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第二十八話:特別講師(3)
◆一つ目:生徒視点
『試される大地』は文字通り『試される大地(笑)』に蟲達の手足によって急ピッチで改造されている。『モロド樹海』の下層でも勝るとも劣らないダンジョンになるだろう。
蟲達がリゾートを開発中の最中、私はお仕事を真面目にこなしております。現在、二日目の講義を実施中である。
「では、冒険者として他の冒険者もしくは一般人に迷惑をかけた場合や不快な思いをさせてしまった場合の対応を教えましょう。ですが、その前に皆さんがどういった対応を行うか教えていただきましょう。12番の人」
先日、私を昼食に誘った女性陣のリーダーらしき人物を指名した。
突然当てられた事で若干戸惑っているようだが、普段から習っている事を復唱すればいいのだ。難しい事では、あるまい。
「どの程度のご迷惑をお掛けしたかにもよりますが、基本的に謝罪を行った上で一食もしくは、一番高いお酒を振舞うという誠意を示します」
「………えっ!? それだけですか? 迷惑料もしくは御心付けもしくは指導料などについては?」
「謝罪を行っておりますし、一食ご馳走するというので誠意も示しているので必要ないのでは?」
一食…ギルドの酒場で一番高いメニューでも1500セル。酒は、程々に高いのがあるが一本数百万セルといった最高級品はない。
そもそも、金をもらって命を張っている職業の冒険者が…飯や酒を奢ってもらって嬉しいはずがない。そんなの、金を貰って自分で買えばいい。
世の中、お金ですよ。金が全てとは言いませんが、金があれば大体の事は解決する。
「これだから、一年で半数になるんだよ。いいですか、どのような場合でも迷惑をかけたらそれ相応のお金を包むのが常識です。参考までに、私は帝都への馬車定期便の扉を壊して10分ほど運行を停止させた事があります。その際に、馬車の修理費と乗客6名に迷惑料を合わせて1000万セルを包みました」
「た、高いです。一体どのような基準で金額を決めているのでしょうか?」
「良い質問です。迷惑料というのは、払う側ではなく受け取る側が納得する価格でなければいけません。故に、相手がどのような人なのかを見極める必要があります。極端な例ですが、ランクAと一般人の方に迷惑をおかけしたとしましょう。お二人に対して同じ金額をお渡ししたらどう思われますか?」
「それは…あまりよろしくない気がします」
そう、その通りです。ランクAともなれば稼ぎが桁違いです。そんな雲の上の人に迷惑をかけたのです、死んで詫びるかそれ相応の金を包むのは当然。一般人には…100万セル程度でいいでしょうがね。
「分かっているじゃありませんか。参考までに教えておきましょう。私の経験上、一般人は100万、ランクEは50万、ランクDは100万、ランクCは200万、ランクBは800万、ランクAは2000万程度が妥当でしょう」
まぁ、ランクAに迷惑を掛けるような事態は今までなかったが、この程度の額が妥当であろう。
「………じょ、冗談でしょうか。その金額設定は、余りにも」
私やエーテリアやジュラルドならば同じような金額を言うだろうし、常識的な料金設定です。事実、貰う側が納得する金額は、このくらいが必要です。
一般人がランクEより高いのは、有象無象のランクEより重要度が高いからです。ランクEなんかより経済を回している一般人の方が大事に決まっている。
「高くはありません。私は、ランクBですが…800万以下の金額だと舐められていると感じますね。冒険者である以上、月収は安定しておりませんが平均して1~2億セル程度は稼ぎますよ。そんな人に迷惑を掛けた場合には、もうお金で解決するしかありません」
「万が一払えない場合には、どうなるのでしょうか」
「そもそも、迷惑を掛けないようにするのが一番です。しかし、掛けてしまって迷惑料を払えない場合には、死んで詫びましょう。高ランク冒険者にもなれば、みんな紳士の方が多いです。死んで誠意を見せれば、許してくれる人が多いです」
新人には、きついかもしれないが…頑張れとしか言えない。だが、金で解決出来るうちはまだマシだと思うのよね。
「あ、ありがとうございました」
「いえいえ、君達にとっていい勉強になったのなら教師として嬉しい限りです」
さて、これで本当に理解してくれれば嬉しいのだがね。
◇
「では、本日の講義も終わりに時間が来ますね。では、最後に迷宮で一番恐ろしい敵を教えてあげましょう。さて、迷宮で一番恐ろしい敵とはなんでしょうか。40番の人」
何処の迷宮にも居る、とっても危険な存在。故に、言われねば気づきにくい。だが、冒険者育成機関でしっかりと教えられていると信じて40番の男性を指名した。
「ど、毒を使うモンスターでしょうか」
「まぁ、毒も確かに脅威でしょう。ですが、違います。迷宮での一番の脅威は、無能な味方です。これは、有能な敵以上に脅威です」
どの世界でも共通なのだ。無能な味方ほど怖いものは居ない。しかも、何故か無能な奴ほど人脈があって地位が高いなんて事もザラなのが怖すぎる。特に、軍部上層部に無能なんて居た日には、泣きたくなるね。
「そ、それはどういった意味でしょうか?」
「この無能の意味は、戦闘面だけの事を意味しているわけではありません。無能が居るだけでパーティー崩壊に繋がるのです。戦闘で言えば、指示を無視して勝手な行動。戦闘以外では、他パーティーと揉め事を起こすなど挙げればきりがありません。そのような者がいる場合には、即刻追放するべきです」
「それだと、メンバーとの関係に亀裂が」
「では、無能を抱えたまま死んだほうがいいと。一つしか無い命を散らしたいのでしたら構いませんが…死にますよ。割と本気で。実際、無能のせいで潰されたパーティーをこの目でいくつも見ております。故に、パーティーメンバーについては、卒業する前に今一度、見直す事をオススメいたします」
無能がいると、以前の新人冒険者達のように迷宮の道標として生涯を過ごす事になってしまいますよ。優しい私だから命までは取りませんでしたが…他の冒険者なら殺されていたはず。
さて、本日の新人の為になる講義は終了した。
時間もちょうどいいし、切り上げるとしよう。
「それでは、皆さん。時間も来ましたので本日の講義もここまでに致します。後、講義の内容を皆さんは、冗談半分だと思っているでしょう。しかし、そんな軽い気持ちでいると一年と言わず半年で死にますから気をつけてくださいね。そして、私は講義以外では君たちの先生でもありませんので、適切な対応をお願い致します。仏の顔も三度までと言いますが、私は仏ではないので二度目はありません」
最後に警告まで付けてあげた。ここまで紳士的な対応をしてあげたのだ…どうか、私に手を上げさせないでくれ。
そして、本日の講義が終わった。
◇
『試される大地』…今では見る影もない程になってしまった。数十万単位の迷宮下層の蟲達が住みやすい環境に作り替えたのだ。たった一日でここまで作り上げるとは、恐ろしい建築能力。
迷宮内部に踏み入れてみれば、蟲達がお出迎えに来てくれた。
モモナ(お帰りなさい、お父様。本日もお勤めお疲れ様です。幼い子達のメディカルチェックを行っておりますが、今のところ皆さん健康体で何よりです)
ピピイ(聞いてくださいお父様。水浴びを覗いた子達がいるんですよ)
ギィギィ(お父様、僕達が初めて倒したモンスターの戦利品。貰って貰って)
可愛い蟲達を撫で回してあげる。全く、可愛いな。
私が居ない間、バカンスが楽しめたようで何よりだ。まだ、日程は残っているので存分に楽しんで貰いたい。
「そうかそうか、みんなが楽しそうで何よりだ。さて、私も混ぜてもらおうかな」
可愛い蟲達と遊ぶべく、迷宮へ駆け出した。
◆
僕は、感動した。
今まで、冒険者育成機関で習っていた事が、どれだけ無意味な事だったと理解した。これが、迷宮で生き残る術なのだ。言われてみれば、当たり前の事だ。だが、それを教えない教師陣営は何を考えているのか理解出来ない。
そう…迷宮は、お遊びじゃないんだ。
レイア先生の講義は、まだ五日もある。一字一句メモをして何度も読み直そう。そうすれば、きっと僕も貴方のような素晴らしい紳士になれるはず。
「手始めに、パーティーメンバーを編成し直そう。それと、適度に使えて、宝箱開け専門の人材も用意しておく必要があるな。予備の人材の目処もつけていく必要もあるし…忙しくなりそうだ」
講義終了後にレイア先生に声を掛けようと考えていた女性陣が、二の足を踏んでいる。流石に、馬鹿ではないのだ…最後に先生が言った事をある程度理解しているのだろう。
講義以外で私の行動を阻害する者は、無礼者ですよと教えてくれたのだ。先日は、初日だから許してくれたのだろう…まさに、紳士の鑑だ。
「ローウェルは、どう思われます? あの女性達が、講義最終日まで生き残るか、死んでしまうか」
ローウェル・タークス…『土』『水』の魔法が使えるだけでなく、片手剣と盾を扱うメイン壁。パーティーメンバーからの信頼は厚く、冷静沈着。戦闘においてパーティーメンバーの状況を逐一把握しており、引き際も弁えておりリーダーとしての才能は冒険者育成機関でも随一。また、低ランクながら紳士なオーラを発しており、将来期待できる逸材である。一部の生徒からは、平民出身の癖にと陰口を言われることもある。
「リーシャルか。まぁ、無理じゃないかな。あの連中は君と同じく、実家から色々と指示が来ているだろう。同期として、ある程度実力は把握しているが…冒険者として大成できる程ではないからね、いつか行動を起こすだろう。君は、違うだろうがね」
リーシャル・バレンタイン・フェレメント…『神聖エルモア帝国』のフェレメント伯爵家の四女であり、冒険者育成機関に預けられた身。将来的に政略結婚の駒になるだろうと本人も思っていたが、予想外に冒険者としての才能があった。その為、実家から『手段を選ばず、レイアと肉体関係を結んでこい』という指示があったが無視する事に決めた。得意の得物は槍で、パーティーの前衛を務めている。サブで『風』の魔法も扱えるが、実戦レベルには至っていない。
「ふふふ、ありがとう。で、メンバーを再構成するらしいけど、私はどうなるのかしら?」
「聞くまでもないだろう。有能なパーティーメンバーを解雇する理由はどこにもない」
レイア先生…僕は、貴方から学んだ事をすべて吸収し、必ず冒険者として大成してみましょう。先生と同じくランクBになった際は、是非直接ご指導をお願い致します。無論、報酬はご用意させて頂きます。
翌日から講義を受講する人が謎の行方不明を遂げていった。行方不明になった者達は全員女性で、部屋には睡眠薬と媚薬などの薬品が見つかっていた事と手作りの弁当を作る為に調理室を一時的に借りていた事しか共通点がなく、事件は迷宮入りしていた。
やっと、投稿できた。
さて、次回あたりで特別講師編は終了予定です。
最後の講義は、とっても大事…冒険中又は冒険前に言ってはいけない死亡フラグについて教えます。
もう28話か…(しみじみ
自分のことながらよく頑張った気がする。

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