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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第三十八話:(過去編)生みの親より育ての親(1)

◆一つ目:レイアの母親
◆二つ目:レイアの育ての親(旧名:結城瀬里奈)

そのうち章管理も始めますが、とりあえずタイトルに過去編と記載しますね。


 『神聖エルモア帝国』と『ヘイルダム』の国境となっているゲルヘイス山脈の麓には、小規模の集落が複数存在している。山にはモンスターが生息しているが、生息域がほぼ確立しており縄張りに踏み入らない限り襲われる事は殆ど無い。

 集落に暮らす者達は、比較的平和な日々を過ごしていた。そんな集落に一人の子供が生まれた。子供が生まれた夫婦は、喜びはしたが…直ぐに現実を直視した。なぜなら、生まれてきた子供がアルビノだったのだ。

 それからの夫婦の行動は早かった。

 生まれた僅か一ヶ月にも満たない子供をモンスターが蔓延る山に捨てる事を決めたのだ。本来責められるべきかもしれないが、口減らしの為、往々にしてそのような行為は黙認されている。なぜなら、年老いて動けなくなった両親を山に捨てるという行為が風習として残っているのだ。

「あぁ~あ」

「ごめんね。せめて、日が沈むまで一緒にいてあげるわ」

「生活を守る為とは言え、辛いな。必死にこっちに手を伸ばしてきて…無邪気だな」

 あたりを警戒しながらも、日が沈むまで子供のそばにいる。

 こちらに何かを訴えてきているみたいな顔と行動…だが、赤子が今の状況を理解できているとは到底思えないので、罪悪感からくるものだろう。

 せめて、貴方が普通の子供だったら…ごめんなさい。

「そろそろ、帰るぞアイナ。大丈夫だ…俺が付いている。だから、今日のことは忘れろ」

「………わかったわ。それじゃ、サヨウナラ。わたしの可愛い子」

 最後までこちらに手を伸ばす赤子に別れを告げて山を下った。日が沈めばモンスターが活発化する時間だ。更に言えば、今いる場所はモンスターの縄張りである。そんな場所に子供を置き去りにするなど、結果は火を見るより明らかだ。



 言葉が理解でき、知識がある事がこれ程まで苦痛に思えたのは初めてだ。

 生まれてから約一ヶ月…両親の会話を聞く限り自分の身の振り方を成長したら考えないといけないと思っていた。だが、まさか生後一ヶ月の私をモンスターが居るという山に捨てるとかマジ鬼畜。

 名前すら付けてもらってないんだぜ。もう、これは生まれてから直ぐに捨てる計画を立てていたに違いないわ。

「あぁ~あ(お願い待って!! せめて10歳まで面倒をみてから捨てて)」

「ごめんね。せめて、日が沈むまで一緒にいてあげるわ」

「生活を守る為とは言え、辛いな。必死にこっちに手を伸ばしてきて…無邪気だな」

 日没とかどうでもいいよ。というか、産んだ責任取れよ!!

助けてくれるなら成長したら前世の知識を使って楽を…させられるかわからないけど、頑張って報いるからお願い捨てないで!! よくわからない世界に来て、よくわからないままで死にたくない!!

 親の服にしがみつこうと手を伸ばすが…届かない。

 父親っぽい男は、わたしの命懸けの行動を無邪気だなと笑う…まじ、憎しみで人が殺せる能力が欲しいと本気で思った。

 そして、悲しそうな顔をして二人が去っていった。

 だが、私にはわかる…あいつら悲しそうな顔をしているが内心は肩の荷が降りたと喜んでいる。最後まで泣き叫んで同情を誘う作戦に出たが功をなさなかった。まぁ、その程度で思い止まってくれるなら捨てるような凶行には出なかっただろう。

「あぅぅ(本格的に死んだわ)」

 日が落ちているから、陽の光で皮膚が爛れる事はないが…朝日が登れば間違いなく死ぬ。下手したら今夜にもモンスターの餌食になって美味しく頂かれる。こんな事なら、記憶を持ったまま転生などしたくなかった。

 ガザガザガサガサ

運命の時は、予想以上早くに訪れた。茂みから草木をかき分けて移動してくる何かの音が聞こえる。身動き取れない赤子の私には、逃げる事も隠れる事も出来ない。

 死にたくない…ただ、それだけを願い息を潜めた。

 もしかしたら、私の鳴き声を聞いて誰かが救いの手を差し伸べに来たかもしれないが…親の話では、この場所はモンスターの縄張りだ。日が沈んでモンスターが活性化しているこの場所を訪れるアホは居ない。

 故に、この物音はモンスターである可能性が非常に濃厚だ。

 頼む…通り過ぎてくれ!!

 だが、モンスターをやり過したところで私の置かれている状況が好転する事も無い。救いに来てくれるヒーローが居たら私は一生をかけて恩に報いる所存である。

 目を瞑り神に祈った。

 捨てる神あれば拾う神も居てもいいはず。この状況下に私を追いやった神が居るなら、この状況から救ってくれる神が居ても悪くないはず。

 頼む!!

 ガサガサ

 物音が近くでする。

 ………
 ……
 …

 神に祈りが届いたのか、物音が聞こえなくなった。

 恐る恐る目を開けてみると…くぱぁと大きな口を開けている大きな蟻さんとご対面だった。もう、恐ろしいとかそんなレベルじゃないね。赤子とは言え、私と同じサイズはあろう蟻が目の前で口を開けているんだよ。

 もう、驚きのあまり漏らしました。盛大に!!

「ばあああぶうぅぅ!!( qあwせdrftgyふじこlp!! 死にたくない死にたくない。誰か助けて)」

ギィィ(馬鹿な。俺のプリティーフェイスを見て泣くだと…ショボン)

ギギギ(おぃ、お前の顔が怖いから泣いちゃったじゃないか。俺に任せてみろ。いないいないばぁ!!)

 近くにいたもう一匹の蟻がまるで私を丸呑みするかのように大きな口を開けて食べようとしてくる。

「あ゛あぁぁぁううう(何がいないいないばぁだよ。こぇーよ)」

………
……


 蟻と私の両者の間に沈黙の時間が発生する。

 両者見つめたまま、まさかね。ありえないだろうという雰囲気が漂う。

 だが、万が一の場合がある。どうせ、明日には死ぬかも知れない身だ。可能性にかけてみるのもありだ。蟻だけに…なんちゃって…ごめんなさい。

「ばぶばぶ(あの~、もしかして言葉わかっていますか?)」

ギギィ(本当に居たよ!! ちょっと待ってね。今お母さんに連絡するからね)

ギギ(巣に戻って応援連れてくるから待っていてね)

 なにか重大な問題が発生したかの如く、一匹の蟻が走り去っていった。残った蟻がこちらを見つめてくる。

 よくよく見れば、なかなか愛嬌があるような顔つきである。



 ゲルヘイス山脈に巣を構えて早10年…この山脈においても古参の一人と数えて問題無いくらいである。縄張りも確立して、他種族のモンスター達ともそれなりに上手く折り合いをつけて暮らしている。

 そして、このワタシ…結城瀬里奈は、この世界でモンスターをやっています。人間じゃなくてモンスターに生まれ変わるとかヒドイを通り越して絶望した。まぁ、今ではそんな事を気にしてないけどね。

 モンスターとしてのスペックは高い。人間からは、ランクB相当モンスターのアーマーキメラアントクィーンと呼ばれている。まぁ、蟻の親玉みたいなモンスターです。ゲルヘイス山脈に生息しているモンスターの中では上位5位以内に入る戦闘力を有している。

アーマーキメラアントクィーン…体長2m近くある二足歩行が可能な大型の蟻。迷宮では生存が確認されていない希少な個体。その名の通り鋼鉄のように硬い外皮を持っており、近接戦においては蟻の中でも無類の強さを誇る。人気の少ない場所に巣を作り子孫を増やして生涯を過ごす。基本的におとなしい性格をしており人を襲う事という報告は殆どない。だが近年、各地で目撃報告がなされている。いずれも同一個体であるという説が濃厚で、闘った者で死者が出たと報告は受けていない。

ギィィイ『さぁ、可愛い子供達よ。私の逆ハーレムの為に人間の子を集めてくるのだ。わかっていると思うけど人里から攫うのは無しね。冒険者差し向けられるから』

ギ(そんな簡単に人間の子供が森に落ちている事なんて…)

ギギィ(お母さん、現実を見てください。人間と蟲じゃ越えられない壁があるんですよ。特に言語とか通じないじゃありませんか)

 子供達が言う事も当然だ。だが、ワタシの前世は人間の女の子で…少しくらい夢を見てもいいと思う。今まで、悪事に手を染めずひっそりと暮らしてきたのだ。理想の男の子を育てても悪くないと思うのよ。

 過去に何度か人間とお近づきになれないかと考えたが…無理だった。出会い頭に魔法を食らわされた事など数知れず、剣や槍で攻め立てられた事も数えきれずとそんな事ばかりだ。

 面構えが凶悪だから、わかるよ。だけど、行き倒れになっているところを助けた私を殺そうとする冒険者には流石に頭にきたけどね。

 だから、考えたのだ。そもそも、モンスターが悪い存在だと認識する前の段階からお近づきになり、育てればいいんじゃないかと。イケメンになれば更にお得。

ギィイギィ『ええぃ!! 黙らっしゃい!! 居ると言ったら居るの。探しもしない内に無いと言うのは良くない癖です。人間の赤ん坊でワタシ達の言葉が理解できる者が今日見つかるかも知れないでしょう。チャンスは、いつ転がってくるか分からないの』

ギィギ(あぁなったら言っても無駄です。大人しく、探しに行きましょう。他の子はみんな行きましたし。まぁ、見つからないでしょうが…)

ギィィ(だよな。見つかったら赤ん坊の下働きになってもいいよ)

 その時、外に出たばかりに蟻が駆け込んできた。

ギィギィィィ(大変ですお母さん。捨てられている人間の赤子を発見。更に、我々の言葉がわかる模様!! 至急応援を)

ギギ『な、なんだって』

ギギ((な、なんだって))

 逆ハーレム計画を開始した初日に目的が達成されるとは、予想外であった。だが、これは神がくれた好機!! 一から育て上げてワタシ色に染め上げる。オトコの子だったらいいね。

………
……


迎えに出して数十匹の蟻が連れてきた子供は、アルビノの赤子だった。子育て経験など無いが…アルビノの子供って虚弱体質で生存するのが難しいのではないだろうか。特に、衛生状況がよろしくないこの世界では辛いだろう。

とりあえず、通気性の良い部屋を新調しよう。

 それにしても…ゴクリ。

ギィィィイ『アルビノの赤ん坊、か~わ~い~い』

 もう食べちゃいたいくらい可愛い。真っ白なプニプニしたお肌…ワタシが哺乳類だったら間違いなく舌で舐めていただろう。

「ばぶぅ(ぎょぇぇぇぇぇ!! そうだ、こういう時は死んだふりだ)」

 赤ん坊が渾身の演技で息を潜めた。母性本能をそそられる仕草は、まさに鼻血ものである。

 ………あれ? 言葉が分かるとは、聞いていたがあまりにも出来すぎている。

まさか!!

『いい国作ろう。室町幕府』

「ばばぶ(鎌倉幕府じゃ!!)」

 赤子と見つめ合う。お互いが同じ事を思っているだろう。

これで、ハッキリとした。この赤子は、私と同じ元日本人だ。

 思わず涙が出てきた…生まれて十数年。たった一人で生きてきた私にとってこの出会いはまさに奇跡だった。人と触れ合う事もできず、陰ながら今日まで生きてきた私に神が褒美をくださったのだ。

『ううううう、まさか同郷の人に会えるとは』

「ばぶばぶ(うううう、それはこっちも同じです。見つけてもらえなかったら死ぬところだった)」

ギギィィ(おぃ、お母さんも赤ん坊も泣き始めたぞ。どうなってんだ)

ギギギギ(それが分かるなら苦労しないさ。大丈夫だ)

 子供達が見ている前だというのに不甲斐なく泣いてしまった。だが、いつもどおり子供達は逞しく…そんな事は、気にしていない様子だ。

ギッギギ『人間の子供を一から育て上げて逆ハーレムを作ろうと思っていたんだけど…よかったら、入る?』

「ばばぶぅ(腐ってやがる。だけど、捨て子なので帰る場所も無いのです。お世話になります。お部屋は、通気性がよくて清潔なお部屋でお願いしますね。アルビノなので陽の光に当たると皮膚が爛れるし雑菌にもめっぽう弱いので大事に扱ってね)」

 あぁ、やはりそうか。

そうなると、地中にある巣穴では長く生きられないだろう。普通の赤子が暮らせる程度の清潔な部屋なら用意できるがそこまで体が弱いとなれば厳しいと言わざるを得えない。

『いや…待てよ。体が弱いなら強くしてあげればいいのか』

 生後間もない赤子にモンスターソウルを吸収させる事がどのような影響を及ぼすかは定かでないが…このままでは、近い将来死んでしまうであろう。

 折角、言葉が通じるだけでなく同郷の存在に会えたのだ。死なせたくない。

 直ぐに、子供達に命令をして文字通り蟲の息となったモンスター相手を使ってアルビノの赤子のレベリングが行われた。




 何やら準備まで時間が掛かるという事で色々とお話をした。この凶悪な面構えの蟻は、元人間で結城瀬里奈という立派な腐女子だったらしい。そう考えれば、人間に生まれた自分が幸福に思えなくもないが…生い立ちを考えればドッコイドッコイだろう。

 とりあえず、色々と聞きたい事はあったけどこれから行われようとしている事について確認をした。特にモンスターソウルやレベリングについて教えてもらった。生き残る為に必要な事だとは言え、これは酷いよね。

 ブチュ ブチュ

 最低ランクの小型モンスターが潰れる音が響く。

「ばぶぶ(これは酷い。幼児虐待で訴えてやる)」

ギギギ『これ以外の方法が思いつけば、それでもいいけど無理でしょう』

 赤子である私が武器などの類をもってモンスターを攻撃することなど叶わない。故に、取られた方法は、瀕死のモンスターを私の体を使って文字通り押しつぶすという強引な方法だ。

体が持ち上げられる。瀕死のモンスターが置かれる。体が下ろされる。

 もう何匹お尻で潰したかわからなくなってきた。

「ばばぶぅ(瀬里奈おば…お姉ちゃん。お腹減った!!)」

ギギィギ『そうかそうか。切りもいいし今日はここまでにしましょう。これを繰り返せば、まぁ死なずに済むでしょう。さぁ、お乳の時間ですが…蟻の私にお乳があるといつから錯覚していた?』

「ぶぶ(な、なんだと!!)」

 ………この腐女子なかなか出来る!!

 逆ハーレム作ると計画していたのだ、まさか赤子の食事についてなにも考えていないなんて事はないよね。ねぇ、そうだと言ってよ。まさかと思うが、あんたらと同じ食事を赤子の私に摂らせようとおもっていたんじゃないよな。

「あぅ(まさか、ノープランじゃないよね!? 逆ハーレムするんじゃなかったのかよ。準備しておけよ)」

ギギィ『仕方ないでしょう!! まさに、開始5分で逆ハーレム計画が達成できるなんて思ってなかったんだから!?………そうだわ、オークを頼ろう』

 オークだと!?

 お馴染みの種族で有名なアレだとすれば、恐ろしい事が起こりそうだ。この世界のオークの生態は知らないがオーク雌が居たとしよう…それのお乳を飲むとか罰ゲームとかそんなレベルじゃないぞ。

 というか、そんなお乳を飲んだら、体の内側から汚染されて死ぬって!!

「ばあぅ(止めて~、オークのお乳とか飲みたくないお)」

ギィギギ『大丈夫。オークが繁殖の為に攫った人間や亜人の女性を分けてもらうだけだから…まぁ、オークの子を孕んでいる もしくは、孕んでいたからお乳は出ると思うわよ』

 元人間の女性としては、それなりに複雑な気持ちなのだろう。

 まぁ、そういう事なら受け入れましょう。どんな女性がくるか不明だが、清潔な女性なら贅沢は言わない。

 オークの巣穴を地下に拡張する労力を提供する代わりにオークが所有している比較的若くて健康的な女性が蟻の巣にご招待される事になった。
モンスター同士の意思疎通は、高ランクモンスターならある程度可能です@@

同郷の女性に会えるレイアは、運が良かったです。まぁ、腐っておりましたが。

過去編は、年数が結構飛ばし飛ばし行くかもしれませんが…6話前後を想定しております。

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