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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第四十五話:(過去編)お友達(2)

 『新生エルモア帝国』の皇帝陛下から各国に向けて、新しい特別な属性である『蟲』の魔法が発表された。しかも、生誕祭の各国要人が集まる晩餐会で『蟲』の魔法がデモンストレーションとして活用された。おかげで、宣伝効果は抜群であったのは言うまでもない。

そして、蟲カフェの運営どころでなくなり、ガイウス皇帝陛下の下で生誕祭が終わるまで過ごす事になった。その際に、ガイウス皇帝陛下の娘さんを紹介してもらったのだが…美少女だったよ。慎ましい奥方も居たというのに…欲望に素直な人だと思った。

ご要望の蟲の件は、黙っておいたのは私の優しさである。

生誕祭が終わって三日目にして『ネームレス』に戻った。ガイウス皇帝陛下と一緒に…。

「あの~、ガイウス皇帝陛下…政務の方は、よろしいんですか?」

「知っているかレイア。国のトップの仕事とは、外交と書類にサインをするだけなのだぞ。全て信頼できる身内と大臣達に任せている。この全痴全能の書を活用すれば信頼出来る部下を見出す事など造作もない」

 どうやら、定期的に皇帝陛下のサインが必要な書類だけを『ネームレス』に届けられる手はずになっているようだ。即決即断即行動ができる事は、実に素晴らしいと思うが…力の発揮場所が違う気がする。

「じゃぁ、私はギルド本部に顔を出してからトランスポートに向かうので二時間後に現地で落ち合いましょう」

「その間に、必要な食料と水などの準備はこちらでやっておこう」

 皇帝陛下は、身分を隠して冒険者として活動していた時期がありランクBまで上り詰めている。今でも、鍛錬を怠っておらず生涯現役を目指すそうだ。だが、私には分かる…この皇帝陛下、エロ方面の性能劣化を恐れて鍛錬を怠っていないだけだと!!

「水の用意は不要です。この子が居るので」

 影から一匹の蟻を見せた。水のタンクを背負った蟲…空気中の水分を集める事が出来る優秀な子である。しかも、若干だが魔力が回復できるという副作用付き。食糧問題を解決すべく、作り上げた子なのだ。水だけでなく食糧の方も解決させるべく、現在異種交配を繰り返して美味しく召し上がれる蝗を開発中だ。なかなか、苦戦している。

「ならば、食料を多めに用意しておこう。では、二時間後に」



 『ネームレス』ギルド本部前に到着したのだが、中に入りにくいな。皇帝陛下の発表から時間が立っているので間違いなくギルドには、『蟲』の魔法の事が伝わっているだろう。奇異な目で見られるのはご遠慮いただきたいのが本音である。

 だけど、お世話になっている人に何の挨拶もなく迷宮に行くのも問題だよね。………いや、よく考えれば、挨拶って必要なのだろうか。倉庫の鍵は、手元にある。修理したメイスと修繕したレザーアーマーを取りに行けばいい。

 だが、治癒薬はギルド本部で買うのが安全だ。確かに、露店でも冒険者の使い古しが売っていることがあるが…品質が疑わしい。500万セルの治癒薬を5個程買っていきたいのだ。陛下は『水』の魔法も使えるのでそこまで心配していないが迷宮は怖いからね…モンスターハウスになんて突っ込む事になったらヤバイしね。

 気にしていても始まらないので、堂々とギルド本部の扉を開いた。

 荒くれ者が多く居るギルド本部に踏み入ってみたが、予想外に注目を集める事はなかった。元々、金や女の事しか頭にない連中が多いので誰がギルド本部に入ってこようがどうでもいいのだ。

 そのまま、フローラ嬢の前まで移動してフードを取った。

「フローラさん。これ、帝都のお土産…皇帝陛下のサイン入り肖像画と帝都饅頭と晩餐会でテーブルに落ちていたワイン」

 陛下に呼ばれた晩餐会という名のデモンストレーション会場にあったワインを一本拝借してきた。なに、高い品なのだろうが…問題無い。陛下は好きにせよと言ってくれたのだ。

 あら、フローラ嬢の反応が悪い。いつもなら、「ありがとうレイア君。でも、そんなに気を使わないでもいいのよ」と言ってくれるのだが…。

「お気遣い感謝致します。レイア様」

 レイア様…様付ですか…。

………
……


「やっぱり、知られちゃったんですね。上からの指示のようですし…その口調で構いませんよ。でも、お土産は貰ってくださいね」

「ありがとうございます。レイア様の要望は、可能な限り応えるようにと事ですので、何かあればお申し付けください」

 比較的、仲が良いフローラ嬢に役目を押し付けてきたな。ギルドは、私を懐柔する気でいる事は間違いないだろう。私をギルドの犬もしくは働き蟻のように使う気でいると見るべきだろうね。

 可能な限り…体を要求しても応えるという事であろう。全く、大きな組織はこれだから嫌いだ。人権無視もいいところである。

「ギルドの思惑が気に食いません。これまで通りとは難しいでしょうが、冒険者と受付嬢…そういった関係だけに致しましょう。それに、フローラ嬢にはお付き合いしている方がいるのでしょう」

「…はい」

 フローラ嬢は、結婚適齢期のお年頃なのだ。勿論、いい女のフローラさんには、男がたくさん寄ってくる。だが、有象無象の男達の中から選ばれたのがギルドと繋がりのある商会の御子息だ。まぁ、良くも悪くも普通の男であった。良い噂もなければ悪い噂もない…蟲を使って一ヶ月程度素行を調査したが本当に何もなかった。

 要するに優良物件という事だ。

「上の者に言っておいてください。余計な真似はするなと…それと、今までありがとうございました。さようならフローラお姉ちゃん」

 そう言ってフローラ嬢から離れた。後ろから「レイア君」と小声で聞こえたが…スルーする。これ以上、関わるとお互いの為にならないだろう。よって、フローラ嬢の同期から治癒薬を購入した。

「レイア様…いつか後ろから刺されますよ。これ、治癒薬5個ね」

「刺されるような恨みを買った覚えは無いのだけど…一応、気をつけておきます。では、迷宮下層に行ってくるので二週間くらいで帰ります」

「…え゛っ!? レイア様は、ランクCでソロでしたよね? いきなり、迷宮下層は危ないかと。レイア様ならどのようなパーティーでも歓迎されますので、こちらでパーティーを斡旋致しますよ」

 純粋に心配しているのか、貴重な属性が失われる可能性を危惧しているのか分かりづらい。だが、どちらでもいい事だ。

「必要ありません。知り合いとペアで潜るので……そんな目で見られるとは心外です。私は、決してボッチじゃありませんよ!! 」

「いえ、そのような事は決して…。ですが、レイア様の魔法は、大変貴重です。その為、可能な限り安全を確保して頂きたいと」

「冒険者に安全などありません。それに、自分の身くらい自分で守ります…知り合いが待っているのでこれで失礼致します」

 ギルドが斡旋するパーティーは、ギルド子飼いの連中で構成された者達であろう。そこに混ざれば、安定して狩れる事は確かである。しかし、見ず知らずの連中に混ざって行動するのははっきり言って怖い。

 迷宮に入ったと同時に身動きを封じられて洗脳される危険性もあると思っている。

 だが、皇帝陛下ならそんな心配はない!! 蟲に対する扱いでそれがよくわかる。王宮の大浴場を蟲達に開放してくれたのだ。しかも、陛下も乗り込んできて蟲達と戯れていたくらいだ。若干エロいが、あの人こそ私が仕えるべき人であると思う。裏表がなくて実に心地よいお方だ。




 空から周囲を警戒している蟲から報告を得た。

「ガイウスさん!! 大変です。東からモンスターを引き連れて逃げてくるアホが…」

「故意のMPKか…よし、見ておくが良い。これが迷宮での作法だ」

 迷宮では皇帝陛下の事をガイウスさんと呼んでいる。流石に皇帝陛下と連呼するわけにもいかないのでね。尤も、フルフェイスのヘルムを被っているので顔バレする事はないだろう。それに、迷宮に皇帝陛下ご本人が来ているなど誰が思うだろうか。

 陛下が私のクロスボウガンを受け取り、照準をこちらに迫ってくるアホに合わせてトリガーを引いた。距離にして200mあったにもかかわらず見事に足に当てた。

「ヒット!! これであやつが死に物狂いで暴れている間に隠れるぞ」

「さすがガイウスさん、あの距離を射抜くなんて熟練の技ですね。私じゃ、胴体に当てるのが精一杯ですよ」

 そう言いつつ、早々に岩陰に隠れて気配を殺す。遠くで助けてくれと叫んでいるが間違いなく演技だ!! 迷宮下層にいる紳士達が他者に迷惑を掛けるような行いをするはずがない。よって、我々を狙った故意のMPKで決まりなのだ。

 ほとぼりが冷めてモンスター達が散り散りになるのを待つ。それから、遺品を回収してレベリング再開である。

 それにしても、陛下は強いわ。20層台のモンスターを大体一刀両断だからね。そのおかげでモンスターソウルが全部陛下に持っていかれる!! だがら、私も負けずに頑張っている。蟲で牽制してメイスで致命傷を与える。蟲系モンスターが出たら即座に捕獲して味方につける。

 現在23層…各界にいる全ての蟲系モンスターを収集しつつ下へ下へと移動している。戦力も着々と補充され、私自身も強くなっているのでいい感じである。だが、若干ペースが速い。私のフルスイングでも、殺しきれないモンスターが多くなってきている。

………
……


 迷宮24層にて一夜を過ごす事になった。

「ううううう」

先程から皇帝陛下が横で唸っている。

「ガイウスさん、静かに寝てください。女性の人肌が恋しいとか諦めてください!! 代わりに、この子を貸してあげますから大人しく寝てください」

 私のお気に入りの蟲…絹芋蟲ちゃんを貸してあげる。

モキュー(お父様に抱かれるのはいいけど、おじさんは嫌~。止めて~お嫁にいけなくなっちゃう…はっ!! もしかして、私を貰ってくれるの!? ダメです。私にはお父様が…チラチラ)

「手触りといい香りといい…素晴らしい!! しかも、儂の勘では、牝とみた。ほれ、おじさんが撫で撫でしてやるぞ」

モキュキュ(お父様より、なで方が上手いだと!? だけど、私はそんな軽い女じゃないわよ…あぁ、ダメそこは…)

 陛下もモキュモキュ言っている絹芋蟲ちゃんでご満足の様子。

 ノリが良く女子力の高い絹芋蟲ちゃんなら陛下の事をちゃんと満足させて安眠に導いてくれるだろう。明日も早いので一足先に寝るとしよう。

「おやすみなさい」

 周囲の警戒は、蟲達に任せて就寝についた。横で、皇帝陛下が「はっはっは、可愛いやつめ」といって絹芋蟲ちゃんと戯れているのが若干煩かった。



 迷宮に篭もり9日目…34層でついに目的の蟲を発見した。人間の夢や精神に干渉すると言われる蟲系モンスター。

「レイア追え!! 絶対に逃がすなよ」

「わかっています。戦力に7割を置いていくのでここは任せましたよ」

 34層のモンスターハウスでついに発見した。この階を彷徨う事三日目…逃がしはしないぞ。皇帝陛下もエロの為、命を張ってモンスターハウスの敵を殲滅してくれている。私は、その間に逃げ去っていこうとしている一匹の蝶を捕まえる!!

幻夢蝶<<げんむちょう>>…『モロド樹海』34層に生息する30cmもある大型の蝶。鱗粉で相手を眠りに誘い、覚めない夢を見させる。その間、鼻や耳に触覚を伸ばして少しずつ人間としての機能を破壊する。そして、動かなくなったところに、卵を植え付けて苗床にする。戦闘力はほぼ皆無の為、叩けば殺せる。だが、眠らされたら最後…確実な死が待っている。

「ガイウスさんが時間を稼いでいる間に何としても…悲願を達成せねば。くっそ!! 邪魔だどぉけぇーーー!!」

 道を塞ぐ熊とオークをメイスでブチの一撃与えて沈黙させたが、殺すに至らなかった。代わりに、こちらのメイスが限界を超えて真ん中からポッキリ折れた。ミスリル製という事で一本4000万セルも出した高級品だというのに、なんて事だ。

 ここまで損傷したら修理できない。流石に、この階層に来るまでに酷使しすぎたか。硬いモンスターでも強引に撲殺していたからな。

 とりあえず、生き残ったモンスターの処理は皇帝陛下に任せよう…こちらは、自分の任務を達成せねば陛下がブチギレてしまう。

………
……


 程なくして、幻夢蝶を確保出来たので、早急にモンスターハウスに戻り皇帝陛下と共に撤退した。

「ふぅ…蟲達の援護が無かったら間違いなく死んでおったわ」

「せっかく得た後ろ盾が早々に死んでなくなるなんて止めてください。後、本当に死なないでくださいよ…ガイウスさんに万が一の事があれば私が賞金首になってしまうじゃありませんか」

 今更だが…陛下が自ら希望したとは言え命懸けの足止めをさせたとか死刑にも値するよね。

「それで、いつごろ完成する!?」

 子供が新しいおもちゃを手に入れたかのように目を輝かしている。いくら、『蟲』の魔法が便利とはいえ、人の精神や夢に作用する能力を完璧にコントロールする蟲を生み出すのは時間がかかる。

「元がおりますから、2年程度で目的の蟲が産み出せるかと思います。プロトタイプでよろしければ1年くらいです」

「そんな膨大な年月が…馬鹿な……儂の野望が」

 野望じゃなくて欲望だろう…それに、一年後にプロトタイプが作れるだけでも褒めて欲しい。

「まぁ、このまま迷宮下層で狩り続ければ魔力も増えますし少し早くなるかも…」

「それを早く言わぬか!! ならば、決まりだ!! レイアよ…一年だ!! 一年で完成させるぞ。それまで、儂とペアを組んで毎日迷宮に潜るぞ。オリハルコン製の武器と防具が欲しいと言っておったな。『ネームレス』に戻ったら直ぐに手配しよう」

「きょ、拒否権は?」

「ない!! これは勅命である!!」

 そんな簡単に勅命は使っていいものなのだろうか疑問に思ってしまう。だが、悪くないと思った。今までソロで過ごしてきたので、期間限定とは言え人との繋がりも悪くない。それに、蟲達にも優しい紳士な陛下に感謝である。

 それから、迷宮での作法を教わりつつ順調に心身共に成長していった。きっかり、一年後に陛下が見守る中で淫夢蟲が生まれたのだ。
ふぅ~陛下とのお戯れは、もっとやりたかったけどこれで終了です@@
過去編ばかり続くと本編が書けないので。
次は…『聖クライム教団』との戦争をやろうと思います。『闇』さんのチートが出番です。ちなみに、ゴリフターズより強いです。(当社比で1.5倍位)

オーク牧場とマルガルドさんが登場しないですが申し訳ない(´・ω・`)

明日はコミケ初日ですよね…並ぶ列を見学に行ってくるお。皆さん、水分補給をしっかりするよう!!
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