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第三十九話:(過去編)生みの親より育ての親(2)
◆一つ目:瀬里奈さん
見た目は凶悪、中身は腐っている腐女子の瀬里奈さんのおかげで一命を取り留めてすくすくと育つ事が出来た。もっとも、その裏で一年の間に三回も乳母が替わって今は四人目だ。
理由は、簡単だ…元からオークからの払い下げだったので、そりゃ精神を病んでいるレベルだ。自殺した一人、突然死が一人、私を殺そうとして蟲の餌食になったのが一人とそんな感じで代替わりが激しい。
流石に目の前で人間が蟲の餌食になる様は、トラウマもので…夢にまで出てきた相当うなされた。瀬里奈さんが、心配して起こしてくれたが…そんな悪夢にうなされて、目覚めてみればドアップの蟲の顔があれば、誰だって糞尿を漏らすに決まっている。申し訳ない事をしたと思うが、私は悪くないと思うのよね。
と、そんな感じで一年の日々が経った。一年も経過すると普通に喋れるようになり、乳母とも意思疎通がある程度可能なった。尤も、半ば廃人で会話が成立しない事も多いが色々と聞き出す事が出来た。
「なんで、皆さんの言葉が通じないんでしょうかね。私は、理解できるのに…」
ギギィッギ『やっぱり、転生者とか条件が付くのかしらね。だけど、レイアきゅんを通じて会話が出来るだけでも御の字だよ』
レイアきゅん…瀬里奈さんが付けてくれた私の名前だ。正確には、レイア・アーネストというお名前をくれた。だから、今後はそう名乗っていく。
そして、本日も世界情勢や魔法、モンスターの生態などについて教えてもらう。なかでも、驚いたのが魔法という存在についてだ。モンスターが居る以上、魔法という存在があるだろうとは思っていたが…人間や亜人なら誰でも無詠唱で魔法が使えるという事実だ。
瀬里奈さん曰く、私も昔魔法が使えるか色々と頑張ったけど無理だった。魔力はあるみたいなのだけど魔法が使える事はなかったそうだ。今まで出会ったモンスターでも魔法を使う者は居ないとの事だ。だが、強靭な肉体に加えて体内で毒などを生成できるので魔法と遜色ない事が出来るので不要ではないかと思う。しかも、瀬里奈さん背中の羽を使って飛べるそうだ。
「そうなのかな…でも、二人前の乳母を連れてきたオークの言葉は分からなかったよ」
ギィィ『あら、そうなの。じゃあ、レイアきゅんが分かるのは今のところ、蟲の言葉だけなんだ。………王手』
先程から会話をしつつ頭の体操と称して、将棋を打っている。もちろん、お互い将棋が詳しい訳ではない。遊び方を知っている程度なのだが、十分楽しめる。他にも、オセロも作った。
「むっ…子供相手に本気を出すなんて大人げない!!」
ギギ『見た目は子供、頭脳は大人でしょう。さぁ、そろそろ今日もモンスターをお尻で潰すお仕事が始まるよ』
毎日、お尻でモンスターを潰す事で確かに肉体的に強くなってきている気がする。陽の光を浴びても以前と比べて皮膚が爛れなくなってきている。このまま続ければ、あと数年で陽の下を歩けるようになれそうだ。
だが、子供を鈍器のように扱ってモンスターを撲殺するって酷いよね。ついでに、毎度の事だけど、モンスターを潰す時には服が汚れるから全裸にされるのよね。なぜか、瀬里奈さんの視線が怖い…まさかね…流石に逆ハーレム作ろうと計画しているのは、知っているけど、流石に幼児相手にはないよね!! 信じているからね。
そして、日課のレベリングが行われた。
………
……
…
瀬里奈さんから私の下僕一号として頂いた働き蟻。名は一郎と名付けた。なんでも、瀬里奈さんに対して『赤子が見つかったら私の下僕になってもいい』と名乗り出たそうだ。おかげで、私は瀬里奈さんが作り上げた巨大な巣穴を移動する足を手に入れたのだ。
「一郎~、体を洗いに行きたいから地底湖までレッツゴー」
ギィー(蟲使いが荒いでレイア坊ちゃん。まぁ、いいけどな。お風呂に入るならお母さんも呼んでくるぜ。呼んであげないとお母さんグレルから…)
まぁ、その通りだ。地底湖でも水浴びは、好きだけど溺れる危険性もあるから大人の人が居ないとね。一郎含めた蟻達が居ても溺れる危険性が無いとは言えない。
「そうだよね、みんなで入ろう。乳母は、皆が入り終えてから連れて行ってあげて」
乳母は、意思疎通はできるが精神状態は末期に近い。そんな状態の乳母を蟲達と一緒に水浴びなんてさせたら発狂する可能性もある。更に言えば、お乳の出も悪くなってきているし、精神的な状態を考慮すると一、二ヶ月で死ぬだろう。
そろそろ普通の食事に移れそうな体は出来てきたし用済みといえば用済みだ。この世界の文字やギルドという存在について聞けたのは御の字だ。生後1歳の子供が流暢に喋り、そんな事を聞いてくる事に対して疑問を感じるのが当然だが、精神を病んだ乳母が疑問に思う事はなかった。
◆
レイアきゅんとお風呂…最高だ。私の脳内にしかと記憶しておく。ビデオカメラや写真が存在しない世の中なのが悔やまれる。前世ならネットにアップしたら100万アクセスは堅いだろう…むしろ、私のお仲間に連絡して世界に拡散させてあげたい。喜びは、分かち合うものだ。
ギギ『レイアきゅん、ばんざーい』
近隣のアラクネさんの所から出張してもらっている蜘蛛の糸で作り上げた綺麗なタオルで体を拭く。おむつから衣服まで全部作ってもらっていて本当に申し訳ないわ。まぁ、代わりにお馴染みの巣穴拡張要員を提供しているからお互いwin-winな関係だ。
「ばんざーい」
タオルに水を含ませて綺麗に磨き上げる。毎度の事だが、薄本の知識とだいぶ違う。実に可愛らしい…ナニがとは言わぬが。
お風呂は、心の洗濯と言うけど…あれは嘘だわ。邪な心が溢れんばかりに溜まる。できるだけ、長い時間をお風呂に入りたいという欲望しか湧き上がってこない。
ギギギ『すこし、肌が荒れているわね。衣服も新しいのに取り替えておきましょう』
「耐性がついてきたと思っていましたが、まだまだ柔肌ですね。それにしても、毎度毎度シモの世話までさせて本当に申し訳ない。瀬里奈さんには、感謝してもしきれないです」
瀬里奈さん…少し前までは瀬里奈お姉ちゃんと呼んでくれていたのに残念だ。頼めば、瀬里奈お姉ちゃんだろうが、瀬里奈ママだろうが呼んでくれるだろうが、それだと雰囲気にかける。まぁ、瀬里奈さんでも悪くない。
ギギッギ『構わないよ。逆ハーレムの為、この程度の苦労は想定内。まぁ、意思疎通ができたのは想定外だけどね。それに、あの子達と違って手間がかかる赤子を一から育て上げるのも楽しいものよ』
何事も予行練習が必要だ。そういう意味では、レイアきゅんは完璧だ。夜泣きや手間が掛からない面で言えば、超イージーモードの子育てだと言わざるをえない。
しかし、子育て未経験のワタシにとっては、ちょうどいい。
更に、将来間違いなくイケメンに育つ事は間違いないだろう。アルビノが不細工とか許されていい事ではない。
「極楽極楽。あ、瀬里奈さん背中の方も綺麗に洗ってね」
ギィィ『注文が多い子ね。だけど、綺麗にしたい衝動に駆られちゃう~。今、綺麗にしてあげますからね』
と、日常的にこんなやりとりをしながら日々を過ごした。今までひっそりと生きてきた私にとって、まさに至福の時であった。
………
……
…
それから数年の時が流れて、レイアきゅんも自力で立ち上がる事ができるようになった。尤も、移動する時は一郎などの蟲をカート代わりにして巣穴を縦横無尽に走っている。試しに、私も蟲カートが出来るか試してみたら「重い」と言われて挫折した。
「瀬里奈さん、このアリの巣って皆が暮らすには十分なスペースがありますが…構造が単純じゃないですか?」
ギィギィ『そうね。出入りも激しいから、構造的には単純の方が都合いいのよ。何か問題でもあった?』
子供達が沢山出入る都合上どうしても面倒を避ける為、単純な作りになっている。その方が通気性も良くなるし、良い事だらけなのだが問題があるのだろうか。
「いや、冒険者が来た場合にここまで一直線でここまで来れるじゃん。瀬里奈さんが危ないんじゃないかなと」
こんなワタシの事を心配してくれるなんて…むしろ、私より幼児であるレイアきゅん自身の方が心配だ。悪い冒険者に攫われて、あんな事やそんな事を強要されるのではないだろうか。
ちょっと見たいかも知れない…ジュルリ。
冒険者許さん!!
そうと分かれば、巣の大改築だ。幸い、レイアきゅんと私が居ればどのように改築を行えばいいか知恵の出し合いが出来るだろう。
そうして、一年という膨大な時間をかけての大改築が行われた。落とし穴は当然として、大岩が転がり落ちるトラップ、水責めトラップ、崩落トラップ、某孔明の八卦の陣まがいの迷路を実装。更に、巣穴の入口から魔法を使った水責めや火責めに対応するために防火扉を設置。緊急脱出用の出口も山の数十箇所に敷設した。
さぁ、冒険者よ来るならいつでも来るといい。と、身構えたが生涯その罠達が活用される機会は訪れない。
◇
蟻の巣で瀬里奈さんの庇護の下、大事に育てられて5年。やっと、太陽の下で歩けるようになった。今まで、遠目でしかお日様を拝めなかったが嬉しい限りである。無論、初めて陽の下に出た際は瀬里奈さんと一緒に「目が~!!目がぁぁ~」とお馴染みのセリフを叫んで遊んだ。
だが、いくら瀬里奈さんの縄張りの場所だからといって他のモンスターが出張して来ないとも限らないので、外へのお出かけはなるべく控えている。
しかし、今はそんな外出がどうのこうのというより大事な問題が発生している。問題といっていいかも微妙なのだが、私の陰に一郎が落ちちゃったのだ。
何を言っているかわからないと思うけど、こっちも何て言ったらいいかわならない。だが、事実なのだ。
「困った時は、瀬里奈さ~ん。助けて~」
瀬里奈さんが居る場所へ駆け込んで行く。そして、文字通りまな板を通り越して鉄板の胸板にダイブした。
ギギー『そんなに慌ててどうしたのレイアちゃん?』
「実は・・・」
一郎が私の影に落ちて戻ってこない事を伝えた。その時の詳しい状況、体に異常が無いかなど色々と確認をし合った。別の蟻でも同じ現象が起きるのかという実験も行ってみたが残念ながら影に落ちる事は無かった。
だが、不思議な事に一郎が近くにいる気配を感じる事だけはしっかりと出来た。そう、具体的には背中にベッタリと張り付かれているような感じがする。
「もしかして、これって話に聞いていた魔法ってやつ?」
ギィ『今まで身をもって魔法を体験してきたけど、そんな魔法は無いはずだわ。とりあえず、一郎に出ておいでって呼びかけてみて。もしかしたら、ひょっこり出てくるかも知れないから』
なるほど!!
直ぐに一郎に出ておいでと念じてみる。すると、影からのそりのそりと白い蟻が浮き上がってきた。全身真っ白に染まり目は深紅…まるで、アルビノの蟻みたいである。
ギギ(一郎只今戻りました。お父様、なにか用事ですか?)
「きゃー、一郎無事だったの。色まで真っ白に変わっちゃって、いつイメチェンしたの」
一郎が無事だったのは嬉しかったが、見た目が真っ白になっていた。
ギィィ『きゃー、子供が子供に寝取られた。なんてこった…お母さん許しません。どうせなら、お母さんも混ぜなさい』
アリの巣は今日も平和に大荒れした。特に、暴れる瀬里奈さんを宥める為に皆さん総出で対応する事になった。
それから、私の影について色々と瀬里奈さんと研究が行われた。一郎が元に戻せるか、何体まで取り込めるのか、影の中はどうなっているのか、何が格納出来るのかなど調べてみた。時間はたっぷりあったのでやはり、色々と研究した結果一番可能性が高いのは転生特典、次点で未発見の魔法ではという結論に至った。
そして、瀬里奈さんより数体の蟻を賜りレイア分隊が完成したのだ。
本来、自らに絶対服従の子供達を奪えるレイアの能力は、蟲達にとって脅威の能力だといえる。普通に考えるならば、すぐにでも抹殺されても可笑しくないが…女子力もとい腐女子力高い瀬里奈さんは、そんな凶行に走るお人ではなかった。むしろ、レイアの影に住み着き、文字通りレイアに悪い虫がつかないように影から見守ってもいいのではないかと思っているくらいだ。
無論、レイアも瀬里奈さんの配下を取り込み勢力拡大して、反旗を翻すなどアホな思考はしていない。同郷で命の恩人に牙を向けるとかありえないと考えている。むしろ、この力を使って瀬里奈さんの為に働く所存でいるのだ。
お互いがお互いの為に力になろうと思う淑女と紳士がこの場に居た。
『蟲』の魔法に目覚めたレイア。これにより、モンスターソウルの吸収が捗りまくります。そして、まもなくレイアは外の世界へ。
ギルドといえば…タカリや美人局なんてゲスな連中が沢山いますよね。新人冒険者や子供を食い物にする腐って連中も沢山。そんな中、温室培養された箱入りのレイアがどんな目に合うか(´・ω・`)

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