったのですが…ある日、逃げ出したのです!! 」
「公爵家から逃げ出すなど余程の事だったのだろう」
「そのせいで、私が公爵家に生涯ご奉公する事になってしまったのです。酷いと思いませんか!? 私の人生というレールが姉の逃亡のせいで固定化されてしまったんですよ。そんな姉の消息がここ最近になって判明して、しかもそのタイミングで姉にお見合いの話が舞い込んできたんです。姉も適齢期なので、親もノリノリで…」
「公爵家に勤めるならば別に悪い話でもあるまい。寧ろ、僥倖とも思えるが…何か問題でもあったのかね?」
公爵家にお勤めになるなどステータスだろう。本来ならば、位の高い貴族の次女などが箔を付ける為にやる事なのだから、一般市民臭いこの少女の一家がその役を担えるのは嬉しい限りの事だと思うのだがね。上手くいけば、貴族と結婚できて人生ウハウハだろう。
それにしても、『ウルオール』の公爵家ね…確か、知り合いにそんな家の出自のゴリが一人いた気がする。
「それでも嫌なんです!! 私は、冒険者になって色々な場所へ行って色々な物をみたいんです。確かに、人生設計は安定するかもしれませんが冒険者ってロマンがあるじゃありませんか。女性だって、ロマンを追い求めてもいいと思いませんか」
ロマンか…悪くない理由だ。まぁ、内心は姉のお見合いをぶち壊す事が第一だろうがね!!
「知り合いには、何人か女性冒険者もいるが大変だぞ。迷宮に行くようになれば、怪我は絶えないし、服だって臭い物を何日も着る事になる。最悪の場合、身包み剥がされて殺される事だってある。それでも、冒険者になりたいと?」
「モチのロン!! 最悪、冒険者に向かない場合にはサポータとしてやっていきます。姉も最初はサポータだったみたいなので、私でもなんとかなると考えています。幸い、書物で野草などは勉強できますしね」
なかなか、向上心がある少女だ。それに、行動力もある。もしかしたら化けるかもしれないね。
「良い心構えだ。では、この私が全身全霊をもってお見合いを破談させてあげよう。で、場所はどこだね?」
「はい!! えっと、桜花亭という料亭でお見合いをすることになっています。昼食を兼ねて」
昨晩、ゴリフターズと食事をしたお店である。なかなか、趣のあるお店で出す料理も非常に美味しかった。メニュー表などが無く、その時期に獲れた最高の食材で最高の料理をだす時価のお店だ。要するに、お金持ち専用のお店。
「場所は、知っている。では、行こうか童女よ」
「童女じゃありません。おじさん!! 私は、シェリーです」
「私もおじさんではない。レイアだ」
「分かりましたレイアおじさん。では、お姉ちゃんのお見合いをぶち壊しにいきましょう」
もう、おじさんでいいよ。この手のタイプは何を言ってもおじさんから変えないだろうしね。容姿に加え名前まで聞いても何の反応も示さないのは…ちょっと残念だ。有名人になれたと思ったが自惚れていたようだ。以後、自重するとしよう。
◇
桜花亭は、上客でもない限り半年先まで予約で埋まっている老舗である。そこでお見合いを行えるという事は、お見合い相手は上客と見て間違いないだろう。豪商か貴族が一番濃厚な線だな。
「で、シェリーさんよ。当然、桜花亭に入る算段は考えているんだろう。親族を名乗ってはいるとか」
「何を言っているんですか。そこから考えて実行してもらう為に依頼したんです!! 私は、こう見えて考えるのは苦手なんです」
いや、間違いなく見た目通りだったよ。
まぁ、親族であっても予約した人以外入れないのがこのお店なんだがね。というか、この童女はなぜそんなに偉そうなのだ。立場をわきまえろ!!
「はぁ~、仕方ない。受けた以上、全力を尽くすのがこの私のスタンスだ。ランチくらいはご馳走してやろう。で、お前の姉の名前は?」
ランチだけでも一人5万セルはするお店だ。すでに、依頼報酬を遥かに超えてしまった。
この童女は私の事を知らないようだが…このお店の定員は違う。昨日も訪れた事もあるので、顔パスでなんとかなるだろう。最悪、従業員スペースで賄いでもいいので食べさせてもらいたいね。
そして姉のお見合いの横の部屋辺りを陣取って、盗み聞きをしつつタイミングよく邪魔をしよう。食事に蟲を混ぜるとかが一番なのだが、営業妨害は良くないよね。
「あれ?言っていませんでしたっけ? タルト・ルーベンといいます。私と同じくこの耳が特徴の…確か、『ネームレス』でランクB冒険者として働います。ご存じありませんか? レイアおじさんも『ネームレス』で冒険者をやっているんですよね?」
………
……
…
猫耳亜人でタルト…ランクB冒険者か。
やばい!! 楽しくなってきたぞ!!
「あの下半身が緩いタルト君か!? 人前で漏らすのが趣味な特殊性癖をもつあのタルト君か!! ウ=ス異本を集めるのが趣味のタルト君の事かぁぁぁー!!」
「ぶっぅぅぅーーー!? なんですかそれ!! 姉は、一体何やっているんですか!? なに、そんないけない冒険しちゃっているんですか」
ふぅー、スッキリした。
それにしても、なかなかリアクションが楽しい妹を持っているじゃないかタルト君。この依頼、金を払って受けてもいいくらい楽しくなってきそうだ。
未来の筋肉教団副教祖のタルト君がこんなところで結婚するはずありませんよね(´・ω・`)
教祖のゴリヴィエを裏切るなんてできるはずありません。

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