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第五十八話:感染拡大(4)
◆一つ目:マーガレット嬢
診療所を開いてから、早三日…ネームレスの倉庫が未だかつてない程に血生臭い場所に変わっている。仮設されたベッドには、身動き一つ取れないように縛られた騎士団員数名が拘束されている。
一人は、全身の皮が綺麗に剥がれ、試験薬投与による筋肉及び血流への影響を逐一観察されている。一人は、体内に蛆蛞蝓ちゃんの触手が食い込み、試験薬投与による臓器への影響を逐一観察されている。他にも、様々な実験が手広く行われている。一つ言えることは…まともな五体満足の検体が誰ひとりといない事だ。
ギッギ(う、うらやましい!!)
ジジ(交代を希望する!! その病を我らに移したまえ)
私の可愛い子の蛆蛞蝓ちゃんが寝ずに介護しているのだ。実に羨ましい展開だと蟲達が騒いでいる。
ギー(病には、この僕が最初に掛かる!! 深呼吸!! すぅぅーーーはぁーーーー)
空気清浄を行う蟲が深呼吸する度にこの部屋が無菌室のように浄化されていく。というか、そこまで病にかかりたいのかと真剣に思ってしまう。本当に可愛い子達である。
「あまり、蛆蛞蝓ちゃんの邪魔をしないようにね。で、結果報告を聞かせてもらおう」
蛆蛞蝓ちゃんが注射針のように鋭くした触手を騎士団員から抜き取った。
モモナ(経過報告を致します。やはり、性病から悪性変異を遂げて感染症になったものです。症状は、初期段階で免疫力の低下によって風邪と似た症状になります。次の段階で、高熱及び全身が赤く腫れあがり歩く事すら困難になります。最終段階で意識を失い三日とせず死ぬでしょう。発病から最終段階になるまでに約一ヶ月といったところです)
「たかが、性病から変異した割には症状が重すぎるな…他に分かった事は?」
人類が死滅しそうな病原菌でびっくりだよ。まさに人類選別の為に生まれた物ではないかと勘繰ってしまう。
モモナ(国家の為に健康な肉体を差し出してくれた騎士団のおかげで感染経路が特定できました。飛沫感染、粘膜感染です。一回の接触で感染する可能性は、7割程あり非常に高いといえます。もっとも、これは騎士団だからこそ結果ですので一般人の場合は9割程の可能性になるでしょう)
診療所に訪れた二次感染者を診ただけでは、ここまでの詳細はわからなかったが、これも騎士団のおかげである。だが、私が囚えた第四騎士団は、男しかいなかったはず…粘液感染をどうやって調べたかはあまり聞きたくないものだ。
「想像以上にやばいな。では、悪性変化を遂げた原因は?」
原因がわかれば同じような事が起こる事を防げるかもしれない。
モナナ(特定しております。悪性変異を遂げた原因は、迷宮産の猛毒と性病が合わさる事で奇跡的な確率で変異を遂げた物です)
「……迷宮産の?」
モナナー(はい。迷宮下層に生息している蟲が持っている毒の特徴が複数見られました。念の為、お父様の子達から毒の提供をしてもらっておりますので間違いありません。クラフトという冒険者がどれほどの実力者か分かりませんが、これほど多種多様の猛毒を集めるのに相当な準備期間を設けていたと思います)
「準備期間…違うね。奇跡的な確率にかけた犯行は、もはや偶然に他ならない。恐らく、何かしらの要因で猛毒が付着した状態で男女の逢瀬に及んだのだろう。迷惑極まりない事だ」
まぁ、その毒の出処には若干心当たりがあるんだがね。というか、間違いなく私が剣魔武道会の際にクラフトにプレゼントした猛毒の槍と鎧だろうが…それが原因だとしても私に非があるわけではない。
ジジー(お父様、偵察の者から報告です。ネームレスを脱出しつつある者達がおります。夜の暗闇に紛れて南方へ移動中です)
「騎士団の連中は、一体何をしているんだ? こういう時の為に居るんだろう」
ジー(報告によれば、第四騎士団の警邏の者に金と体で交渉をしたとの事です)
「皇帝陛下のご命令を何だと思っているんだ。警邏の者は、追跡しておけ…後で、回収に向かう。逃げている連中の構成は?」
ジッジーー(人数は8名…ギルド男性職員1名、歓楽街の風俗店所属の女性が4名、Dランク冒険者2名、Cランク冒険者1名)
騎士団連中の仕事は、信頼におけないので皇帝陛下からの勅命をいただいてから直ぐに地上及び空に蟲の警戒網を敷いた。更に、ネームレスギルド本部の地下にある隠し通路各種にも網を張っている。地下通路から脱出を図ろうとする者を問答無用で細切れにするようなトラップを仕掛けてある。だが、緊急の用事があると悪いので『KEEP OUT』的な警告の札をつけておいた。解除の際は、私まで連絡をしてねと。
「常連客と一緒に逃げる気かな…懲りないね。蛆蛞蝓ちゃんは、引き続き特効薬の開発を急いでくれ。とりあえずは、病の進行を一時停滞させるだけの薬でも構わない。まずは、成果を見せて住民の流出を防ぐ事が第一だ」
モキュウウ(分かりました。目処はたっておりますが、騎士団の人はもう使い物になりません。テストなどのやりすぎで正しい分析が困難です)
「安心しなさい。全てお父様に任せておけ。直ぐに新しい検体を連れてくる」
屈強な蟲と搦手が得意な蟲に留守番を任せて、部屋を後にした。
部屋には、いくつかの試作段階の治療薬や私の私財が沢山置かれているのだ。この機に誰かが潜入してくる事もありえる。混乱に乗じて一攫千金と…迷宮で稼ぐより高ランク冒険者の倉庫を物色したほうが遥かに金になる。
ギルドが過去十年以上事故0件と謳っている倉庫だとは言え、所詮人任せのシステムだ。非常事態の時は、自分でも予防処置をしておくべきだろう。
部屋を出ると、そこには偶然マーガレットがおり夕食と思われる物を手に持っていた。スープから湯気が出ている事から作りたてであろう。
「ギルド長にでも状況を確認して来いとでも言われたのかね?」
「そんな邪険な目で見ないでくださいレイア様。ギルドとしてもレイア様が少しでもご協力をと…」
ご協力…なるほど、その身を蛆蛞蝓ちゃんに捧げてくれると取ってイイのだろう。そこまで協力をしてくれるなんて、受付嬢の鏡だよね。
「では、さっそ…」
「ですが!! 治療薬の実験台は嫌ですよ。あくまで、身の周りのお世話的な意味です」
………
……
…
最近、マーガレット嬢の読みが鋭くなっている気がする。それなりに長い付き合いだから、行動が読まれるのもわかるけどさ。
「チッ!! じゃあ、中にいる蟲達の食事の世話を頼むよ。あと、お風呂にも入れてやってくれ」
「…えっ!?」
なんだ、その鳩が豆鉄砲を食らったような顔は。言っておくが、私の蟲達は全員綺麗だぞ!! 影の中に入る際に汚れは綺麗に落ちるし、水場がある場所に行ったらシッカリを水洗いもしているんだ。
「中に入る際は、この子も連れて行くといい…死にたくなければね」
ピッピ(お任せ下さいお父様。この私がちゃんと皆に伝えておきます…晩ご飯ではないと。マーガレットさん、人間の貴方にとっては、私達のような者達は異形の姿に思えるかもしれません。ですが、お互いに歩み寄る心を持てば、分かり合えるはずです。その一歩としてお互いに頑張りましょう)
幻想蝶がマーガレット嬢の肩に乗る。マーガレット嬢にとっては、幻想蝶の言葉など通じていないであろう。だが、女子力で通じ合うものがあるだろうと信じておこう。
「では、よろしく頼もう。大事な事だから教えておくが…その肩に乗っている幻想蝶に傷一つでも負わせたら命の保証はしかねる。繊細な蟲の扱いには十分気をつけてくれ。これが、鍵だから」
「れ、レイア様。一般人の私には、すこーーし難易度が高いご依頼の気がするのですが」
「普段から無理難題を冒険者に押し付けている受付嬢らしからぬ言葉ですね。手伝いを名乗り出した以上、しっかりと働いてください。私は、野暮用で出かけるので任せましたよ」
モンスターの世話など滅多に出来るものではない。人生において何事も経験が大事なので、今回学んだ事がどこで活かされる可能性は多いにある…と思う。
◇
こんな真夜中に、非常に宜しくない。
低ランク向けの依頼でネームレス周辺のモンスター討伐などもあり、数は少ないとは言えモンスターは生息しているのだ。夜行性のモンスターだって、少なからずいるのに一般市民を連れて人気を避けるように移動するのは危ない。
演出も兼ねて空から降りてきてみれば、何やら真っ青な顔をした逃亡者達がいる。
「どうしたのだね? 顔が真っ青だよ。夜風に当たって風邪でも引いたのかね。それとも、発病したかね?」
「レイア様。す、少し夜風にあたりに…」
見覚えのあるギルド職員が口を開いた。まるで、人生最悪だと言わんばかりな顔付きである。失礼である。むしろ、運がよければいち早く特効薬を打ってもらえる立場になれるという幸運だというのにそんな顔をしないで欲しい。
「騎士団の連中に金と体で交渉を行ったようだが…残念だったね。皇帝陛下の勅命で完全封鎖中のネームレスからは、この私が誰ひとり外には出さん!!」
「散れ!! 女子供だからといって手加減してくれる相手じゃない。バラバラに散って逃げるぞ!!」
どうやら、私のことを正しく認識している冒険者のようだ。
ランクCの冒険者が一人で闇夜の草原を駆けだした。火事場の馬鹿力というやつなのだろう。ランクB並の身体能力をしている。だけど、前ばかり見て走ると足元が疎かになりますよ。
ギェェェ(捕まえた~!!)
地中より、大型の百足が口を大きくして逃げ去ろうとした冒険者を食いちぎった。
ギェギ(あれ…死んでいる!? お父様、大変です。冒険者が食べられています…ゲップ)
おーい、捕まえるにしても口で挟もうとしないでよ!! 君達の顎の力をもってすれば人間が真っ二つになるのもわかるでしょう。まぁ、既に済んでしまった事だから水に流そう。次は気をつけてくれよ。
「イヤァァァァーーー!!」
「帰ります!! ネームレスに帰りますから」
護衛であったはずの冒険者が逃亡するどころか、わずか数秒で失敗して骸になったのをみて女性陣が叫ぶ散らすし、命乞いを始めてうるさい事、この上なし。
「命懸けの逃亡だったのだろう。ならば、失敗がどのような結果になるかは当然知っているな? なーに、運が良ければ死なないさ」
魔力に殺意を上乗せして優しく微笑んであげたら、倒れてしまった。これが俗に言うニコポというやつなのだろう。
間違いない!!
◆
高ランク冒険者の倉庫は、ギルドでは宝物庫と言われている。その宝物庫をギルドの威信をかけて守るのには、理由が存在する。
死んでくれれば、その宝物庫はギルドの所有物になるのだ。故に、高ランク冒険者には、たっぷり稼いで貰い死んで欲しいといつも思っているのがギルドの本音だ。まぁ、生前に遺書などを残していれば、その意志に沿って処理されるのだが…そんな準備の良い冒険者など数少ない。ギルドが善意で荷物整理をする際にゴミと間違って遺書を破棄してしまう事もしばしば…。
『モロド樹海』で一番宝箱を開けていると言われているレイア様の倉庫は、流石の一言だ。金銀財宝は当然…ミスリル、ピュアミスリル、オリハルコンなどの希少金属が整理整頓されて並べられている。大き目なのを二、三個盗むだけで人生三回は遊んで暮らせる金額になる。
他にもモンスターの生態系の書籍や魔法理論に関する本などの高価な書物が並べられている。非常食なども備えられており、物量から考えるに三ヶ月は楽に過ごせると見える。
「この機会に色々な部屋を覗いてみますか。立ち入り禁止の場所があったら教えてね。私はまだ死にたくありませんので」
ピー(思いの外、察しが宜しいのですね。流石は、お父様がお名前を覚えていられるギルドの人です。その部屋は…寝室だけど問題ないわね)
何を言っているかさっぱりわからないが、どうやらこの部屋は開けてもいいようだ。蟲達が通行止めという札を張っている先にある奥の部屋から呻き声が聞こえているのは、幻聴という事にしておこう。世の中、知らない方が上手く回る事だってありますしね。
部屋を開けてみると、簡易ベッドとその上をコロコロと転がっている蟲が一匹いた。
モッキューー(お父様が居ないうちに、私の匂いを染み付かせる!! お父様お父様お父様…うっ、転がりすぎて気分が。…はっ!! いつからそこに!?)
ピッ(お父様が居ないうちに…と言ったあたりから。貴方も淑女なのですから、そのような行動は人目に付かないようにしなさい)
「えーーーっと、絹毛虫ちゃんだったかしら。じゃあ、お風呂に入りましょうね」
ベッドの上を転がっていた絹毛虫を持ち上げると非常に良い香りが漂ってきた。
モキュ(まだ、お父様のベッドの半分も終わってないの!! いやー、離して)
絹毛虫ちゃんの野望を見事打ち砕いた。
さて、シュバルツにも見せ場を用意してあげよう。
そう最高に輝ける瞬間を!!
あと、一、二話で次の話しに入りよヽ(*´∀`)ノ
瀬里奈「蟻の~、母の~」
レイア「お母さん、それダメΣ(゜д゜lll)。グリンドールも裸足で逃げ出すやばいのが来ちゃう」
瀬里奈「レイアちゃんに、私の物語を歌で語ろうと思ったのに…ショボン(´;ω;`)」

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