57/137
第五十七話:感染拡大(3)
今日が何曜日なのだろうかと思う最近…仕事疲れたよ(´・ω・`)
美味しいもの食べて乗り切るしかない。
世の中、何事にも限度というものがある。『神聖エルモア帝国』の軍は、大規模なモンスター討伐、戦争、汚れ仕事など様々な事をこなす。それは、軍に所属した以上当然であるが、命を対価として働く事が多く非常にストレスが貯まるものだ。故に、金銭面的な面以外にも捌け口という物は必要である。行軍時の多少の横領や嗜好品の必要量以上の請求も見て見ぬふりをする事も必要だ。
そういった事を柔軟に対応できる人物がトップであるから国が回るというものである。
ここ最近、第四騎士団の連中の行動が目に余ると市民から苦情が寄せられており調査の結果、陛下の堪忍袋の緒が切れたのだ。特にシュバルツは、家族を纏めて亡くした事で多少の温情を掛けていたようだが…ここ最近は、酒と女にカネを使うようになりトラブルが絶えない。更に、第四騎士団の団長が怪我で療養中に人事権を預けられており、職権乱用も目立っている。
要は、騎士団の私物化をしているのだ。
そして、私が承った勅命は『蔓延しつつある病を収束させる』という任務である。その為に、第四騎士団の連中を好きに料理…じゃなかった、好きに使っていいとお墨付きを貰っている。
ありがたい事に、皇帝陛下の意図を知らずと汲んでか自ら病に掛かる行為を頑張っている。流石は、皇帝陛下の騎士団である。事態収束の為に自らの命を捧げる思いでいるとは、感服の極みである。
半分冗談だが、半分は本気でそう思っている。
騎士団の連中は一般人より遥かに強靭な肉体を持っているから、多少無理な治験を行っても問題あるまい。まぁ、無理な治験しかする気はないがね。
「死んでも代わりは、たくさん居る」
それにしても、陛下が何故ここまで早い段階で病を察知して動けたかというのには、陛下が持つ神器プロメテウスが大きく貢献している。全痴全能だけあって、休みを利用して歓楽街に遊びにいく計画を立てていた際に、警告されたという事が書簡には書かれていた。生涯現役と謳っているのは知っているが…奥さんと子供も沢山いるのだから、控えめにしてもいいと少し思う。
余談だが、神器プロメテウスを使って他国の王族の性的嗜好や隠し子などを全て把握しているとの事で『神聖エルモア帝国』を本気で潰しに来る国家がある場合、敵対国家の痴情を全てばらす算段でいるとの事だ。痴情の縺れで国家が転覆する恐れがあるとは笑えない。
◇
歓楽街…大きい街や迷宮に隣接している街ならば何処にでもあり、それなりに賑わいを見せているのだが…流石に、『ネームレス』にある歓楽街では病が流行しているので控えめであるといえよう。
あまり足を運ぶ場所ではないが…酷い場所である。一歩、道を外れればスラム街といっても差し支えない貧困街が広がっている。そこには、迷宮で怪我をして体が不自由になり乞食をしている者や親に捨てられて体を売って日々の食いつないでいる者達が目立つ。
「まぁ、そういう存在も必要なのは事実だけどね。自分より不幸の者が居るからこそ自分の立ち位置がはっきりとわかる。誰しも、あぁはなりたくないからね。良い見本だ」
そう考えると、しっかりとお店に所属できた風俗嬢がどれだけ運が良かった事だろうと思ってしまう。良い店の場合は、衣食住の全てを見てくれるだけでなく健康管理までしてくれるからね。
ピピ(酷い場所です。誰もが見て見ぬふりをする…そして、この者達を見て自分はアレよりマシだと考えてしまっている。悲しい事です。同じ人間だというのに、なぜ誰も救いの手を伸ばそうとしないのでしょう)
「実に難しい問題だ。救いの手を差し伸べるのは簡単だが、人間は自己中な生き物で時間が経つにつれて助けられるのが当然であると意識が刷り代わってしまう。『助けてくれてありがとう』という感謝の気持ちから、『なぜ、俺を救わないんだ』と自己中な考えにね。さぁ。そろそろ戻ってなさい。病にかかるとは思っていないけど、病原菌が充満しているこの場に居るのはよくない」
幻想蝶が影の中に戻っていく。
診療所を開いて初日で第二次感染者を見つける事が出来たのだ。住んでいる場所を聞いたところ、歓楽街のすぐ近くで騎士団の連中が身体検査と称して暴行事件が多発している地域だ。
それにしても、汚いところである。汚物などが平然と道脇に捨てられているあたり病が充満するのも当然だと思ってしまう。
「ねぇ、お兄さん私を買わない? 安くしておくよ」
周囲の様子を窺っていたら、女を買いに来た冒険者と勘違いされてしまった。衣服や体に汚れが目立つが、これでも綺麗にしている方なのだろう。年齢は、10代中盤…孤児院を追い出された頃合の年齢だ。
前世的に言えば、大の大人が大金を積んでも惜しくないだろうが…生憎と、この世界じゃ10代中盤で娼婦の道に堕ちている者は沢山居るのだ。
ギィ(お父様、この子…騎士団の被害者です。えぇっと詳細は…被害者No46で騎士団三人から昨日暴行を受けております)
蟲達の偵察と諜報活動により、被害者の状況は大体把握している。
それにしても、早速被害者とご対面かよ。騎士団連中は、間違いなくお金を持っていないだろうから私が一時的に立て替えてやろう。後で、皇帝陛下に請求書を回そう。
「不要だ。だが、ひとつだけ確認させてもらおう。昨日、第四騎士団の3名から暴行を受けたと報告を受けている。相違ないな?」
「…騎士団の人?」
少女が一歩後ろに下がり警戒心を顕にした。
失礼極まりない勘違いである。あんな連中と同じ扱いにされるとは、名誉毀損で訴えても勝てると思ってしまうぞ。だが、騎士団の行為の被害者である少女に対して紳士であるこの私はそんな些細な事で怒りはしない。
「あんな連中と一緒にしないでいただこう。正規料金と慰謝料だ。取っておきたまえ」
少女に50万セルを手渡した。
少女は、なんの金かさっぱり理解できていないようだ。未だに、目を丸くして驚いている。
「あ、あの…」
「では、私は仕事に戻らせていただこう。君も頑張って仕事に励み給え」
賠償金配布、特効薬開発、住民の診断などとやる事は山ほどある。騎士団の連中を纏めて確保するのもいいのだが…アイツ等は、ネームレスから人を流出させない為にまだ役に立つ。故に、特効薬の目処が立つまでは一定数は生かしておく必要がある。
それから、貧困街を回ること数時間…騎士団の被害者が沢山居て大変だった。診療所で稼いだお小遣いが空になるだけでなく、倉庫から現金を持ち出す事になったよ。
労働に対しての正当な対価を配るというのは、存外大変である。
そして、日が落ち始めた頃、貧困街の裏路地の方から何やら女性の助けを求める声が聞こえたので興味本位で覗いてみれば騎士団が二人で婦女暴行をしている現場に出くわしてしまった。
「あの女性は、被害者Noいくつかね? 一郎」
ギギ(えぇっと…リストに該当者なしです)
騎士団の二人と目があった。
「そうか、ならば新規追加しておいてくれ。あぁ、私に気にせず続きをしてくれて構わないよ。事が済んだら声をかけてくれ。そこら辺で座って待っているから。なーに、20分もれば終わるだろう?」
騎士団の二人は、私の言葉が理解できていない様子。街中だというのに、物騒な刃物を持ち出してきた。そんな、鋼鉄製とは言え抜刀されたら身の危険を感じちゃうじゃないか。
「おぃおぃ、聞いたか?この状況で助けもせずに終わったら声をかけてくれだとよ」
「……逃げるぞ!!」
一人が私の顔を見た途端、顔が真っ青になっていた。そして、脱兎のごとく逃走を開始した。こちらを一切振り向かず全力での逃走…敵前逃亡は、死刑だというのに。
影の中から無数の蜂達が飛び出した。
ジィジ(お父様のご意向により、捕縛してまいります)
ジジ(毒の分量を間違えるな。5gでいいかな…)
「5gだと即死するから1mgでいいよ。全身麻痺させて後は、ほかの子が回収に向かうから」
キングベアースピア…『モロド樹海』57層に生息している体長10cmもある大型の蜂。獲物を生きたまま巣に作り変えるという変わったモンスターである。巣に変えられた獲物は、蜂達の養分でもあり巣でもある。その為、半生半死の状態で生かされ続ける。巣を見つけた場合には、ランクB冒険者に依頼をして巣ごと焼き払うのが一番である。失礼極まりない新人冒険者を巣穴にした蟲である。
「白い蟲に加えて、その容貌…『神聖エルモア帝国』のヴォルドー侯爵」
「名乗るまでもなかったか、はやく事を済ませてくれないかね」
騎士団の連中が自主的に病にかかる行為をする事を止める事はしない。私にとっては、検体が増える可能性があるので女性を抱くという行為は推奨してもいいと思っている。状況的に考えれば、間違いなく双方が合意していないだろうが…それに対して注意をするのは、ネームレスに常駐している警備の者やギルドに雇われた日雇い警備がやる仕事である。
騎士団の連中の行為をギルドが知らぬはずもないし、それに対して対応策を取るのは『ネームレス』にあるギルド本部の責務だともいえよう。その為に、3割ものマネパジを許容しているのだ。ここで仕事をしないならば、本当に職務怠慢である。
「悪いが、アンタと事を構える気はないぜ。俺は、何もしてない…という訳で、ここは引き下がる。侯爵様だって皇帝陛下の騎士団に手をかけるというのも問題だろう?」
つまらん。予想外に理性的であった。手をあげてきてくれれば速攻で処理してあげたのにね。だが、皇帝陛下からのオーダーは絶対である!!
私の真横を素通りしようとしたので、肩に手を置いて止めた。
「まぁ、そう急ぐな。私は、君達にしかできない仕事を持ってきたのだよ」
男が逃げようと力を入れているが生憎と私の力の方が圧倒的に上であり、逃げる事は叶わない。むしろ、その程度の力で騎士団所属とか質が疑われるレベルだと思う。一応、『水』の魔法を用いて身体強化まで使っているようだが、お粗末もいいところだ。
「離せ!!」
「離しません。不治の病収束の為に病を保菌者が是非欲しいんですよ。自然感染してくれているパターンも必要だが…それ以外にもこちらで収集した病原菌を意図的に感染させたパターンのデータも欲しい」
皇帝陛下から書簡を受け取ってから直ぐに、蟲の開発に着手し空気中に漂っている病原菌の回収作業にも手を出している。元々、大気中の水分を集める蟲を作っていた為、それをもとに改良を加えたのだ。勿論、目的の病原菌以外の物も集めてしまうが仕方がない。なんせ、空気清浄機をイメージして作ったのだ。汚い空気を蟲フィルターで濾過及び浄化するという自然に優しい蟲である。一家に一匹と欲しい蟲である。まだ、試作段階で数も少ない為、順次に改良及び増産にはいる。
「言っている事の半分も理解できねーが…要するに、助かるにはこうするしかないってことだろ!!」
男が手に持っていた抜き身の剣を私に突き立ててくる。
実に、良い判断だ。そう、こういう展開を持っていたのだよ!!
狙ってくるのは、こちらの首から上…生身がむき出しになっている場所である。対人戦において、防具で守られていない部位を狙うのは極めて有効な手段である。この状況下でもそれを正しく行えるのは、人を殺し慣れていることの証明である。
鋼鉄製・・・そのまま、受けてしまえば皮膚が切れてしまう。ゴリフターズのような完璧な肉体を持っていない私の弱さである。ならば答えは簡単だ!! 工夫をする事で、生身で受けても無傷でいられるようにすればいいのだ。
キィィーーーン
なんとも言い難い高音が発生し、鋼鉄製の剣が私の肌に触れた瞬間、剣が自壊したのだ。
「剣の手入れくらいしっかりした方がいいと思うね。せっかく私の首に直撃したのに、まさか剣の方が砕け散るとは、安物でも使っていたのかね?」
「そんなわけねーだろ!! この化物が」
鋼鉄製の剣など安物で間違いないというのにね。ミスリル製やオリハルコン製の武器ならば、生身で受ける事は流石にしない。生身の状態だと使い手がエーテリア並だと首がはねられる。
それにしても、聞きかじりの知識で試してみたが…存外上手くいくものだね。指向性を持たせた音を当てる事で物質に対して共振作用を発生させ、物資を自壊させる。今回は、影の中からひょっこり姿を出している蟲達がやってくれた。蟲に出来るという事は、変身した私にも出来るという事だ。
夢が広がるね。
「とりあえず、検査をしてから健康体なら病に感染させて蛆蛞蝓ちゃんに検体としてプレゼントしよう。言っておくが、人道的な治験が行われると思わないほうがいいよ。日頃の行いを悔いて死んでくれ」
軽く顎を叩いて、脳震盪を起こさせた。
蛆蛞蝓ちゃんが顔を出して横に倒れている男に対して診察を開始した。
モナー(はーい、ではお注射しますね………。あら、この男性)
「どうした?」
モモナー(すでに別の性病にかかっておりますわ。潜伏期間から考えるにここ最近ですね。こんな場所で遊んでいるから当然でしょうが…全く、どうしようもありませんね。こういう者がいるから病が広がって進化するんです)
「その通りだな。まぁ、一番の問題は病だと自覚ができない事とそれに対しての有効な治療法が治癒薬しか選択がないと事だろうね。何にでも効果がある文字通り魔法みたいな薬である治癒薬の弊害だね」
私の影から出てきた蛆蛞蝓ちゃんが男の血管に触手を突き刺して血液を採取している様子を見て女性が怯えている。次は我が身だとでも思っているのだろう。
二次感染者から病原菌のサンプル回収も終わり、大気中に漂っている病原菌のサンプルも回収した。できれば、元凶となった女の病原菌も採取したいが…エーテリアとジュラルドがいつ戻っているかも不明だから諦めている。
よって、目の前で怯えている女性からサンプルを回収する必要などないのだよ。それに。診察所を開けば感染者からサンプルを手に入れる事は容易いからね。
「仕事の邪魔をして済まないね。私はこれで失礼させてもらおう」
男の首根っこを掴み、ギルドから借りている倉庫へと検体を持ち帰った。
切って刻んですり潰すヽ(*´∀`)ノ
さて、蛆蛞蝓ちゃん主催の解剖の講座が始まるぞ…(多分

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。