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第四十七話:(過去編)従軍(2)
ついに200万PVを突破できました。
読者の皆様、本当にありがとうございます。
さらに上を目指せるように頑張っていきます。
今後もよろしくお願い致します。
正直、敵拠点なんて瞬殺だと思っていた時期が有りました。
威力偵察を開始して、敵拠点300m手前で先頭を走っていた冒険者の首が矢で飛ばされたのだ。一秒後には、さらに一人と急所を突かれて肉塊へと変わっていた。こちらは、接近が直前までバレないように山林を進んでいたのにもかかわらず、発見され…更に木々をすり抜けるような攻撃とは恐れ入った。
そして、敵拠点にたどり着くまでに腹部に二本と右膝に一本も矢をいただいた。ミスリル並の強度を誇る蟲産装備を貫くとか、相当の腕前である。使用されたのは、オリハルコン製の矢で金に糸目を付けない戦い方だ。さらに、矢尻の形状から考えるに毒矢である。
「その装備を見る限り、騎士ではないな。ご同業者か…魔法と遠距離物理特化の高ランク冒険者は、初めて見ましたよ。それに、素晴らしい技量ですね」
魔法と遠距離物理の珍しい組み合わせの使い手である。そのおかげで、広範囲魔法と正確無比の射撃で蟲達の壁も役には立たなかった。
「接近される前に全員仕留めるつもりでしたが、一筋縄ではいかないようです。世に聞く『蟲』の使い手ならば、それも仕方ありません。素晴らしい反射神経ですね。ここまで凌がれたのは、初めてですよ」
20代半ばの麗しい女であるが、凄まじく強い。スレンダーな体つきだが、ミスリル製のロングボウから放たれる凶悪な威力から察するに、背筋力は素の私を超えている可能性がある。
この女一人で、第四騎士団を遠距離から完封出来るだろう。騎士団連中の装備では、盾で防ごうがオリハルコン製の矢が楽々貫通する。その上、私でも完全回避できない射撃に加え、速射も可能みたいだし私が居なければ騎士団は初陣で死体になっていただろう。
「だが、私の勝ちだ!!」
先程から、私の蟲を魔法でゴリゴリと潰されている。だが、密かに擬態能力に特化した蟲達を少しずつばら撒いていたのだ。今までの蟲達は全て囮である。数百の蟲達が全方位から冒険者に襲いかかる。超至近距離で範囲魔法は使えまい…使い手ごとローストチキンになるからね。
さらに、第一形態に肉体を変身させる。
人の姿では、分が悪い。まさか、最初から使う事になるとは思っていなかったぞ。迷宮で安全にソロ狩りをするべく考え抜いて開発した『蟲』の魔法の使い方だ。自身への能力付与…蟲達の特性を取り込み、肉体を作り変えるのだ。
「っ!? こっちも負けらんないのよ!!」
女が自らの身を『水』の魔法で包み込み、『火』の広範囲魔法で周囲の蟲を焼き払う。強引ではあるが、近接された場合にこれ以上の手立てはないだろう。予想外に実戦経験が豊富らしい。
爆風の中から、正確無比に私の急所に矢が迫る。だが、あらゆる面で強化された私は、迫る矢を肉眼で捉える事が出来る。回避出来る攻撃は避ける。出来ない攻撃は弾く。それでも、無理な攻撃は左腕を盾にして距離を詰めた。たった10mしかない距離だというのに、その間に撃たれた矢の数は12本!!
だが、距離は詰めきった!! 女の首筋に手を添える。
「最初に3本に加えて、5本も当てられるとは…投降をお勧めするがどうするかね?」
「これでも教団の一員でしてね。異教徒への投降は許されていないんです」
「異教徒ではなく、無宗教なのだが…」
「どちらも同じなのよ。うちの教義的にはね」
狂信者という奴なのだろう。まったく、宗教が絡むと怖い事だ。
「名前を聞いておきたい。私は、『新生エルモア帝国』所属レイア・アーネスト。『蟲』の魔法の使い手だ。ランクBの冒険者だ」
「『聖クライム教団』所属キリカ・ルーンベルト。ランクB冒険者だ。得意なのは遠距離攻撃全般かしらね」
これほどの冒険者を勿体無い事だ。投降すれば、命の保証はされただろうに。
現状、よほどの隠し玉がない限り、女の形勢逆転は不可能だ。矢に手をかける前に首を刎ねる事が出来る。仮に、私が手刀を外したとしても女を逃がさない自信はある。
「言っておくが、毒が回るのを期待しても無駄だぞ。この体に効く毒など、ほぼ無いからね。言い残す事があれば聞いておく」
「残念ね…まぁ、いいわ。貴方の方が強かった。それだけの事よね。出来れば、違う形で出会いたかったわ。貴方となら良い冒険が出来そうだもの」
「ソロ専門でね。美しい女性と一緒に迷宮ライフは心踊るが…来世に期待してくれ」
投降の意思が無い以上、殺す。女だから見逃すなんて甘い事は言わない。私を殺せる可能性がある人物を見逃すとかありえない。危険は可能な限り排除するべきである。
スパン
手刀で首を刎ね綺麗な血飛沫が上がった。蟲達が美味しく召し上がろうと影から這い上がってきた。
「食べるなよ。手厚く葬って……いや、持ち帰るぞ。死体も地下通路を経由して持っていけ」
ギィ(了解いたしました。お父様)
ギギ(拠点兵力の3割を排除しました。医療品保管庫の荷物出荷も全て完了。いつでも撤退できます)
千を超える蟲達が上空から麻痺毒を散布する。
その様子は遠くからも見えるので、そろそろ第四騎士団達が美味しいところをいただきに来るだろう。
ズキン
変身を解いた瞬間、矢で貫かれた箇所が痛む。
「医療費の負担って軍隊だったかな」
蛆蛞蝓を使えば元通りにする事は、容易い。だが、報奨金が少ない分を治癒薬で懐を肥やしても許されるだろう。
◇
その日、騎士団連中は勝利に浮かれていた。冒険者の苦労など知った事ではないご様子である。地位の高い者を残して、敵拠点に居た者達を皆殺しにしたのだ。その為、生き残った敵兵は僅か5名である。
騎士団の連中が、金目の物が無いか物色しているが碌な物がなくて嘆いている。補給物資で色々と美味しい思いをしようと考えていた連中が多かったのだろうが、全部私が美味しく頂いたのだ。
私は、騎士団の拠点にある医務室を訪れた。
「医務官…治癒薬を頂きたいのだが」
「君は、冒険者だね。悪いが、冒険者に渡せる治癒薬はないよ。治療代は、軍が負担という記載はされていないはずだ…どうしても必要ならば、正規価格でお譲りしよう。………すまない、軍規なのだよ。その負傷では、早めに治療せねば不味いだろう。悪いが、金銭の都合を付けてきてくれ」
確かに、記載はされていなかった。だが、支払わないとも記載されていなかったはずだ。正規価格で譲ってくれると言う辺り、医務官の優しさなのだろう。
「契約内容や軍規が絡むなら仕方がない。医務官…あなたの判断は正しい。私を無償で治療を施すと司令官にお小言を貰うでしょう」
「失礼致します。レイア・アーネスト殿。司令官がお呼びですので、至急お越し下さい」
本日のお仕事が終わったので、これから人目を避けて治療を行おうと思ったのに…なんてタイミングだ。だけど、これもお仕事だ…どこへでも行きますよ。
………
……
…
豪華な天幕をくぐると、偉そうなオッサン…第四騎士団副団長で本部隊の司令官のシュバルツが待っていた。椅子に座り、ワインを飲んでいるあたり余裕綽々である。
「此度の拠点制圧における冒険者の働きは、実に素晴らしいものであった。だが、おかしいとは思わないかね? 補給拠点だというのに、食料、武器などの物資が一切存在しないのだよ。この拠点に搬入されるのは確かに確認されたというのに」
「そうですね」
「敵兵を尋問してみたら、間違いなくこの拠点に運び込まれたと言っているのだよ。どうしたものか…これでは、我が騎士団の者達に褒美を与える事が出来ない」
「そうですね」
略奪品がボーナスになるのかよ。本来、褒美は戦争に勝利した際に国から与えられる物であろう。騎士団連中が略奪した品物は、全て国の物のはず。言い換えれば、皇帝陛下の物といっても過言でないはず。
なのに、こいつらは何を言っているのだ。
「生き残った敵兵に確認すると、この拠点に生きてたどり着いた冒険者は貴様一人だ。故に、消えた物資について何か知っているのではと思ってね」
「その物資について、以前に質問をしてもよろしいですか? シュバルツ司令官」
「許可しよう」
「仮に知っていたとして、冒険者である私が先に見つけて確保した場合には私に権利が生じると思うのです。契約的にもそのようになっております。よもや、騎士団の方々がそれを踏みにじるような暴挙にでるとは思っておりませんが、そのような事態の場合にはどの様にご対応するつもりでしょう?」
「無論、話し合うつもりだよ。で、物資はどこにある?」
「私が攻め入った時には、既に食料庫、武器庫は全て空でしたよ。嘘偽りなく。言っておきますが、私は騎士団が到着するまでキリカ・ルーズベルトという女の冒険者と死闘を行っていたんです。そのおかげで、腹と足…更には左腕に風穴を開けられました」
前日に、食料庫と武器庫の中身は全て抜き取った。だから、攻め入った時は間違いなく空であった。医療品が保管されていた場所は空とは言っていないので嘘など一つもない。
そして、生々しい傷跡を見せてやった。
「あいつらの証言と一致しているな…もう、下がっていいぞ」
「後、治癒薬を頂きたいのですが、許可願えますかね? 勿論、費用は軍持ちで」
「……構わん。だが、次の拠点制圧時も期待しているぞ」
あの様子では、私がここで潰れるのを良しと思っていない。ぼろ雑巾のように使い古してやろうという魂胆が見えるわ。
さっさと治療して実験に取り掛かるとしよう。
◇
元敵補給拠点から少し離れた場所の地下に物資を格納しておく広間を建設した。流石は、軍事物資だけあって、その量は素晴らしいの一言である。食料などが劣化しないという条件付きならば、私一人で数年は引き込もれる。
モモナー(再生完了致しました。それにしても、お父様相手にここまで手傷を負わせるなんて相当の手練でしたね)
「最初から、能力をフルに使っていても何発かいいのを食らっただろう」
風穴が空いていた場所の治り具合を確認する。流石は、傑作の蛆蛞蝓である。完璧なお仕事だ。
迷宮での生命線である治癒薬…その効果は、抜群だ。高価な治癒薬であれば、腕一本すら再生可能…但し、腕としての原型が残っていればだが。治癒薬は、モンスターから採れる魔結晶を材料として作られる。その為、モンスター自身に治癒薬と同じ特性を持たせる事は出来ないかというところから研究した。そして、蛆蛞蝓の誕生に至るまで5年の歳月が掛かった。
モナモナ(それと、お父様からの指示通り。死体の方も治しておきました)
「素晴らしい。治せたのかアレを」
治癒薬は死んだものを治す事は出来ない。その理由は知らないが…生命力がないからなのだろうか。それとも魂という存在がないからなのだろうか。だが、これで私の蟲の方が優れていると言う事が証明された。
モモナ(ですが、肉体は治せても蘇生まではできません。それを行える存在は居ないと思われます)
「別に構わないよ。本当に価値があるのは、モンスターソウルにより強化された肉体の方だ」
知識や経験が詰まっている脳も大事だと思うが、これは私程度が扱える物ではない。
足元の影から一匹の細い糸状の蟲が伸びてくる。長さにして1m程だ。脳操蟲、元は人間の身体的スペック向上の為に作った蟲である。人間は無意識に力をセーブしていると聞いた事があるのでそれを意図的に解放できないかと考えて作ったのだ。
ちなみに、人体実験したら予定通りスペック向上した。だが、言語中枢がダメになり廃人になった。しかも、綺麗に取り外す事が出来ないので一度取り付いた人間を蟲から解放したら間違いなく死ぬ。
だから、試してみたい実験があるのだ。蟲を使って死んだ人間を操る事ができるのかを。脳をいじるという面では同じなのだ…頑張れは行けるだろう。もし、成功の兆しがあればこれを機にそっち方面の蟲も開発に着手しようと思う。
蟲が死体の耳から入り込む。
………
……
…
待つこと一分、動かない。いや、待て!! まだ慌てる時間じゃない。
ピクピク
死体の眉が動く。そして、徐々に手足が動き始めた。どうやら、人間の駆動系を確認中のようだ。そして、急にパッチリと目を開いた。
「っ!!」
ホラー映画が苦手というわけじゃないが…今まで死んでいた人間が急に目を開けてこちらを見てきたからびっくりした。
上半身を起こしたが、バランスを崩して転倒した。
慣れない肉体では、仕方がないか。これは、しばらく訓練が必要だね。
「しばらく、その体に慣れるように…まずは、歩く事の練習から始めておいてくれ」
後、確認しておく必要があるね。死体の胸に手を置いた。
………
……
…
やはり、心音は無いか。
このままでは、腐敗するのは目に見えているな。やはり、内臓器官は蟲の物に取り替えておこう。そして、一日一回蛆蛞蝓を使ってメンテナンスしよう。血液は、全部抜いておくかな…どのみち体内を循環していないし腐る要素はなるべく排除しておきたい。
現状は、生きる死体というところだが…頑張って改良すれば良い戦力になるだろう。
「この歳で人形遊びをする事になるとは思わなかったが…存外楽しいものだね。後、元々着ていた服を着せておいてくれ。無駄に肉体を損傷させては折角治した意味がなくなる」
モナモ(微力ながらお手伝いさせていただきます)
資源の有効利用…当然であろう。世の中、エコだよ。
さて、ネクロマンサー(笑)になれるかしら@@
今日で夏期休暇終わった…死にたいorz
明日から投稿速度は落ちますのでご容赦を><

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