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第三十話:ゴリフ爆誕(1)
◆一つ目:ゴリヴィエ
◆二つ目:タルト
◆
「絶対に嫌です!! 何度もいいますように、私より弱い方と婚姻する気は、全くございません」
毎度毎度の事だが、実家に帰る度に両親が婚約をしろと急かしてくる。無論、貴族である以上、理解はしている。だが、理解しているからといって納得しているとは別問題だ。
それに、全くタイプじゃない男性と婚姻させられるくらいなら冒険者として生きた方がマシである。
「まぁ、そう言うでない。家柄も当然だが、仕事が出来るだけでなく冒険者としてもランクCという逸材だぞ」
「話になりません。では、私は『ウルオール』近衛騎士団の副団長としての仕事もありますのでそろそろ職務に戻らせていただきます」
この私、ゴリヴィエ・バイ・メディアル。『ウルオール』のメディアル公爵家長女にして、国王側近の近衛騎士団の副団長を務めている。周囲からは、親の威光だの言われているが、実力で勝ち取った地位である。具体的には、前副団長との一騎打ちにて相手の全身の骨を粉砕して手に入れたのだ。
近衛騎士団において唯一の女性であるだけでなく、母親が現国王の妹でもある。故に、ゴリフターズと至宝の双子と従姉妹の関係なのだ。要するに…誰もが振り向く美少女である。
「この見合いを受けないと言うならば、圧力をかけて副団長を解任させる事だって視野に入れているんだぞ」
「そこまで、私の生き方に口をはさみますかお父様。いいでしょう…解任でも何でもしてくれて結構!! 実家の後ろ盾がなくとも一人で生きていけますので。長い間、お世話になりました」
幸い、長男である兄も居るので私が実家を飛び出たところで家が途絶えるわけでもない。それに、兄にとっても私が居ない方が何かと都合がいいでしょう。貴族社会では、血を分けた兄妹であっても家督を継ぐ為ならば暗殺なども普通にある。
「まだ、話は終わってないぞ!! 待ちなさいゴリヴィエ」
待てと言われて待つ者などいない。私は、この日がいつか来るだろうと思い、いつでも実家を飛び出せる準備をしていたのだ。今後の計画も万全である。
世話になった家の者達に挨拶を交わして実家を飛び出た。
………
……
…
馬車に揺られる事、二日…目的地である『神聖エルモア帝国』のレイア・アーネスト・ヴォルドー侯爵が治める領地に着いた。領主が住む家に前に来てみたが…冷や汗が止まらない。
万にも及ぶ視線が私に向けられているのだ。
擬態能力に優れた蟲達が屋敷に訪れる者を見つめているのだ。それに気づけるだけでゴリヴィエは優秀だと言えよう。
「大丈夫。別に悪い事をしに来たわけじゃない。ただ、お姉様達にご挨拶とお願いをしに来たんだ。おっし、完璧!!」
身だしなみを整えて、候爵家を訪ねた。
………
……
…
客室で待たされる事、数分。お茶とお菓子を乗せたお盆を蟲が運んできた。
剣魔武道会の時に『蟲』の魔法を見せてもらいましたが…こんな使い方もあるのですね。それに、何やらプラカードを掲げている。「ゆっくりしてってね~」と書かれている。
「ありがとう。賢い子ね」
お盆を受け取り、部屋を退出する蟲を見送る。
普通の人間を使うより信頼できるし、空き巣や強盗、スパイ対策にもなりそうね。まぁ、この候爵家に良からぬ事を考える愚か者がいるとも思えませんけどね。
ランクA二人にランクAに近いランクB…こんな三名がいる領地に手を出したら、報復でペンペン草すら生えない大地に変えられてしまうだろう。小国なら一週間程度で灰に出来そうだ。
お茶を飲んでいると、客室にゴリフリーテ様がやってきた。
相変わらず美し……あれ?
「久しぶりですね。ゴリヴィエ…どうしました? 淑女がそんな大きな口を開けて固まるものではありませんよ」
「ど、どういう事ですかゴリフリーテ様!! 私が、夜なべして編んだビキニアーマーを何故着ておられないのですか!? ゴリフリーテ様の美しい肉体が一番美しく見えるようにプレゼントしたのに」
実は、この私…筋肉が大好きなのだ。
特に、ゴリフリーテ様やゴリフリーナ様のように迷宮上層のモンスターを撲殺出来るくらいに逞しい筋肉が大好きだ。もう、その分厚い胸板で抱きしめられただけで鼻血が止まらなくなる自信があるくらいに。
「相変わらず、騒がしい従姉妹ですね。あの服は、露出が多すぎると旦那様が。まぁ、夜の生活で着る事はありますよ。だから、決して着ていないわけでは、ありません」
「酷い、酷すぎます。それに、聞きたくなかったそのセリフ!! まぁ、お姉様の筋肉成分が補給出来たので良しとします」
ゴリフに抱きついて、匂いをクンカクンカするエルフの美少女…色々と終わっている。
人の趣味は、人それぞれだ…世の中、筋肉マニアのエルフ美少女が居てもおかしくない。世の中、筋肉ムキムキのマッチョがエルフ美少女の事を大好きという事だってあるのだ。その逆があってもおかしくないのは当然である。
あ、鼻血が。
「ゴリフリーナ様は、どちらに?ご挨拶と熱い抱擁をしたいのですが」
「うちの領地を通過する馬車定期便を襲った不届き者がいたので、賊が潜む山ごと開拓しているところです。夕方には、戻る予定なので良ければ泊まっていきなさい」
お姉様の家に泊まる…人妻、筋肉、お風呂、手料理、川の字で寝る!!
「もちろんです!! お背中お流し致しますわ!!」
完全に本来の目的を忘れているゴリヴィエであった。
◇
『ネームレス』のギルド本部にある応接間に座らされている。
対面には、エルフの美少女…何処かで見た事があると思えば、『ウルオール』の国王様に「娘さんをください」と言った時に居た近衛騎士団の副団長様であった。
「へぇ~、ゴリヴィエは妻達の従姉妹だったんだね。実力は、十分だし当然だね。数年もすれば団長の座も見えただろうに」
「実家から縁談を受けねば、圧力を掛けて副団長を解任すると言われて、嫌気が差して逃げ出しました。勿論、貴族である以上、政略結婚が必要なのも理解しておりますが…納得できるかどうかは別問題です!! 好みでもない男に嫁ぐくらいなら冒険者として暮らしたほうが遥かにマシ」
おかしいな…似たような展開を以前も聞いた事あるぞ。王族の血筋というのは、どいつもこいつもこんな輩ばかりなのか。大丈夫か、王族!!
「それで、私に何をして欲しい? 愛しい妻達からの頼みだ…要望に応えよう」
実家を任せっきりの愛する妻達の従姉妹が自分達を頼ってきたので力になって欲しいと言われれば応えてあげるのが、紳士である。妻達からのお手紙も持ってきてもらったしね。
「はい!! 実は、私もっと筋肉を付けたいんです」
「………はい?」
おかしいぞ…いま、何かおかしいセリフが聞こえたぞ。
いやいやいや、きっと聞き間違いだ。控えめな胸板を大きくしたいと事なのであろう。淑女だから遠まわしに表現したに違いない!!
「ここだけの話、実は私…ゴリフリーテ様やゴリフリーナ様のような美しい筋肉が大好きなんです」
「ふむ、確かに理想的な美しい肉体をしていると思うよ」
まぁ、男性としてはあれに憧れる人も居るのは理解できるが…女性であれに憧れる人がいるのは若干理解に苦しむ。だが、人の性癖に口を出すなど紳士じゃない。
「お分かりいただけますか。流石、お二人の旦那様です。レイア様には、『モロド樹海』下層でモンスター討伐の指導をしていただきたいのです」
「指導?レベリングではなく?」
「レベリングでは、本当の実力が身につきません。私は、今現在ランクCではありますが、ランクB相当のモンスターを粉砕する自信があります。故に、レイア様には私自身に危険が及ぶ場合や倒せないモンスターが出た場合にご助力をお願いしたい。勿論、報酬もご用意致します」
ふむ…レベリングではなく、高ランク冒険者の付き添いが欲しいという事か。まぁ、構わないだろう。洗練された雰囲気からランクB相当…恐らく30層程度までなら苦戦しないだろうと見受けられる。ランクCというのが嘘みたいに感じる。
「いいだろう。但し、男女二人で迷宮に潜るのは、いくら妻の血縁者だからといってよろしくない。食事の都合もあるだろうし、女性のサポーターを雇い給え」
「私は、別に気にしませんのに…そうですね。ゴリフリーテ様やゴリフリーナ様を悲しませる事は私としても遺憾なので、分かりました。ちょうど、顔見知りが『ネームレス』でサポーターとして活動しているので捕まえてみます」
◆
ここ最近、依頼に恵まれすぎていて怖いくらい。こうも連続で当り依頼を引き続けるといつか厄を引くのではないかとビクビクしてしまう。
そして、今日も良い依頼に巡り合うために、ギルド本部を訪れた。
………はっ!! マーガレット嬢と目があった。
これ幸いと、嬉しそうな顔で距離を詰めてくる。逃げ出せばいいのだが、逃げれば更に碌でもない事をやらされる気がする。
「タルト様、ご指名のご依頼があります。少し、あちらでお話ししませんか。そんな、嫌そうな顔しないでくださいよ。大丈夫です、ほら怖くない。美味しい依頼ですよ」
「うぅぅ、嫌だけど。美味しい依頼と言われて釣られてしまう自分が悲しい…」
マーガレット嬢に連れられて、受付の隅っこに来てみれば…懐かしい見知った顔がそこに居た。
「久しぶりねタルト」
「ぶーーーー!! ゴリヴィエ様!? なんでここに!? 近衛騎士団の副団長のお仕事は!?」
ゴリヴィエ様は、母の職場である公爵家のご令嬢なのだ。子供の頃は、母に連れられてよくお屋敷のお嬢様であるゴリヴィエ様と遊んだ。今でも蘇る「タルト~、痛かったら言ってね」と言われてサブミッションの実験台にされた記憶…あばばばばばばばば。
「騎士団? お父様の圧力で首になったわ。今からは、冒険者としてやっていくつもりよ」
「そ、そうなんですか。もしかして、もしかすると…今回の依頼内容って」
『ウルオール』の近衛騎士団の副団長であったゴリヴィエ様にサブミッションを決められてしまったら、死んでしまう。生きていたとしても重度の障害が残ってしまう事は間違いなし!!
「いや~、お願いですからサブミッションだけは許してください」
「何を言っているのかしら? 落ち着きなさい タルト!! 貴方には、私のサポーターを依頼したいのよ」
「『モロド樹海』のですよね? それならそうと先に言ってくださいよ。もう、ゴリヴィエ様もお人が悪い。じゃあ、ここにサインしますね」
『ウルオール』公爵家の長女が率いるパーティーのサポーターだ。確かに、美味しい依頼である。依頼料は、小額であろうとも問題ない。それ以上に、大貴族とコネができるという方が美味しいからだ。
「タルト様…いつになく素直にサインなさいますね。私が依頼を斡旋する時は、サインを渋るのに何故か釈然としません」
「そりゃ、前科が沢山ありますからね。…はい、サインしましたよ」
契約書にサインをしてマーガレット嬢に渡す。「罠にかかりよったわ、バカめ」と言った顔をするマーガレット嬢を見て嫌な予感がした。
「これで、女性サポーターも確保できましたね。出発は、明日の朝一番ですので準備の方は任せますよ タルト」
「えっ!? 急すぎませんか? 滞在期間とパーティー人数に応じて食料などの準備も必要なので一週間くらいの準備期間が…」
「食料は、とりあえず私とタルトの分だけで構いません。滞在期間は、私が飽きるまでです。詳細は、契約書に書かれていたはずですが読まずにサインをしたのですか?」
大貴族様からの直々のご依頼という事で殆ど読まずにサインをしてしまった。だが、雰囲気的に読んでいないとは言えないので読んだ事にして話を合わせた。
食料が二人分でいいという事は…まさかと思うけどゴリヴィエ様と二人で迷宮入りするという事なのか。ゴリヴィエ様の実力を疑うわけじゃないが、不安が残る。
ランクCがサポーターと二人で潜るという事は、上層だよね!?
「明日から迷宮下層です!! 下層を既に経験した事があるタルトには期待しておりますよ。食事的な意味で」
「いくら、ゴリヴィエ様でも初見で『モロド樹海』下層をソロとか無理ですって死んじゃいますよ!! 」
「安心しなさい タルト。私とて迷宮を侮っているわけでは、ありません。他のメンバーは明日合流する予定です」
あぁ、そういう事ですか。きっと、明日合流するメンバーにもサポーターが居て準備をしてきてくれているのだろう。だから、二人分で良いと言ったのだろう。
納得した。二人分なら明日までに何とか出来るだろう。
「分かりました。では、明日の朝一にトランスポート前でお会い致しましょう。食料などは、とりあえず三週間分用意してまいりますね」
「えぇ、任せるわ」
この迷宮探索でタルトは目撃する事になる。エルフの進化の可能性を。
ゴリヴィエ…筋肉を愛する美少女。理想的な筋肉の持ち主なら男女問わず、恋愛対象である。要するにHENTAIという名の淑女。
パッシブスキル:進化キャンセル妨害
という半分冗談な設定を書いてみた。
次回は、迷宮でのお話です@@
レイア:蟲達が作ったログハウスで安全で快適な住まい。蟲達が周囲を警戒。
優雅にお食事(蟲食)。更に、全部蟲産だが水が使いたい放題、シャンプー/リンス/ボディーソープなどなんでもござれ。
タルト達:基本テントかシーツを敷いて地面で寝る。交代で見張り。
現地調達された食材を調理。タオルで体を拭く程度。
格差社会を見せつける予定。

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