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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六十五話:ギルド(2)

◆一つ目:キース・グェンダル
 領地が雪化粧を始めるのをゴリフターズと一緒に眺めようと帰省したのだが…私が領地に戻る日を狙ったかの如く、ギルド幹部であるキース・グェンダルという中年の男が訪ねてきた。身なりも整っており、まさに実業家のエリートといった雰囲気がプンプンしている。

メイドの一人は、ギルドの犬なのでそこから漏れたのだろう。別に、情報封鎖などはしていないので咎める必要性も感じていない。そもそも、今回のこのような出来事が発生する前提で雇っているのだからね。文句を言うのはお門違いだ。

ギルド幹部にどのくらいの権力があるかと言えば…小国の国王並と言っておこう。実際、ギルドの総本山とも言われる場所は、『神聖エルモア帝国』の南方にある南方諸国連盟にある。複数の小国が集まって大国に対抗すべく組織された連盟ではあるが、中身はギルドの傀儡国家である。

ギルド幹部の殆どは、連盟国の王族と婚姻関係を結んでおり切っても切れない関係になっている。仮に婚姻を拒もうなら、連盟を追い出して滅ぼすだけなのだ。連盟を追い出した後は、各町にあるギルドが撤退を開始する。ギルドが無くなると冒険者の生活が成り立たなくなるので他国へと冒険者が流れてしまうか野盗へと鞍替えをする。

そうなると、一般人はモンスターの脅威から身を守る術を一つ失う事になるのだ。大国ならば、ギルドが撤退したとしてもお抱えの騎士団などで対応はできるが小国の場合は死活問題になる。そして、国家が疲弊したところで戦争をしかけるのだ。事実、見せしめで三年前に一国が滅ぼされている。

そして、今現在目の前にいるギルド幹部であるキ-ス・グェンダルは、『神聖エルモア帝国』にあるギルド全てを取り纏める存在。普通に考えれば、自らの足を使って赴くような者ではない。相手を呼びつける立場の者だ。そのような大物が、ヴォルドー領に足を運んだとなれば災いごとに決まっている。

「ようこそと素直にギルドの幹部を迎えられるほど私は人間が出来ていないのだが…何用ですか。キース・グェンダル殿」

「まぁ、私を邪険になされるお気持ちも分かりますが…本日は、今までの非礼に対してのお詫びと友好の印としてこのような物をご用意させていただきました」

 少しでも無礼な対応に出れば、こちらもやりやすかったのだが…出来るな。キースが指をパチンと鳴らすと控えていたキースの付き人が両手で抱えていたサッカーボールくらいの大きさの箱をテーブルに置いた。

 今までギルドによってかけられた迷惑は相当なものだ。タウンページ一冊分くらいの報告書がかける程にね。それなのに、こんな箱一つが詫びの品などふざけているのかといいたい。

「悪いが、帰っ…」

「神器ヒューペリオン」

………
……


えっ!?

神器!? それって、ガイウス皇帝陛下が持っている物と同系統のアレですか!? 落ち着け…神器なんて片手で数え切れるくらいしか発見例がない。しかも、その全ての所在はハッキリしている。よって、ブラフである事は間違いない。私を揺さぶっているだけだ。

現在この世で神器を扱えるのはガイウス皇帝陛下のみ。

神器プロメテウスは、『神聖エルモア帝国』のガイウス皇帝陛下が持つ全痴全能の書。これは、世界的にも有名な神器だ。但し、能力の詳細は一般人には公表されていないが…公然の秘密みたいな物で誰しもが能力を知っている。男性からは羨望の眼差しで、女性からは軽蔑の眼差しと正反対の羨望を集めている神器だ。

 神器テミスは、『聖クライム教団』の二代前の教祖が使っていた神罰の杖。狙った対象に禍を齎すと言われており、当時の記載によれば教祖の怒りをかった小国が一夜にして疫病で滅びたとある。現在は、担い手がおらず教祖の任命式典でしか見る事ができない神器で『聖クライム教団』にて厳重保管されている。ちなみに、その二代前の教祖は、『闇』のグリンドールの祖母にあたる人物である。

 神器ヒューペリオンは、ギルドが所有していると言われている物で担い手は現在までに誰も現れていない。その為、存在自体が怪しまれている神器だ。それ故に、能力の詳細は明らかにされていない。数百年以上前に一介の冒険者が宝箱より発見した物をギルドが強引に略奪したと言われている。

「世界の秘宝との言える物をよくギルド幹部の一存でもって来られたな」

「本日持ってきたのは、レプリカですがね」

 開けられた箱の中には、腕輪が入っていた。半透明のガラスのような素材で作られている。レプリカというからには、見た目は同じなのだろう。これが神器ヒューペリオンか…本物の性能を是非見てみたい。凄まじく恐ろしい能力か凄まじくくだらない能力である事は過去の事例から疑いようがない。

 だが、それよりも問題なのはこの私の純情を踏みにじった事だ!! 本物が見られると思って期待したのに、やってくれるなクズ野郎。勢い余って殺すところだったが…我慢する。ここで殺したら部屋が汚れてしまう。応接間にある家具はどれも一級品でお高いのだ。こんな下賎な奴の血で汚すのはもったいない。

「遠路はるばる来て人様をおちょくりに来たのですか。ギルド幹部というのは暇なのですね」

「これでも忙しい身ですよ。で、今お渡しするのはレプリカですが…レイア様がギルドの特別職員となっていただけるのであれば、本物の神器ヒューペリオンを貸与致しましょう。これは、ギルド幹部一同から承認を得ております」

 特別職員…それが何を示すかは知らないが碌でもない事は間違いないだろう。俗に言う名ばかり職員でやらされる仕事は私の『蟲』の魔法を使った何かであろう。可能性が一番高いのは、病の開発と特効薬の開発だと考えている。両方セットで大国相手に販売する事で莫大な利益が確保出来るからね。

 まぁ、それは一度置いておくとして…神器は欲しいぞ。

 神器は、担い手を選ぶ特殊なものだ。故に、『聖クライム教団』では二代前の教祖しか担い手が現れていない。担い手以外の者が持っていても飾りにしかならない。だが、ロマンを求める冒険者としてはたとえ使えない神器だとしても欲しいと思うのは当然である。もしかしたら、使えるかもしれないという淡い期待を抱かずにはいられない。

「てっきり、金や女で釣るものだと思ったが…食えない人ですね」

「えぇ、当初はそれを検討していたのですが辞めました。人柄などを調べていくうちに、最初から出せる最高のカードを出した方が好印象を持たれると考えましたので」

 その通りだ。

 ちまちま小出しにされるのは嫌いだ。最初から最高のカードで交渉に望んでくるあたり私の中では高評価に値する。事実、凄まじく心が揺らされてしまった。ガイウス皇帝陛下に忠誠を誓う私の心をここまで揺さぶるとは…ギルド幹部を舐めていた。

 このキースと名乗る幹部、極めて優秀だ。

「非常に魅力的な提案だが、お引き取り願おう。この私、レイア・アーネスト・ヴォルドーはガイウス皇帝陛下以外に仕える気は無い。幹部である貴方自身が来訪したのでこの場では何も聞かなかった事にしましょう」

「特別職員として別にギルドに仕えろと言っているわけではありません。こちらが要請した際に依頼内容通りに働いてもらえれば構いません。いわば臨時職員だとでも思って頂ければいいのです」

 随分とハードルが低い。

 だが、私をギルド側に引き込めば必然的にランクAの二人がセットで付いてくる。それ故の大盤振る舞い。更に、四大国の一つである『ウルオール』もバックに付くのだからギルドとしては出せる最高の札を出しても損はしないという事か。

「それでもだ。表だって公表できないような仕事をさせられるなど御免こうむる。赤の他人が死のうが苦しもうが知った事ではないが、身内や顔見知りにまで被害が及ぶような事には加担できん」

「そうですか、残念です。神器ならいけると思ったんですがね」

 あぁ、その通りだ。

ガイウス皇帝陛下と出会う前にそれをやられたら間違いなくギルドの犬として働いていたと思うよ。それほど魅力的な提案であった。だが、この忠臣レイアはガイウス皇帝陛下を裏切る事はない。

 ガイウス皇帝陛下には、一生かかっても返しきれない程の恩があるのだ。幼少期はもちろん、お母さんの事も色々と配慮していただいている。そんなお人に恩を仇で返すなど人として終わっている。

「レプリカとはいえ、良い物を見せていただいた。お礼に私も一つだけ見逃してあげましょう」

「なんですか?」

「貴方の後ろに控えている者が使っている魔法については、今回は見逃します。ですが、次はありませんよ」

 先ほどから妙な風の流れを感じると思い意識を集中させてみれば、案の定、魔法が行使されていた。危うく見逃す程であった。非常に微弱…目だけを変態させねば気が付けないほどであった。

 本邸に招き入れてみれば随分と不埒な行為をしてくれる。恐らく、屋敷の構造を『風』の魔法を使って調べていたのだろう。他にも魔法が行使されている可能性もあるが生憎と判断がつかない。

「私の部下が勝手な真似をして失礼しました。この侘びはいつの日か…」

「あぁ、期待している。外層まで蟲におくらせよう。間違っても脇道に入らないでくださいよ。命の保証はできないからね」

 紳士的な話し合いの末、丁重にギルド幹部を見送った。

………
……


 幹部が完全に屋敷を離れた事を確認し、隣室に控えていて貰っていた二人を訪ねにいった。

「あの幹部を見た二人の率直な感想は?」

「想像していたよりマトモですが、想像していた以上にドブの香りがいたします。今まで相当後暗い事をやっていたと思われます」

「あれが、『神聖エルモア帝国』のギルドの纏め役ですか、『ウルオール』のギルドの纏め役とどことなく雰囲気が似ております。見た感想ですが、腐っていますね。『聖』の魔法で思わず浄化をしたくなりました」

 あぁ、その通りだ。

我々三人が総出でかかれば、あの程度の者など瞬く間に殺せるが…こちらに手を出してきていない以上、行動を起こすのは紳士ではない。こちらが事を荒立てた場合の対策も立てているだろうしね。

『ウルオール』を経由して瀬里奈ハイヴへ向かう日も近いな。エーテリアとジュラルドにも瀬里奈さんの事を紹介する日も考えねばならない。望むのならば、エーテリアの出産時に瀬里奈ハイヴを提供してもいいな。



「周囲に蟲の存在は確認できません。大丈夫かと存じます」

「釣れると思ったのですが…食えない男ですね。で、本邸のマッピングはどこまで出来た?」

 スパイからの報告では外層と本邸の一部しか構造が探れなかったと報告に上がっている。当然だ…こちらが送り込んだスパイだと分かった上での採用しているのだ。不用意に本邸に招くような事はするまい。

「一階と二階は全て網羅致しました。ただ、地下が探る事ができませんでした。入口までは見つけましたが…広すぎてあの短時間では無理があります」

「はぁ~、地下ね。見た目とは裏腹に随分と広い屋敷のようだな」

 どうせ、次に訪れた時は本邸が増改築されているだろう。今回、全て終わらせる予定だったのだが…予定が狂った。部下の中でも最も『風』の魔法に優れた使い手を連れてきたのだが、マッピングしている事がバレるとは想定外だった。

「まぁ、良い。別の方法を考える。規格外の相手が全てこちらの思い通りになるとは最初から思っていない。ちなみに、アレを相手に逃げ切れる自信はあるかね?」

 赤子が生まれた際に強襲による強奪を検討してみた。出産直後ならば、ランクAとはまともには動けまい。ランクAは二人いるが…あの者の性格を考慮して平等に扱っていると思える。故に、出産はほぼ同タイミングになると考えている。

 ならば、レイアさえ押さえ込めば赤子を手に入れる事も可能だ。逃げ切ってしまえば、後はギルド傘下の小国でも犯人に仕立てあげて差し出せばいい。ギルドが正式に発表して監督不行き届きでしたと謝罪すれば、非難は回避できよう。

 あとは不安要素であるガイウスが持つ神器プロメテウスを騙せるかだ。試算では、5割程の確率で欺ける。一種の賭けに近いが…神器相手に考えれば十二分の勝機だ。名付ける前で且つ男の赤子なら確実にプロメテウスでも我々が奪った赤子を探すのは不可能だ。あれは、そういう神器だ。

「条件次第です。レイア・アーネスト・ヴォルドーだけで、空を飛ばせないという条件が成立できるならば可能です。但し、ランクB冒険者100名程の犠牲が必要だとお考え下さい」

「あれは、空も飛べるんでしたね。ランクB冒険者100名ですか、一考しておきましょう」

 私の誘いを断った事を後悔する日は近いですよレイア・アーネスト・ヴォルドー。
こっそりと「なろコン」に応募してみました。
どうなるか、不安と期待で一杯です。



レイアが瀬里奈ハイヴへ行くという時は、ゴリフターズがおめでたなんですよヽ(・∀・)ノ
※まぁ、その展開はまだまだ先ですが(´・ω・`)

次は、ゴリフターズの実家にいくよヽ(・∀・)ノ
お義父さんにご報告せねばならいことがあるので。 
ゴリフターズのご両親は、めっさ美形です。
さすがは二人の親!!
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