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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六十三話:デート(2)

クリスマスに食事に行くはずだったのに、仕事で出張を急遽入れられる作者…自分のミスのせいとはいえ嘆かわしい。
 この世界で暮らす事、約20年…知らない事は、少ないと思っていたが割とそうでもなかった。

「ゴリフって空が飛べるんだな」

 美しい泉がある『モロド樹海』50層。多種多様のモンスターが出現し、龍種まで出てくるこの層は一部の紳士達しか来られない場所である。龍種というだけあって、空を飛ぶモンスターが多く、ついに私の出番かと思っていたが…バーベキューの支度と住居作りしかやる事がありません。

 ゴリフリーテがゴリフリーナを砲丸投げの要領で空へ打ち出すのだ。そして、ゴリフリーナが「ほわたぁー!!」と叫んで龍種をぶち抜くのだ。なんという蛮族戦闘方法だ。『聖』の魔法で地表から迎撃したらどうかと提言したのだが…地表から迎撃した場合には、モンスターが落下した際に拾いに行くまでに別のモンスターの餌食になる事が多いとの事でこれが一番安全らしい。

 あぁ、また一匹の龍が地に落とされた。

ギィ(山草ときのこ見つけたもんね!!)

モモナー(それ、全部毒草と毒キノコですよ…まぁ、私達にはあまり関係ありませんが)

 モンスターに有効な毒など限られており、その辺に自生している毒草や毒きのこなどを食べても死ぬ事はない。まぁ、それは高ランク冒険者にも言える事である。毒に対する耐性が付く事で一般人が即死するような猛毒でも、少しピリ辛程度に思える程度になるのだ。好き好んで食べないけどね。

 可愛い蟲達と一緒に野営地でログハウスを作りつつ、バーベキューをする為の準備を着々と進めている。蟲達は、ゴリフターズによって文字通りミンチにされたモンスターの肉片をハンバーグにしているところだ。

 『聖』の魔法を使う二人が素手でミンチにする事でモンスターが持っている毒素が完全に浄化されて旨みへと変わるのだ。まさか、生で食べられるレベルになるとは思ってもなかったけどね。私が食べるのを見て、蟲達も試食と称してワラワラと這い出てきて10tトラック二台分はあったお肉がお椀一個分になったのは残念な事だ。

 よって、今現在もゴリフターズが集めた食材が蟲達によって続々と運ばれてきている。

「さて、旦那がただ火の番をするのでは味気ないだろう」

 良い具合に索敵範囲内で獲物を見つけた。

 第二形態に変身して、腕をボウガンのように変形させる。影の中から矢の形をした蟲を取り出した。本来、矢とは放たれたら真っ直ぐにしか飛ばない。だが、これは違うのだよ。蟲の矢だ…一度放てばどこまでも追尾する。しかも刺さった箇所から内部に卵を産み付けて中から壊すのだ。

ビィィ(ターゲットロックオン、いつでもどうぞ)

 引いた弓を放った。続いて2射目…3射目と数発の矢を放つ。顔と腹部に刺さるが倒れない…さすがの耐久度だ。だが、間髪容れずに矢を放ち蜂の巣にしてやっと殺す事ができた。

「キメラオーガか…食卓に並べるのは少し気が引けるな。みんなに食べてもらうとしよう」

 大人数人分はある体格だ。蟲達の腹の足しには十分だろう。

 さて、二人が帰ってきた時の為にお風呂でも沸かしておこうかな。多少は、汚れているだろうしね。後、ログハウスの雑巾がけなどなどやるべき家事はたくさんある。



 大家族にとって食事は戦争だとは聞いた事があるが…まさに、その通りだと思った。鉄板で大量のお肉を焼いているのだが…生焼けの状態などお構いなしに蟲達が平らげていく。幻想蝶ちゃんや絹毛虫ちゃんが、マナーがなっていませんよと指導しているが食欲に勝るものは無いようだ。

ギィ(お父様!! お肉焼けました。どうぞ)

 一郎が焼けたばかりのお肉を私のお皿に載せてきてくれた。このような戦場でお肉を死守し、私に分けてくれるなんて涙で前が見えない。一郎自身は、あまり食べられていないのにそれを譲ってくれるなんて、なんていい子に育ったんだ。

「うぅぅ、ありがとう一郎。代わりに、私が焼いたきのこをあげよう」

 少しピリ辛のきのこを一郎に口に放り込んだ。ムシャムシャと可愛らしく食べる。

………
……


 なにか視線を感じると思って横を見てみたらゴリフターズが私にも…という顔をしているのだ。こんな大勢の前であーんをする事になるとは思わなかった。だが、問題は私の皿の上には二人に分ける程のお肉はないのだ。

 鉄板の上になにか食べ物がないかと見てみると信じられないようなモノが焼かれていた。そんな…ばなな!?

「えっ!?」

 この世界では、見た事が無いが非常に馴染みのある食べ物が鉄板で焼かれていた。迷宮で自生していたのかと考えたが、見た事がないぞ!! とりあえず、トングを使ってバナナを取ってみた。皮ごと焼かれているが間違いなくバナナだ…匂いで覚えている。

「それは、先ほど食材集めの際に見つけた宝箱から出たんですよ。何やら甘そうな匂いがしたので…食べられるように『聖』の魔法で浄化してあります」

 ゴリにバナナ…迷宮は、私に何を求めているのだろうか。

 やめろ!! これは、ゴリフターズが食べていい物ではないのだ!! だが、手に取ったバナナをいつ食べさせてくれるのだろうかと期待の眼差しが私の心を抉る。

痛い痛い…本気で痛い。

 迷宮では何が起こっても不思議じゃないけどさ…これは酷いと思う。一体、私が何をしたというのだ。毎日、自分や親しき者が平和で暮らせるようにと日夜頑張っているのにこの仕打ちは、あまりに残酷ではないだろうか。

 現実逃避をしていても始まらないので覚悟を決めて、バナナの皮をむいた。半分に折って箸を使いふたりの口に運ぶ。どちらかを先に食べさせると揉めるので同時に食べさせるために両手で箸を使う事になるとは…両利きがこんなところで役に立つとは思わなかったよ。

「はい、二人共あーーーん」

「「あーーん♥」」

 ムシャリムシャリ

 美味しそうに食べてくれている。しかし、焼きバナナか…食べた事ないな。有りか無しかで言えば、個人的に無しだね。バナナは、そのままが美味しい。

ギギ(おぃ、南のバリケードにオーガの集団が向かっているぞ。いいか、お父様達の水入らずの時間を邪魔させるわけにはいかない!!)

ジー(当然ですな。命に代えて守りきってみせる)

 お肉が焼ける香ばしい匂いに引かれて、モンスター共が集まってきたようだ。なーに、問題ない。食材がちょうど足りなくなって来たところだ。有り難い事に向こうから食べられに来てくれるとは気が利いているな。

 蟲達の気遣いは非常に嬉しい。命懸けで私達の時間を作ってくれようとしているのだ…だが、命を散らす必要はないのだよ。本日は遠足である。故に、お父様である私が頑張るところだ。蟲達は、腹いっぱい食べて気兼ねなく遊べばいいのだ。ゴリフターズとの時間は夜にもしっかり取るから安心しろ。

「どうやら、邪魔が入りそうだね。ただ、狩るのも楽しくないのでゲームをしようか。誰が一番多く獲物を狩れるか。そうだな…勝ったら、なんでも聞くというのはどうだろう?無論、叶えられる範囲で」

 ガタ

 ゴリフターズが立ち上がった。

 その眼には、闘志が宿っておりヤる気満々だ。

「ゴリフリーナ…今晩は、悪いけど辞退してもらおう」

「その台詞そのまま、お返ししますわ」

 仲がいいのか悪いのか…ある意味息がピッタリである。

 ゴリフが闘気を纏った。危険を察してか、二人の傍に居た蟲達が私の影の中へと避難を開始した。スーパーゴリフタイムと言わんばかり雰囲気である。ゴリフターズを中心に風の波が発生する。その余波で、死の危険を察したモンスター達が一目散に逃げ出したが遅すぎる。

「えーーっと、仲良くね。ちなみに、私も参加するから私が勝ったらお願いを聞いてもらうからね」

 力の差こそあるが、ホームグラウンドで遅れは取らないと思っている。蟲達を活用すればモンスターを探し出す事に関しては、どの冒険者よりも群を抜いていると自負している。故に、負けるわけにはいかんのだよ!! なんとしても勝利して二人にお願いを聞いてもらわねばなるまい。

「分かりました旦那様。では、倒したモンスターの数は自己申告で、制限時間は…」

「みんなの食事もあるでしょうし、一時間でどうでしょうか」

「妥当だね。この拠点の留守番は、私の蟲達に任せよう。まぁ、近づくモンスターが居るとも思えないけどね。後、モンスターの肉回収はこちらから蟲を回そう。その際に数のカウントもさせるので気にしないで構わない」

 二人も相当本気に思えるので、私も第三形態で挑ませていただこう。肉体を作り替え準備を整える。その間、二人はウォーミングアップをしていた。

ギィィギ(ゴリフリーナ様にお肉二枚!!)

ジー(ゴリフリーテ様にお肉一枚ときのこ一つ!!)

モナナ(お父様を裏切るおつもりですか…あっ、私はゴリフリーナ様にお肉一枚です)

ピッピ(私は、お父様に蜂蜜コップいっぱい掛けますわ)

モッキュー(賭け事とは非情なのです。お父様…申し訳ありません。私、ゴリフリーナ様にキャベツ一玉ですわ)

 思わぬ伏兵達がここにいた。いつも、私達の事をよくて見ている蟲達だからこそ戦力分析はしっかり出来ているのだろう。私に賭けてくれた子が幻想蝶ちゃんだけだとは…覚えていろよ!!

 後、幻想蝶ちゃん…その体でコップ一杯のハチミツは食べ過ぎです。



 ブッシャー

 全力で逃げているモンスターをひき殺してミンチにした。流石は、シャロンスネーク…蛇特有の移動方法で森の中を逃げられると第三形態の私でも追いかけるのは面倒だった。

「これで25体目…次の獲物は」

 上空を徘徊させている蟲達からモンスターの位置情報をもらう。近くに数匹いるので手当たり次第に殺していこう。ターゲット目指して駆け出す。木々を吹き飛ばし文字通りの突撃である。大木などは避けるが、多少の障害など有ってないようなものだ。一直線に進み体当たりをして押しつぶすお仕事である。

ジー(今から、お父様に乗り換えようかな)

ピ(ダメですよ)

 脆い!! 脆すぎる!!

 水風船のようにモンスターが破砕していく。この方法の唯一の問題点といえば、モンスターの体液をモロに浴びるので非常に臭いということだ。嗅覚も何倍にも強化されているおかげで、本気で辛い。

………
……


 一時間が経過して、開始位置に戻ってきた。そこには、山のように積み上げられたモンスターだったと思われる肉塊が積み上げられていた。この層にいるほぼ全種類のモンスターの死体が揃っている。

 流石に、オーガなどのお肉も混ざっているので私は食べたくない。後で、龍種だけ狩りに行こう。

「ふぅ~、シャワーも浴びてスッキリしたところで結果発表といこうか。では、蛆蛞蝓ちゃんお願いします」

 全員の討伐数を集計したプレートを蛆蛞蝓ちゃんが掲げた。

 ゴリフリーナ様:45体
 ゴリフリーテ様:42体
 お父様    :48体

 き、僅差であったが勝利を収める事が出来た。

 私はモンスターを探す時間がほぼ掛かっていないので、圧倒的大差で勝利すると確信していたのだが…予想外に二人が善戦してきた。ランクAの二人を舐めていたわけじゃないのだけど一体どんな手品を使ったんだ。

「な、なんとか威厳は保った!! ちなみに、二人はどうやってこれだけの数を」

「旦那様みたいに器用な事は出来ません。ならば、面制圧するのみです」

「同じです。位置がわからないならば、全てを攻撃すればいいのです」

 ちらりと二人が狩場にしていた方角を見てみると大爆撃でもあったかのようなクレータが多数見える。完全に地形が変わっている。

モナナ(お二人の討伐数は、あくまで数えられる状態のものをカウントいたしました。恐らく、完全に消滅した個体もいたでしょうから…本来の数で言えばお父様を)

 その攻撃力の一割でも私に分けて欲しいものだと本気で思う。だが、どちらにせよ勝利したのは事実である。

「まぁ、そのなんだ…これからも末永くよろしくね。これは、私からのささやかなプレゼントだ。貰ってくれるかな」

 『聖クライム教団』では、親しき者にプレゼントを贈る風習があるのでそれに習ってみた。私が手編みしたマフラーである。寒い時期だろうから、役に立つと思って寝る間も惜しんで作り上げた。出来栄えは完璧である!! 店頭に並んでも不思議でない程だと自負している。

「これは、マフラー…暖かい。目から心の汗が…」

「一生!! 一生大事に致します」

「喜んでもらえて贈った側としても嬉しいよ。名前も刺繍しているからね」

 ゴリフターズが涙を流して喜んでいる。男性からプレゼントを貰う事など腐るほどあっただろうが、やはり旦那である私から貰えるということで喜んでもらえたのだろうか。普段迷宮でロマンを求めてぶらついている旦那を甲斐甲斐しく待ってくれている良妻にはホント感謝している。

 だからこそ、感謝を伝えたかったのだ。

 約束だから末永く一緒にいてもらおうかゴリフターズ。絶対に離さんぞ!!
次話は、ギルド上層考案の善良なるサービスのご紹介です。
さすがのレイア様のギルドのサービス精神にビックリだわヽ(・∀・)ノ

レイアが今までギルド上層部に受けた嫌がらせ一部ご紹介。
①刺客を送り込まれる
②ゴリフと一緒に仮面舞踏会への招待される ※仮面が意味を成さない件
③領地に難民を差し向けられる
④生まれなどの素性を探られる
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