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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第四十六話:(過去編)従軍(1)

◇一つ目:マーガレット嬢
 鉱山然り金鉱然りと…限りある資源を奪い合う為に戦争が行われる。それは、この世界であっても同じである。規模で言えば前世…頻度で言えば今世である。数年に一度の割合で国家間の戦争が起こっているので、冒険者や冒険者崩れの傭兵モドキは食うに困らない。

 無論、それによって生じる特需もあり商人達にとっては稼ぎ時でもある。尤も、その稼ぎの裏で沢山の孤児達が量産されるのだ。奴隷制度が無いこの世界にとって、貴族達を悩ます頭の痛い問題である。どちらに転んでも頭を悩ますなら、戦争なんてしなければいいのにと思うが…そこは、大人の事情というやつ。

 『ネームレス』ギルド本部にも戦争に向けて傭兵の募集が沢山舞い込んできている。己の身を守る為、武勲を立てる為、貴族や軍が依頼主である事が多い。軍や大貴族の私兵ならば、練度はそこそこでランクD~C程度が少なからず居る。どの依頼にでも言える事だが、手柄や武勲は依頼主の物である。代わりに殺した敵兵に対して歩合制の報酬と略奪品がこちらの取り分だ。それは敵国でも同じである。

 そして、私が毎年一番気にするのが戦場となる場所が何処であるかという事だ。瀬里奈さんが暮らすゲルヘイス山脈周辺が戦地になるならば、移住先を考えなければならないからだ。

 だが、今回も大丈夫のようだ。

「レイア様も傭兵として、ご参戦なさるのですか?」

 数ある依頼書を確認していると、後ろからギルドの受付嬢マーガレットが話しかけてきた。今年の春から受付嬢になった者で、フローラ嬢の2世代後の受付嬢である。なかなか、教育が行き届いており、出来る受付嬢なのがよくわかる。

 教育役がフローラ嬢の同僚で「受付嬢たるもの、冒険者に貢がせてなんぼのもんじゃい」というお方で、それを色濃く受け継いでいる。私が知る限りでも6名近い冒険者が毎月貢ぎ物を献上している。

 ちなみに、年齢は16歳で…同い年である。間違いなく美少女または美女なのだが…悪女の類であろう。死臭が漂っている。フローラ嬢がぐぅ聖ならマーガレット嬢はぐぅ畜だろう。

「軍からの依頼を受注しようと思っている。その方が何かと良いだろう」

 この度の戦争は、『新生エルモア帝国』と『聖クライム教団』との資源争いの戦争だ。国境付近で発見された金鉱及びその周辺の資源をかけての争い。最初は、話し合いで共同管理した上で利益は半々にしようという事で話を進めていたようだが…両国共、金に五月蝿い大臣や貴族達がしゃしゃり出てきて、いつしか戦争へと突入する事になったのだ。

 一番のきっかけは、皇帝陛下が「儂は無宗教だから、教団の教えとか押し付けるな」と明言した事だ。誠にもって素晴らしいご意見で、このレイア感服いたしました。

 『聖クライム教団』…最強の冒険者と名高い『闇』の魔法の使い手グリンドール・エルファシルが居る。お目にかかった事はないが、過去の戦争でこいつが出張った時は、一年続くと言われた戦争が二日で終わったらしい。敵国の首都を単騎で平野に変えてしまったとか嘘か本当か分からない噂を聞いた事がある。

 『新生エルモア帝国』がその国の二の舞にならないように…皇帝陛下の為に、私は尽力する責務があると思う。それに、今こそ陛下と出会ってから受けた恩をお返しする時だと思うのよ。

なんせ、皇帝陛下は瀬里奈さんが住む山脈を皇帝陛下直轄地にしてたのだ。その上、許可なく立ち入る事を厳禁にしてくれた。表向きは、自然遺産の保護という名目で疑わしいが…皇帝陛下の言った事に異議を立てる者は誰も居なかった。ちなみに、集落を襲うオーク系や人を襲うモンスターは綺麗に討伐しておいた。故に、現在あの山脈で生態系の頂点に立つのは瀬里奈さんだ。

それに至るまでのやりとりは実に爽快であった。陛下に瀬里奈さんをご紹介したら、「よくぞレイアを育てた。褒めてつかわす。褒美に、この山くれてやるわ!! ハーレム? 残念じゃが奴隷禁止なので、真っ当な孤児院なら構わないぞ」と言った形で即決だった。どの道、モンスターしか住んでいない山だったのだ…人を襲わないモンスターが管理するならば問題無しとのお言葉だ。

「軍からの依頼ですと歩合制ですね。レイア様向きかもしれませんが、命令に対して拒否権がありませんが、よろしいのですか?」

「纏まったお金が欲しいので構わないさ。それに、いくら拒否権がなくても軍にもメンツと言うものがあるだろう。無理難題を冒険者に押し付けるとは思えないさ…なんせ、あいつらは、帝国臣民の血税で暮らしているんだぞ」

 常識的に考えて、帝国臣民を守る義務がある者達がよもや養っていただいていた恩を忘れてそのような暴挙に出るはずがあるまい。率先して死兵となり立ち向かってくれるはず。

 それに、瀬里奈さんへのお土産代も稼がないといけないしね。昨年は、家畜100匹と農作物を5トン…蟲に着せる鋼鉄製の鎧や治癒薬を100個程持っていった。そのおかげで、『ネームレス』の商品が一斉に消えて、価格が暴騰したのは私が知った事ではない。これも瀬里奈さんのハーレム王国…じゃなく、孤児院の為に!!

「まぁ、仰る通りですが…」

 何やら反応が鈍いな。まさか、帝国の兵士が自らの責務を投げ出して逃げに転じる事があるとでも思っているのだろうか。皇帝陛下や帝国臣民に尽くしてこその軍隊だろう。率先して死ね。

「手続きを頼む。契約完了次第、集合場所に向かう」

 開戦まで2週間だが、ギルド本部にいる冒険者達は誰も焦っていない。むしろ、通常運行だ。冒険者にとっては、実は戦争など金稼ぎの種でしかない。他国に占領されてもギルドは残るし、冒険者という職業が奪われる事もない。故に、国家間の争いなど好きにやってくれと言う事が多い。

 困るのは王侯貴族くらいだ。農民達も若干関係するが…納税先が変わる程度の認識でしかない。まぁ、税率がどうなるか程度の不安はあるだろうがね。勝っても負けても、戦費のしわ寄せが行くのは農民達だ。

 その為、高ランク冒険者が戦争に参加する事は実は少ない。金は稼げるが…命をかけて人殺しをするより、迷宮の方が安全だからだ。対人戦ともなれば、モンスターと違い知恵比べの場面が多い。故に、嫌われるのだ。まぁ、低ランク冒険者にはそれなりに人気だがね…モンスターを殺すより人間を殺す方が楽だと勘違いしている者が多い上、略奪品が貰える事が多いからね。

「畏まりました。ご武運をお祈りしておりますレイア様」

 マーガレットが深くお辞儀をした。




 春から受付嬢として働き始めて、早数ヶ月。仕事にも慣れ、働き蟻達も順調に貢物を持ってきてくれている。男と言うのは、先輩の言う通り実にチョロイ。

 だけど、その先輩からきつく言われている事がある。「高ランク冒険者から貢がせるのは辞めておきなさい。命懸けよ」と…今現在、目の前に『ネームレス』の高ランク冒険者にして、最高戦力の一人であるレイア・アーネストが居る。

 世界で四つしか確認されていない特別な属性の一つ、『蟲』の使い手というだけでなく、ランクBの冒険者。年齢的に、10代でランクBなど狂気の沙汰とも言えるレベリングを繰り返してこないと達成し得ない領域だ。しかも、ランクBになったのは10代前半だという話なので、最早、変人奇人の域である。

 フローラ義姉曰く…「レイア様は、とてもお優しいですが…同時に厳しいお方です。もし、踏み入るのならば覚悟しなさい」と言っていた。先輩も似たような事を言っていた。過去にレイア様に対して不義理を働いた依頼主や意味不明な文句をつけた冒険者はことごとく行方不明になっている。

 要するに、綺麗な顔をして実に恐ろしいお方である。自分と合わない者は即抹殺という短絡的思考故に扱いには十分注意が必要である。

 ギルドの講習時にギルド長から聞いた話なのだが…レイア様は、ギルドを通さず依頼主と直接契約を交わした事があり、子飼いの冒険者6名を使って警告を行った事があるそうだ。ランクB3名とランクC3名という実戦経験豊富な者達であった。どのような結果になったかといえば、男女問わず帰ってくるものが居なかったそうだ。後日、ギルド本部に平然と遺留品と生首を持ってきて、賞金首か確認をして下さいと言ったのだ。しかも、「次から賞金首にして下さい。その方が、お互い儲かるでしょう?」と言い残したと聞いている。

「この戦争、勝ったわね」

 休憩室で同期の一人が戦争に勝利宣言をあげた。まぁ、ギルドとしてはどの国が戦争に勝利しても問題ないのだ。中間マージンが沢山搾取できるので、戦争が膠着状態になる事を切に望んでいる。臨時ボーナスに期待がかかる。

「四大国の一つを双方とも本気で潰す気は無いと思うわよ。管理面の問題もあるし…資源戦争なら落としどころが付けば、終戦のはずです。各国とも国民に対して騎士団達は無駄飯食らいじゃありませんというパフォーマンス的な意味もあるでしょうし」

 エリザベス先輩の言う事は実に的を射ている。小国ならまだしも、大国を落とすというのは戦後処理を考えれば大変なのである。疲弊した敗戦国の面倒も見る必要が出てくるのだ。

「まぁ、レイア様が無事に帰ってきてくれるならそれでいいかな」

「マーガレット…貴方は、レイア様を狙っているの?」

 どういう意味で狙っているかと判断できないが…狙ってはいる。フローラ義姉から色々と聞かされていた事もあるが、常識的に考えてこんな美味しい獲物を逃がすのはもったいないと。

「容姿端麗、眉目秀麗、超一流の冒険者、稼ぎ抜群、将来性完璧、少しずれていますが頭脳明晰…これ以上の冒険者はそうそう居ないじゃありませんか。しっかり、貢いで貰えるようにアピールしようかと」

 働き蟻になってくれないか的な意味で興味がある。

 もう一人、理想的な候補は居ましたが恋人がいらっしゃいますしね。あれに手を出す勇気は流石に無いわ。一刀両断されかねない。

「マーガレット…貴方の正気を疑うわ。言っても無駄でしょうから、死なない程度に頑張りなさい。そして、早めに諦める事を期待しているわ」

 そう言い残してエリザベス先輩が出て行った。

 そういえば、私の前任者…行方不明になったんだっけ。いや、まさかね。いくらレイア様でもギルド本部に楯突こうなんて思わないでしょう。




 両国の国境にあるクワール湖。その周辺は、緑あふれる草原地帯で綺麗な川もあり避暑地として有名な場所だ。だが、此度の主力が激突する最前線となったのだ。『聖クライム教団』と開戦三日目…既に双方の主力部隊は、遠距離から魔法や矢の撃ち合いと小競り合いが続いているのだ。

 だが、そんな最前線から私はもっと敵陣の奥地に居るのだ。

 従軍するのは初めてだ。軍隊とは規律正しい物であるべきだと思っていたが、どうやら若干思い違いがあるようだ。無論、お偉いさんが目の前にいる時は、騎士団の連中は媚を売るかの如く整列して規律正しい振る舞いをしているがね。

 酒は飲むのは、許せるが…勤務時間中に飲むアホが目立つ。女も買うのは、まぁ許せる…だが、事前交渉した金額と違うと揉め事が多数。などなど、挙げればキリがない。

なにより疑問だったのは、敵の補給路を断つ為に敵国にまで踏み入っているのだが、部隊に情婦がちらほら居る事だ。疑問に思い同じ部隊の冒険者に聞いてみると、どの部隊でも少なからず居るそうだ。冒険者に傭兵の依頼が来るように、情婦にも同じように依頼が行くそうだ。

戦争で貯まるストレスを発散させたいという気持ちはわかるよ。でも、釈然としない。部隊に情婦のような存在がいるおかげで、行軍先にある集落などで性犯罪に手を染めるものが激減する。さらに、情婦達も懐が暖かくなると一石二鳥である。しかも、行軍についていけなければ捨ててもいいという契約にもなっている。

 後…何より騎士団連中の冒険者に対する扱いが酷い。騎士団連中のプライドの高さが問題なのだろう。自分達は、偉い!! エリート!! 冒険者などすぐ逃げるクズ共は、肉壁にでもしてやると言わんばかりだ。現に、食糧配給の際に意図的に量が減らされている。支給されるテントだって、ボロしか回ってこないのだ。

「騎士団の連中は、我々冒険者をなんだと思っているんだ。依頼主とは言え、あまりに酷い」

「あぁ、しかも明日は我々冒険者達が威力偵察として駆り出される事になった。騎士団の精鋭は温存しておく算段だろうな」

 ランクC以下の連中がグダグダ文句を言っている。

 私が配属されたのは、『新生エルモア帝国』第四騎士団だ。主に、遊撃を担当。敵の補給路を断つのがお仕事である。軍隊ともなれば、それ相応の物資が必要になる。それを根こそぎ奪え又は破壊しろとの御達しである。

百近い敵兵が守る補給拠点に対してたった8人の冒険者で威力偵察とか死ににいけと言っているも同然。だが、命令に対して拒否権がないので従うしかない。代わりに、敵地より略奪した物資は、冒険者の取り分としていい事になっているので、考えようによっては悪い話でもない。

「だが、こちらには『蟲』の使い手がいる!! あんたならあの程度の数、余裕だろう?」

 その事を知っているという事は、『ネームレス』に拠点を置く冒険者なのだろう。だが、何を甘い事を言っているのだ…同じ依頼を受けたライバルだというのにね。敵地にある資源は奪い合うのは以上、味方ではあるが仲間ではないという事実に気づかないのか。

 それに、残念だがそれは出来ない相談なのだよ。確かに、全滅させるのはそこまで時間を必要としないだろう。

私は、本部隊の司令官を務めるシュバルツ副団長から内密に依頼されている事がある。「ギルドの報告から貴様の実力は、高く評価しておる。よいか…手柄は我々という事をよく覚えておくように」とのお達しだ。

クライアントの要望に応えるのが冒険者。

「襲撃を同じタイミングで掛けるのは構わないが、お互い不干渉がいいだろう。お互い冒険者なのだ。最低限、依頼を達成するだけの能力は有しているのだろう」

 名目は、あくまでも威力偵察…相手の戦力を把握したら戻れば良いのだ。もっとも、敵の首を取らねば報奨金が貰えない我々は、逃げ帰ったところでタダ働きになる。それを承知で指揮官は言っているのだろうから、実際ひどい話だ。

 8人で敵の戦力を可能な限り削ぎ落とし、後に続く我らに道を作れとの事だからね。まぁ、私を除く7名では確かにその程度が限界だろう。だからこそ、私だけ内密にお呼ばれしたのだ。

 私は、同じ部隊の冒険者に別れを告げてテントを出た。悪いがあんな不衛生の場所に長い時間は居たくない。これでも野宿は得意だから気にしないでくれと告げて外へ出た。

「威力偵察は、明日だが…補給物資を先に頂戴しても問題あるまい」

ギィギ(食料庫並びに武器保管庫を特定しました。現在、地下通路を作成中です)

ギィィ(医療品保管庫を発見しました。警備が厳しい為、明日の襲撃に合わせて奪います)

 敵陣の位置を発見して、丸一日…第四騎士団は補給物資が集まり、美味しく熟す時を狙っている。だけど、忘れないでいただこう!! 略奪品は奪った者に所有権があるという契約内容を!!

「よくやった。明日は、私自身も出よう。ただし、3割程戦力を削いだら撤収する事。武勲は、騎士団に差し上げなければなりませんからね。あぁ、撤収の際に麻痺毒をばら撒くのを忘れないようにしてください」

 初戦を勝利で飾り、士気を高めるお膳立て…全く、冒険者は辛いね。
略奪の後は、スパイや敵兵の拷問だ(´・ω・`)
素直に全部教えてくれるかしら・・・レイアがにっこり微笑めば余裕ですよね。

さて、夏の台所に出る事が多い黒い悪魔を登場させよう。夢で追い詰められて泣きそうだったお。だが、レイアの能力で白くなっているから『白い悪魔』になるんだよね!!

白い悪魔「じょじょーじ(ス○ーライトブレイカー)」

みたいな展開にΣ(゜д゜lll)
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