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第三十四話:生誕祭(2)
生誕祭初日には、皇帝陛下が下々の者達にお声を掛けるべく城から民に向かってお声掛けをする。それを聞く為に沢山の者達が集まっている。
だが、蟲カフェの従業員は、大人しくお仕事に従事している。
若干一名を除き、皇帝陛下には会おうと思えば会える立場な者である。更に、既に何度も会っているし態々遠目で見る為に人ゴミの中に行くなどナンセンス。
ドンドン
開店初日のお客様が到来である。
小窓から覗いてみると…懐かしの顔がそこにはいた。早々に、扉を開けて中に招き入れた。
「エーテリア、ジュラルド久しぶりだな…剣魔武道会で別れてから何かと会う機会がなかったが元気そうで何よりだよ」
「こちらこそレイア殿。『ネームレス』には、居たのですがお互いすれ違ってばかりでしたね」
「ちげーね。そうそう聞いてくれよ。とりあえず、アタイ等婚約したから!! そして、ジュラルドも両親との誤解も解け、双方のご両親にご挨拶も終えたところだ」
婚約に関しては全然驚かない。むしろ、お前等いい加減にくっつけよというオーラがギルド本部でも充満していたからね。それに、気付かなかったのはこの二人だけだ。
驚いたのは、ジュラルドの進化を親が受け入れたという事だ。マジかよ…理解がある親ってレベルじゃないぞ。
「それは、めでたいな…今日は、私が奢ろう。好きに飲み食いするといい。ゴリフリーナ、二人を案内してくれ」
「ぶっ!! エルフの姫君に案内されるとは、人生長生きはしてみるものですね。それと、うちの両親を説得していただいた件ありがとうございます」
「ありがとな。おかげで、ジュラルドと結婚を前提に付き合う事ができるぜ」
なるほど、この王族の二人が出張れば、ご両親も納得するしかないね。
それにしても、結婚を前提に付き合う為にご両親へご挨拶とか…マジで凄いわ。このご時世、子供が生まれてから、双方の両親に報告する事なんてざらにあるというのに。
流石は、紳士と淑女だ。レベル高いわ。
後、ゴリヴィエ…ジュラルドが婚約と聞いたあたりから、立ったまま涙を流すのは、止めなさい。君のストライクゾーンど真ん中なのは、薄々分かっていたからさ。略奪愛なんてやめてね。
万が一、この二人の仲を引き裂こうと考えるなら、肥料にするよ。
「とりあえず、『迷宮の朝食セット』と『蟲ダシコーヒー』を」
「アタイは、『迷宮の朝食セット』と『ゴリフの手絞り100%果汁のジュース』。林檎と桃のミックスで」
「畏まりました。ゴリフリーテ頼みました」
地下室より冷えた中ジョッキと氷塊、冷えた果実が蟲達によって運び出された。
ゴリフリーテが『聖』の魔法で手の汚れを浄化する。蟲からグラスを受け取り、氷塊をデコピン一発で粉々に砕く。中ジョッキ一杯に適量の氷が完成する。締めくくりに、よく冷えた林檎と桃を受け取り丁寧に絞る。この間も、『聖』の魔法であらゆる汚れや体に害のある微生物が浄化されている。
まさに、聖水の如く輝く手絞りジュースの完成だ。
ジョッキや果実を受け取ってから完成に至るまで僅か2秒程度の無駄のない早業である。
完成した食べ物がお盆に乗せられて蟲達がヨチヨチと運ぶ。それを受け取り、エーテリアが一口飲んだ。
「………うまいな、おい。これが果汁100%のジュースか。今までのジュースが泥水のように思えてくるぞ。『聖』の魔法も半端ないわ」
「ふっ!! 当然だエーテリア。蟲カフェは、食材から料理人まで全てが超一流。更に、旨さの秘訣は他では真似できない特殊な調理法をしているからなんだよ」
「流石はレイア殿のお店。『聖』と『蟲』の魔法なんて使える人達はここにしかいませんしね。あ、コーヒーも美味しいですね。おかわりをください」
直ぐに蟲に指示を出しておかわりを持ってこさせる。
………
……
…
それから数時間、客足は伸びて店内に用意してあった座席数の6割が埋まった。尤も、座席数は20席程度しかないのだがね。
「噂は、異国の地でも聞いているぜ。相変わらず派手にやっているそうだなレイア。今じゃ、大貴族様で可愛い嫁さんを手に入れて幸せだな。このやろう」
「マルガルドさんこそ、お元気そうで何よりです。というか、生きていたんですね。風の噂でお姫様にお手付きをして、お縄になったと聞きましたよ」
マルガルド・クルーガー…迷宮狂いと言っても過言でない人物。世界中の迷宮に潜る事を生きがいにしており、半年ごとに拠点を変えて迷宮に挑んでいる。故に、マルガルドが潜った事がない迷宮は存在しないとまで言われる程である。また、各所に現地妻がおり、迷宮で死ぬより女性関係で死ぬとまで言われている人物だ。
懐かしいな…私が低ランクの時は、マルガルドさんのパーティーの後ろを尾行してモンスターの倒し方や食べられる食物などを見て盗んだものだ。危なかった時に密かに助けられた経験もあるくらいだ。
私が尊敬する数少ない冒険者だ。
「俺を捕まえたいなら軍隊かレイアのようなスペシャルを持ってこいってんだ」
「骨を折りそうなので勘弁してください……それと、そこのお客様!! 従業員へのお触りは厳禁ですよ」
客の一人が、ゴリヴィエの尻に手を付けようとしていたので止めておいた。ゴリヴィエも当然気づいており、触れられた瞬間に腕ごともぎ取るつもりでいた。だが、触る側も相当の実力者で双方の実力は拮抗している。
尻を触る為に、命をかけるまでの意気込みは認めるが…ここは、そういう店じゃないんだぜ。
「失礼した。そこに魅力的な尻があったので紳士として、触らずにいるのは失礼だと思ってね」
「「「「「ならば、よし!!」」」」」
従業員と客含めて満場一致した。
紳士としてならば仕方がない。ここは、紳士と淑女が集う場所だからね。
ドンドン
「お客様だ。マルガルドさん、ごゆっくりしていってください」
入口の小窓から外を覗いてみると…知らない人達だ。
『どなたかのご紹介で?』
『いいえ、我々はこういう者です』
えーーと、『ゴリフ応援団一同』……剣魔武道会に居たあの集団か!! まさか、再び見えようとは。10人程の亜人集団のようだが、見た事がない種族だな。
本来、紹介が無い者は、入れないのだが妻達を陰ながら応援していた者達を無下に扱うのは失礼だよね。こいつらは、ゴリフの心の美しさが理解できていたと思われる数少ない紳士達だ。
扉を開けて中に招き入れた。
「ゴリフリーテ、ゴリフリーナ。団体様のご案内してあげて」
応援団の憧れの的であった二人に案内させよう。
「あら、貴方達は応援団の…こんな場所まで来てくれるなんて」
「本当だわ。遠い場所から来てくれるなんて、お代は私達が持ちましょう。何でもご注文してください」
「うぅぅぅ、我々の事を覚えていてくださったとは、嬉しさのあまり涙が。そして、お幸せそうで何よりです。ですが、お代の方はご安心ください。これでも我等ランクB冒険者。稼ぎは、それなりにありますので男を立てさせてください」
いい奴らだ…そして、全員が着席して注文したのが『ゴリフのパンティーセット』。言うまでもなく、パンとティーが運ばれてきた。それを見た応援団一同は、テーブルにひれ伏して脱力状態になった。
………
……
…
そして夕方、一人のダンディーなおっさんがお店にやってきた。全身をすっぽり覆うようなローブに加え、傷ついている鎧、歴戦の冒険者にふさわしい風貌をしている。護衛もつけずに歩き回るとは…いや、居ただろうが振り切ったな。
「うむ、やっと執務を抜け出せたわい。待たせたな」
この人こそ『新生エレモア帝国』の皇帝陛下にして元ランクB冒険者…ガイウス・アルドバルド・エルモア。更に言えば、世界でただ一人の神器の使い手である。
「お待ちしておりました。2階にて準備は出来ておりますので、お楽しみください。お飲み物などが必要な場合には、ベッドの横に備え付けてありますベルをお鳴らしください。直ぐに、係の者が駆けつけますので」
何名かが、皇帝陛下が来ている事に気がついたが…知らないふりをする。ここは、そういう場なのである。
開いた口が塞がらないタルトに案内役と部屋係を務めさせた。その為に、雇ったのだ。言っておくが、別に情婦の真似事をしろとは言っていない。亜人の聴力ならば、一階に居てもベルの音は拾えるだろうしね。
「旦那様、お忍びとは言え皇帝陛下がいらっしゃるのでしたら先に教えてください」
「悪かったゴリフリーナ。あまり公に出来ないものでね」
淫夢蟲を使った夢の中でエロい事を楽しむなど公に出来るはずもあるまい。既に結婚して子供すらいる身だぞ。まぁ、皇帝陛下だからその気になれば好きな女性に手を出し放題だから問題ないかもしれないがさ。
皇帝陛下も男だという事だ…夢の中では、自らの肉体も全盛期に変えられる。更に、女性の容姿・年齢・性格なども好きにカスタマイズ出来るからね。気持ちは理解できるさ。
だって、スタンプ景品で男性に一番人気があるのが『淫夢蟲と淫靡なアバンチュール一日券』なのだ。おかげで、生誕祭の最終日には淫夢蟲がフル稼働状態だよ。男ってどうしようもないよね。
「そういえば、旦那様の『蟲』の魔法を周辺諸国に周知されたのは皇帝陛下でしたよね。それと、何か関係が?」
「その通りだ。あれは…」
10年前に初めて参加した生誕祭…世の中に、『蟲』の有用性を広めようと考えひっそりと開いた蟲カフェ。その最初のお客様が何を隠そう皇帝陛下であった。執務から逃げる為に城下町を巡るのが大好きな上に、ランクBという事もあり無駄に腕も立つ為、護衛を振り切るのは、朝飯前というお人であった。
オープン仕立てのお店を訪れた皇帝陛下は、蟲達を見て切りかかろうとしたから大変だったよ。私の可愛い蟲達になんて事をするんだと…狭い店内で殺し合いが始まるところだった。だが、お話のわかる皇帝陛下。しっかりと事情を説明し、話し合う事でお互い理解し合えた。
まぁ、『ウルオール』が特別な属性の『聖』について各国に自慢していた事もあったので皇帝陛下にとってはこれ幸いと思ったのだろう。そんな馴れ初めがあったのだ。そして、皇帝陛下の後ろ盾の下で世界に『蟲』の魔法が世界に認知されたのだ。
皇帝陛下は、『蟲』の魔法の中でも蟲を配合させる事で新たな蟲が生み出せるという事に大層ご興味を持たれた。言い方を変えれば、新種のモンスターを生み出せる魔法と言っても過言じゃないからね。
だが、紳士な皇帝陛下は悪しき事に使う事を良しとせず…趣ある趣味へと走ったのだ。そして、考えついたのが淫夢蟲である。なんでも、淫夢蟲を作る為なら何でも支援すると言ってきたくらいだ。まぁ、当時の私も若かったのでイヤッホーと言って作ったけどね!! そして、早々に皇帝陛下に連れられて…迷宮下層に素材となる蟲狩りに出かけたのは、今でもよく覚えている。
本当に、エロの為なら行動力がある人だわ。
「…と、そんな馴れ初めですよ。そして、今現在二階でお楽しみ中の皇帝陛下が居るという事です。あぁ、でも皇帝陛下がここに来ていることはオフレコですよ」
「だ、旦那様も…その、お使いになるのですか?淫夢蟲を」
「やっぱり、私達では…」
………
……
…
ゴリフリーテとゴリフリーナの目に涙が。
「ふむ…どうやら、私がどのような男かを再認識させる必要があるようだな」
二人の口を塞ぐ…そして、「今晩、楽しみにしていろ」と小声で伝えると嬉しそうな顔をする二人であった。
◇
夜の8時になると残っていた客達も各々祭りを楽しむ為、散っていきそろそろ店じまい。
そんな中、お楽しみを終えた皇帝陛下とお話中である。
「ふぅ~今宵も最高であったわ。淫夢蟲を持ち帰れればいいのだが…流石に人目があるからな」
「これ以上の小型化は、無理ですよ。これでも当初と比べて品種改良を加えて今のサイズになったんですから」
本気で欲しいのでしたら差し上げてもいいのですが…皇帝陛下の私室に淫夢蟲を飼うのは些か善からぬ噂が広がりそうだよね。主に、私が皇帝陛下を裏で操っているとかそんな噂が流れそうで怖い。
「はっはっは、分かっておる。さて、そろそろワシも戻らねばならんだろう。これ以上、王宮を留守にすると本気で騎士団が総出で城下町に来そうだしな」
「お送りいたしましょうか?」
「空からの帰宅も悪くはないが、もう少し街を回ってから帰るとしよう。それと、明日には国外の使者を招いての晩餐会がある。分かっていると思うが…お主は、参加必須だからな」
えっ!? 今まで貴族であったけど、その手の晩餐会にはお誘いすらなかったのに、なぜ今更。
「候爵になったのだから、当然であろう。こう言っては、アレだが…候爵になったお主の顔を知らぬ者が多すぎるのだよ。冒険者としての名声と特別な属性で名前だけは、売れているんだがな」
「言われてみれば、社交の場とか出た事がありませんしね。分かりました、そういう事でしたら参加させて頂きます」
皇帝陛下から直々の参加要請だ。お断りなど出来るはずもない。だが、着ていく服がない。今から仕立てて間に合うだろうか。蟲達とゴリフターズの力を信じよう。
「うむ、期待しておる。なに、壁にでも立っておれば蟻のように群がってくる者達が沢山いるから飽きる事はないぞ。飽きる事はな」
「嫌気は差すと。ガイウス皇帝陛下、奥様の機嫌取りに『絹芋虫ちゃん香水』『蛆蛞蝓のお肌用美容液』などの女性向けの人気商品詰め合わせをご準備いたしました」
「相変わらず気が利くの…で、ワシには何もないの?」
まぁ、そう言われると思って準備しておりますよ。
「蟲ダシコーヒーを詰めた瓶をご用意いたしました。お帰りなってからお飲みください」
皇帝陛下は、お土産を受け取り夜の街へ遊びに出かけていった。
「晩餐会ね…」
妻達にはお声掛けが無かった事から本当に私だけのご指名だね。まぁ、あの二人は私と違って良い意味でも悪い意味でも顔が売れている。
それで構わない。私は、嫁達を公の場に出すことは極力避けたいと思っている。
私の妻達を見て小馬鹿にするような態度を取る者が少なからず居るのだよ。大っぴらに貶しているわけではないので、こちらも大きくでられない。だが、妻達は大変傷ついて夜泣きをしているのを見た事がある。
そんな悲しい思いを二度とさせない為に、私一人で行きましょう。たとえ、ダンスが踊れなくても恥をかくのは私だけで済むなら安いものだ。
応援団諸君をご招待してみた(*゜▽゜*)
晩餐会…使者ということは当然、ゴリフターズが代理で生贄になった弟達がいたりします。
生誕祭編は、もう少し続きます。
そのうち、マーガレット嬢もお店に来る予定。
晩餐会⇒マーガレット嬢達来客⇒ゴミ掃除の流れかな多分@@

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