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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六十四話:ギルド(1)

◆一つ目:ギルド上層部の一人
 高ランク冒険者同士の間に生まれた子供が必ずしも才能豊かという事は無い。現に、ランクB同士の間に生まれた子供でも才能がまるでなく一般人として暮らしている例は数多くある。

 だが、それは真っ赤な嘘であるという事に気がついている者達も居る。

 このご時世、出産という行為には命の危険が伴う事は珍しくない。特に難産の場合などは死を覚悟する必要がある。他にも、衛生状況の問題なども考えられるが、魔法を得意とする者が居ればある程度は改善される事だ。

 ギルドでは、高ランク冒険者に対して出産補助を善意で引き受けている。出産に良い環境から出産後のフォローまで行っている慈善サービスがあるのだ。『水』の魔法を得意とし、お産補助の経験豊富な者を用意してくれるのだ。それ故に、このサービスを利用する者は居る。

 だが、知っての通り赤子の時は、余程特徴的な子供でない限り親であっても区別が付きにくい。それを悪用する者が居るとは想像の斜め上を行く。

 強くなる為には、モンスターソウルの恩恵を得る他にも道は存在する。高ランク冒険者の血を輸血した者の身体能力が向上したというギルドの検証結果があるのだ。勿論、一時的なもので永続的に続くわけではない。

 ならば…心臓から血液まで臓器全てを入れ替えてはどうだろうという実験が秘密裏で行われたのだ。その結果、数百という死体の山を築き上げ…不可能だという結論に至った。技術的な問題もあったが、何より血液が人体にもたらす影響を理解しきれていない事が原因である。

そして、初心に帰ったのだ。

 優秀な冒険者同士の間に生まれた子供を育て、永続的に血液を供給できる状況を作ればいい。生まれたての赤子をすり替えて、優秀なギルドの飼い犬に育て上げる。そして、頃合をみて軟禁する。仮に想定以上優秀な犬に育ったとしたら、そのまま使い続けるだけだ。どちらに転んでもギルドにとって損はない。

 一時的にとはいえ身体能力が向上した時にレベリングを行う事で効率よく強くなれる。もっとも、血液型という概念を理解しきれておらず、死ぬ者もいるので誰にでも輸血できる血液を持つ者が非常に重宝される。

 事が明るみに出なければ何をやってもいいと思っているクズの集まり…それがギルド上層部なのだ。万が一、不利になるような事が口外されそうになった場合には即座に子飼いの犬を差し向けて亡き者にする。

 表向きは世の為人の為と綺麗事を謳っているギルドの一つの真実がここにある。



「欲しい人材だな。我々の側になんとしても引き込みたい」

 ギルドに登録されている冒険者で特に優秀な100名が纏められた冊子。ランクAは勿論、確固たる実力を持つランクBの者達も載っている。その中で、目に付いたのが昨今話題性の高い人物…レイア・アーネスト・ヴォルドー。世界で四つしか確認されていない特別な属性の持ち主にして、『神聖エルモア帝国』の大貴族である人物。先年には、ランクAの双子姫を娶った稀有な存在だ。

 戦闘面で言えば、レイアより優れている者は少ないが存在している。だが、ギルドが求めているのは戦闘面以外での能力なのだ。レイアの持つ汎用性の高い『蟲』の魔法は、ギルド上層部としては是非欲しいと思っている。

 百万を超すと言われる蟲を使った人海戦術…暗殺、諜報は当然として異常なまでの再生能力、記憶操作。更に、モンスターの開発まで可能。病の製造や特効薬の製造もお手の物と聞いている。ただ戦闘力が高い冒険者達より高く評価する存在だ。

「この若さで大貴族とは…やはり、ガイウスの隠し子という線が濃厚か」

「レイアが若い頃からの付き合いで迷宮でのレベリングも行っていたと報告書がある。これで、王位継承権があれば確定できたのだがな」

 現在もガイウスとは親密な付き合いをしていると報告に書かれている。ガイウスが持つ神器とレイアの『蟲』の魔法が揃うだけで他国の情報が筒抜けと思って間違いないだろう。恐ろしい事この上ない。

「金の亡者だと聞いている。こちら側に引き込むのは容易いのではないか。必要であれば女も斡旋しよう」

「女か…それは、やめておいた方がいいだろう。過去に失敗している」

 レイアの有用性に目をつけた幹部が独断で受付嬢を焚きつけたのだ。子供なら母性がある女性を使えば操るのも容易いと思ったが、驚く程ませたガキで効果はまるでなかった。寧ろ、ギルドの印象を悪化させる結果に終わった。

「化物専門か、マニアックだな。アレ等と同レベルの化物を用意するとなると年単位かかるぞ」

「どうだろうな。まぁ、どちらにせよ…ギルド側の犬として働くか、直接聞いてみる価値はあるだろう」

「そうだな。こちらは断られた時のための準備を進めておこう。結婚して約一年目だ…良い頃合の妊婦は、既に準備している。エルフとのハーフという面では工面するのに苦労したがな」

 世の中の法では、人身売買は禁止されている。だが、ギルド子飼いの者が勝手に妊娠して、その子供が何かの事故で他人の子供とすり替わるのは別に犯罪ではない…不慮の事故なのだ。道徳的に考えて、そのような事を行う者がいないという前提なので法の整備が行われていない。

「特別な属性を持つ者同士の子供か…さぞや、我々の役に立つだろうな。駒にするのもよし、糧にするもよし。旨みしかない」

「当然よ。『ウルオール』の王都、『神聖エルモア帝国』のヴォルドー領にいるお産補助の経験がある『水』の魔法使いの大半はギルドの息が掛かった者になっている。後は、事を待つだけだ」

 一年先、二年先か分からないが…将来的に誕生する赤子を使い潰す気でいる邪悪な存在がここにいる。



「やはり、数が異常だな」

 私が侯爵として賜った領地の運営を始めてから本日までに領地に出入りをした者の情報を纏めてみると『水』の魔法を得意とする者が多い。勿論、嬉しい事ではある。『水』の魔法は、何かと役に立つ…だが、それでも多すぎる。熟練した魔法使いがこれ程長期間に渡って滞在しているのは何か意図があるとしか思えない。

モモナ(気にしすぎではありませんかお父様。領地が栄えて永住する事を考えているのかもしれません)

 蛆蛞蝓ちゃんの言うように気にし過ぎかも知れない。だが、これには訳があるのだ。蛆蛞蝓ちゃんがDNA鑑定を出来るようになってから、治療を行う際にはDNA鑑定も行うようにしている。練習という意味もあるし、単に情報収集という意味もある。

 そして、なぜか高ランク冒険者の子供のDNAが両親と不一致になる事が何件かあったのだ。仮に、父親だけなら理解できる。母親が不貞を働いたという事だ…だが、両方違うというのは納得がいかない。

「両親が全くの他人という事から考えられる可能性は?」

ピッピ(取り違えという線は、ありえないと思います。あり得るとするならば、赤子の時にすり替えられた。もしくは、出かけた際に両親が誤って連れて帰ってきた)

 後者は、ありえないだろうな…着る物まで完全に一致した子供など居ない。となれば、濃厚な可能性は前者である。そのような事をする利用なんて………まさか!?

「高ランク冒険者の子供でDNAが不一致になった両親と今まで集めたDNAが一致する者が居ないか検索してくれ」

モナ(少々お待ちください。数が多いので二時間ほどお時間を……)

 見当違いであって欲しい。だが、すり替えを実行するには必ずすり替え対象の子供を用意しておく必要がある。国家主導でそのような陰謀を行うとは考えにくい…なぜなら、ゆくゆくは国家の戦力になりうる存在だ。そんな事をせずとも普通は産まれた国に属す。

 ならば、出来る組織はギルドしかありえないという結論に至る。何の目的かは定かでないが、頭がイカレた連中だと言う事だけは確かだろう。

………
……


モモナ(お父様の条件に該当した件数は、二件ありました。両名ともギルドからお父様に差し向けられた刺客です。信じられません…ギルドの者は人の命をなんだと思っているんですか!?)

ピッ(なんと言う事を。知らぬ間に両親から引き離されて、ギルドの駒として生涯を終えるだけなんて…酷すぎます)

 酷いどころか人間のやる事じゃないぜ。となれば…ギルドの目的は大体理解できた。ならば、対策は簡単だ。

「しばらく、迷宮探索は中止だ。今日から蛆蛞蝓ちゃんには、お産補助の経験を積んでもらおう。信頼の置ける者以外を立ち会わせる訳にはいかない」

 妊娠が発覚した場合には、領地での出産を検討していたが早急に考え直す必要がある。『ウルオール』の王宮での出産を検討したほうが良さそうだ。いや、ギルドの事だからそれも視野に入れている可能性もある。ならば、瀬里奈ハイヴしかないな。

 あそこならば、第三者が紛れ込む事はありえない。

モナ(お任せ下さい!! いかなる状況においても必ず出産を成功させる事が出来るように誠心誠意頑張ります)

 事は、早いほうがいいだろう。ギルドに金を払って早速、出産補助の経験を積ませてくれる者を探すとしよう。まずは、熟練の者が何をするかを見極める。その上で、蛆蛞蝓ちゃんがトレースする。そこから、問題点などを洗い出して改善する。難産の場合には、帝王切開の視野に入れてもらおう。

「ここは、紳士としてジュラルドにも声を掛けるべきだろう。魔法のプロフェッショナルとして意見も聞けるだろうし、ジュラルドにとっても良い話である事は間違いない」

 エーテリアとジュラルド…間違いなく数年としないうちに子供が生まれるだろう。生まれてくる子供は、将来大成する器である事は疑いようがない。ならば、ギルドが手を伸ばしてくる可能性も十分にある。数少ない冒険者仲間として手を差し伸べるのは当然。双方利益があるのは間違いないしね。お互いの出産時には手を取り合おうぜという意味でね。

ギィギ(お父様、ガイウス皇帝陛下にご相談してみてはどうですか? 流石に事が重大故に。動いていただけると思おいますが…)

 ガイウス皇帝陛下でも難しいだろう。

 現状、蛆蛞蝓ちゃんしかできないDNA鑑定という特殊な鑑定方法に加えて、私しか理解できない蟲言語。筆談が可能であったとしても私の完全制御下にある蟲達である事は周知の事実…故に、故意に虚実を書かせることも不可能ではない。

 一般人でも実の子供だと思って愛情を注いで育てた子供が他人の子供であるという疑心悪鬼に社会が落ちる可能性もある。事を荒立てれば、私自身が社会の批判の的になってしまう。下手をすれば、『神聖エルモア帝国』が世界に混乱を齎そうとしていると各国から突き上げられる可能性もある。

 要するに、状況的に詰みなのだ。

 ならば、理解してくれる紳士淑女達のみに真実を伝えるしかあるまい。蟲カフェのお客様達は当然として、ガイウス皇帝陛下とゴリフターズの両親である『ウルオール』の皇帝。一応、グリンドールにも手紙を出しておくか。

 四大国の内、三国のお偉い方と縁があるとは改めてすごいと思ってしまった。

 とは言っても機密性の高い内容である為、蟲達を直接現地に派遣してその場で執筆させる方法を取る。読んだ後は、燃やして消去してもらおう。この方法ならば、ギルドが手紙を覗き見する事はありえない。仮に、蟲を捕まえたとしても自害をさせるので問題ない。

「ガイウス皇帝陛下にも報告だけはする。皇帝陛下が動くとなれば私も全力を出すが…とりあえずは、この件については保留。後、蟲カフェの常連にも手紙を出す」

 既に幾人かは手遅れの予感もするが…たとえ、自分の子供でなくても今まで注いだ愛情は本物であろう。そのような事で、育児放棄をするような非紳士など私の知り合いにはおらん。



 金を払って出産立会及びお産補助に多額の報酬を払うと言う出産する方の立場からしたら何がどうなっているのだと首をかしげるようなものである。普通ならば高額なお金を積んで『水』の魔法使いに来て貰うところだが、この依頼を受ける事で『水』の魔法使いを雇っても家が改築出来る程の金額が余るのだ。

 ただ、問題があるとすればレイアの蟲達がウジャウジャと妊婦の周りや生まれた赤子の面倒を見る事ぐらいで一般人には多少刺激が強いという事だ。

「それにしても、酷い顔だねジュラルド…」

「仕方ありません。必要な事だとは言え、エーテリア以外の女性の肌を見る事になるのです。当然の報いです」

 強面のジュラルドの面構えが一層険しいものになっている。所々切り傷みたいなのが見えるが、見なかった事にしておこう。

 まぁ…無傷とは言えこちらも同じようなものだったけどね。こちらは、ゴリフターズに泣かれたよ。だが、必要な事だと説得をして事なきに終えたが罪悪感が胸を貫く。ジュラルドの方は物理的に…こちらは精神的なダメージが酷い。

 ジュラルドの魔法と私の蟲達によって無菌室と化した部屋の中で執り行われる出産は、この世で一番安全な出産場所といえよう。蛆蛞蝓ちゃんにより、妊婦の状態監視…心拍数、血圧、脈拍などは当然。適切なタイミングで、鎮痛剤を投与なども行っている。

 治癒薬、蛆蛞蝓ちゃんの再生薬など揃えられる薬品も全て用意している。不測な事態が起ころうとも、妊婦だけでも助けられる算段はついている。

モナァ(お父様、ジュラルド様…邪魔ですから端っこに座っていてください)

「ジュラルド、邪魔だから端で座ってなさいって」

「そうですか。思ったよりやる事が少ないですね」

 不測の事態が起こって欲しいと願うのはいけない事だが…何か起こらないかと願わずにはいられない。出産が終わったら、後でジュラルドを混ぜて反省会を開こう。

………
……


 『ネームレス』では、名が売れている超一流の冒険者であるレイアやジュラルドがお産補助をしてくれるだけでなくお金の面倒までみてくれるという事で市民の妊婦の間では話が盛り上がっていた。出産に掛かる治癒薬なども全てレイアとジュラルドが負担するだけでなく、お金までくれるとなれば誰だって診て欲しいと思う。

 二ヶ月の間に15件もの出産補助の経験を積む事が出来た。双子の出産、帝王切開、逆子まで俗に言う死を伴う難産の事例を好んで受けていった。おかげで、他国からの大貴族から出産補助のオファーまで来るようになったのだが…そんな遠くに行くほど暇ではなくてね。

 それに、データ収集はほぼ終わった。

「レイア様…出産補助の」

「あぁ、マーガレット嬢。その件だが、既に必要な経験は積ませてもらった。以後は受ける気は無い」

「こちらも同じです。実に良い経験を積ませてもらいました。まさか、帝王切開なんて考えもしておりませんでしたよ」

 マーガレット嬢が困った顔をしている。まぁ、当然だろうね。『ネームレス』ギルド本部は、私とジュラルドが出産補助をしている事を貴族連中に売り込んでいたのだ。安全で確実な出産が可能ですと。

「報酬は、お一人当たり2000万ですが…」

「くどいぞマーガレット嬢。我々は、別に金が欲しくてお産補助をやっていた訳でない。全て、自分の為だ」

「ですな。それに一人当たり2000万も出すなら、その金で『水』の魔法使いでも雇うべきでしょう」

 ジュラルドの正論にぐぅの音もでないマーガレット嬢。

 それに、我々は忙しいのだ。今回の経験を纏めた書籍を紳士達に配らねばなるまい。安全な出産が出来るようにと思いを込めて、丁寧に纏めているのだ。世に出る事が無いであろう私とジュラルドが共同で執筆する本だ。増販は、瀬里奈さんの所でやってもらう予定なので外部に漏れる心配はない。
 大組織って怖いわ(´・ω・`)

 さて、領地にやってくるぜ…ギルド上層部のクズがなΣ(゜д゜lll)
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