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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第四十二話:(過去編)駆け出し(2)

 初の討伐から三ヶ月…雑魚モンスターを始末する毎日が続き、やっと安定してゴブリンやバンデッドウルフなどのランクEモンスターが討伐できるようになった。

「ゴブリンは、お金にならない。だが、モンスターソウルと子供達の餌としては考えるならば優秀」

 この三ヶ月の期間で身体能力は飛躍的に上昇した。対峙するゴブリンが一歩進む間に二歩前に進めるようになり、確実に先手が取れる。

対峙するゴブリンが私を餌と勘違いして飛びついてくる。だが、恐れる事はない。ゴブリンの倒し方は既に確立した。ゴブリンの攻撃をナイフで弾き、腹部へ膝蹴りを打ち込む。腹部を押さえて苦しんだ隙、足払いで地面に倒して持っているナイフで脳天を一突きにする。

 すると、ゴブリンは簡単に絶命するのだ。

 こうする事で、ゴブリンの汚れた爪や歯で怪我を負う事もなくスムーズに処理が出来る。対ゴブリン戦で一番気をつけるのは、汚い爪、牙、武器である。これで切り傷などを負わされると破傷風や感染症になる恐れが極めて高い。勿論、肉体的ポテンシャルの高い高ランク冒険者なら問題ないだろうが…低ランクにとっては、かなりの痛手となる可能性が高い。

 治癒薬で患部を治療すれば問題ないのだが、高価な品である為お財布とご相談がいる。一番量が少ない50mlの治癒薬でも10万セルもする。材料にモンスター体内で生成される魔結晶という珍しい素材が必要になるからである。しかも、魔結晶が手に入るかは完全に運次第である。モンスターを文字通りバラバラに解体して運がよければ体内で生成されているという運ゲーなのだ。

 と、考えているうちに背後からバンデッドウルフがこれ幸いと牙を剥いてきた。すぐさま、背負っていた子供用ボウガンを構えて眉間に風穴を開ける。武器屋に特注で作らせた子供用ボウガン…威力こそ大人が使うのより弱いが、取り回しなどを考えれば十分有用な武器だ。

 モンスターの生命力を考慮して、横たわるバンデッドウルフに数発矢をぶち込んだ。

「矢は、回収して再利用と…あら、死体がない」

ギギ(美味しく頂かせていただきました。お父様最高です)

ギィー(弓の腕も上げましたね。急所に一発とか素敵…あ、ウルフ美味しゅうございました)

 一瞬目を離した隙に鉄矢だけ残して、まるで何も無かったかのように綺麗さっぱりなくなっている。素晴らしい速さだ。

影の中にいる蟲達は、別に食事を必要としないのだ。私の魔力を糧に生きられるだが、蟲達にとって魔力とは点滴みたいな物。即ち、味気ないのだ。よって、味気ない魔力より生きた血肉の方が好んで食べるのだ。そういう事なら仕方ないよね。

せめて、売れる部位だけは残して欲しいと切実に思うのだが…まぁ、無理強いはしない。蟲がいてこその私なのだ。お金は最低限あるし、生活には困らない。それに、一番大事なモンスターソウルも順調に吸収出来ている。

「本日の狩りは、このくらいにして…そろそろあのクズ共を何とかしないといけないよね」

 3ヶ月経っているにもかかわらず毎月のようにクズ共は、事ある度にフローラ嬢に買取値段の割増を要求しているのだ。しかも、割増で買取した事を言いふらしますよとゲスな脅しまで始めて見るに耐えない。

更に、フローラ嬢が見てない時やお休みの日には私自身にまでちょっかいを出してくるようになった。安定して蜂蜜を納品しているのでお金を溜め込んでいると思われているのだろう。しかも、ソロの子供だから脅せば何とでもなると思っているに違いない。

はっきり言おう…金なんて殆ど余っていない。武器新調やお手入れ、衣服の洗濯代、倉庫という名の住まいの家賃、食事代、冒険用の保存食や必要資材一式など準備でお金が減りまくる。

更に言えば、フローラ嬢のお給料が減らないように別の受付嬢にお願いしてクズ野郎がフローラ嬢に割増させた分を私が補填しているのだ。勿論、この事はフローラ嬢には内緒にしてもらっている。

モンスターソウルのおかげで力もついてきたし、蟲達の数を大分増やせた。クズ野郎パーティーの人数、装備、宿、就寝時間などの把握も終わった。次に、何かやらかした時が人生最後の日になるだろう。

 クズ野郎など私にとっては人語を話すモンスターみたいな物だ。蟲言語が分かるにもかかわらず蟲モンスターを殺す事もあるので、人間を殺すことに対して何ら思う事はない。



「レイア君、よく稼ぐわね。精算分の15万5千セルね。お金は、しっかり保管しておくのよ。大金持っていると狙われるからね」

「ありがとうフローラお姉ちゃん」

 そろそろ、フローラさんに呼び名を変えたいが…前にフローラさんと呼んだら泣かれそうになったのでお姉ちゃんと呼んであげている。

「話は変わるけど、レイア君は誰かとパーティーとか組んでみる気はないかしら? 実は、レイア君を是非紹介してくれと言っているパーティー多いのよ」

「子供のランクE冒険者なんてパーティーに誘って何の意味があるのだろう。フローラお姉ちゃんの頼みとあれば、とりあえず面接してみる」

「面接?」

「パーティーに入った時のメリットとデメリットなど色々とお話をさせていただいた上で回答をさせていただきたいと思います。なんせ、現状はソロでも困っておりませんので」

………
……


 私をパーティーに誘いたいと言うのは、計3組もあった。女性2人組のパーティー、男性5人パーティー、男性6人パーティーと男女比が極端なパーティーしかなかった。

 そして、現在女性二人組のパーティーをギルドの受付横で面接している。

「私がお二人のパーティーに入った際のメリットは、なんでしょうか?」

「狩りをしている時の周囲の警戒や泊まりがけの際はテントや食事の準備をしてあげられます。後、武器などを融通してくれれば戦う事もできます」

…うむ?

 武器を融通してくれれば戦ってもいいと…こいつら冒険者だよな。戦わない冒険者なんて要らないだろう。確かに、迷宮ではサポーターという食料関係やテント設営などの専門職があるが、こいつらは冒険者として紹介された人物だ。

「お二人の一ヶ月の稼ぎは、どの程度でしょうか?」

「えーっと、二人合わせて5万セルです」

………
……


「こう言っては、なんですが…お二人共おそらく孤児院のご出身ですよね。女性として体を売ったほうが儲かると思いますよ。一ヶ月の稼ぎが、その程度では貯金は減る一方でしょうし…冒険で怪我をすれば体を売って稼げなくもなる可能性もあります。早めに、今後の進退をご決断する事を願っております」

 孤児院は、一定の年齢に達すると強制的に追い出される。その為、孤児院から出た者で普通の職に就けなかった者は、誰でもなれる冒険者に身を落とすのだ。

尤も、女性の場合は男性と異なり職業さえ選ばなければ就職できる業界がある。どの世界でもある風俗業界という世界だ。短時間で稼げるお金としては、高ランク冒険者に匹敵しかねない。

「何もそこまで言わなくてもいいじゃない!! そのくらい、私達だって分かっているわよ。必死でモンスターを倒してもこの稼ぎが限界なのよ。だから」

「だからと言って、私のお零れをあやかろうなど人として恥ずかしくないのですか? 七歳の子供が成人した女性二人を養うとか…貴方達は、プライドというものがないんですか?言っておきますけど、下の世話なんて必要ありませんよ」

 そこまで告げると、流石にもういいですとキレ気味で立ち去っていった。

 一体何がいけなかったのだろうか…人が優しく現実を教えてあげたのに。こちらの様子を見ていたフローラ嬢が頭を抱えていた。

「れ、レイア君…もう少しオブラートに包んで言ってあげても」

「いえ、あの手の輩は現実を知ってもらわないといけません。あのままでは、彼女達が苦労するでしょうから心を鬼にしました。ほら、女性として売り物にならなくなる前に決意して欲しいじゃありませんか。命を懸けて細く長く冒険者を続けるか、体を売って情婦として太く短く生きるかを…」

「まぁ、その通りなんだけどね。それにしても、レイア君って本当に七歳? 考え方が達観し過ぎている気がするのだけど…」

「ふふふ、どう思います? 身体検査でもしてみますか? フローラお姉ちゃん」

「大人をからかうんじゃありません。じゃあ、次のグループを呼ぶわね」

 軽く頭を小突かれた。

………
……


 アドルパーティーとは、別の意味でクズな連中の面談中。

「だから、我々低ランク冒険者は協力し合って行くべきだと思うんだよ。君も狩りの時に周りを警戒する必要があるだろう? 重い荷物だって持てないだろう?」

 頭が痛い…20代後半らしき男5人組が子供の荷物持ちや警備を担当したいとか頭おかしい。命がけの戦闘を子供に任せて後衛で頑張るとか、さっきの女二人組よりタチが悪い。男だろう!!

「モンスターより貴方を警戒する必要が出そうです。荷物の持ち逃げの心配や強いモンスター現れたら真っ先に私を囮にして逃げるつもりでしょう。それに、稼ぎはパーティーリーダーが管理して年功序列で配分とか…意味がわかりません」

「子供が大金を持ったら危ないと思ってね。それに、大人の方がお金を使うんだよ。君の衣食住には困らないようにはしてあげるからあ」

「お金の管理も身の安全も自分で全てこなすので結構です!! お帰りください。後、冒険者として才能がないと思うので農業でも始めたほうが幾分かマシだと思いますよ。その、腐った根性じゃ永遠にランクEです」

 図星を突かれて男が怒り、テーブルを思いっきり叩いた。

「心配に思って手を差し伸べてやったのに、なんて言い草だ!! 子供は、大人しく大人の言うことを聞いていればいいんだよ!!」

「子供だからといって、大きな声で脅せば頷くとでも思っているのですか? 貴方達のような人がいるから冒険者の評判が下がるんです。子供にここまで言わさないでください」

 ギルドの受付がある横で子供に手を上げるわけも行かず、文句タラタラ言ってギルド本部を出て行った。

 あの様子じゃ、間違いなく闇討ちしてくるね。警戒しておく必要がある。数匹の蜂をこっそりと呼び出して後を付けさせよう。

「ごめんねレイア君。変なのが多くて…」

 フローラ嬢が気をきかせて飲み物を持ってきてくれた。

「オレンジジュースじゃ騙されません!! クッキーも所望します。ですが…なんで、あんな人達ばかりなんですか?」

「稼げる人達は、新しいメンバーを集める必要ないから…。それに、レイア君は子供だから何とでもなると思っているんじゃないかしら。稀に、高ランク冒険者が青田買いで低ランクを誘う事もあるけどレイア君は流石に若すぎるからね」

「若さだけが取り柄ですから!!」

 次のグループの資料を確認してみると、アドルと言うクズ冒険者パーティーだった。フローラ嬢の顔を見てみると何やら申し訳なさそうな顔をしている。おそらく、買取値段の割増より私をパーティーに斡旋しろと言われたのであろう。

「次の人達なのですが…」

「呼んできていただいて構いません。フローラお姉ちゃん、大丈夫です。全部任せてください」

………
……


 中年冒険者6人組…平均年齢30代半ば恐ろしく高い。そして、平均ランクEで恐ろしく低い。『ネームレス』の誰もがこいつよりからマシだと思うそんな集団だ。

「おっし、小僧。明日から俺のパーティーでじゃんじゃん稼げ。取り分は、人数割りにしておいてやる」

「ご冗談を真顔で言わないでくださいアドルさん。今まで以上にお金が稼げるなら考えなくもありませんが、私の収入が1/5以下になるのでは話になりません」

 さも当然のように話を進めてくるのでイラっとしてしまった。

「おぃおぃ、お子様が強がるなよ。どんな手段を使っているか知らないが、毎月のように蜂蜜を結構納品して懐が潤っているんだろう? 少しくらい、おじさん達においしい思いをさせてくれてもいいんじゃないかな」

「あのですね…中年男性に美味しい思いをさせて何の得があるんですか? おっさん達に金をくれてやるなら、フローラさんに貢ぎます。それに……私を闇討ちするぞとフローラさんを脅し、モンスター素材の買取値を割増させているようなクズパーティーに入るわけがないでしょう。常識的に考えてください」

 子供の私がまさかそこまで知っているとは考えていなかったらしく、若干驚きのようだ。

 フローラ嬢も知っていたの!? といった顔をしている。

「面白くねーガキだな。だが、それを知りつつ厚意に甘えていたんだろう? お前だって俺らと同類じゃねーか」

「蛆虫以下の貴方達と一緒にしないで頂きたい。クズ共パーティーがフローラさんを脅して、割増買取りさせた分の代金は、私の稼ぎから補填しているんですよ。私のせいでフローラ嬢の給金が減るのは許せませんからね」

「嘘つくんじゃねぇ!!」

 テーブルを叩き、切れる。最近の冒険者はテーブル叩きが流行っているのだろうか。自分に都合が悪くなると切れて大きな音を立てて罵声を浴びせる。そして、煙にまこうと必死な行い…実に見苦しい。

 受付嬢に視線を送った。

「はぁ~、バラしちゃったんだ。あんた達もいい加減にしなさい。割増分の代金は、全部この子が補填していたんだよ。いい年した大人が恥ずかしいたらありゃしないわ」

「最近、特別手当とかが多いと思ったらそういうことだったの!? なんで、レイア君がそんな事まで」

 ギルド本部中の視線が集まる。

勿論、クズパーティーに向けられる非難の目だ。タダですら低い評価がもう限界まで落ち込んだ。

「ねぇねぇ、おじさんたち~。今どういう気持ち? 恥ずかしいよね。まさか、脅そうと思っていた本人が実は今まで援助してくれていた本人だったなんて笑い話にもならないよね。まだ、人の心が残っているなら早くこの街から出て行ったほうがいいよ。惨めで目も当てられないからさ」

 アドルが腰に下げている剣に手を掛ける。

 ガチャ

 だが、アドルが剣を抜くより早く私が背中に背負っていたボウガンをアドルの眉間に押し付けた。

「レイア君!?」

「ギルド本部で武力行使に出ようとは、いい加減にしてください。それに、遅すぎます。同じランクEの子供に遅れを取るようでは闇討ちもできませんよ…アドル大先輩。それとも、私が引き金を引くのが早いかそちらが切り伏せるのが早いか勝負してみますか?」

 まるで親の敵でも見るかのような顔付きのアドルが剣から手を離した。

「覚えてろよ」

「何を覚えていろと? あぁ、冒険者歴三ヶ月の七歳に負けた底辺冒険者の惨めな生き様ですか。そうですね…覚えていてあげません」

 すぐに仲間を連れてギルド本部を出て行った。

 流石に、今の一件でアドルパーティーは肩身がせまくなるだろうが知った事ではない。自業自得なのだ。

「レイア君…今日からしばらくは、うちに泊まりなさい。流石に危ないわ」

 フローラ嬢が気にかけてくれるのは嬉しいが…ここでYesと答えると後ろにいる男性陣営の嫉妬の業火で焼かれそうだ。

「大丈夫です。こうなる事は、予想しているので問題ありません」

 このまま放置していれば近日中に、何かしら行動を起こしてくる事は間違いないだろう。だけどね…私は、これから行動を起こすのだよ。

 さぁ、最後の晩餐はお済みですかねクズパーティー諸君。
魔結晶は、治癒薬の原料やオリハルコンの加工など用いられている設定になっております。

駆け出しが終わったら皇帝陛下と迷宮下層へお出かけ予定。
皇帝陛下は、神器の導きでレイアと出会う予定。
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