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第四十九話:(過去編)従軍(4)
◆一つ目:敵兵
なかなか執筆時間が割けず、投稿が遅くなってしまって申し訳ありません。
別拠点を攻めるべく補給という名目で一時後退して、別部隊と合流した。しかし、本当の事を言えば損耗など全くしていない。あるとすれば、騎士団の連中が勝利に酔って無駄に食料を消費したくらいだ。
それなのに、皇帝陛下に伝令まで飛ばしていた事から考えるに顔を売る算段でもしていたのだろう。皇帝陛下も拠点を制圧した部隊を無碍には、扱えない。そして、シュバルツ司令官の予想通り、皇帝陛下から支援物資と王族の一人が激励の言葉を言う為に前線近くまで来てくれたのだ。
「知らん顔だな…」
集まっている兵士達に激励の言葉をかけている王族の女性を遠目で見た。
皇帝陛下のご自宅というか…お住まいの王宮には、何度か招かれた事がある。もちろん、人には言えないご用件で伺った次第である。その際に、王位継承権が高い上位5名と顔合わせを行っている。流石は、皇帝陛下の御子息だけあって中々の逸材も居た。まぁ、明白にこちらを見下してきた者も居たのが残念であったけどね。
王位継承権が低い王族には、顔を見せに行く必要も有るまい。それに、兵士達には集合が掛かっているが冒険者の私には何ら指示が来ていない。要するに、お呼びでないので何処かに行っていろということだろう。
夜には、王族を交えた晩餐会が行われる事にもなっているようだ。言っておくが…仮にも戦場の最前線近くでやるような事ではない。だが、是非武勇伝をお聞かせくださいと王族の方からのお願いでシュバルツ司令官がノリノリでGOサインを出したのだ。
媚を売るのも分かるが時と場合を考えて欲しい。そのしわ寄せが誰に行くと思っている。間違いなく、私に警戒の任が下されるだろう。
「失礼致しますレイア殿。シュバルツ司令官より、新しい任務を持ってまいりました」
私が木陰で休んでいると一人の兵士が、書簡を携えてやってきた。冒険者は、便利屋だが…契約内容を拡大解釈して利用するのは止めていただきたい。命令に拒否権が無いという条件があったにせよ流石にやり過ぎだと思うよ。と、一般兵士に文句を言っても可哀想なので謹んで書簡を受け取った。
「予想通り、警戒の任を任されたか。しかも、今晩は戻ってくるなと。代わりに、嗜好品を幾つか持ち出して良いという許可を出してきたか。あれ? まだ、居たの? もう帰っていいよ」
「心中ご察し致します。それでは、失礼いたします!!」
嗜好品とか持ち出し許可が降りても使い道に困る。蟲達全員分を賄えるわけでもないし、私自身は嗜好品に大して興味も無い。だって、私の蝗達の方が美味しいんだもん。品種改良して色々な味も作ったのだが、なぜか騎士団の連中には大不評だった。
私以外にも警備をする者が居るだろうから、軍から提供される嗜好品をそいつらに分けてやろう。きっと、シュバルツ司令官の嫌がらせで泣きを見ている連中達だろうしね。少しくらい、美味しい思いをさせてやってもいいだろう。
◇
夜になり、予想外な事になった。
「ば、馬鹿な…これだけ広大な面積を警備するのに私一人以外誰も居ないだと!!」
念の為、シュバルツ司令官に確認したら『蟲』の魔法ならば人海戦術など簡単であろう。人間が警備するより遥かに役に立つし、夜目が利く蟲も多い上に強いと聞いている。我々は、王族の方の周辺警護で手一杯なのだよ。
確かに、理にかなっている。だけど、流石に酷いという次元じゃない。
ギィィ(お父様。あのシュバルツとかいう人間食べていい?)
「待て待て!! 皇帝陛下に忠誠を誓っている人間だからダメだ。度が過ぎている事は、認める。だが、皇帝陛下の為、我慢するんだ」
ギギ(分かりました。…とりあえず、夜目が利く者達で地上と空の両方から警戒をします。念の為、森の各所にトラップを設置するように手配致します)
よろしい!! これで大体の侵入者は始末できるだろう。蟲達が手に負えない侵入者が来た場合には、蟲達の気配が途絶えるだろうし、すぐに察知出来る。その時は、私が出張ろう。
さぁ、約30万匹体制の警戒網だ…アリの子一匹侵入させんぞ。
ギーィ(お父様、蟻が一匹侵入しました)
………
……
…
いや、言葉の綾だからね。本当にアリの一匹まで報告されていたら対応出来ないので敵意を持った侵入者だけにしてね。
◆
第二補給拠点からの定期連絡が途絶えて現地に急行してみれば、文字通り廃墟となっていた。物資は何も残っておらず残っていたのは死体の山だけであった。敵兵であったとは言え、最低限の礼儀は尽くすべきだろう。炎天下の中で野晒しにされており、腐敗が始まっていたので既に誰なのか特定すらならなかった。
そして、我々『聖クライム教団』の諜報部隊に与えられた任は一つだ。
第二拠点を襲撃した犯人の特定と現在の居場所発見である。普通に考えれば、このような所業を行った者に鉄槌を与えるのだが、敵兵にはあのキリカ・ルーンベルトを葬った者が居るとの事で上層部からは細心の注意を払うように指示されている。
キリカ・ルーンベルト一人で一個騎士団以上の働きをすると言われているのに、それを倒せる者が居るとは恐ろしい限りだ。
「周囲にこのような死骸が…」
「蟲系モンスターの死骸。……世に聞く『蟲』の使い手か。厄介だ。ここは、一時撤退して後方部隊と合流する。我々だけでは、手に負えない」
真偽を確認する為に、上層部に報告をして『新生エルモア帝国』側に参戦している冒険者の情報を洗ってもらう必要がある。ギルドといえ、一枚岩ではない。我々、教団員も紛れ込んでおり金に積めば情報など幾らでも手に入る。
「足跡から追尾も可能ですが、撤退してよろしいのですか?」
「特別な属性を使う者を相手に的確に対処できる自信があるなら、構わない。だが、ヘタに捕まればこちらの情報が漏れる可能性がある。リスクが大きい」
「なるほど、では民間人を使いましょう。幸い、拠点で死体漁りをしていた活きのいい兄妹を見つけました。教義すら知らぬ者達です。足跡を追わせて敵拠点を見つければ無罪放免でちょうど良いでしょう」
なるほど…軍事情報を知らぬ者ならば、捕まっても大して痛くない。更に、こちらのリスクも無いな。
「いいだろう。但し、一人は人質として我等が預かり、四日以内に見つけ出してこなければ死罪としよう」
失っても痛くない駒だ。
あぁ、それと偵察に行かせるのは女の方にしておいた方がいいだろう。女ならば相手の警戒心も多少はマシだろう。最悪、慰み者になるかもしれないが男と比べても死なない可能性は高い。
◇
キュピーン
今誰かが、蟲達の警戒網に侵入してきた。だが、数秒で確保されていたようなので一般人でも紛れ込んできたのだろう。全く、面倒である。少しでも抵抗をするようなら殺していいと伝えていたが無抵抗だと拘束するだけだもんね。
「というか、今何時だと思ってんた…人様のお休み中を狙ってきやがって」
こっちは、深夜残業手当すら付かないんだぞ。この際、敵兵という事にして首を上げても…いや、それは流石に問題だ。
優しく尋問して敵兵と繋がりがない場合は、ここから離れるように伝えよう。
………
……
…
現場に到着してみると、蜘蛛の糸で簀巻きにされた10歳程度の少女が涙目でこちらを見つめてきた。私の可愛い蟲達が「女の子が泣いちゃダメだよ。ペロペロ」と目から落ちる涙を舐めとっている。
まさに、紳士の所業…だが、なぜか少女は泣き止まず延々と涙を流し続けている。訳がわからないよ。
「この先は、『新生エルモア帝国』の前線拠点だが…何をしにここまで来たのかね?」
少女の口枷を外させて優しく問いかけた。だが、身動きがとれぬように簀巻き状態であることには変わりはない。
「あ、あの…私は、近くに住んでいる者で道に迷いまして…」
「そうか、じゃあ直ぐにここを離れなさい…と、でも言うと思った? 近くに住んでいる者が真夜中にこんな場所に居るのはおかしいと思わない? それに、近くに住む者なら迷わないでしょう? 後、体に擦り傷等が多すぎる…それなりの距離を全力で走ってきたと見受けられる」
「そ、それは……」
簀巻きにされた少女に上に足を乗せる。
嘘を吐かれるのも吐く嫌いでね。素直に口を割る気がないなら、体に話を聞くまでだ。淫夢蟲を使って記憶を漁れば造作もないが、こんな夜中に可愛い蟲を呼び出すのも悪かろう。就寝時間だ。
徐々に足に力を入れていく。
「最初に言っておくが、女子供だからとって容赦するような私ではない。貴様が何者であれ、『新生エルモア帝国』に危害が及ぶ危険性があるならば排除するまでだ」
ゴキン
「痛い痛い!! いだいよ!! ごめんなさいごめんなさい…」
鈍い音がした。どうやら、関節を砕こうと思ったら踏みどころが悪くて外れてしまったようだ。だが、気にしない。このまま力を入れれば砕けるのは時間の問題。
ミシ
「私とて鬼ではない。素直に吐けば力になってやろう…子供のお前がこんな時間にここに来たのだから、訳ありなのだろう? 話せば痛い思いはしない上に、この私が力になってやろうと言っているのだ。まぁ、話さなければ死んでもらうがね」
「ほ、本当に助けてくれるんですか?」
痛みを堪えながら救いを求めてくる。そんな健気な者に手を差し伸べるのは紳士として当然であろう。
「当然だ。これでも、ランクB冒険者だ。それなりに強い方だと自負している。大船に乗ったつもりでいるといい」
足をどけて簀巻きから解放してあげた。そして、外れた骨を繋げてあげた。優しく、何があったか言ってごらんと声を掛けると急に泣き出してボロボロと喋り始めた。こういう時、女性受けが良い面構えが非常に役に立つ。
チョロイ
話を聞くに、村から近い場所にあった『聖クライム教団』の補給拠点が潰れたと話を聞いたので金目の物がないか兄妹揃って死体漁りにでかけて自国の兵士に捕まったようだ。死体漁りは、戦場では往々にしてあるが、見ていて気持ちいいものではない。故に、見つかれば殺される事など普通にある。
「ならば、解決方法は簡単だ…自力で捕まった兄を助ければいいのだ」
「でも、兵士が何人も…」
「たかが兵士など問題無い。所詮、低ランク冒険者に毛が生えたような連中だ。お前のような子供でも100%の力を引き出せば十分勝機はある」
「ど、どういう事ですか?」
私の影から細長い糸状の蟲が飛び出してきたのを恐る恐る見ている少女が何かを察したのだろう。
何、答えは簡単だ。強制的に力を引き出せばいいのだよ。
大丈夫だ。死んだ冒険者での人体実験は済んでいる。その為、一般人の子供に使っても問題はないだろう。幸い、この子供はここで殺されてもおかしくない身だ。それなのに生きて兄を救うチャンスまであげる私はまさに子供にとっては神にも等しいだろう。その代償が廃人になるとしても安いものであろう。
「約束通り、私が力を与えよう。成果を期待している」
鍛えられた軍人相手ならば、二、三名道連れにできれば良いほうだろう。
敵の尖兵に情けなどかけるのは、愚かの所業。そのせいで味方に甚大な被害が出たら、どう責任を取るのだ。敵兵をこちらの鉄砲玉に早変わりさせて突撃させる。
紳士的な説得による敵兵を味方に早変わりさせる。
子供の耳から蟲が入り込み、嘔吐や悲鳴に加え鼻水まで垂らし始めたが問題無い。正常な反応だ。そして、死んだようになったが心音がする事から生きている。
「あーあぁー」
「ふむ、やはり言語系はダメか。まぁいいだろう。さぁ、これを持って兄を救いに行きなさい」
餞別に鉄製のナイフを渡して送り出した。
どうか、この少女に幸あらん事を。
………
……
…
二日後、少女に取り付けた蟲の気配が途絶えた事を確認した。おそらく、無慈悲な敵国の兵士達に八つ裂きにされたのだろう。
「で、早朝から何用ですかシュバルツ司令官。私は、この広大な前線拠点を一人で警備させられて眠いのですが」
「契約書に命令に拒否権は無いと記載されていたであろう。まぁ、追加報酬の方は用意してやろう」
ゴネ得をするつもりは無かったのだが、追加報酬が貰えるなら嬉しい限りだ。
「ありがたくいただきます」
「単刀直入に言おう。昨晩、我が軍の補給拠点が何者かに襲われて全て消失した。そして今朝方、皇帝陛下より全軍に撤退命令が下された。今現在、補給拠点を襲った敵がこちらの前線基地を目指して向かっていると報告が来ている。即ち、我等が撤退する時間を稼ぐ為に貴様には殿を命じる」
『新生エルモア帝国』の補給拠点は、全部で5箇所あったはずだ。その中には、当然軍の精鋭や高ランク冒険者が詰めていた場所もあるはず。それを一晩で壊滅させたという事は、私のような冒険者が出てきたと見て間違いなさそうだな。
「一晩で全部の補給拠点を潰すとは…何者か情報は無いんですか? 後、報酬は期待してもいいんですかね?」
「拠点が壊滅したな…何者が襲ったか正確な情報はない。あぁ、生きて帰ってこられたなら十分な報酬を約束しよう」
胡散臭いが追加報酬も用意すると言っているし、受けるしかないだろう。
まぁ、良いだろう。騎士団連中が撤退する間、時間を稼げばいい簡単な仕事だ。と、思っていた事を後悔する羽目になったのだ。
過去編は後二三話で終了させる予定で頑張る><
気がつけば49話…なんだかんだで勢い任せでよく執筆したと思ってしまった。
リアルの都合でペースダウンしてしまいますが、頑張っていきます。
今後は、「里帰り話」や「ネームレスがモンスターの襲撃を受ける話」や「ランク認定話」などを考えております。

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