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第四十八話:(過去編)従軍(3)
◆一つ目:ガイウス皇帝陛下
おかしい!! 冒険者である私のお仕事に料理という項目は存在しなかったはず。それにもかかわらず、なぜ厨房という名の拷問場に立つハメになったのだ。騎士団拠点の広間では、囚えた教団兵士に対して尋問という名の拷問が行われている。
シュバルツ司令官が「こういう汚れ仕事は、冒険者の仕事であろう?」と言って、知っている事を全て吐かせろと言われた。これもお仕事、我慢だ!!
「はぁ~、いい加減。他の補給拠点の場所を素直に履いてくれませんか? 警備している者の情報もくれたら嬉しいな。それに、そろそろ熱くて限界でしょう?」
炎天下の中、鏡のように磨かれた鉄板の上に下着一枚の男性が手足を縛られて放置されている。暑さのおかげで鉄板の温度は凄まじくなり、水一滴たらすとジュワーと音を立てる。
「だから、知らぬと言っているだろう!! 我らは、ここを守る事が仕事で他の拠点の事などしらない」
偉い人間は、自己の保身の為に仲間を売る事を躊躇しないと思ったが…なかなか粘り強い。地味に耐える。
「ならば、他の奴に質問しよう。喋りたくなったら呼んでくれ…一郎、切っておいた野菜も鉄板で焼いておくといい。調味料も借りてきてある。味付けは好きにして構わない」
ギギ(最近、塩分控えめのお食事が多かったから、楽しみです。むむ!! 人参は嫌いだから除いておこう)
ギィィ(ダメです!! 除くならピーマンでしょう。人参は、美味しいので…)
ギッギ(待ちなさい!! ベジタリアンなので肉はいらないからピーマンと人参と交換しましょう)
ギギギ((いいとも!!))
「なんでモンスターが!! おぃ待て待ってくれ。よしてくれよ…なんで野菜を炒め始めるんだよ。俺にまで塩を掛けて。なぁなぁ、まさか…そんな事ないよな」
自分が置かれている状況がようやく理解できたようだね。だが、少しばかり遅かったね。もう少し素直になるまでそこで恐怖を味わうといい。生き残りは、まだ居るのだからね。情報を吐かす為ならば、少しくらい減っても問題あるまい。
「それで、君の方はもう喋る気になったかい?」
手足を縛り上げ、首から下がすっぽり入る塩壷に押し込んだ女性兵士に質問をした。漬け込んで既に8時間が経過している。その間水分を一切与えておらず、唇は既に乾ききり、相当衰弱しているのが分かる。
さぞや、苦しいだろう。
「みぃ…ずを」
最初は、キャンキャン吠えていたが既にその元気は無く掠れるような声で水が欲しいと訴えてきた。だが、水など与えるなら最初からこのような行為に行わない。要は、見せしめなのだよ。
私は、女性兵士の目の前で水を地面に流して捨てた。
「残念だ…零してしまったよ。おかわりの水が欲しければ、何をしゃべればいいか、理解しておりますよね?」
「ぁ~…しぃらない。………こぉこ以外、しりません」
知らないか。そんなの、既に確認済みだ。だから、女性兵士は何ら悪くない。悪いのは、これを見ても一切助ける為に口を割らない女性兵士の上司達と拷問を指示したシュバルツ司令官だ。
尋問と言う名の拷問を指示された前夜のうちに、生き残った敵兵全員に淫夢蟲を使って頭の中を覗かせてもらった。そして、今行っているのはその裏付け調査みたいなものだ。一応…シュバルツ司令官には、蟲で記憶を覗きましたと報告したが、信じて貰えなかった。だから、このような行動に出なければならないのだ…嘆かわしい。
私は、この拷問を特等席で見ているコイツ等の上司達の方を向き直った。逃げぬよう手足は、拘束させてもらっているので逃亡の危険はない。
「上官として部下を助けるのも仕事だと思いますがね…で、素直に全部吐きましょうよ。アレが死んだら次は貴方達の番ですよ。おや、黙りですか?………刺せ」
こちらが優しく問いかけているのに無言とはいい度胸である。マチ針程の長さの針を持った蚊が上官達の爪と肉の隙間を刺した。
「「「ぐあ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
「なんだ、喋れるじゃないか。お前等、シュバルツ司令官も素直にしゃべれば命までは取らないと言っているんだから吐こうよ。あの人、手柄を立てる為に何でもやるよ。捕虜の人権とか期待しないほうがいいよ」
今目の前で行われている事をみればその程度容易に想像がつくだろうに…。なぜ、そこまで口を割りたくないのか理解できない。助けが来るとでも思っているのだろうか。
「ぎさまぁぁぁ!! 私達にこんな事をしていいと思っているのか!?」
「悪いが、上官命令でね。逆らえないんですわ…余計な事を喋ったのでもう一本詰めますね」
さらに指が詰められた。手足込みで20本もあるのだ…まだまだ、行きますよ。だが、情報をしている上官達は、口を割らない。部下達が目の前で死にかけているにもかかわらず、人間としてクズだが…軍人としては優秀なのだろう。
ジュワー
肉が焼ける匂いと香辛料が焦げる香ばしい匂いが充満してきた。先程から、苦しみの悲鳴をあげていた男がついに命を落としたようだ。
「助けられる命を助けないなんて…お前等、それでも人間かよ。見損なったぞ!!」
ギギ(そうだそうだ!! 同族を助けない人間なんて、我々蟲にも劣る!! ……あれ?お父様も確かにんげ…)
ギギィ(バカ!! お父様は、種族がお父様だからいいんだよ)
蟲達の可愛らしい会話をしつつ、粛々と焼きあがった肉が蟲達によって貪られていく。その様子を横で見ていた女性兵士の絶望的な顔は、自分の未来を理解したのだろう。
というか、女性兵士より周囲の兵士達が今朝食べた食事をゲロっているのが問題だ。おぃ、食べ物を無駄にするなよ。それに、嘔吐臭が染み付いたらどうするんだよ。私の絹芋蟲ちゃん香水が台無しになるだろう。
「さて、一人減ったな…蟲達が食事を終えて鉄板を洗い終わったら、君達の出番ですよ。三人は一気に焼けないので、階級が一番高いおじさんに選ばせてあげるよ。次にあそこに縛るのは誰かを」
慈愛に満ちた笑顔でニッコリと微笑んだ。
お偉いさんには、珍しく一人だけ女性がいるので、噂に聞くニコポやナデポにチャレンジして口を割らせる事ができるかチャレンジしてみたが、どうやら効果が無いらしい。お顔が真っ赤になるどころか、真っ青になったよ。これでも容姿にも自信があって、身だしなみにも気をつけていたんだがショックである。
「ナタリア!! 貴様が先に行け」
ご指名をされたのは、30代後半のお偉いさん女性兵士…この場合は、女性将校と言ったほうがいいのだろうか。私のニコポが効かない程の人材だから、口を割らす事はまず無理だろう。さっさと、焼き殺して次のおっさんに期待だな。
だが、その前に一芝居うっておこう。
「ナタリア・アリセローズ。出身者は、『聖クライム教団』の南部にある農村。両親は今も健在。軍には、年齢が5歳離れた弟が在籍している。弟は、今回の戦争において第四補給部隊に所属しており、位置的に考慮すれば…我々が次に襲うであろう拠点である。さらに、来年には弟のところに子供が産まれるらしいね。実におめでたい」
記憶から読み取れた情報を述べただけで、女性将校の顔色が更に悪くなった。
「な、なぜそんな事まで…」
「どうしてだろうね。だが、私がなぜそんな情報を知っているかといえば答えは簡単だよ。言わなくても分かるだろう? もし、君が素直に情報を教えてくれるなら悪いようにはしないさ…弟さんについても、シュバルツ司令官にお願いしてもいい」
嘘偽りなど一つも言っていない。少し身内に裏切るものが居るかも知れないと含みを持たせたが別に問題あるまい。尋問ではよくある手の一つだ。
「なんでプライベートの情報まで…グローズ!! 貴方、裏切ったわね!!」
「何を言うか。お前の方こそ、そんな男に誑かされて俺達を売るつもりでいるのだろう。今の話も、その布石であろうが!!」
今の会話的に、女性将校と2番目に地位が高いお偉いさんが完全にデキている事が分かった。ならば、心優しいと評判の私が取る道は一つだ。二人仲良く、鉄板行きだろう。
「黙れよ。五月蝿い二人は、纏めて鉄板行きだろう。なーに、最初に情報を喋った方だけを助けてあげるよ。だけど、さっきから椅子に座って高みの見物をしているおじさんが先に喋れば、この話はなしだ。さぁ、死にたくない奴は早めに仲間を売ってくれよ」
手足の拘束を解いて、首根っこを掴み嫌がる二人を引きずって洗い終えた鉄板の上に投げた。そして、直ぐに蟲達によって強靭な糸で鉄板にへばりつくように拘束される。服が邪魔だな…これでは鉄板の効果が半減してしまう。
『火』の魔法が使えたら、一瞬だけ炙るのだが…仕方ない。蟲の酸で溶かすしかないね。少々威力があるから全身が酷い事になるが、死ぬ事はないだろう。影より現れた蟲の口から強酸が噴射され、女性将校を溶かした。
「い゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴が響き渡り、女性将校の肉が剥がれ落ちて骨だけになってしまった。その様子を真横で見ていた敵兵が糞尿を全開で何とも言えない匂いが充満してしまった。
「なんでもっと鍛えてないんですか!? 軍人でしょう? 全く、最近の軍人は、使えないわ。後、おじさんもいい年して止めてよ。下の世話なんてしないよ。………さて、女性将校がいた場所が空いてしまったね」
真っ青な顔をしているお偉いさんの肩に手を置いた。
「ま…まて、そう話し合おうじゃないか」
「いいや、待たない。これが私のお仕事ですよ…分かります? これ以上、情報を知っている貴方達を潰すのは私にとっても非常に不利益なんです。お互い良い関係で居たいと思いませんか? 素直に喋ってくださいよ」
「きょ、拠点の一つを話す!! だから」
「冗談でしょう? あなたが知っている補給拠点は全部で4個あるでしょう。配備されている人員も大まかの数は知っているはず。そして、配備されている冒険者の情報もね。そんなに、あの拷問を受けたいんですか? 見てくださいよ…あの塩壺に入った女性兵士の衰弱っぷりを」
そして、今も鉄板に乗せられて少しずつ苦しみ始めたオッサンを凝視させた。
ギギ(お父様、新しい塩壺持ってまいりました!!)
「待ってくれ!! お願いだ…ぜ、全部話す。だから、それだけは許してくれ」
自分が拷問されるとなったら、ついに諦めたか。
今まで私の仕事を涼しげに見ていたシュバルツ司令官が腰をあげた。
「後は、こちらの仕事だ…もう、休んでいていいぞ」
「了解しました。で、そこの二人はどうしますか?」
鉄板に繋がれて苦しんでいる男と塩壺に押し込まれて死にかけの女の二人を指さした。
「何を言っているのだ? 第四騎士団が拠点を占拠した時には、生き残りは一人しかいなかっただろう?」
「敵兵の首なので正規の料金をお願いしますよ」
「流石は、金の亡者の冒険者だ…よかろう。しっかりと、カウントしておこう」
パチン
私が指を鳴らすと影より、待っていましたと言わんばかりに蟲達が溢れ出してきた。そして、生焼けの肉と塩漬けの肉を瞬く間に平らげていく。
◆
火蓋が切られて、早数日…主力部隊同士の小競り合いは続くが、補給拠点制圧に回していた第四騎士団から吉報が届けられた。
「まさか、こんなに早く敵補給拠点を落とすとは。更に、別拠点を落とすべく一時補給の為、戻ってくるか。激励の言葉の一つでもやらねばなるまい。…アメリアにこの任をやらせよう」
敵の補給拠点が一つ潰れた事で間違いなく我が軍が有利になるだろう。持久戦に持ち込めば勝利も可能だ。
「畏まりましたガイウス皇帝陛下。至急、手配いたします」
参謀の一人が部屋を退出していった。
それにしても、この短期間で拠点一つを落とすとは…第四騎士団の連中の実力を見誤っていたな。戦後にボーナス確定として、気になるのは一点だけだ。
報告書には、敵補給拠点を制圧下にもかかわらず押収物資が0となっている事だ。軍隊である為、多少の少ない分には目を瞑るのは吝かでもないが…流石に、押収した物資が0というのは問題だ。
更に報告書を読み進める。
雇った冒険者は、一人を残して全滅。敵側にいた冒険者キリカ・ルーンベルトを倒したが被害は甚大であった。
「生き残った冒険者の名前は、記載されておらぬな。まぁ、最後まで生き残ったなら褒美の一つでも取らせよう」
キリカ・ルーンベルト…確か、『聖クライム教団』で活動しているランクB冒険者。驚異的な弓の腕前で昨年に行われた剣魔武道会で優勝者であると耳にした事がある。それを倒せる程の者が居たとは、会うのが楽しみじゃな。
皇帝陛下は、レイア参戦をまだ知らないヽ(・∀・)ノ
さて、『闇』さんがウォーミングアップを開始した。

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