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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第五十二話:(里帰り編)お母さん(1)

◆一つ目:ミルア
毎年ある時期になると『ネームレス』に店を構える商人達が倉庫一杯になるまで商品を入荷する。商品の中には、日持ちしない物もあるので数日以内に売却しなければ大赤字になる。本来であれば、危険な仕入れなどしないのだが…ここ十年近く、毎年同じ現象が発生するので商人としての危機感が麻痺してきている。

これからの大量の商品は、ある冒険者の為に用意されたといっても過言ではないのだ。冒険者が、ある時期になると溜め込んだ金を湯水のように吐き出して、店の商品を全て買い込んでいくのだ。大量の食料と武器、書物、衣服など見境なく買い込んでいく。まるで戦争に備えるかのように感じられる。

『ネームレス』に店を構える商人達や行商達の中では、その冒険者と個人契約をして莫大な利益確保に乗り出そうとする動きも一時期あった。しかしながら、未だにそのような事にはなっていなのだ。商人達がお互いに牽制し合っているのが原因である。そして、ついにはお互いが扱う商品を決める事で双方の利益確保を行うという暗黙の結束まで生まれたのだ。



『ネームレス』の受付に文字通り山程の金を積み上げた。さらに、オリハルコンの塊まで置かれておりギルドの職員でも滅多にお目に欠かれない金額になっている。

「『ネームレス』ギルド本部にある治癒薬を全て貰おう。金なら即金で支払うので早々に準備してくれ」

「あ、あのレイア様。治癒薬は、冒険者の方に必須の物でして流石に全部は…」

「マーガレット嬢。良いかね、ギルドが治癒薬を売るのに個数に制限をかけるのは良くないよ。万が一、そのような行動に出るのならば事前に明示しておく必要があると思う。常識的に考えてさ」

 全部お買い上げするから割引とか無理な要求一つしていない私の行動に何か問題があるのだろうか。正規の金額で売っている商品を払ってお買い上げするのだ。文句を言われる筋合いは無いだろう。

 マーガレット嬢にも言った事だが…お一人様、何個までという制限を付けるならば先に明示しておくのが当然であろう。

「至急、ギルド長と相談いたしますのでしばらくお待ちください」

 マーガレットがギルド職員に指示を出して上の対応を仰いだ。一括現金払い…万が一、お金が不足した場合には、オリハルコンを換金する予定だ。これ程までの上客をお待たせするとは、全くギルドの質も落ちたものだ。

「早めに頼もう。それと商品は、表に停めてある馬車に全て積み込んでくれ」

「分かりました。それにしても今年の馬車は、台数がだいぶ少ないですね」

 マーガレットが疑問に思うのも無理はない。昨年までは、大型の馬車10台…馬の数は50を超えていたからね。

「今年の積荷は、書物と治癒薬だけの予定だからね」

 里帰りの為に、毎年『ネームレス』で山程買い込んで帰っていたが…大貴族の仲間入りした私が地元にお金を落とさないのは、よろしくないと考えて『ネームレス』で買う物は書物と治癒薬に限定したのだ。

 もっとも、治癒薬は今年から購入を決めたものだ。それなりに日持ちもするし、あって困る物でもないので購入に踏み切った。瀬里奈さんや可愛い蟲達に万が一があってはいけないしね。

 書物については、瀬里奈さんの暇つぶし用だ。一郎の兄妹達も読むので…まぁ、みんなへのお土産でもある。

「…え゛!?」

 マーガレットが何やら渋い顔をしている。それどころか、ギルド本部にいる商人達もなぜか驚愕のご様子である。まぁ、大体察しはつく。

「どうした、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして? まさかと思うが、私が『ネームレス』にある商店から物資の大量購入をしない事で驚いているのかね」

「お察しの通りです。あの…本当にお買い上げ頂けないのですか?」

 お買い上げ頂けないのですかとか本当に可笑しな問いかけである。

「なぜ、私が買い物する物まで誰かに強要されねばならない? 大事な事だから言っておくが…リスク管理すらできない商人に未来などないわ」

 ギルドの本部で私の動向を窺っていた商人達の顔がみるみる青ざめていく。ここ数年の利益がなくなる程度で済む者は、マシなほうだ。新参者の商人や行商達にとっては本当に死活問題に直結してくる。大量に抱える事になった在庫をどのように処理して、被害を減らす方法を考えるので頭がいっぱいであろう。

 だが、誰ひとりとて私に食い掛かってくる者はいない。『新生エルモア帝国』の侯爵でありランクB冒険者である私に理不尽なケンカを売る度胸がある商人が居たら是非会ってみたいものだ。

「わ、私の実家も商会で…」

「マーガレット嬢…悪運だけは強いよね。私が世話になったフローラ嬢に迷惑をかけるような事をするはずがないだろう。事前に、一報入れてある。恐らく、仕入れの量は常識の範疇だろう」

 尤も、その情報が商人達の間でリークされる事は無かったようだ。きっと、これを機にフローラ嬢の嫁ぎ先であるマーガレット嬢の実家は更に発展するだろう。弱小商人達の屍を糧にして。

「で、マーガレット嬢…治癒薬は当然、全部売ってくれるんだろう?」

「勿論です。すぐに、倉庫から運び出す手配を致します」

 実家に害が及んでいない事を理解し、更に周りの商店が潰れる事で実家の事業チャンスが広がった事を理解したのだろう。

 故に、今後の事も考えると私のご機嫌を取っておいて損はない。だからこそ、先程まで上と相談すると言っていたのに、あっという間に手のひらを返してくれた。

「よくわかっているじゃないか」

「冒険者の生命線とも言える治癒薬に数に制限をかけるなんて言語道断です」

 まぁ、どのみち上と相談をしても私に売らないという選択肢はないだろう。後付けの制限などを私に押し付けるような事をすれば、それ相応の対応をとるのが目に見えているからね。

 どうしても、新しいギルド長を『ネームレス』に招きたいというのならば無理強いはしないけどね。

 さて、後は領地で商品を片っ端から買い占めているゴリフターズと途中で合流して、瀬里奈さんが待つ地を目指すだけだ。結婚した報告はしたけど…実際、二人と会うのは今回が初めてだ。

………だ、大丈夫だよね。



 道中の合流地点でゴリフターズと合流して、一緒の馬車に乗った。ゴリフターズと私が乗ってもスペースに余裕が有るので、特注で作った馬車と思われる。

………
……


 私の母である瀬里奈さんに会う為とはいえ、ゴリフターズが美しく着飾っている。だが、言わせてもらおう。もう、色々と可笑しすぎて理解ができないくらいになっている。

 引き連れている馬車の数も存外おかしいが、もう何から突っ込んでいいかさっぱりである。だが、そんな馬鹿げた事を口にする程愚かではない。むしろ、そこまでくると逆に可愛く思えてくる。

 実際、可憐な乙女で可愛いのだがね。

「二人共綺麗だね。やっぱり、女性にはドレスが似合う」

「ふふふ、ありがとうございます。お義母様に気に入られるように精一杯頑張りますね」

 ブチ

 ゴリフリーナが手に持っていた鋼鉄製の魔法瓶を粉砕した。

 まったく、最近の商品は脆いからいけない。か弱い女性が少し力を入れただけで壊れる魔法瓶ってどうよ…購入元にクレームを入れてもいいと思う。

「ゴリフリーナ…せっかくの服が汚れてしまいますわよ」

 粉砕された水筒から飲み物が漏れてしまいゴリフリーナの服を汚してしまった。その様子をみてゴリフリーテが呆れている。

「今拭いてあげるから、じっとしててね。怪我はないかい?」

 私がすかさずハンカチを取り出してゴリフリーナを拭いてあげた。その様子を見てゴリフリーテが「しまった!!」と言う風な顔をしている。

 ベコン

 ゴリフリーテの魔法瓶も何故か木っ端微塵になっている。壊れ方から察するに『聖』の魔法を使って粉砕したと思われる。能力の無駄遣いここに極まる。

「怪我はないかいゴリフリーテ」

 ハンカチで綺麗にこぼれた水を拭き取る。

ゴリフターズは、ランクAで並半端な攻撃ではビクともしない強靭な肉体を持っている。どの程度かといえば、鋼鉄製の武器程度ならば逆に武器の方が自壊するような超人である。だが、可愛い嫁の身を心配するのは夫として当然である。

ちなみに、この場で「服が汚れたら大変だ」などと言うようであれば、まだまだ紳士としての力が不足している。一番に発するべき言葉は、二人の安否確認である。

「さて、まもなく目的地につくのだが…間違っても、攻撃をしないでくれよ」

 瀬里奈さん配下の蟲達には、私の『蟲』の魔法を使っていない。故に、アルビノになっておらず原色である。まぁ、野良モンスターと言っても間違いない。

「「無論です!! 旦那様のお母様なら私達の母も同然!!」」

 余談だが、『蟲』の魔法の使い手である私の出自などを調べる為に各国の調査員が色々と手を尽くしたようだが、『ネームレス』を訪れるまでの足取りが一切掴めずにいたと二人から聞いた。

 何を考えてそんな事を調査したのかは、よく分からないが…ご苦労な事である。

 だが、ガイウス皇帝陛下が急に直轄地を増やした事や『聖』の双子を連れてその地へ行くとなれば自ずと調査の手が伸びてしまうだろう。現に、遠くから監視の目が四つ程ある。

「南東700m後方の岩陰に一人、同じく少し横の木陰に一人、東400mの草陰の二人…全員やれるかな?」

 ミスリル製のパチンコ玉を二人に渡した。

 私が通った道には、小さな蟲達をばら蒔いている。後を付ける存在がいれば、知らせる手はずなのだ。仮に、ターゲットが蟲を殺したとしてもその気配が消えた事で追跡されている事がわかるのだ。

 馬車を止めて、ゴリフターズが外に出た。

「どうやら不届き者が居るようですわね。捕捉しました」

「東は私がやるわ。南東は任せたわよ」

 殺されると分かっているのにどうして毎年送り込んでくるかな。

 ゴリフターズが各々投擲の構えに入った。『聖』の魔法には、ミスリル製とはいえ長時間耐えられない。だが、目標を一人殺すまでなら十分な時間耐えられる。

「『聖』の魔法で強化された玉だ…防げたなら、個人的に褒めてあげたいね」

 仮に生き残ったとしたら、我々三人が纏めて突撃する事になるんだがね。それで生き残れたら、監視者をランクAとしてギルドに推薦してもいいと考えている。

 あ…目標がこちらの異変に気がつき急に後方へと下がっていった。

「チェスト!!」

「滅びなさい!!」

 大リーガーも真っ青な程見事な投擲だ。木々や岩を使ってこちらの視覚範囲から逃れようと思ったのだろうが…ランクAの二人をあまり舐めないでいただこう。岩や木程度ならば、障子の張り紙のように貫通させられるんだぜ。

………
……


「お見事!! ターゲットの沈黙を確認した。『ネームレス』を出てから追跡されていたから一組は、恐らくギルドだろうね。毎年の事だがいい加減にして欲しいわ。もう一組は、何処だろうな…まぁ、気にする程でもないか」

 生きて捕まえれば、頭の中を覗いたのだが…この程度の間者を使う雇い主など恐れる程でもない。

「ギルドの体質は、相変わらずですね。我々の時も随分としつこく付け回されました」

「懐かしいですわね。でも、何故かこの体になってからは寄ってこなくなりましたけどね」

 美少女時代には、ハイエナのごとく追いかけていたのに進化した途端に用無し扱いとは酷い。ギルドの広告塔にでも使いたかったのだろうか…大国のお姫様相手によくやるね。

「問題も片付いたので、さっさと行こうか。瀬里奈さんも首を長くして待っているだろうしね」

 15台にもなる大型馬車の一行が歩みを進めた。

 瀬里奈さんが、首を長くして待つどころか完全武装をして待ち構えているとは露ほども思わなかった。



 レイアの蟲の警戒網とゴリフターズの警戒網を平然とスルーする存在がいた。

 馬車の荷台で二人の人影が動き出す。

「まさに、計画通り!! 」

 お姉様達がドレスを新調したのを小耳に挟んで、これは何かあると思い内密に遊びに来てみれば、こんな楽しいイベントが待っていたとは予想外であった。

「まさか、お姉様の所に内密に遊びに来てみれば…なんと、お義兄様の母上に会いにいくとの事ではありませんか。これは、義弟である我々としては当然ご挨拶すべきだとおもうんですよ」

ギィ(だからと言って、荷台に潜り込まなくても…。お父様にバレたら後で怒られそう)

 剣魔武道会で捕まって以来、そのまま飼い蟻になった次郎。他の蟲達と違いイヤレスとミルアに従順でいるようにと強く教え込まれている。不平不満が出そうな事だが…美味しい餌を毎日食べられるので本人はいたって満足している。

ギギ(今からでもお父様に報告を…)

 次郎によって他の蟲達の監視網からもミルアとイヤレスの存在が居なかったものとされている。

「むむ、次郎が何やら裏切ろうとしている気がする。ほれ、高級な生ハムですぞ」

「よしよし、いい子だから大人しくしておこうね」

ギィィ(買収などされるものか。あ、このハム美味しいです!!…よくよく思えば、お父様の義弟ですし、問題ありませんよね。もう一枚ください)

「ミルアって実は、次郎の言葉が分かったりするの?」

「全然!! だけど、ペットの事だから何となくそんな気がしているだけ」

 それから、しばらくすると目的地に着いたらしく馬車が停まった。小窓から覗いてみると、巨躯の蟻が全身をオリハルコン製の武具で身を固め威風堂々と立っている。

「あ、あれはアーマーキメラアントクィーン!! 文献しか見た事なかったけど実物は初めて見た」

「あぁ、10年以上前に報告書が上がっていた蟲でしたっけ。何でも、各地を転々として人助けをしていたとか何とか…」

 今すぐに飛び出して、間近で観察してみたいが…何やらお姉様と揉めている御様子。必死で通訳をするお義兄様が右往左往している。

「……面白そうだから、もう少し様子見しようか」

「そうしよう。なんか、私達が出て行ったら更に揉める予感がするし」

 お姉様vs完全武装をしたアーマーキメラアントクィーンの試合を待ち望む二人がここにいた。
だいぶ間が空いてしまって申し訳ない。

通院はなくなったのですが、お仕事の本番が近く夜遅く帰宅や泊まりが増えており泣きたいです。

そして…PS4のdestinyなんてやってないからね!! エキゾディック武器でないおとか叫んでないお。このゲームフレンド居ないとクリア不能のダンジョンあるとか鬼畜すぎるw

と、私事はこのくらいにして…瀬里奈さんの心肺停止&流血沙汰までもうすぐw
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