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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第二十九話:特別講師(4)

忙しくてなかなか執筆ができなかった><

 ここ最近、毎日のように講義後に「これ、一生懸命作ったんです。よろしかったら、食べてください」と言われて昼食が入ったバスケットを受け取っていた。

最高級の宿屋の食事や王宮に召し使えている料理人並の腕前を持つゴリフターズの美味い料理に舌が慣れている私にとっては、世辞にも美味しそうには見えず…、蟲達へのご飯なのだろうと思った。

なぜなら、大貴族であり高ランク冒険者の私に渡す弁当としては余りにもお粗末だったのだ。時間が経っても美味しく食べられる工夫がなされていない。栄養面が考慮されていない。ただ食材を混ぜ合わせただけのような物を料理と言っていいのか微妙である。

故に、蟲達のご飯と判断した事は間違っていない。

私からではなく、外堀の蟲達から穴埋めしていく作戦を取るとは恐ろしい程のやり手だ。正直、女性陣営に驚きを隠せない。だが、一番驚いた事は…・蟲達に弁当を与えるにあたり、蛆蛞蝓に安全性を確認して貰ったら睡眠薬や媚薬といった類の薬品が検出された事だ。

一体何を考えてこんな事を…

「…はっ!! 間違いない!! これは、文字通り体を張って蟲達を虜にして私に取り入ろうという意志の表示!? 最近の女性は、恐ろしいな…本当に捨て身で実家に尽くそうとは」

 いいだろう。蟲達に身を捧げるのだ…贄になった者達の名前はしかと覚えておこう。そして、贄の実家とはお互いがwin-winな関係になれるように努めていくとしよう。具体的には、モンスターの大発生や凶悪な賊などが出た場合には安価で処理を引き受けてあげましょう。

 他にも暗い夜道を歩いていたら、裏路地に私を引き込もうとする女生徒も居たので処理しておいた。更に、夜の安眠を妨げに来る屑も居たり…本当に死にたがりが多すぎて笑えない。



本日で講義も最終日、教室に居る人数は18人しかおらず半数以上の生徒が席に座っていない。もっとも、冒険者育成機関全体で見れば行方不明者は、50人以上を超えている。だが、私の講義を受講する者達にその事を気にする者は誰も居なかった。

 なぜなら、残った生徒達は私の熱意が伝わった優秀な者達だからである。

「俗に言うMPK(モンスターピーケー)をしてくる者及びパーティーが壊滅状態になってモンスターを引き連れて逃げてくる者に対しての正しい対応について、答えてもらいましょう。先日、教えてたところの復習です…39番」

 39番…私の講義を受ける数少ない男性生徒。紳士な気配を漂わせているあたり将来期待できそうな人材だ。顔は覚えたので、『ネームレス』を拠点で活動するのならば名前を覚えてあげてもいいだろうと思っている。

「はい!! どちらの場合でも近づいてくる者を拘束又は殺害をします。そして、全力で反対方向へ逃亡致します。時間が経ってから、周囲を警戒しつつ元いた場所に戻り遺留品の回収を行います」

 実に見所がある。

「よろしい。その対応で正解だ。どちらの場合でも、自らのパーティーに危険が及ぶのは事実。遺留品の回収まで考慮しているあたり、君は見所がありますよ。良いパーティーリーダーになるでしょう。リーダーは、常に冷静は判断が求められます。他の人達も無闇に人を助けるのが正しいなんて思い込みは捨てるように」

 「拘束する必要は、ありませんね。殺しておかないと、追いかけてくるかも」とか「遺留品を回収して副収入か、盲点だったわ」など実に嬉しい意見が飛び交う。

 ふむ…こんな素直な生徒達ばかりなら本気で就職してもいいかもしれないと思ってしまった。講師としてもやりがいを感じてきた頃だが、残念な事に本日の講義もあと数分で終わるのだ。

 最後にこの場にいる全員にサプライズなプレゼントを用意してきた。

「名残惜しいですが、本日の講義もこれでおしまいです。短い期間でしたが、私の講義が君達の将来に繋がればとても喜ばしい事です。さて、最後に私から君達にプレゼントを用意いたしました」

 何やら、期待の眼差しが浴びせられているが…一級品装備とか高価な物じゃないぜ。

「君達にプレゼントするのは、用語集です。ですが、これをただの用語集と思ってはいけません。ここに書かれている言葉を口にしただけで、死の運命を呼び寄せた者達は数しれません。では、今から皆さんに配りましょう。私がこの部屋の居る時に確認する事は、許しません」

 そして、迷宮下層の蟲の外皮を鞣して作ったハードカバー入りの手帳を配った。これを懐に入れておけば、弓矢程度なら通しもしないだろう。

 全員に配り終えて、最後の挨拶をした。「生きていれば会う事もあるだろう。良き冒険者ライフを」と言って教室から立ち去った。

キュピーン キュピーン キュピーン キュピーン

 嫌な程、蟲の知らせが聞こえてくる。無論、想定の範囲内であった。なぜなら、死亡フラグ全集の手帳を貰った生徒達が死亡フラグ用語集を音読しているのだ。これが、何を意味しているかと言えばただ一つ!!

 この場に脅威が迫っているという事だ。



 私は、帰りの支度をして待っている蟲達の下へ駆けつけた。迷宮を美味しく楽しんだおかげで全員が一回り大きくなっている。育ち盛りだとは思うが…食べ過ぎは良くないと思うよ。

 そして、全員を影の中に回収をした。

 『試される大地(笑)』から蟲達は消え去ったが、荒らされた痕跡は痛々しく残っていた。腐海と化した迷宮は、濃い毒素が立ち込めており鍛え上げた高ランク冒険者でもなければ一日と生きられない環境だ。

 現に、『試される大地』に元からいるモンスター達は、毒素から逃げられずバタバタと死んでいっている。まぁ、モンスターが迷宮で死ぬ事は当たり前だ…気にする事でもあるまい。

 そして、迷宮から馬車の停留所まで移動した時に事件は起こった。

『緊急警報!! 冒険者育成機関より北に5kmの地点にてモンスターの集団を確認しました。これより全ての門を閉鎖し、モンスターの侵入を防ぎます。住民の皆様は、安全の為、指示に従い避難してください』

 『風』の魔法を用いた警報…拡声とは、存外便利だね。

 だが、モンスターの集団ね。まさか、私が本来受けようとしていた殲滅依頼じゃないだろうね。それは流石に無いと信じたいね。二週間程度経過している事から、モンスターの戦力も規模も大きくなっているだろう。下手したら…並のランクBでは手に余る。

『教師各員及び最上級生は、戦闘準備をした上で、10分後に中央広間に集合してください』

 教師陣営は、元ランクBや元ランクCがゴロゴロいるはずだから半数くらい死者を出す覚悟なら大丈夫だろう。だが、生徒まで駒に使う気だというのが若干頂けないね。教師は、生徒の為に命を張るものだろう。高い給料を貰っているんだ、そのくらい自己解決して欲しいものですよね。

 まぁ、関係ないけどね!!

 指示に従い逃げる連中を眺める最中、モンスターの集団がどれ程の物かを確認すべく偵察の蟲を放った。

………
……


『教師各員及び最上級生は、戦闘準備をした上で、大至急中央広間に集合してください』

 再び、警報が鳴り響く。

「まぁ、そんな馬鹿な事に付き合う程の愚か者など講義を受けた連中には居ないだろうがね。そうだろう?最上級生諸君」

 拡声魔法で警報されると同時に冒険者育成機関を飛び出して、私が居る馬車停留所まで一直線でやってきた生徒18名。全員が、己が理想とする最善の装備でこの場に揃っている。

「その通りです!! 我々18名は、たまたまレイア先…いえ、レイアさんが行かれる場所と同じ場所へ偶然向かうだけですのでお気にせずにお進みください」

 そう、私は既に先生はないのだ…故に、集合する義務もない。もっとも、暇であっても受けてあげないけどね。依頼は、ギルドを通すのがルールですからね。

「くっくっく、実に良く出来た者達だ。まぁ、行き先が同じならば勝手に付いて来ても問題ない。さて、『ネームレス』まで帰るとしよう。この場所は、西の門から抜けていくぞ。優秀な生徒諸君へのサービスだ…走る速度は、調整してやろう」

「西に行くという事は、北からの襲撃が罠という事ですね。このような戦術を使ってくるとは…最上位クラスのモンスターがいるのですね」

 ほほぅ、よく勉強している。本来、ランクBになってから学んでもよい事を知っているとは若干驚きだ。

 気に入った!!

 本来、覚える気がなかったが、気が変わった。

「私の講義もよくメモをしており、しっかりと聞いていたね。名前は、何という?」

「ローウェル・タークスと言います!!」

「いい名前だ、覚えておこう。ローウェルの推測通り。相手には、ブラッドジェネラルオーガとオークセンチネルといった知恵の回るモンスターがいる。迷宮でも45層~50層あたりで出るランクB相当のモンスターだ」

 更に言えば、こいつら迷宮外では人間を盾にして矢や魔法を防ぐ外道手段を平然と取る鬼畜集団。故に、集落が何個も犠牲になっている。そして、今現在も生きた人間達を盾にしてここを目指してきていると偵察に出した蟲から情報を受け取った。

「教師陣営が半数犠牲に全滅させられる規模だと思ったが…こりゃ、半数犠牲になっても足止め程度だな。まぁ、問題あるまい。こういう討伐は、軍のお仕事だ。私が出張ってしまっては、軍が仕事を怠けて血税を貪る屑と罵られてしまう。故に、ここが囮になっている間に撤収するぞ」

「「「「「分かりました!!」」」」」

 私を先頭に後ろから、ぞろぞろと生徒達が勝手に付いてくる。

 西門は既に閉鎖されていたが、全員が己の魔法や技術を駆使して壁をよじ登り外へと脱出した。




 いつもどおり、ギルド本部は冒険者達が屯っていた。

 そんな中、後輩が慌てて裏からやってきた。

「大変です。マーガレットさん!! 今、ギルドに速報が入りました。冒険者育成機関がモンスターの集団と交戦中。ランクB相当のモンスターが複数確認されており、至急応援求むとの事です」

 モンスターの集団を聞いて、今も売れずに残っている依頼を思い出した。本来なら、レイアが受注する予定だったモンスター殲滅依頼。ソロのレイアやペアのエーテリアとジュラルドならば美味しい依頼だが…大規模パーティーになれば、まずいとしか言えない依頼。

「となれば、軍が動くわね。…それまで、無事ならいいけど」

「でも、冒険者育成機関って今現在レイア様がいらっしゃいませんでしたっけ?レイア様ならモンスターの集団程度、すぐに…」

「動かないわよ、絶対に。それどころか、我関せずと決め込んで、今頃『ネームレス』付近にでもいるんじゃないかしらね」

 レイア様は、規則やルールに煩く…余程の気まぐれでもない限り、基本的に順守する。故に、ギルドを通しての依頼を正式に受注しない限り動く事は無いだろう。

 以前に、レイア様が善意で集落を襲い続けるモンスターを殲滅した事があったが…ギルドは、報酬を支払わなかった。殲滅依頼があったにもかかわらず、契約を交わしていないのだから報酬が出ないのは当然だろうと言ったのだ。

 その時、レイア様は「それは、失礼した。恥ずかしながら、こちらがルール違反をしてしまったか…違反金は、その依頼料の10倍でいいか?」と言って大金をギルドに置いていった事がある。

「いえ、まさか…貴族のお子様達が居るんですよ。恩を売っておいて損は無いじゃありませんか」

「レイア様は、恩を売る側では無く売られる側にいるのよ。おまけに、すぐそこに居るんだもの…お帰りなさい レイア様」

 後輩と話しているうちにギルドに大人数で訪れてきた。恐らく、冒険者育成機関の生徒だと思われる。

「私が居ない時に陰口とは酷いね マーガレット嬢。今回の依頼の報酬を頂こう。後、あの連中に宿の手配を頼む。代金は、全額私が持とう。とりあえず、一週間程度でいいだろう」

「お手つき自由とは申しましたが…まさか、お持ち帰りしてくるとは」

 中には男性までおり、英雄、色を好むというが…そういう物なのだろうか。それにしても、あのレイア様が宿代まで自腹を切るとは余程気に入ったのだろう。

うーーん、見る限り容姿の水準は高いが絶世の美少女と言えるような者は居ない。むしろ、私の方が美人であると自信を持って言える。

「何を言っている。依頼にあった『間引き』は、既に冒険者育成機関で終えてきた。私の忠告を無視する生徒や蟲達に進んで身を捧げる生徒が居たりと…本当に大変だったぞ」

「そうですか…うむ?」

 今、何かオカシイ発言が聞こえた。蟲達に進んで身を捧げた生徒がどうとか…。それに、『間引き』とは何の事だろうか。『逢い引き』の聞き間違いだろうか。

「マーガレット嬢…次からでいいが、依頼内容は出来るだけ簡潔で分かりやすく頼むよ。私が、生徒の『間引き』という真実に至らなかったら依頼達成出来なかったんだからね」

 とてつもなく、嫌な予感がする。

 せ、生徒の間引き…何を言っているのか理解したくない。まさか、お手付きという意味を女生徒への性的な交渉自由という意味でなく、別の意味で捉えたというのか。

………
……


いや、そんなハズは無い。だって、壊さないと依頼を受ける際に約束してくれたのだ。故にどんな勘違いが起きると言う。

そうだ…確認しよう!!

「レ、レイア様。確か、依頼を受ける際に壊さないとお約束をしていただけた気がするのですが…」

「あぁ、『試される大地』なら一応無事だ。蟲達がバカンスに利用したから、『モロド樹海』下層に近い環境になっているが半年もすれば生態系は回復するだろう。約束通り、壊さないでおいた」

 ダメだ…やっぱり、どこかで勘違いされていた。

まさか、お手付き自由を「迷宮を自由に使って良い」と言う意味と「使えなさそうな生徒を殺してくれ」な意味で捉えられたとは予想外もいいところだ。一体、何をどう勘違いすればそのような結果に至るのか、教えて欲しいくらいだ。

だが、起こってしまったものは仕方がない。故に、後処理をしないとギルドが責められる。

………
……


 冒険者育成機関が…襲われているからには、死亡者も出ているだろう。だったら、多少水増ししても問題ない!!

「そ、そうですか。では、報酬はこちらになります。では、私共はこれから色々とやる事が出来ましたので、これにて失礼致します」

「あぁ、忙しそうだから長居はしないさ。それでは、また来るとしよう」

 こちらの気苦労も全く気付く事なくギルドからレイア様が立ち去る。

 宿の手配に、冒険者育成機関の死亡者水増しの裏工作などやる事が山積みで頭が痛い。

 静かに逃げ去ろうとしている後輩の首根っこを掴んだ。

「先輩をおいて逃げようなど、全く誰に似たのかしらね」

「それは、マーガレット大先輩ですよ」

 こいつは、なかなか有望な後輩だと思った。
これだけの生徒が生き残るとは、まさに黄金世代といっても過言じゃないでしょう。
将来、ランクBになれる逸材たちだわヽ(´▽`)/


さて、次回は、ゴリフ爆誕です。

新しいゴリフのお名前はゴリヴィエ
(※進化前の容姿は、某魔法少女の○リヴィエ・ゼーゲブレヒト似です)
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