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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第五十四話:(里帰り編)お母さん(3)

 瀬里奈ハイヴ…瀬里奈さんが、長い時間をかけて作り上げた地下500m全長15kmにも渡る広大な地下住宅、もとい地下迷宮。要所ごとに仕掛けられた即死トラップはえげつない事間違いない。更に、どこも同じような作りをしており、一度道を見失えば二度と光を拝む事ができない程の作りである。あまりに、趣味を拗らせ過ぎて作った本人も全容を把握出来なくなっている。

 無論、このような拠点がモンスターによって築かれるのは国家としても脅威の他ならないのだが…皇帝陛下の許可の下、建造されているのだ。無論、皇帝陛下とて打算的な考えはある。

狙いは、地下資源である。

元々、瀬里奈ハイヴがあった場所は高ランクモンスターが居る事で有名であった場所で開発を予算的な問題で後回しにしていたのだ。故に、瀬里奈さんの存在は皇帝陛下にとって、国家にとっても渡りに船である。

地下資源の格安提供という条件の下で瀬里奈ハイヴという存在が非公式に認められたのだ。銅から鉄、更には少ないながら金銀まで出土するこの場所はまさに金の成る木である。更に、そこで働く者達は、人間と違い瀬里奈さん配下の蟲達であり、ほぼ無償且つ人間の数倍働く。おまけに、口が堅く誰にもこの件が漏れる事はない。

他にも、『聖クライム教団』向けの食料輸出産業も行っている。主に主食となる穀物系をメインとして農作物を市場価格より安い値段で流通させているのだ。農薬など便利な薬がないご時世では、一般市場に出回る農作物は、基本的に虫食いされておりお世辞にもスーパーなどで売っていたような綺麗な物ではない。だが、瀬里奈ハイヴ産は違うのだ。虫食いなどが発生しないように、虫達の食事用と出荷用と完全に分けて育てているのだ。そんなの虫達に理解させる事なぞ不可能に思えるが、それを可能にするのが『蟲』の魔法と瀬里奈さんという存在だ。

『聖クライム教団』では、安価で且つ綺麗な野菜が沢山出回ってきている事で農家がだいぶ潰えた。おかげで、国家が知らぬ場所で食料自給率が徐々に低下している。『聖クライム教団』を食料で押さえ込むという長期的な作戦である。

以前の戦争時にやられた事は、何年経っても必ずやり返す!! 同じ土俵で戦えない以上、自分の有利な戦場を選ぶのは当然である。これぞ私のやり方である。

農作物に大打撃を与えるように河川に毒を流すとか、飢餓を起こさせる為に蝗をつかって襲撃するようなゲスイ真似はしない。

紳士ゆえに、正攻法で行くのは当然であろう。

そして、本日、瀬里奈ハイヴに新たな名所が加わった。その名も温泉!! ゴリフリーテの全力の一撃により堅い岩盤を砕き見事に温泉が吹き出したのだ。私の蟲達と瀬里奈さん配下の蟲達が総出で露天風呂付きの大浴場を築き上げた。蒸し風呂から檜風呂、更にはサウナまで完備のスーパー銭湯である。




 一時は、どうなるかと思ったが義弟達のお陰で丸く収まった。私自身の力で瀬里奈さんを説得できなかった少々残念だが、結果オーライである。まぁ、両手に花のお陰で瀬里奈さんの機嫌は有頂天。ゴリフターズとも上手くやっていけそうな雰囲気で何よりである。

 お互い女性であり、容姿の問題で色々と苦労をした人だから分かり会えれば良い関係を築けるだろう。

 で、今一番の問題は、果たしてこのまま混浴という家族風呂に義弟達を入れていいかという大問題だ。そもそも、脱衣所で分かれる時ですら『離して!! 私はモンスターだから性別なんて関係ないのよ!! だから、男性用脱衣所でも何ら問題はないわ。むしろ、そっちに入れて!!』と騒ぎ立てたほどだ。瀬里奈さん配下の蟲達が恥ずかしい母を引きずるように女性用脱衣所に押し込んだのは記憶に新しい。

 チラっと義弟達を見てみる。

………
……


「う~ん、だ、大丈夫かな」

 腰にタオルを一枚だけ巻いた状態の二人。義弟達の熱狂的なファンからすれば、この状況を見ただけで天国に行ってしまいそうな光景である。容姿が容姿だけに、色々と危ないと言える。私は、ゴリフターズ一筋だから問題ないが…見る人が見れば新しい趣味に目覚める人種も現れると確信を持って言える。

「さぁ、瀬里奈さん。今、お酌をしに行きますよ~」

「ミルア、走ると転ぶよ」

 瀬里奈さんが持っているライトセイ○ーを欲しいとおねだりする為に、ご機嫌を取りまくるつもりでいるのが手に取るように分かる。まぁ、瀬里奈さんの事だから分かった上で美味しく接待を受けるだろうね。そして、帰り際に間違いなく義弟達にお土産をあげちゃうだろう。

 そして、ふたりの後を追いかけて浴場へと移動した。体を洗っていると瀬里奈さんとゴリフターズがやってきた。

………
……


 特大のタオルで胸を隠すように巻くゴリフターズ、タオルを手に持って全裸の瀬里奈さん。色々とおかしい光景である事は、疑いようがない。男性陣と女性陣のタオルの位置が正反対でも不思議に思う者は少ないだろう。

ギィギ『桃源郷はここに!! 生きてて良かった~』

 瀬里奈さんの目から涙がこぼれ落ちる。生死の最中から生き残った事から流れ落ちる涙ではなく…嬉しさから発せられる涙なんて珍しい限りである。

「瀬里奈さ~ん、お背中流しますよ!!」

「ミルア一人じゃ大変だろうから、手伝います」

ギギ『もう、何も思い残すことは無いわ!! 存分に洗ってちょうだい』

 うーーん、瀬里奈さんの背中を流す義弟達…どっかの危ないお店のようだわ。

「弟達がご迷惑をおかけします」

「気にする事でもないさ。母さんも嬉しさのあまり涙を流すほどだ。それよりも、早く湯船に浸かろう。私が酌をしよう」

「そんな、旦那様にそのような事を…」

「気にするな。私が冒険者として領地に居ない間に、二人には、いつも苦労をかけている。本当に感謝しているんだよ。少しくらい、二人もお礼をさせてくれ」

 湯船に浸かり二人を接待する。お互いアルコール程度で酔う程、やわな鍛え方はしていないが良い気分だ。湯船に浸かり、良妻賢母であるゴリフターズと慎ましく過ごす時は幸せの一言である。

………
……


 だが、その平穏も長くは続かなかった。

 ドサ

「きゃー!! お義兄様!! 瀬里奈さんが血を吐いて倒れました!!」

「魔法で調べても一切異常がないのに、なんで!?」

 義弟達の叫びを聞いて瀬里奈さんを見てみると、鼻から血を出して倒れていた。本来であれば、気が動転してしまいそうなのだが…原因が一瞬で分かったので逆に冷静でいられた。

 義弟達は、瀬里奈さんの体を洗う際に腰に巻いていたタオルを使っていたのだ。要するに、そういう事だ。

「お義母様が大変な事に!? なんて事を!!」

「早く治療をせねば。馬車から、ありったけの治癒薬を持ってきなさい!!」

 この状況下で瀬里奈さんが倒れた原因が分かっているのは、私と瀬里奈さん配下の蟲達だけのようだ。

ギィ(誰か、担架を!! 予想通り、倒されたぞ)

ギギ(私の晩ご飯が…)

ギィィ(いくら倍率が高いからって大穴狙いすぎよ)

 随分と人間味が出てきた蟲達に若干驚きを隠せない。だが、今は褒めておこう。すぐに、担架で瀬里奈さんが涼しい場所に運ばれていく。

「少し、行ってくる。なーに、いつもの発作だ。すぐ戻るから、ゆっくりしておいてくれ」

「はっ!! お義兄様!! 私達も一緒にいきます。というか、連れてって下さい」

「私も私も!!」

 ミルアとイヤレスが必死に訴えてくる。だが、却下だ。お前等が来たら治るものも治らなくなる。それに、後ろでパンプ・アップを始めているゴリフターズを見て逃げ出したいのだろう。

「却下だ!! 姉弟の仲を深める機会も大事だろう。…では、生きていたら後で会おう」

 私がその場を離れると同時に二人の悲鳴が鳴り響いた。なに、義弟達も王族としてそれなりに戦えるレベルらしいから、ゴリフターズからのお仕置きでも死なないだろう。




モナー(血圧が異様に高いです。それに、かなりの興奮状態のようです。全く、年甲斐にもなく…)

ギギ『女性なら誰だって倒れるわよ!! 悪いのは、あの二人が可愛すぎるからいけないのよ』

モモナー(美しすぎるのは罪という事ですか。ですが、流石に倒れるまで二人の肌を凝視しなくてもいいのではありませんか。お父様も呆れていらっしゃいましたよ)

ギギィ『女にはね、引けない時もあるのよ!!』

モナモナ(そこは、引いてください!!)

ギギギ『さて、気分も良くなったので再度桃源郷に…』

モナナー(お風呂に行くのは厳禁です。結果が目に見えていますので、治療を預かる私としては許可できません)

 目の前で繰り広げられる瀬里奈さんと蛆蛞蝓ちゃんの会話が面白いな。私が一から作り上げた子である蛆蛞蝓ちゃんは、瀬里奈さんにとっては孫みたいな存在。その孫に引き止められる。

ギィィ『この私を止められると思っているのかしら!!』

モナモナナ(あ、その顔に置いているタオル…二人が腰に巻いていた物ですよ)

 ゴフ!!

 瀬里奈さんが鼻と口から盛大に血を噴き出した。

 おーい、治療しているはずなのに悪化させてどうするんだよ。確かに、大人しくさせるためにはそれが一番だけどさ。

「私の出番はなしか…では、後は頼んだよ。母さんが起きた頃には、夕食の時間だろうから会場には一緒においで」

モナー(分かりましたお父様)




 瀬里奈さん…夕食にて義弟達から「あーーん」とさせられて吐血。蛆蛞蝓ちゃんに小言を言われつつ治療される。夕食後の卓球にて、義弟達のポロリで再び倒れる。蛆蛞蝓ちゃんのお怒りを食らう。就寝時に義弟達の生着替えを目撃して、倒れる。蛆蛞蝓ちゃん流石に呆れて言葉も出ない。

ギィィ『血が…血が足りないわ!! 』

モナナ(今日だけで何度輸血をしたと思っているんですか!! そもそも、なんで男性の裸を見た程度で血を吐いて倒れるんです。どれだけ純情なんですか)

「母さん。朝風呂を止める気はないけどさ…義弟達を連れて行くのは止めた方がいいよ」

ギギ『腐女子として、それはダメなのよ。世界が…欲望が、朝風呂に入れと言っている。だから、輸血をして頂戴』

 蛆蛞蝓ちゃんがいなければ、間違いなく致死量と言うほどの血を吐いても、まだやるつもりなのかと腐女子の力を甘く見ていた。自らの危険を顧みず死地へ行く様は…愚か者である。その目的があまりにも私的過ぎて、恥ずかしさで私の胸が苦しい。

モナ(お父様もダメと言っているので輸血はしません!!)

ギィギ『レイアちゃんに裏切られたわ!! いいわ、無理にでも行ってやるもんね』

 義弟達は、瀬里奈さんがお風呂に誘えば間違いなく付いて行くだろう。故に、瀬里奈さんをガッシリと押さえる。

「瀬里奈さん発見!! 今日は、例の武器の使い方を教えてくれるって約束したじゃないですか。早く、早く」

「あの二本を繋げてブンブン振り回したい!!」

 二人が瀬里奈さんの居る部屋まで走り込んできた。全く、早朝だというのに元気なことだ。これが若さというやつか。

『すぐに行くわ!! 予備を貸してあげるから、私と特訓しましょうね』

 筆談で会話をすると。嬉しそうに瀬里奈さんが外へと向かった。まぁ、お風呂でなければ大丈夫だろう。

………
……


 それから、一週間ほど瀬里奈さんの下で家族水入らずで過ごした。水辺に魚を釣りに行ったり、農作物の収穫を行ったりと普段できない事を経験していった。王族にとっては、実に良い経験になっただろう。

 中でも一番良かったのが、瀬里奈さんとゴリフターズの仲が深まったことだ。ゴリフターズの手作り料理は、瀬里奈さんの胃袋を完全に掌握した。それを機に、見た目とは異なり圧倒的女子力を誇るゴリフターズの魅力に気付き始めた。学問系は勿論、料理に始まり、歌や踊りなどあらゆる面に精通しているのだ。同性の目から見ても見惚れてしまう事間違いない。

『私が教えられることは全て教えた。貴方達は、もう一流の騎士だわ』

 ヴォォンヴォン

 義弟達が瀬里奈さんからお土産と言う名のライトセイ○ーを受け取った。双方、二本ずつ持っており二刀流からツインブレイドまで扱いをマスターしている。ゴリフターズの実弟だけあって才能は、相当なものであった。迷宮で本格的にモンスターソウルの吸収を行えば、ゴリフへの進化は間違いないだろう。

「全く、あまり甘やかしたらダメですよ。これから寒い時期も来るので体には気をつけてね。何かあったら直ぐに連絡してね。私達か義弟達が直ぐに駆けつけてくるから」

 最悪、我々にどうしても連絡がつかない場合には、皇帝陛下への直通ルートも用意している。

「お義母様。結婚を認めていただき本当にありがとうございます。弟達を連れてまた足を運ばせていただきます」

「短い間でしたが、本当にお世話になりました。弟達にこのような高価なお土産まで本当に感謝がつきません。また、旦那様の昔のお話を聞かせてくださいね」

 ゴリフターズが瀬里奈さんに会釈する。そして、瀬里奈さんも答える。

『レイアちゃんをよろしくね』

 嫁と姑が手を握り合う。

「いい話だ」

「瀬里奈さん、また遊びに来るね。次は、必ず一本とってみせますよ」

「同じく!! 次からは一対一で勝負しましょうね」

 ミルアとイヤレスが共に瀬里奈さんへの再戦に向けて力を入れている。

『この瀬里奈!! 逃げも隠れもしないわよ。いつでも再戦を受けちゃう』

 瀬里奈さんから一本取る為に、モンスター討伐に精を出してゴリフに進化したら瀬里奈さん含む世界中の女性が泣くだろうな。

………
……

 万が一、それが現実になりその原因を作ったのが私だとバレたら世界中の女性や一部の変態という名の紳士の男性から襲撃される事は間違いないだろう。まぁ、未来の事はその時に考えよう。

「じゃあ、そろそろ行くね母さん。また、遊びに来るから」

 瀬里奈さんと抱き合う。相変わらず堅い胸板である。だが、これが母の感触。瀬里奈さんも無言で私の背中に手を回してくれる。

ギィ『何かあったらいつでも戻っていらっしゃい。ここは、レイアちゃんの家なのよ。後、あの二人を大事にしてあげなさい。彼女達は、いくら強くても中身はか弱い女性なのよ。まぁ、レイアちゃんなら大丈夫だと思っているけどね。後、次来るときも義弟達を連れてきてね』

 さ、最後の一言が無ければ感動の別れだったのに…残念な母である。だが、そこも踏まえて大好きなんだけどね。

「わかった。母さんも元気でね」

 瀬里奈さん達の見送る最中、乗ってきた特注の馬車に乗り込み帰路につく。道中、物資を運んできた馬や馬車は瀬里奈さん達の下で利用されるのだ。

 約一週間と短い期間だったが濃厚だった。特に、疲労困憊になるまで頑張ってくれた蛆蛞蝓ちゃんは表彰ものである。まぁ、蟲達にもよい休みになっただろう。順々に温泉に浸かる事もできたし大満足の御様子であったからね。

 さて、明日からまた頑張って働きますかな。
休みを利用して一話書き上げられた(´・ω・`)
やったぜ。

さて、次話は、何にしようかな。
ネームレス襲撃ネタや不治の病ネタも考えたけど
以前にも似たようなのやったからとりあえず後回しかしらね。

新ネタが思いつかなかったら、不治の病でもやろうと思う(´・ω・`)
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