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第四十三話:(過去編)駆け出し(3)
◆一つ目:フローラ嬢
クズ共は固定パーティーで行動しているだけあって、宿泊先は全員同じ。故に、事が大きくなればお隣の部屋から援軍が駆けつけてくる可能性がある。だが、全員の帰宅時間、就寝時間、起床時間などはバラバラで一人ずつ処理すれば良いだけの話だ。
本当は、宿の対面にある民家の上から全員スナイプしようと思ったのだが…貧乏人が多いらしく窓が付いていない納戸の部屋に宿泊しているのだ。これだから貧乏人は困る。もっと良い部屋に泊まれと言いたい……倉庫で暮らす私が大きな声を上げて言える事でもないけどさ。
クズ共6人のうち一番気をつけるべきは、魔法が使える者であろう。その他の連中などゴリ押しで何とでもなる。まぁ、詠唱を必要とする魔法使いなんてレベルがしれているが、何事も万が一がある。火事場の馬鹿力なんて発揮されて、消し炭にされては洒落にならない。
よって安全に排除する為に、そいつが借りている真下の部屋を借りたのだ。木造宿の天井を崩すなど蟻達のお得意の作業だ。
「寝入ったところを下の階からボウガンでベッドごと貫く…何、即死させてあげるさ」
蟲達によって確保された上の階への穴に向かい矢を放った。
「あがぁ!!」
鈍い悲鳴が上から微かに聞こえた。ターゲット排除完了。
後は、順々に始末していき死体は蟲達の晩御飯になるのだ。死体が残らない完璧な計画。もっとも、死体が残っていてもこの世界じゃ冒険者が一人二人死んだくらいで動くような組織は無いがね。冒険者は死ぬのもお仕事のうちだ。それに、周りからも疎まれていた連中となればそれに拍車がかかる。
「魔法使いの始末は終えた…これで後は、堂々と攻めに行きましょう」
本日、この宿のお客様には私からのサービスでお食事の際にワインのサービスをしてもらっている。何、少しばかりご迷惑をお掛けするのだ。当然の計らいである。無論、ゲス共には、サービスを行っていないがね。
そして、死体処理及び他のメンバーを始末すべく上の階へと移動した。
真夜中というだけあって、誰も出歩いていないので堂々と歩ける。仮に出会ったとしても気にするような事ではない。安宿なのだ、お互い顔など覚えていないだろうしね。
そして、先程始末したメンバーの部屋に到着した。
カチャリ
内側から鍵が開錠される。
襲撃予定のメンバーが寝泊まりしている部屋には、既に何匹もの蟲が潜んでおり鍵の開錠など朝飯前である。
「急所と思ったが、息があるという事は若干逸れたか。後は、好きにしていいよ一郎」
ギィギ(了解しましたお父様。それにしても、ご立派になられて…早くお母さんにお会いさせたいです。では、お手を合わせていただきます!!)
「一年目には、ちゃんとお土産を沢山もって会いにいくさ。じゃあ、次があるからここは任せたよ」
10匹程度の蟻を残して、立ち去った。部屋の中から骨が砕ける音が響くが部屋の扉を閉じれば聞こえない程だ。
名も知らない魔法使いの人よ…あんたは、運がいいよ。これから、地獄に向かう連中に比べれば幸せな死に方が出来たのだから。
そして、お隣のお部屋…床の下から明かりが漏れている事から、まだ起きているのだろう。普段なら寝ている時間だというのに、面倒を掛けてくれる。
蜂蜜狩りで集めた蜂達を全部呼び出す。その数は優に千を超えている。
コンコン
ドアをノックする。
「お客様、ルームサービスをお持ちいたしました」
「はぁ? 誰もそんな…の…ぉ…」
扉を開けてみれば、あたり一面の真っ白な蜂が深紅の目をして待っているのだ。誰だって、思考が停止するだろう。
「私からのサービスです。どうぞお召し上がりください」
私が最後の声をかけてあげると、やっと視線を私に向けてくれた。だが、既に遅い。私の言葉が終わると同時に蜂達が一斉に襲いかかった。叫んで助けを呼ぶにも口を開けた瞬間、蜂達が一斉に入り込む。
「あ゛ぁぁぁごぉぇ…」
今まで新人虐めやタカリなどを繰り返してきた常習犯。苦しめられた者達からの報いを受けているだけに過ぎない。情状酌量の余地など無い。尤も、私がお世話になったフローラ嬢にご迷惑をおかけした時点で既にアウトだがね。
コイツの処理は、蜂達に任せればいいだろう。千もいれば骨も残らず食べ尽くせるだろう。
それからも蟲達の宴が続いた。大声を出されては困るから喋れないようにしてた。毒で全身麻痺させて手足から徐々に蟲達に食べさせてあげた。命乞いをする者も居たが、認識が甘い。夜襲を掛けている者が命乞いをされた程度で目標を助けるはずがない。
………
……
…
そして、今現在、アドルパーティーの副リーダーを尋問中である。副リーダーは、縄で椅子に縛り付けて拘束している。更に、蟲達が部屋全体を覆う程の数、敷き詰めており逃げ場など何処にも無い。
「助かりたいかね?」
涙を流しながら必死で首を縦に振っている。
「そうだよね。助かりたいよね…私としても、素直にこちらの質問に答えれば考えてあげない事もない」
「う゛ぅ」
素直に頷く。
「大声を出したら、人が来るかもしれないけど…君は確実に殺すから、それを覚えておいてね。…で、質問なんだけど。私の事を近日中に襲う予定だったよね?」
蟲達に口枷を外させた。
「あ、あんたが次に狩りに出かける際に後をつけて狩場で襲う予定だった」
「子供一人相手に随分と酷い事をするよね。それで、なんでギルドに買取値段の割増を要求したの?」
「せ、生活の為だ。昔と違って、狩れる数も減ってギルドの買取値段じゃ…」
年齢による肉体的スペックの低下が原因なのね。確かに、全盛期は既に過ぎているように見受けられる。
「だからと言って、ギルドの買取値段に文句をつけるのはどうかと思うよ。真面目に働こうと思う事は無かったの? そもそも、貯金をしてなかったのは自己責任だろう?」
「子供じゃ分からないかもしれんが、大人は金がいるんだ」
大人だからお金がいる訳じゃない…クズだからお金が必要なんだよ。お前らの事を何の下調べも無く、こんな事をしているとでも思っているのか。
「纏まったお金が出来る度に情婦を買っている貴方達だから貯金も無いんでしょう? 心の洗濯? 大いに結構…だが、少しは人生設計と言う物を考えて行動しましょう。誰だって、老いるんだからさ…アホですか?」
まぁ、アホなのだろうけどさ。
「わ、分かった。だから、早く解放してくれ…何者かなんて聞かないし、ここであった事も誰にもいわねーからさ」
この蟲達が何なのかという質問が来ないかと思えば、黙っといてやるから見逃せと…。
「はぁ~。あのですね…フローラさんを脅し、私を襲撃する計画を立てていた貴方の言葉を誰が信用すると思っているんですか。いいですか、信用とは積み重ねが大事なんです。よって、有罪!!」
「話がちがあ゛がぁぁぁぁ」
ブチ!! ゴリ! クチャクチャ!!
「いいえ、考えたけどダメだっただけです」
紳士な行いには出費は付きものだが…血で汚れた床の張替え代、血で汚れたシーツ代などお金が消えていく。だけど、無視するわけにもいかない。宿の人の生活を守る為、仕方がない出費とは言え辛い。本当なら、クズ達のお財布から払わせたかったのだが…あいつらの手持ちの額じゃ到底足りない。本当に、貯金しておけよ。
「という事で、次からは野外で行おう」
生きていても死んでも迷惑を掛けるクズ野郎に本当に嫌気がさすわ。では、本日のメインディッシュのアドル大先輩をお迎えに上がりましょう。
◇
「あ~ど~る~先~輩。あそびましょ~」
アドルが取っている部屋の前でノックをしながら呼んでみた。真夜中だが…この部屋の周辺は借りている者は、この世に居ない。よって、多少の廊下で叫んでも問題無い。
扉が勢いよく開かないように足で押さえている。
「っち!! ふざけた呼び声で…てめぇ!!」
おや? どうやら声の主が私だと気がついたようだ。そして、扉をおもいっきし押し開けてきた。だが、私も全力で押さえているので扉は開かずじまい。
ガタンガタン
そして、ボウガンを構えてボロい木製の扉に向かい放った。鉄矢は、扉を貫通して対面にしたアドルに突き刺さる。扉の向こうから苦痛の呻きと床をのたうち回る音が聞こえる。
ゆっくり、扉を開けてご挨拶をした。
「こんばんは~。アドルさん。お迎えに上がりましたよ」
そして、足と手にボウガンで風穴を開けておく。逃げられても面倒だし、抵抗されても更に面倒なので完全に戦えない状態にしておく。
「ぐぅぅ!! て、てめぇ」
声が大きいですよアドル先輩。皆さんお休みしているのですからご迷惑をかけてはいけません。
影から蟻達が這い上がってきて。アドルに取り付く。
「お静かに…全く、大の大人が夜中に大声を出すとかマナーの欠片もなっていませんね。だから、クズ呼ばわりされるんですよ。大声を上げるたびに指の一本ずつ食わせていきますから」
「人の皮を被った化け物め…」
ゴリ
忠誠心の高い蟻が指どころか手首ごと捻りきった。痛みのあまり悲鳴をあげそうになるが、口を大きく開けられないように蟻達が強靭な顎でがっちりホールドしている。実に良い子達だ。
「うううううう゛ぅぅぅぅぅぅ」
「金も名誉も何もなく、汚い衣服を着て身も心も醜い貴方が立派な人間だと言うなら、私は化物で構いませんよ。はぁ~、それにしても貴方達のせいで本当にいらない手間と出費ばかり増えます」
出血しすぎて意識が薄れてきているようだね。
人の話は、最後まで聞きましょうよ。
「1ついい事を教えてあげましょう。人間って寝ている時に口に入った物を食べる事があるのですよ。実は、ここ三ヶ月…お腹の中に妙な違和感を覚えたことがありませんか?」
人が質問しているのに無視するのはいけないと思います。よって、痛みによる覚醒をさせる必要がある。
「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アドルの腹に住まわせていた無数の蟲達がじわじわと這い上がってくる。血肉だけでなく神経を傷つけて出てきており、意識を覚醒させるには十分な効果であっただろう。
本来の用途は、蟲の気配を察する事が出来る事から対人センサー(笑)として使うのだけどね。この方法を取る事で私に敵意を持つ相手の位置が手に取るように分かる。
ギィィィ(ふぅ、やっとお外に出られた。お父様、お仕事完遂です)
続々と体内から這い出てくる蟲達を見て、ただですら悪い顔色が更に悪くなった。
「た、だずけてくれ。なぁ、同じ冒険者だろう。はぁはぁ…俺が色々教えてやるからさ。これでも、冒険者としての経験は長いんだぜ。お前が知らない事の一つや二つ…」
「確かにあるでしょうね。ですが、この能力を見られた以上、生きて返すわけには行きません。それに、そういう事はもっと早くに申し出ましょう」
既に、アドルは手遅れだ。
だから、蟲達のディナーとして花を飾ってくれ。
「ま、まってぐれ゛えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ブチブチブチブチ
一斉に蟲達がアドルを引き裂いていく。人語を話すモンスター…これにて討伐完了。
ギィギィ(ゲプ!! おっと、失礼…お腹いっぱいです)
「では皆さん、5分で撤収です。証拠の類は一切残さない事。お部屋にクリーニング代として10万セルを置いていくのを忘れないように!!」
全部で60万…本当なこれだけじゃ足りないと思うが許して欲しい。お財布事情的にこれが限界なのだ。アドル達の遺留品も残していくから、後は何とかリフォーム業者とネゴってくれ。
◆
「フローラ、貴方冒険者に変な依頼出していないわよね?」
「変な依頼? 何の事ですか」
同期が何やら怪訝な顔をして私を見てくる。
「実は、今朝方…アドル様達の宿泊先で事件があったのよ。部屋には、大量の血痕と現金が残されていて、肝心の当人達が誰も居なくなっているのよ」
「それって…違いますよ。いくら何でもそんな事を依頼するはず無いじゃありませんか!!」
だけど、心当たりがあるかと言われれば少なからずあった。元々、アドルパーティーは新人虐めやタカリなどの常習犯で恨みを買っている事は明白。その為、いつか誰かに殺されるだろうと思っていた。
「まぁ、そのようね。貴方の性格じゃ、そんな事をするとは思っていないしね。まぁ、犯人が誰であれギルドや自警団はこの件を一切調査しない方向で決まったしね」
素行不良の冒険者の死亡など調べるまでもない。なんせ、ギルドの基本方針は冒険者同士のいざこざは不介入と決めている。仮に、犯人が冒険者でなくとも最底辺冒険者の死亡など誰も気に留める者はいないのだ。襲って来る者を撃退すらできない冒険者など用なしなのだ。
人の不幸を喜んではいけないと知っているが…アドルパーティーを粛清してくれた人に感謝している。これでレイア君に降りかかる災いが減ったのだ。
「フローラお姉ちゃん、おはようございます~」
「はい、おはよう。今日も元気で可愛いね」
いつも通りの時間にレイア君がギルド本部にやってきた。
レイア君の顔を見て昨日の事を思い出した。レイア君に苦労を掛けまいと思い給料の犠牲にして頑張っていたと思ったら、全部レイア君の思惑通りになっていたなんて恥ずかしい限りだ。
「褒めても何も出ませんよ。それと、今後は活動拠点を迷宮に移そうと思いますので色々と教えてください」
「いいわよ。ただし、今後は裏でコソコソ動かないこと!! 結果的にレイア君に貢がせていたなんて事は、もう御免です」
「フローラお姉ちゃんこそ、コソコソ犠牲になるのは止めてください。いいですか、ギルドの受付嬢なるものいつも毅然と振る舞えばいいのです。一度、脅されて屈した前例を作ると真似をしてくる輩が現れるかもしれません」
言い返す言葉も無い。
「ごめんなさいレイア君」
「次からは、気をつけてください。それに、私も冒険者です。降りかかる火の粉程度自分ではらってみせます」
レイア君の将来は、女性関係で凄まじい事になりそうな予感がするわ。この歳でそこいらにいる成人男性以上の気遣いに稼ぎ。今時珍しいまでの紳士な子供…将来が末恐ろしい。
駆け出しはこれで終了ですヽ(・∀・)ノ
フローラ嬢ともこれでお別れだ…
次からはムサイオッサンと迷宮で熱い夜を過ごす。
くだらない性能の神器の登場だ(´・ω・`)
まじ、どうしようもないぜ。
そういえば、もうすぐコミケか。毎年、入場待ちの列を見にいくのが私の楽しみヽ(・∀・)ノそして、近くでお茶を飲んで帰るΣ(゜д゜lll)

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