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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第三十一話:ゴリフ爆誕(2)

◆一個目:タルト
◆二個目:タルト


 約束通り、の三週間分の食料を準備してトランスポート前に来てみれば既にゴリヴィエ様が待機していた。騎士団出身だというのに、刃物の類は身につけておらず…本当にサブミッションのみでのし上がったのだと痛感した。

 粉砕した関節の数は、人間とモンスター含めて数え切れないという話は本当のようだ。美しい容姿と打って変わって恐ろしいお嬢様である。

「おはようございます。ゴリヴィエ様」

「おはようタルト。急いで準備させて悪かったわね。二人分とは言え、三週間分の食料等の用意は大変だったでしょう」

 確かに、お店の方に色々と無理を言って都合をつけてもらった。若干、割高になってしまったが、必要経費の予算は上限なしと言われて金にものを言わせた。

 貴族様は、金払いが良いから本当にありがたいわ。

 更に、これから合流するパーティーメンバーの方達もゴリヴィエ様が認める程の人達だと思われるので優秀である事は間違いない。依頼を受ける身としてはこの上なくありがたい事である。

「二人分でしたから、何とかなりました。他のメンバーの方は、まだのようですね」

「えぇ、待ち合わせの時間まで後30分程ありますので」

 大貴族のご令嬢で元近衛騎士団副団長のゴリヴィエ様が30分以上前から人を待っている。

 ………い、嫌な予感がする。

 ………
 ……
 …

 待つ事、30分。

 ゴリヴィエ様の足元に無数の屍が築かれていた。

 亜人の女性二人組…エルフと猫耳の少女達を相手に「一緒に迷宮にどうだい」と下心一杯で声を掛けてくる邪な輩が苦しみの悲鳴をあげていた。

 一度は、丁寧に断るのだが…二度も同じ事を言われるとゴリヴィエ様が「私に勝ったらお付き合いしましょう」と言って瞬殺しているのだ。魔法でも治りにくいように、複雑骨折させているあたり流石だ。

「身の程を弁えなさい」

「ゴリヴィエ様…流石にこれ以上はまずいです」

 トランスポート前だから、やられた冒険者も大きな行動に出ないが…女性相手にここまでコケにされるだけでなく、雑魚呼ばわりされてはいつ集団で暴挙にでるか分からない。

 現に、私達の体を舐めるように見る視線が増え続けている。

「面白い事をやっていますね。私の依頼主に何かご用事でもあるのですかね」

 声を発した者の顔を確認した瞬間、屯っていた冒険者達が一斉に道を開けた。そして、全員が脱兎のごとく散り散りに逃げていく。

「お待ちしておりましたレイア様。さぁ、迷宮へ行きましょう」

「も、もしかしてパーティーメンバーと言うのは…」

「タルト君では、ありませんか。まさか、妻の従姉妹の幼馴染だったとは…世間は広いようで狭いですね」

「あら、ご存知でおりましたか。こらちが、幼馴染のタルトです」

 …いや、これはラッキーではないのだろうか。

 自分自身にトラウマを植え付けた張本人が二人も揃っているとは言え、大貴族のお嬢様と大貴族のご当主様。更に、高ランク冒険者である為、パーティーが壊滅する事などありえない。

 そうだ、何事も前向きに考えるんだ。




 顔見知りのサポーターで本当に良かった。私の事を知らない子だったら、面倒だったものね。

 という訳で、迷宮の20層から下へ下へと降下中。道中、襲ってくる敵をゴリヴィエに始末させてみたが中々鮮やかなやり方であった。特に、オークやゴブリンなどの人型モンスターを倒すのが大好きなようだ。

 筋肉質なモンスターが好きなのか、関節を折る事ができるから好きなのか、分からないがね。どちらにしても、HENTAIという名の淑女には間違いない。

「これでランクCとはね…後で、ギルド本部に報告してランクBに改めるように申請しておこう」

「ありがとうございます。いやー、やっぱり迷宮はいいですね。文字通りモンスターが湧いて出てくるとは、気持ちいいくらいです」

 だが、小型の蟲や軟体のモンスター達を相手にする際は、苦戦を強いられているようだ。ゴリヴィエは、魔法の熟練度も高く倒しにくい敵は焼き払ってはいる。しかし、魔力だって無限ではないのだ。いつか、ガス欠を起こすだろう。

「先程からゴリヴィエ様しか戦われておりませんが、レイア様はご参戦されないのですか?」

「何を言っている? 私は、指導員としてこの場にいるのだ。故に、基本的に戦わぬ。なーに、命の危険がある場合には動いてやるさ」

 契約書には、ちゃんと明記してあったはずだが…まさか、熟練のサポーターであるタルトが読んでいない事はないだろう。そして、大事な事は私が守るのは依頼主であって…サポーターは契約範囲外なんだよね!!

 サポーターの面倒を見るのは、パーティーのお仕事。

「あれ?それだと、私の身に危険が迫った時はどうすれば?」

「契約範囲外だ、ゴリヴィエを頼れ。もしくは、自分で守れ。迷宮下層のサポーターとしてこの場に居るのだ。万が一の時に、自分の身すら守れないと死ぬぞ。と、本当なら言いたいが今回は私の都合で女性サポーターを雇わせたのだ。故に、適当に寛いでいろ」

 あ…ゴリヴィエがキマイラグリズリーと戦っている背後から猛毒を持つ大蛇が音もなく近づいている。それなりのでかい体をしているが地面を這う事と保護色で周りに溶け込むから発見しにくい。

 ふむ…クマさんを絞め殺す事で気づいていないな。

「ゴリヴィエ、周囲の警戒を怠るな。いくら、絞め殺すのが楽しいからと言って気を抜くと自分が絞め殺されるぞ」

「申し訳ありません。以後、気をつけます」

 蟲を指弾で打ち出して、大蛇を蜂の巣にした。

 下層に生息するだけあって、並外れた生命力である。蜂の巣にされても、動きが鈍ることはない。本来このモンスターに出会った場合には、細切れにした後に焼き払うのが一番である。

「って、まだ生きていますよ レイア様!! このままじゃ、ゴリヴィエ様に…」

「問題ない。もう、死んでいる」

 その瞬間、蛇の体が膨張して内部より蟲達がワラワラと肉を食い荒らしながら生まれ落ちた。

 ギィギィー(蛇の中からこんにちは!! あ、お父様だ~)

 ギギィ(お父様、このお肉…蛇臭い。カレー粉をください)

「いい子達だ。さぁ、おいでおいで」

 一匹ずつ頭を撫でで上げてから、お仲間が待っている影へと収納していった。その間に、ゴリヴィエもクマを始末し終えたようだ。体の傷が目立つが、『水』の魔法で治しているので問題あるまい。

「助かりましたレイア様。やはり、ランクB相当のモンスターはしぶといです」

「仕事だから構わない。だが、ソロで迷宮に潜る場合には今のような事があっては死ぬので気をつけるように」

 ゴリヴィエのスペックは、極めて高い。だが、複数のモンスターに囲まれた際にどうしても処理に時間がかかり危機に陥るだろう。それをいかにして改善するかが冒険者として大成するかの分け目になるだろう。

 仲間を作るのもよし。戦い方をかえるのもよし。それを見つけるのはゴリヴィエ自身だから口を挟まない。

「あの~、余りにも平然とランクB相当のモンスターを倒していたので疑問に思わなかったのですが…ゴリヴィエ様の細身でランクBの肉食獣相手に力で押し切れるんですか? いくら身体強化をしているからといって些か疑問が」

「勉強不足ですよ タルト。 別に特別な事はしておりません。『水』の魔法の身体能力強化をちょっと工夫すれば相手の身体能力を弱体化させる事だって出来るんですよ」

 その通りだ。自分の力を増大させて、相手を弱体化させる。そうする事でゴリヴィエは巨躯のモンスターを絞殺及び関節をバラバラにできるのだ。関節技の効果が薄いモンスターには、『風』の魔法で腕に纏わせて刃のように扱い首刈りをしている。

 サブミッションに魔法を組み合わせ実戦向きの戦い方である。

「し、知らなかった。じゃあ、私も身体強化が使えるので弱体化も使えるって事ですか!?」

「現状のタルトでは、魔力不足だ。やれたとしても、ガス切れで身動き取れなくなるのが関の山だ。だが、今後ゴリヴィエからの依頼を優先的に受けて貰えるならば、その願いを叶えてやろう」

 タルトの魔力では、身体強化で手一杯だろう。ランクCもしくはランクBくらいにまで成長したならば、身体強化と弱体化を併用活用しても息切れはしないと見える。

 タルトも亜人である。故に、スペック的にはそこらの冒険者より高いであろう。ゴリヴィエがモンスターを狩る横でパワーレベリングを強要させれば、三週間あればランクCは余裕だと思える。

 具体的には、ヤシの実を素手で圧壊させられる程度には力がつくだろう。

「レ、レイア様が優しすぎて逆に怖い。だけど、すごく魅力的!! お、お願いしても良いでしょうか」

「嬉しいわ タルト。じゃあ、今後は一緒に活動しましょうね」

 これで、ゴリヴィエの生存率が跳ね上がったな。

 後は、タルトを強化しまくってゴリヴィエの片腕として活躍できるようにしてやろう。まずは、モンスターソウルを与えまくって肉体的精神的に強化をしよう。その上で技術を身につけせる。

 本来、急造の高ランクは好ましくないのだが…技術面はゴリヴィエから指導させればいい。

 ゴリフターズが悲しむ要因を減らすべく、裏方で頑張る旦那って紳士だよね。

「では、タルト…ゴリヴィエがモンスターを始末している間に、お前は私が完全拘束したモンスターを刺し殺せ。これから三週間で最低ランクCまで力を底上げしてやる」

「ぶぅーー!! さ、三週間でランクCですか!! ランクD相当のモンスター相手でもヒィヒィ言っているんですよ」

 なんだ、ランクD相当とやれるならばランクBが目標だな。

「なんだ、ランクDを倒せるならランクBが目標な。とりあえず、荷物は全部を下ろせ。蟲達に持たせてやる。それと、武器は持っているな?」

「ら、ランクBって。武器は、一応ブロンズナイフを」

 青銅製のナイフなど、下層に生息するモンスターの外皮すら貫通できないぞ。タルトは、サポーターとして、それなりに稼ぎはあるはずだが…装備品にお金を掛けていないようだな。

「よろしくありませんね。タルトには、私が予備で持ってきたミスリル製のダガーをあげましょう。本当は、防具も渡せたら良かったのですが生憎と予備は持ってきておりませんので…」

 ゴリヴィエがミスリル製のダガーを渡した。ミスリル製ならば、大丈夫だろう。だが、問題は防具だな…サポーターとしては、戦闘に参加しないので布地の服でも問題ない。だが、モンスターを相手にする場合には万が一、があり得る。

 蟲達を影から呼び出す。

 50層台に生息する強靭な糸を出せる蜘蛛達と絹芋虫を呼び出して、タルトに合わせた服を作り上げる事にした。

「今からサイズを測るから動くなよ。……ゴリヴィエの分も作ってやるから、そんな顔で見るな」

「ありがとうございますレイア様。流石、ゴリフリーテ様やゴリフリーナ様を娶っただけの事はあります。女性に紳士なところ、素敵ですよ」

「気がつけば、私のレベリングが行われるだけでなく、装備一式まで提供される事になった。理解が追いつかない」

 蜘蛛達がゴリヴィエとタルトのスリーサイズを測定して、仲間に指示を送る。

ビビ(お二人のサイズ測定を終了いたしました。これから、下着も含めた衣服及び防具作成に入りますが…明日の朝くらいまでは、かかってしまいます)

もきゅう(女性の防具ですので時間が掛かるのは仕方がありません。本当は、お父様や奥様方以外の私の糸を提供するのは嫌なのですが、お父様の頼みなら仕方がありません。………別に、慰める為に撫でて頂いても構いませんよ)

 ナデナデ

 まぁ、衣服だけでなく蟲の外皮を使ったプロテクター入りともなれば仕方がない。ふたり分でもあるしね。

「とりあえず、明日まで掛かるらしい。時間も遅いので今日はここで休むとしよう」

 一日の移動で23層までしか進めないとは…いつもの半分程度以下である。まぁ、お荷物を連れての移動だから仕方がないか。

「そうですね。タルトは野営の準備をお願いしますね。私は、燃える物を集めてきましょう」

「あっ!! レイア様の分のテントも寝袋もご用意が……ついでに、食料も」

「不要だ。こちらの事は気にしないで構わない」

 だって、蟲達が今現在木々を切り倒してログハウスを作っているのだからね。大きさ的言えば山小屋みたいなものだが、迷宮内部で考えれば上等過ぎる。




 私が設営したテントの横に何故か山小屋が建っている。しかも、水が滴る音だけでなく、何やら香水のようないい匂いまで漂ってくる。さらに、窓からは清潔そうな真っ白なシーツが引かれたベッドが見える。

 こちらは、使い古したテントに寝袋…若干汗臭い。体を拭くタオルだって、所々黒ずんでいる。

「これが格差社会か…」

「流石は、超一流の冒険者ですね。実力もですが、野営に関してもここまで差を見せ付けてくれるとは」

 ゴリヴィエ様は感心されているが、これは冒険者の腕以前の問題だと思う。『蟲』の魔法が便利すぎるんですよ!!

 確かに、同じ事はこちらも可能ですよ!! 人と時間があれば、ログハウスだって作れますし、水だって魔法でなんとかできます。だけど、それを実践する人が居ないのは、労力に似合わないからなんですよ。

 だけど、唯一あちらに勝っていると自負できる物がある!!

 それは、食事だ!!

「意外と迷宮に生息している食物も美味しいですね」

「これでも、サポーター歴は長いですからね。料理には少し自信があるんですよ」

「レイア様にお裾分けでも致しましょう」

………
……


 えっ!?

お裾分けするという事は…レイア様の性格を考えれば、必ず向こうからもお裾分けがもらえるだろう。レイア様の食事って確か…いけない。それだけは、ダメですゴリヴィエ様。だが、なんと言って止めればいいのだ。

パワーレベリングや防具の無償提供、野営における見張りを全面的に引き受けてくれている大貴族のご当主様であるレイア様から分け与えられるであろう食用の蟲をお断りする方法などあるのだろうか。

 流石に無いわ。相手のご厚意を無碍にできるような立場じゃない。

「ほら、タルト行くわよ」

「は、はい」

 結局、回避策を思いつかないまま、レイア様がいるログハウスの扉をノックした。

 すると、純白のバスローブに身を包んだレイア様がそこにいた。お風呂上がりらしく水も滴るいい男とは、この事であると思ってしまった。

 容姿だけ見れば、本当にイケメンなのに…色々と残念である。

「レイア様、お裾分けです。よろしければどうぞ。もっとも、作ったのは全部タルトなんですけどね」

 私が作った野菜とキノコの炒め物が渡された。

「ありがたくいただこう。こちらもお返しに食料を提供してもいいのだが…蝗や卵はいける口かね?」

 せ、選択肢が増えていた!!

 蝗しかないと思っていたが、卵があるなんて!? ここは、断然卵の一択です。間違いありません。

「私は、どちら…」

「卵!! 卵をください!!」

 ゴリヴィエ様が蟲食をいける口だとは、予想外だが…私まで巻き込まないで欲しい。

 そして、レイア様から真っ黒な卵が渡された。なんでも、究極のダイエット食品らしく、丸ごと飲み込むといいらしい。これ一個で一日分の栄養素が全て摂れるみたいである。

 それが事実なら、サポーターとして食料準備が捗るどころじゃない。しかも、希望があれば市販もしてくれるらしい。これは、本気で考えてみようと思った。

「後、君達…少し臭いますよ。しばらく、外に居るのでシャワーを使って体は清潔にしておきなさい。雑菌から病にかかる事だってあるんです」

 臭いと言われて若干ショックである。だけど、レイア様がいい匂いを出しすぎなんですよ。おかしいでしょう!! なんで、迷宮だというのにマーガレットさん以上にいい匂いがするんですか。

 この後、レイア様からシャワーを借りたが…蟲の口から水が滴り落ちてくるのにはどうにも慣れなかった。蟲の体液で髪を洗い、体を洗い、垢擦りの代わりに蜘蛛を片手に持ちゴシゴシと体を洗う。最後に、蛆蛞蝓の体液を体に塗り込む。体に出来ていた細かい切り傷などが綺麗に治り、肌のツヤとハリが10歳若返ったようだ。

 しかも、蜘蛛達が用意してくれた真っ白で清潔なタオルで身を拭けて最高にいい気分だ。

「あぁ…まずいわ。これを味わったら元に生活に戻れなくなりそう。もう、蟲無しじゃ生きていけなくなりそう」

「気持ちは理解できるわタルト…だけど、窓から見えるテントに戻るのよ。現実を見なさい」

 それから、自分達のテントに戻ったが…本当に、臭かった。
レイアが優しすぎると思えるかもしれませんが、妻からの頼みである事が大きいです。更に、シャワーまで貸したのは…純粋に臭かったので。同じパーティーにいて仲間が臭いとか…自分まで臭く思われてしまうじゃありませんか。


おや、ゴリフのスリーサイズが昨日より少し大きく(´・ω・`)
おかしいな、蟲達が測定を誤ったかな。
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